サイドストーリー 危険な遊びと甘い氷菓子
今回はサイドストーリーです。
本編とも関連のあるお話が入っておりますので、ぜひご一読ください^^
※一部分を除き、ガイル視点でストーリーを展開しております。
―8月上旬・平日の昼下がり―
シエンとの温泉旅行から帰り、学園の課題を全て終わらせた俺は、ロックスの部屋で過ごしていた。
コイツも俺と同じ寮生活をしていて、8月の中頃に一度実家へ帰るらしい。
「あ、そういえばガイルさ。この間行った温泉旅行、どうだった?
せっかくだし土産話とか聞かせてくれよ」
本当にロックスは、俺の地雷を踏むのが上手い。
「あぁ⁈ 教えるわけないだろうが。…次にその話をしたら、本気でぶっ飛ばすからな」
「…えぇ~、いいじゃんか。ケチだなぁ」
温泉旅館での話なんかコイツにしたら、すぐ噂になっちまう…言えるわけがねぇ。
その時、ロックスの魔通信機に着信メールが入って来た。
「お、なんか通知きた。…ガイル、この間言ってた例のアレ、ウォーターアイランドで開催するってさ、今週の土曜日だって。一緒に行こうぜ」
「ふーん…やっと来たか。分かった、俺も準備する。時間は何時からだ」
「14時からだってよ。服装は水着で構わないってさ」
暇を持て余していたからちょうどいい。今度の土曜日が楽しみである。
―土曜日・正午―
俺とロックスは『ウォーターアイランド』に来ていた。
ここはネメシス領地の最西端にある、色々な水遊びが楽しめるテーマパークだ。
城下町を出ないと遊びに行けないが、水魔術を使ったアトラクションやイベントがシーズン中は開催され、老若男女問わず人気のお出掛けスポットである。
「やっぱ夏休みだからか、結構賑わってんなー。
水着の女の子もカワイイ子が結構いるねぇ。せっかくだし、ナンパとかしてみね?」
「しねぇよバカ。本来の目的を忘れんな」
俺は水着に着替えたが、顔バレすると色々と面倒なので、サングラスをかけている。
「あ、そこのおねーさん!俺らと一緒に遊ばない?」
ロックスは俺の話を無視して、近くにいる女性にナンパを仕掛けている。
あのアホ何やってんだ…。
「あ、あの…」
声をかけられた女性は狼狽えている。水色の髪色でお団子頭の可愛らしい女性だ。
ん…?待てよ。こいつもしかして…。
「もしかして、ロックス?いきなり声掛けられてびっくりしたよ。あれ、ガイルも来てたの?」
俺の読み通り、やはりシエンだった。
お団子頭は前に一度見かけたが、水着を着ていて雰囲気が変わったせいか、一目見ただけ彼女だと気づくのに時間がかかってしまった。
水色の髪色に合わせて、ライトブルー色のビキニを着ている。
ふっくらした胸に引き締まったウエストのプロポーションが気になり、どうしても目線を向けてしまう。
ボトムスはミニスカートをはいており、太腿にベルトを巻いて小さなポシェットを身に付いている。おそらく薬が入っているのだろう。
「あれ?お前、シエンか?髪型変わってるから気づかんかったー。お前、ここに一人で来たのか?」
「ううん、シャーリーとシンリーも一緒だよ。ただ、途中ではぐれちゃって…魔通信機で連絡しても着信に気づいてないみたいで、中々連絡つかないんだ」
「なら、探すの一緒に手伝ってやるよ!な、いいよなガイル?」
ロックスの奴、安請け合いしやがって…。
「…まだ少し時間があるし、それまでなら構わない」
「ごめんね、二人ともありがとう」
こうして俺とロックスは、シャーリーとシエンを探す手伝いをすることとなった。
*****
「なかなか広いから、見つけるのに一苦労しちゃって…あ、でもね、二人と今日のイベントの『イルカショー』を見る約束したから、イベント会場Aエリアに行けば会えるかもしれない」
シエンが探すための情報を話し出した。
「イルカショーって確か13時からだよな?あと40分ってところか。直接Aエリアに行った方が早いかもな」
ロックスが腕時計で時間を確認する。
「ところで二人は、何かイベントに参加する予定なの?」
シエンに話を振られ、ロックスが楽しそうに話し出す。
「おー、俺たちこれからイベント会場のCエリアで、腕相撲大会に参加するんだよ」
「Cエリア…?待って。そのエリアは今、改装工事中だよ。それに、今日のイベント情報にCエリアは載っていなかったはず…」
シエンが特殊スキル「リ・サーチ」を使って、ホログラム映像を出力し、ウォーターアイランド一帯を分析している。
以前はある一定の範囲しか分析できないと言っていたが、魔術学園に入ってから魔力量が増え、広範囲で分析できるようになったと、本人から聞いたことがある。
「シエンの能力って便利だよな…え、でもこの間、イベントに応募したらお知らせメールが届いたぞ?」
ロックスが証拠として、お知らせメールをシエンに見せた。
「…ロックス。このイベント情報、どこで手に入れたの?」
「えっと…実はこの前、城下町をぶらぶら歩いていたら、チラシ渡されて、『よかったら参加してください』って言われてさ…」
「おい、お前そんな出所が怪しいイベントに参加しようとしたんか」
黙って横で聞いていた俺だが、さすがにこれは怪しいと思った。
「あー、やっぱりこれ、行かない方がいい感じ…?」
ロックスの狼の耳が垂れ下がりしょぼくれているようだが、シエンは少し違った。
「いや、本当に開催されるのか、きちんと確かめたほうがいい。その腕相撲大会は何時から始まるの?」
「えっと、14時から始まって、13時半には会場内に入るようにって…」
「まずは、インフォメーションセンターへ報告しよう。それから、13時半までにイベント会場Cエリアへ行ってみよう。ガイルたちを騙して闘わせようとするなら、ちゃんと相手の真意を確認した方がいい」
先読みの力があるというか何というか…シエンの判断力にはいつも驚かされるな。
「わ、分かった。…でもお前、『イルカショー』はいいのか?シャーリーとシンリーが待ってるかもしれないだろ?」
ロックスが心配そうにシエンに話しかける。
「二人には後で魔通信機に連絡入れておくから大丈夫。それに、実際問題、私もそのイベントの出所が気になる」
こうして俺たちは、インフォメーションセンターへ寄り、13時半までにイベント会場Cエリアへ行くことにした。
―13時半・イベント会場Cエリアー
俺たちはインフォメーションセンターへ事の詳細を報告したが、今日のウォーターアイランドのイベントに『腕相撲大会』は予定されていなかったようだ。
時間のとおり、イベント会場Cエリアへ行ってみたが、『改装工事中』の札が掲げてあるだけだった。
「やっぱり改装工事中だよね…ガゼネタだったのかな。あれ?左横にプレハブみたいな建物がある」
シエンが何か見つけたようだ。
「お、もしかしたらあれか?行ってみようぜ」
早まるロックスを俺は制止した。
「待て、ロックス。罠かもしれねぇ。…シエンはここで待ってろ。俺とロックスで様子を見て来る」
「えー、何かあったら困るし、私も行くよ」
シエンが一緒に行こうとするが、危険が及ぶような所へ彼女を連れていくわけにはいかない。
「じゃあ、俺たちが中に入って、30分経過しても戻ってこなかったら、お前も中へ入れ。必要なら人を呼べよ。いいな?」
「…仕方ないな。わかった。ここで待つけど、無理はしないでね?」
さりげなく心配するとか、コイツ案外可愛いところあるじゃねぇか。
「いくぞ、ロックス。油断するなよ」
「お、おう。…また後でな、シエン」
俺たちはシエンを待たせて、プレハブ小屋へと入っていった。
小屋のドアノブを開け、中へ入る。
小屋の中には頑丈そうなテーブルが一つと、パイプ椅子が2つ向かい合って並んでいる。
適当に建てられたのか、小屋の中は埃っぽく塵が舞っている。
そして…目つきの鋭いモヒカン頭の男が、仁王立ちでこちらを睨んでいた。
筋肉隆々な体型をしており、背丈は2メートルくらいありそうだ。
「ようこそ…腕相撲大会へ」
男は見た目に反して、口数が少なそうだ。
「ハッ。俺らを騙しておいて、本気で腕相撲する気かぁ?」
俺の挑発に乗るか、反るか…少し様子を見るか。
「イベントに応募したのはお前たち二人だけ…俺はただ、お前たちと腕相撲がしたい」
(おい、ガイル。なんかコイツやばいって。逃げようぜ)
ロックスが小声で俺に耳打ちするが、少しだけ面白そうな展開になりそうな気がした。
「ロックス、お前はここで見てろ。なんなら審判してもいいぞ」
「ガイル…!お前、このモヒカンと本気で腕相撲するのか?腕折れるぞ!」
ロックスが制止するが、俺はすこしだけ腕試しがしてみたくなった。
モヒカン男がパイプ椅子へ座ったので、俺も向いのパイプ椅子へ座る。
お互い右腕を出し合い、机に肘をついて手を握る。
「…もう、どうなっても知らないぞ」
そう言いつつ、ロックスは俺たちが握った手を上から揺さぶり、合図をかける。
「レディ、ファイト!」
ダァン!と腕を叩きつける強い音が、小屋の中に響く。
気がつけば、俺の腕はあっという間に机に押し倒されてしまった。
「な…」
「…プリムラ魔術学園の雛鳥よ、次に会うのが楽しみだ」
そう言って、モヒカン男はスッと立ち上がり、その場を去ろうとする。
「待て。お前の名前を教えろ」
俺は即座に相手の名前を聞き出そうとした。
「お前に名乗る名はない。…『モヒカン男』でいい」
そして、モヒカン男の体は黒い霧に包まれ、後を追おうとしたが姿が消えてしまった。
「なんだったんだ…今の?」
俺もロックスも呆気にとられて、何も言い出せずにいた。
そして俺は、モヒカン男に敗北してプレハブ小屋から出た。
「ガイル、ロックス!二人とも大丈夫だった?」待っていたシエンが駆け寄る。
「俺は何とも…けど、ガイルがちょっと…」
ロックスも俺も、完全に先ほどの出来事を引きずってしまっている。
「…ガイル、右の手の甲から血が出てる!そのままじっとして。止血する」
治療を施そうとするシエンの手を、俺は払いのけた。
「触んな」
シエンは悲しそうな顔をしている。
「ガイル…?本当に、大丈夫なの?さっきのプレハブ小屋で、何かあった?」
一番触れてほしくない部分に触れられ、あろうことか俺は癇癪を起してしまった。
「お前には関係ねぇ!もう、これ以上この件に関わるな!」
違う…本当はこんなことを、言いたかったんじゃない。
「お前の言った通り、ここには何もなかったんだよ!」
シエンは絶望的な顔で俺を見つめる。ダメだ。こんな表情をさせるつもりなんて、なかったのに。
その時、パアンッと乾いた音が響いた。
ロックスが俺の頬を平手打ちする。
「落ち着けガイル。シエンは俺たちが戻ってくるまで、ずっとここで待っててくれてたんだ。…シエン、俺が説明するから、場所を変えて話そう」
「う、うん…」
お互い気まずい雰囲気が流れる中、俺たちは近くのカフェテラスへ移動した。
*****
―14時半・カフェテラス内―
「シーちゃん、やっと見つけた~!連絡もらった時はびっくりしたよー」
俺たちはシャーリーとシンリーの二人と合流することに成功した。
ロックスとシエンが帳尻を合わせたそうだ。
「ごめんね、シャーリー、シンリー。…それで、何があったか説明してくれる?ロックス」
「お、おう。だけど、二人は初見だよな。どっから話すか…」
「いままでの話しをおさらいするためにも、まず、始めから話してもらっていいかな」
シエンに促され、ロックスは今までの経緯を話し始めた。
城下町でもらったチラシ、腕相撲大会からのお知らせメール、改装工事中のイベント会場、そして、プレハブ小屋で起きた事の顛末。
「なるほどな。なんとなく、悪い大人に嵌められた感じはあるな。最近、詐欺とか流行ってるみたいだし。まあ、大事に至らなくて良かったんじゃないか?」
ロックスの話を聞いていたシンリーが意見をまとめてくれた。
「そうなんだよなぁ…。俺ももう少し、『相手を疑う』ってことを身に付けるよ。って…ガイル、いい加減機嫌直せって」
俺は仏頂面でロックスの話を聞いていた。
そうは言われても、モヒカン男に敗北したのが悔しく、なかなか機嫌を直せそうにない。
その時、おれはシエンからいきない頬をらつねれた。
「…えい!」
「いてて…な、なにすんだよ」
「もう、いつまで拗ねてるの?負けたのが悔しいなら、これから強くなって、やり返せばいいじゃない。相手は大の大人だけど、私達だって、まだまだ伸びしろはあるんだから」
「…まあ、そうだな。本当、お前の言う通りだよ」
俺はシエンに励まされて、少しだけ心が落ち着いた。
「なあなあ、ここの近くにかき氷屋があるらしーよ、みんなで食べに行こー?」
「え、行きたい!せっかくだし行こう!」
シャーリーとシエンがはしゃぐので、俺たちは近くのかき氷屋へ足を運んだ。
*****
それぞれ好きなみつを選び、かき氷をシャクシャクと食べていく。
ロックスはかき氷にがっつきすぎて、頭痛を催しているようだ。
「あ、ガイルはブルーハワイにしたんだね。知ってる?ブルーハワイ食べると舌の色が青くなるんだって」
見るとシエンはイチゴ味の練乳を食べているようだ。
「お前、イチゴが好きなのか」
「ん?ああ、なんとなく赤やピンクの色が好きで、つい選んじゃうんだよね」
シエンは美味しそうにかき氷を食べている。
遠目では分かりづらいが、近くで見るとシエンの胸元にはぷっくり谷間ができている。
ハリとボリュームもあり、形も良さそうだ。
温泉旅館では気づかなかったが…コイツ結構、乳でけぇな。
すると、シエンが食べているかき氷の練乳が、彼女の胸元に零れ落ちる。
「あ、こぼれちゃった…」
シエンは胸元に零れた練乳を指で掬い上げ、ペロリと舌で舐め取る。
その様子を見ていた俺は、脳内でよからぬ妄想を膨らませてしまった。
「…ガイル!鼻血が出てるよ!大丈夫?…ちょっと私のかき氷、持ってて!」
「あ?」
シエンのかき氷を持ってやる前に、スッと自分の鼻の下をぬぐうと、血が付着していた。
彼女は急いでポシェットを探り、俺の鼻へ詰め物を詰める。
「少し日陰で休もう。ずっと日光に当たってると、熱中症になっちゃうから」
「お、おう…」
シエンに手を引かれるがまま、俺たちは木陰に入ってかき氷を食べることにした。
*****
その様子を見ていたシャーリーとシンリー、ロックスはニヤニヤしている。
「おい、見たか?ガイルの奴、鼻血だしてシエンに介抱されてんぞ」
「ガイルって意外とムッツリスケベだよねー」
「いやあ、二人とも仲直りできたみたいで、良かった、良かった」
こうして、俺たちはウォーターアイランドで楽しいひと時を過ごすことができた。
―???―
「戻りましたか、センダン」
サントリナは、暗闇から戻って来たモヒカン男に声を掛ける。
「言われた通り、金属性の学生の詳細情報を手に入れた…」
「ご苦労様です。…ふむ。金属性『ガイル・ダイアンサス』…ダイアンサス公爵家の次男ですか。なかなか興味深いですね」
「俺、またあいつと闘いたい…」
「いずれまた、闘うことになるでしょう…あまりつまみ食いはしないように」
サントリナは釘を刺し、センダンを牽制する。
反社会勢力の魔の手が、徐々に近づいてくる。
その時が来るのは、もう少し先の話である。
ここまで読んでくださり、いつもありがとうございます。
さてさて、ガイルは一体なにを妄想していたのでしょうか…。
皆様のご想像にお任せします(笑)
反社会勢力の不穏な陰がちらついておりますが、次回から学園祭編が始まります。
お楽しみに♪




