第24章 旅の終わりと闇の始まり
温泉旅館トリモチの暖簾事件を解決し、シエンたちは自分たちの家へ帰る支度をしている。
一方、温泉街サンシュユを抜けたアオイは、なにやら良からぬことを考えているようで…?
※内容を一部修正しました。2026.10.20
暖簾事件の犯人はアオイだった。
彼女は自身の特殊スキルで体を透明化し、誰にも気づかれずに暖簾の向きを変えては、旅行客を脅かしていたそうだ。
アオイは誰かから『暖簾騒動』を起こしたら報酬を貰っていたようだが、雇い主は誰なんだろう?
私が夢の中で考え事をしていると、どこからか声が聞こえてきた。
「オ前ハ、マダ、知ラナクテ、イイヨ」
―温泉旅行三日目、朝―
「準備できた?忘れ物は…ないよね」
私達は荷物をまとめて、帰り支度をしていた。
昨夜は変な夢を見たような気がするが、なぜか思い出せない。
「…いざ、帰るとなると名残惜しい気もするな」
「また、来ればいいんじゃない?今度は、もう少しゆっくり温泉に入りたいな」
正直なところ、旅館の温泉にまったく入れていないのが事実だ。
私は温泉街の湯に浸かれたものの、ガイルに至ってはシャワーだけで済ませている。
「…次を、期待してもいいのか」
ガイルがぼそりと呟いた。だが、その声はあまりにも小さく、私の耳に届かなかった。
「ん?何か言った、ガイル?」
「…何でもねぇ。ほら、もうすぐチェックアウトの時間だ。ルームキー返すぞ」
そして私達は1階のフロントへと降りて行った。
フロントの受付にはクマシデさんが居た。
「この度は当旅館をご利用いただき、誠にありがとうございました。あ、そうそう。忘れるところだった…シエン様、こちらを」
わたしはクマシデさんから数枚の報告書を渡された。
「ありがとうございます。…やっぱり、私たちの部屋がダブルベッドで用意されていたのも、夕食に洋酒の利いた葡萄ゼリーが含まれていたのも、アオイさんの仕業だったんですね」
私が指摘すると、クマシデさんはバツが悪そうに頭を掻いた。
「本当に、私の従業員が大変失礼しました。どうも理由を聞くと『客にみだらな行為をさせることができたら追加報酬を与える』と闇バイトの雇い主から言われていたそうです。…まったく、お恥ずかしい話です。我々ももっと、社員教育に専念しなければなりません」
私はその話を聞いて、少しだけ不安になった。
も、もしかして…ガイルと私の間でふしだらな出来事があったら、危うく世間に晒されるところだったりしたのかな…盗撮とか、されてないよね?
「まあ、事件は解決できたし、ここの旅館の居心地は最高だったぜ。世話になったな」
ガイルがクマシデを労うように礼を言う。
「こちらこそ、大変お世話になりました。また、お会いできると嬉しいです」
クマシデが軽く一礼する。すると、どこからかクロモジさんが現れた。
「おお、なんとか間に合ったね。シエンさん。これ、持って帰りな」
そう言って渡されたのは、綺麗な手鏡と櫛のセット品だった。
「ええ?こんな良い品物、もらっていいんですか?」
「今回の礼だ。受け取ってくれよ。本当はきちんとしたお礼がしたいくらいだけどね。
私たちもアオイが犯人じゃないかって気づいてはいたんだが、証拠が掴めなかった…あんたたちのお陰で、この旅館も少しはマシになるだろうよ」
アオイさんがここを離れるから、クロモジさんも寂しくなるだろう。
「ありがとうございます、クロモジさん。また、お会いしましょう」
そうして別れの挨拶を終え、私はガイルと一緒に馬車へ乗り、自分たちの家へと帰るのだった。
―???―
温泉街「サンシュユ」を抜けて、アオイは完全に浮かれていた。
「ハハ!オーナーのクマシデさん、本当にちょろいよね。ちょっとしおらしく謝っただけで、すぐに許してくれるんだから。あの魔術学園のガキたちも、私が改心したと思ってるみだいだし、ホント馬鹿みたい!」
アオイは3カ月の研修をクマシデから言い渡されたが、まったくその気がないらしい。
「結構、軍資金たんまりもらっちゃったし、このまま南側のサンダーソニア領地まで、高飛びしちゃおうかな~」
アオイは浮かれ過ぎていたせいで、背後の気配に気づくことができなかった。
「ほう。キツネのお嬢ちゃん、なかなか面白いことを考えているね」
声がしてハッと振り向くと、ガラの悪そうな男がこちらの様子を窺っている。
「な、だ、誰よあんた!私に何の用?」
「ん?…ああ、そうか。末端の君は、俺の顔を知らないんだっけか。まあ、お前さんに名乗る名なんて、持ち合わせちゃいないがね」
気がつけばアオイの胸に、男の腕が貫通していた。
ポタポタとアオイの胸から血が流れ、彼女は口から吐血してしまった。
「ごほっ…」
「おお、苦しいか。大丈夫、一瞬で終わるから安心しな」
この男―シラカバはアオイの胸から腕を引き抜き、反対の手で黒く禍々しい渦を出現させた。
アオイは膝から崩れ落ち、自らの血の海に倒れる。
「暗黒渦」
黒い渦にアオイの体が吸い寄せられ、彼女の体はそのまま消えてしまった。
「あーあ、俺の左手が、汚い女の血でベドベドだ…」
シラカバの左腕に黒い靄が纏わりつき、アオイの血液はみるみる内に消えていった。
ついでに地面に染み込んでいる血の海も、黒い靄でかき消していく。
すると、暗闇から金髪で眼帯をした男が現れた。
「シラカバ様。お手を煩わせてしまい、申し訳ございません。私の傘下の者が、勤め先に我々の業務内容を漏らしてしまったようです」
「案ずるな、サントリナ。裏切った奴は処分するだけだ。それに、悪いことばかりでもない。さっきの女を監視したおかげで、プリムラ魔術学園の木属性のガキについて、情報が手に入った。…あとは金属性だな」
「寛大なお心遣い、感謝いたします。金属性に関しては、すでに「センダン」が次の手を打っています。しかし、仲間に刺青を施して同行を監視するというのは、中々の名案ですね」
「だろう?こうすれば仲間の管理もしやすいし、情報も手に入る。だが、しくじるなよサントリア。今回はあくまで情報だけ手に入れろ。ターゲットに傷をつけたら罰則を与える。…そろそろ戻るぞ」
こうして二人は、街外れの暗闇へと消えていった。
3か月後―アオイが温泉宿「サンシュユ」へ戻ることはなく、彼女は行方不明者となってしまった。
闇の魔の手が近づいてくる―。
ここまで読んでくださり、いつもありがとうございます。
活動報告にも書いておりますが、カテゴリーを変更させていただきました。
投稿初日は、自分の小説のカテゴリーがまったく把握できておらず、
適当にカテゴライズしていました…。
読者の皆様を混乱させてしまい、本当に申し訳ございません。
この温泉旅館編でガイルのキャラが崩壊してしまいましたね。
ガイルファンの皆様、大変申し訳ございません。
重ねてお詫び申し上げます…m(_ _;)m
次回は小休止でサイドストーリーをお届けします!
お楽しみに♪




