第23章 事件解決と二人だけの甘い夜
温泉街のレストランで仲居の老婆から、
「温泉旅館トリモチ」にまつわる話しを聞くシエンとガイル。
「暖簾事件」の犯人が分かったようだが…?
―温泉旅行二日目、夕刻―
「オーナーさんにきちんと話したから、今日の料理にはアルコール類は入ってなかったみたいだね。今日も美味しかった~」
お世辞抜きで、ここの料理は本当に美味しい。どうやら地元で採れた野菜や肉類などを使って料理をしているらしい。
「おい、今日はここの旅館の温泉に入るぞ。準備しろよ」
「はーい」
私たちは食後の温泉に入ることにした。
温泉は1階のフロアにあり、男湯と女湯の暖簾がかけてある。
「部屋のルームキーは俺が持ってるから、もし早めに風呂から上がったら、少し待ってろ」ガイルが私に声をかける。
「わかった。だけど、たぶん私のほうが出るの遅いと思うよ」
「だろうな」ガイルは鼻でフッと笑い、男湯の暖簾の先へと消えてゆく。
「…さて、私も入ろうかな。やっぱり旅館といえば、温泉だよね~」
そうして私も女湯の暖簾をくぐって、中へと入っていく。
すると、私たちが入ったことを確認したように、暖簾がクルリと周り、先ほどと反対の位置に暖簾が掛かった。
―その時―。
「パチン」と指を鳴らす音がした。
何もないところに蔦が這いより、ある物体をぐるぐる巻きにしている。
「そこまでです!姿を見せてください、アオイさん!」
私はリ・サーチを使って、犯人の居場所を特定した。
そして、擬態して隠れていた場所から姿を現し、アオイに話しかける。
すると、頭から徐々にアオイさんの姿が現れた。
「チ、チクショウ…!今回もうまく行くと思ったのに!あんた、さっき暖簾の中へ入ったじゃない。なんでそんなところに居るのよ!」
今のアオイは、受付で仕事をしている時と印象が全く違う。
「これは私の魔術です。花弁を使って、本物そっくりの自分を創り出しているんです。ちなみに、私の木魔術は私が発する音に反応して植物たちが動くんですよ。
…話を元に戻します。今まで旅行客相手に、一連の暖簾事件を仕掛けていたのは、アオイさん、あなただったんですね」
わたしはアオイにトドメを刺すように言い放つ。しかし、アオイの態度は変わらない。
「…だから何?今この場所にはあんたとアタシしかいない。あんたを始末さえすれば、こっちのもんよ!」
「そこまでです!アオイさん」
声がするほうへ振り返ると、オーナーのクマシデさんと例の仲居の老婆が立っていた。
「事前にすべて、シエン様とガイル様から話を聞いています。アオイさん、もう止めてください。そして、何でこんなことをしたのか私達に説明してれますか」
オーナーは優しく、アオイさんに語り掛ける。
「…3年くらい前、『この旅館で若い客相手に暖簾掛けをひっくり返して、騒動を起こしたら、報酬を与える』って話しを持ちかけられて…それから、小遣い稼ぎで始めたんです」
私はアオイの話しを聞いて、夏休み前にデューイ先生から配られた「夏休みの注意事項」の内容を思い出した。
「それ…闇バイトの類だと思います。アオイさん、あなたに仕事を仲介した人は『簡単にできるから』とか『高収入』とかそんなこと言っていませんでしたか?」
アオイは思い出しているのかしばらく沈黙し、「確かにそんなことを言っていたかも」と告げるのだった。
「馬鹿が。『簡単に高収入で稼げる仕事』なんて世の中にあるわけねぇだろ。あるとしたら、そりゃ詐欺だ」
聞き慣れた声がするほうへ振り向くと、ガイルが温泉浴衣姿で突っ立っていた。
「若い子でも詐欺だと気づくのに…まったくこの子は…死んだ母親に似たのかねぇ」
仲居の老婆が悲しそうに呟く。
「え…お二人はもしかして、孫と祖母という関係なのですか?」
これは私も予想外だった。
「そうだよ。この子は早くに親を亡くしてね。私が育てて、ここの旅館で一緒に働くようになったんだが…私の教育が、まるでダメだったんだね」
悲しそうに俯く老婆に、クマシデさんが優しく声をかける。
「クロモジさん。あなたは女手一つで、ここまでアオイさんを立派に育てておられます。
決してダメなどではありません。それと、今後のことは僕に任せてください。
…アオイさん、あなたはこの旅館に対して、多大なる営業妨害を働きました。
この件に関して、僕はあなたにそれなりの処罰を与えなければなりません。
…今から3カ月間、この温泉街を出て行ってください」
クマシデさんの言葉に皆、驚いている。
「さ、3カ月も…?私、ここしか行く当てがないのに…」
アオイさんが涙目になりながら、クマシデさんを見つめる。
「あ、僕の言葉が少し足りませんでした。ええっと、君には3カ月の間、いろんな地域を放浪して、旅をしてほしいんです。
そして、色んなことを見聞きして、様々な文化や風習を勉強してください。
ただし、3カ月後にはかならずここへ帰ってくること。
これは休暇ではなく、研修の一環です。少しの費用なら工面しますから、安心して旅に出て下さい」
クマシデさんの説明が終わると、アオイは涙を流しながら謝罪した。
「寛大なお心遣いありがとうございます、クマシデさん。そして、シエンさん、ガイルさん、この度はご迷惑をおかけして、本当に申し訳ございませんでした…」
こうして、温泉旅館トリモチの「暖簾事件」は幕を閉じたのだった。
*****
―温泉旅行二日目、深夜―
「無事に事件も解決したし、とりあえずは一件落着かな」
私は事件を解決できたことで、少しだけ興奮していた。
「…まあ、あとはここの旅館次第だな。アオイだって、これできちんと改心すりゃいいが、性根が腐ったままなら、3カ月で帰ってきても、また同じことの繰り返しだろ」
ガイルが身も蓋もないことを言い出す。
「うーん、私はアオイさんが改心するほうに賭けたいな」
仕事で評価されることなく、給料も対して上がらず。
前世で心が折れそうなOL時代を過ごした私は、決してアオイのことを笑うことができなかった。
「あ、つか温泉入り損ねた…」
「あ。…今から入る?って、もう23時か。温泉、閉まってるよね。…え、待って。ガイル、温泉入り損ねたの?」
「当たり前だろ。お前に危険が及ぶかもしれねーのに、呑気に温泉なんか入れるかよ」
意外とそういうところ真面目なんだよなー。あれ?…ということは。
「てことは、今から部屋のシャワー室で体洗ってから、寝るの…?」
「それしかねぇだろ。悪いが先に入らせてもらうぞ」
そう言うと、ガイルは必要な物だけ持っていき、さっさとシャワー室へ入ってしまった。
一つ屋根の下で、男と女が交互にシャワーを浴びる⁈
いや、待て。私とガイルに限ってそんなことは…。
妙なことに意識を向ける自分に対して、どうしても羞恥心が芽生えてしまう。
前世では美容こそ興味はなかったが、男性とお付き合いしたことは2~3度ある。
一緒にご飯を食べに行ったり、お互い合意の上で、ベッドで交わることも経験したこともある。
(ど、ど、どうする⁈)
―数十分後―
ガイルがシャワー室から出てきて、バスタオルで体を拭いている。
「おい、上がったぞ。お前も早くシャワー浴びてこい」
ガイルに促され、私はなるべく平静を装って、シャワー室へ入ることにした。
「う、うん。じゃあ、入るね」
パタンっとシャワー室の扉を閉め、私は急いで内側からカギを掛けた。
ないとは思うけど…途中で乱入されたりしたら、逃げようがないからね。
キュッと蛇口を捻り、お湯を出して体にシャワーを当てる。
温泉宿のお湯だけあって、かなり熱い湯がでてくる。
少し水を足して、ちょうど良い温度にし、私は体を洗った。
*****
シャワー室の床を拭いて、シャワー室内で温泉浴衣に着替える。
ここまでするのは、着替え姿を見られるのが恥ずかしいからだ。
髪も洗ったので、洗面所でドライヤーを使い、髪を乾かす。
ちなみに、こちらの世界のドライヤーは、風魔法を動力として使うことができる。
「お前…もしかして緊張してんのか?」
温泉浴衣姿のガイルが、畳の部屋の椅子に腰をかけ、私に話しかける。
「…うん、ちょっとだけね」
嘘を言っても仕方がないので、私は少しだけ本音を明かすことにした。
「…俺はお前が嫌がることはしないから安心しろ。明日にはここを出て帰るんだから、今日はもう早めに寝ようぜ。それに俺は、お前と一緒のベッドでも問題ない」
ガイルは口調こそキツイが、根っこの部分は優しい子だ。
「そうだね…もう遅いし、寝ようか」
私とガイルはダブルベッドの端から入り込み、お互い背を向け、すこし距離を取ってベッドに潜りこむ。
「電気、消すぞ」
ガイルの言葉で部屋の明かりが消え、真っ暗になった。
暗闇の中でガイルが私に話しかけてくる。
「…なあ、シエン。俺の近くに来ないか?」
「ヤダよ」
「…じゃあ、俺がそっちに行っていい?」
「ダメに決まってるでしょ」
本当は優しいとは分かっていても、やっぱり男の子なんだよなぁ。
「んだよ、つまんねーな…。あ、なあ、昨日やってた手を繋いで魔力流すやつさ。あれ、やってくれよ」
そして、ガイルが手を出してきたので、仕方なく私はガイルの手を掴み、指を絡める。
「仕方ないなぁ、もう」
すると、私は手をグイっと引かれ、ガイルのほうへと引き寄せられる。
「あ、ちょっと、何やって…」
私はなぜか抵抗できず、されるがまま引き寄せられてしまった。
「本当は…ずっとこうしてみたかったんだ」
私の腰のあたりにガイルの手が当り、彼の甘い吐息が聞こえてくる。
ち、近い…‼
「約束する。手は出さねえ。…昨日は俺が眠らせてもらったから、今日は俺がお前を眠らせる番だ。お前が眠りにつくまで、ずっとそばにいるから安心しろ」
そう言ってガイルは私の頭を優しく撫でる。
ガイルの大きくて暖かい手は、本当に安心できるから不思議だな…。
頭にガイルの手の温もりを感じる。
子どもの頃、眠れない時によく父様が私の頭を撫でてくれていたのを思い出す。
いつの間にか、私は眠ってしまったようだ。
「…おやすみ、シエン」
シエンが眠ったあと、ガイルは彼女の額の髪の毛をかき上げ、軽くキスを落とした。
この事実を知っているのは、ガイル本人と夜の帳のみである。
「しかし、コイツ…ほんとうに寝やがったな…」
ガイルは自分だけ置いてけぼりにされた気がしたが、明日のことを考え、シエンに背を向け眠りにつくことにした。
「シエンは…まだあのことに気づいてねぇのかな」
ここまで読んでくださり、いつもありがとうございます。
少し恋愛要素が増えてきたので、小説のカテゴリーを変更しようか思案中です。
次回は久しぶりに、反社会勢力のあのお方が登場します。
お楽しみに♪




