第22章 犯人は誰だ?優しいオーナーと仲居の老婆
なんとか無事(?)に一晩を過ごすことができたシエンとガイル。
朝食を取っていると、とある魔族が二人に近づいてきて…?
一階の大広間で私たちが朝食を取っていると、優しそうで眼鏡をかけた、熊の獣人族の男性がこちらに近づいてくる。
ショートカットヘアで栗毛色の髪、グリーンの瞳が特徴的だ。
「当旅館はいかがですか。…プリムラ魔術学園のシエン・フロックス様とガイル・ダイアンサス様ですよね。私はこの旅館のオーナーのクマシデと申します」
クマシデと名乗る男に、私は話しかけてみることにした。
「とても快適で、居心地が良いです。お部屋の造りやデザインにこだわりを感じますね。…ところで、一つお聞きしたいことがあります」
「何でしょうか」
クマシデは眼鏡をクイッとあげたまま、優しそうな表情を崩さない。
「昨日の夕食の際、私たちの食事に洋酒の入ったデザートがあったのですが…すみません、私の連れが酒に弱いので、お酒の入った料理はなるべく出さないでほしいのです」
「こ、これは大変失礼しました!プリムラ魔術学園の生徒さんが来られると聞いて、一応アルコール類は料理から除くようにと、料理長へ指示していたのですが…こちらの不手際でご不快な思いをさせてしまい、深くお詫び申し上げます」
クマシデはその場で深々と頭を下げる。
「クマシデさん、顔を上げてください。何かの間違いということもあるでしょう。
その…お詫びのついでにと言っては何ですが、今回の不手際に関する詳細を、私たちに教えていただけませんか?クマシデさんさえ良ければですけど」
普通の生娘なら「気にしないでください」で終わるだろうが、そうは問屋が卸さない。
今回の件について、特に暖簾事件に関連する必要な情報を手に入れるためにも、私は交渉を試みた。
「…かしこましました。では、私も旅館のスタッフ達に事の詳細を聞いて回りますので、後ほどお伝えさせてください。他にもお困りのことがございましたら、フロントまでお知らせください。私はこれにて、失礼させていただきます」
クマシデさんは焦りながらその場を去っていった。
「なあ、そこまでしなくても、良かったんじゃないのか?」
ガイルが怪訝そうな顔をする。
「いや、なんか引っ掛かるんだよね。温泉で聞いた噂もそうだけど…この旅館、裏になにかありそう」
「推理小説の読みすぎじゃね?」
こうして私たちは朝食を終え、一度自分たちの部屋へ戻ることにした。
*****
私たちは旅館で少しくつろいだ後、温泉街で人気のカフェでランチを取ることにした。
「ランチ奢るって約束してたからな。…まあ、好きな物は頼んでもいいが、少しは遠慮しろよ」
「はーい♪…ありがとうね、ガイル」
私たちはそれぞれ注文の品をオーダーし、料理が来るのを待った。
「あのさ、昨日温泉で聞いた噂話なんだけど、少し続きがあるんだ」
私は唐突に話し始めた。
「暖簾を誰かが動かしているらしいって最初は噂されていたんだけど、動かしている魔族の姿を、誰も見たことがないんだって。中には温泉宿の怪異だなんて噂もされているみたい」
ガイルは半ば呆れたような顔をしている。
「なんだそりゃ。温泉旅館の噂なんて、くだらねえよ。んな話忘れて、旅行を楽しもうぜ」
ガイルはあまり興味がなさそうだ。
しばらくして、注文していた食事が運ばれてきた。
ちなみに今回私はオムライスを頼み、ガイルはカツカレーを注文している。
「お前、あんまり余計なことに首を突っ込むなよ。面倒事に巻き込まれるのは学園の中だけで十分だ」
ガイルは釘をさすが、私は考え事をしていたため、彼の言葉が耳に入らなかった。
若い旅行客を狙って、暖簾が動く現象。だが暖簾を動かしている姿は見えない…昨日の夕食の葡萄ゼリー…温泉宿のスタッフ…もう少し情報が欲しいな。
「おや、あんた。昨日の娘さんじゃないか」
ふと顔を上げると、昨日温泉で出会った老婆が隣の席に座っていた。
「あ、昨日はどうも」
私は老婆に向かって会釈した。
「旅行に来ているとは聞いたけど、まさか男の子を連れて来ているとはね…ボーイフレンドかい?なかなかの美丈夫だねぇ」
老婆に少しからかわれて、私たちは顔を赤らめる。
「い、いえ、魔術学園のクラスメイトです!」
「ほお。そうかいそうかい。若いうちに遊ぶのは大事なことさね。…そうだ。少し良い物を見せてあげよう」
そういうと老婆は持っている荷物から一枚の写真を取り出した。
「これは…集合写真ですか」
写真には温泉旅館トリモチを前にして、7~8人くらいの男女が写っている。
「実は私も、温泉旅館トリモチで仲居の仕事をしていてね。昨日はお休みもらって温泉に入ってたんだ。これはトリモチがちょうどオープンして、一年目くらいの頃の写真さ。ほら、ここに私が写っているだろ?」
確かに、写真の一番右端に老婆が写っている。
すると、ガイルも覗き込むように写真を見て、気になった点を指摘した。
「この、真ん中らへんに映っているの、受付嬢のキツネ女だろ。なんか体が半分消えかかってないか?」
確かに、よく見ると受付嬢の女性の下半身から下が消えかけている。
心霊写真…なんてものが、この魔族の世界に存在するのだろうか。
「ああ。この子かい。アオイって言うんだけどね。アオイは体が透明になる特殊スキルを持ってるんだよ。
時々、イタズラで驚かされたりしたこともあったね。ただ、最近は仕事のミスが多くて、他の旅館のスタッフから疎まれてんだよね、この子」
仕事でミスが多く、疎まれる。私は前世でそれを経験したため、少しだけ胸が痛んだ。
「アオイさんの左に居るのは…オーナーのクマシデさんですか?」
私はアオイさんの横にいる写真の男性を指で差した。眼鏡をかけて優しそうな笑顔で写っている。
「そうだよ。あの頃は、みんな和気あいあいと仕事に打ち込んだものだよ」
「…俺、温泉旅館の暖簾事件、誰が犯人か分かったかも」
ガイルがぼそりと呟く。
「奇遇だね。私も同じことを考えていたよ」
どうやら私たちは、同じ答えに辿り着いているようだ。
「ほう。誰か分かったのかい。感心だね。…ただし、気をつけな。
私も今まで、この話を聞いて、犯人が分かった旅行客を見てきたが、未だ誰一人として犯人を捕らえられていない。捕まえたいなら、本気出してやりな」
老婆に発破をかけられ、私たちは犯人確保に向けて動き出すことにした。
ここまで読んでくださり、いつもありがとうございます。
夏休み・温泉宿編は内容が濃いので、文字数を少なめで設定しています。
次回はシエンたちが暖簾事件の解決へ挑みます!
お楽しみに♪




