第21章 アブナイ恋の予感?悪酔い男子に気をつけて!
温泉で老婆から聞いた「温泉旅館トリモチ」のウワサ話。
シエンは旅館へ戻り、一部始終をガイルに説明するが、彼の様子がいつもと違い…?
「…っていう話をさっき温泉で聞いたんだけど、ガイルはどう思う?」
旅館の美味しい夕食に舌鼓を打ちながら、私はさきほど老婆から聞いた話をガイルに聞かせていた。
「どう思うって…その前にお前、先に温泉入っちまったのかよ」
「ノンノン。こういうのは先に温泉を済ませてから夕食を食べるのが良いんだよ~。
だって、ご飯食べたらその後すぐに眠れるでしょ?」
そう言ったあと私は「しまった!」と後悔した。
今眠ることについて話を振るのはタブーだったかな…。
「ふーん…お前、そんなに俺と早く寝たいのかぁ?」
ガイルがニヤニヤしながら私を見る。
あれ?なんかさっきと様子が違う…?
「あ、そうじゃなくて。ご飯食べた後にお風呂へ入るのは、億劫だなって話しで…」
「俺はどっちでも構わないけどな。まあ、俺は飯食ってから風呂に入るから、お前は逃げずにちゃんと部屋で待ってろよ。『待て』ぐらい、出来るよなぁ?」
いつものガイルとちょっと違うような…急にどうした?
「私は犬じゃないって。そりゃ、ガイルが戻るまで、ちゃんと待つけどさ」
「なんだよ、俺が居なくて寂しいなら、備え付けのシャワーで済ませてもいいぞ?」
寂しいのはお前の頭の中だよ。でも、なんだか様子がおかしいな。
私はふとガイルの食事の配膳を見る。大方の料理には手をつけているようであるが…。
そういえば、今日の料理のお品書きに、洋酒の入った葡萄ゼリーが書いてあった。
「ガイル、もしかしてデザートの葡萄ゼリー食べた?」
「あ?自分のは食ったけど、てめぇのは食ってないぞ。何?もしかして欲しかったのか?」
よくよく見ると、ガイルの顔が赤く染まっている。
どうやら葡萄ゼリーに含まれている洋酒で酔っているようだ。
この様子だとお酒に弱いみたいだな…きっと奈良漬けとか食べても酔うんだろうな。
しかも酔っ払うと陽気になるタイプか。
「…ガイル、今日はお風呂入るのやめたほうがいいよ。お願いだからシャワーで済ませて」
酔った状態で温泉に入らせると、余計にのぼせてしまうから逆に危ない。
「ん~?やっぱり俺が居ないと寂しいのか~?んふふ、今日は一緒に寝ような~シエン」
くたばれ変態王子。…いけない、こっちまでおかしくなりそう。
「と、とりあえず、食事が終わったら、シャワー浴びなよ」
この酔っ払いをどうにかしないといけない。
私はガイルがシャワーを浴びている間に、彼を手懐ける方法を思案することにした。
いざとなったら薔薇鞭で始末するか?…変な扉を開かせてしまうかな。
まあ、その前に燃やされると思うけど。…どうしよう?
*****
いつでも眠れるように、部屋では足元のほの暗い明かりだけを付けている。
ガイルがシャワー室から、タオルを被って濡れた体を拭きながら出てくる。
日頃から鍛えているのだろう。腹筋が割れていて、胸や腕の筋肉が隆起している。
私はなるべくガイルの裸体を直視しないよう、彼の様子に気を配った。
「なんだよ、そんな露骨に顔を背けなくてもいーじゃん。俺の裸なんか、普段なかなか見る機会ねぇぞ?」
普段のガイルなら絶対言わないであろうセリフが、彼の口から出てくるので、私はだんだん頭が痛くなってきた。
「いいから、早く着替えなよ。ちゃんとパンツ履いた?」
「履いてるし。あんまガキ扱いすんな」
ガイルは軽く拗ねているが正直な話、私は見た目こそ15歳の鬼人の女子だが、中身は37歳のオバサンなのだ。
目の前にいるガイルは体格こそ良いが、中身はまだまだお子様である。
「…長旅で疲れたでしょ。今日はもう寝よう。
それとお互い、就寝時は互いに干渉し合わないようにしよう」
「んー…せっかくだからさあ、もうちょっと話そうぜ?」
なにかと粘るなぁ。無駄に色気づいてないか?このガキンチョめ…。
しかし、私の頭の中にはすでに良い策がある。
「…ガイル、君が嫌でなければ、その…ベッドに入るときに、手を繋いで欲しいんだけど、いいかな?」
なるべく初心な雰囲気を装う。もちろんただの演技である。
「干渉し合わないって言ったわりには、寂しがるじゃん。いいぜ?繋いでやるよ」
ガイルは嬉しそうに言うと、自分からベッドに寝そべり体を横にして、右隣をポンポン叩く。
「ほら、手繋いでやるから早くこっちに来いよ」
「…残念だけど、私はそんなに近くまでいかないよ」
私はベッドの端から体を潜り込ませる。ガイルの手をそっと握った。
すると、ガイルは手を繋ぎ直し、いやらしく指を絡めて私の手を握ってきた。
「んふふ…シエンの手、めっちゃ柔らけぇな…このまま取って食っちまいたいなぁ…」
むむむ…!これ以上はまずい!
私は急いで、ガイルの手のひらから自分の魔力を流し込んだ。
睡眠と鎮静作用のある回復魔術をガイルの体に送り込み、彼を眠りへ誘う。
「ん、なんか気持ちいい…すー…」
魔術が効いたのか、ガイルは30秒もしないうちに寝息を立て、眠りに落ちた。
ようやく寝たか…危ない橋を渡ってしまったな。
普段のガイルと違う彼を見てしまったせいか、私は胸の高鳴りが抑えられず、
心を落ち着けるのに時間がかかってしまいそうだ。
でも…ガイルの手、大きくて暖かいな…。
私は握られたガイルの手の暖かさに安心感を覚え、気がつけばそのまま眠ってしまっていた。
こうして私たちは、手をつないだまま深い眠りについたのだった。
*****
―旅行二日目、早朝―
「ん…?あのまま眠っちゃったのか…。ガイル、朝だよ。起きて」
私は隣に居るガイルを起こそうとした。
「んー…あと3時間…」
「こらこら、寝ぼけてないで起きなって。朝ごはん食べ損ねるよ」
ぺしぺしと私はガイルの頭を叩く。そして自分もベッドから起きて身支度をする。
「…ん、もう朝か。…って、頭痛ぇ…。」
「それはきっと二日酔いだね。ガイル、昨日の夕食の葡萄ゼリーで、悪酔いしちゃったんだよ」
私が後ろを向いてささっと着替えながら、ガイルに説明した。
「昨日って…あ、俺…色々とやらかしたよな…すまない、シエン。迷惑かけた…」
一応、昨日の記憶はあるみたいね…悪いと思っているなら、まあ許そうか。
「…まあ、時には羽目を外したくなることもあるでしょう。はいこれ。
二日酔いに利く薬。錠剤だから飲みやすいと思う。
それと昨日、温泉に行ったとき、近くの売店でミネラルウォーターを2本買って、冷蔵庫に冷やしてあるから。洗面所にあるコップに注いで飲んでごらん」
私はガイルに薬を渡して、飲むように勧めた。
「ん…シエン、ありがとな」
「まあ、もしもの時のために、二日酔いの薬を持って来ておいて正解だったよ」
こうして私達はそれぞれ身支度を終えて、なんとか朝食の時間に間に合うのだった。
せめて部屋のベットがツインだったら、こんなに苦労しないんだけどなぁ…。
私はガイルに聞かれないよう、はぁと溜息をついて朝食の席についた。
ここまで読んでくださり、いつもありがとうございます。
温泉宿での話ですが、シエンは精神年齢が37歳+15歳なので、
同世代からキャーキャー言われるであろうガイルを目の当たりにしても、
「可愛い生意気な男の子」にしか見えない…というオイシイ展開を書いてみたかったのです。
次回は旅館のオーナーが登場します!ちょっと文句言ってやりましょう(笑)
お楽しみに♪




