第20章 トラブル発生!温泉旅館のウワサ話
期末試験を終え、夏休みにガイルとシエンは
魔闘大会の景品を使って、温泉旅行へ行くことにした。
だが、予期せぬトラブルが発生し…?
日差しが強く、セミの鳴き声が聞こえてくる7月下旬。
ガイルが用意してくれた馬車に揺られながら、私たちは温泉街へと向かっていた。
「久しぶりに城下町から外へ出たなぁ…城下町の外ってほとんど草原と山だけだよね。私の実家もこんな感じだよ」
私は外の景色を見ながら呟いた。
「お前の実家ってどの辺にあるんだ?」
ガイルが珍しく、普通に質問してきたので、私は優しく答えることにした。
「私の家はネメシス領地の東の最果てにあるの。
どちらかと言うと、ネメシスの城下町より、ダイアンサス領地の方が近いかもね」
この魔族世界は大陸続きで、中心部にネメシス領地、東側にダイアンサス領地、南側にサンダーソニア領地、西側にスカビオサ領地、北側にセントポーリア領地がある。
「ふーん…なあ、今度俺の家へ遊びに来いよ」
「遊びにって…公爵家の家なんて、気軽に遊びに行くような所じゃないでしょ」
「分かってねぇな。その公爵家の息子が遊びに誘ってんだぜ?
それに、本邸じゃなくて俺の邸宅へ来れば問題ない」
城の中に自分だけの邸宅があるってこと?…さすが公爵家。スケールが違うね。
「そうね…夏休み中、あまりにも暇で死にそうになったら、遊びに行くかも」
私は上手くはぐらかそうと思い、適当に返事をした。
「ハッ。言質取ったからな。遊びに来るなら魔通信機で前もって連絡入れろ。俺も予定を空けておく」
言質を取られてしまった…まあ、いいや。適当に誤魔化そう。
馬車の窓を見ると、温泉の蒸気で翳んだ山や温泉宿などの建物が見えてきた。
「あ、目的地が見えてきたよ」
温泉街サンシュユ。そこはネメシス領地南方に位置する、大陸でも有名な温泉街だ。
街に入る前に関所があり、身分証明書の提示を求められた。
そして私とガイルは学生証を提示し、無事にサンシュユの街へと入るのだった。
*****
私たちは温泉街の街並みを歩きながら、宿泊施設へ向かっていた。
露店で食べ物を売っていたり、雑貨屋さんが建ち並んでいる。
シーズンオフだからか、人は少なそうだな。
「おい、着いたぞ。ここだ」
みると斬新なデザインの4階建ての建物で、入口付近に「温泉旅館トリモチ」と小洒落た看板が立ててある。
中へ入りフロントへ行き、私たちは宿泊の手続きを始める。
フロントにはキツネの獣人族の受付嬢がいた。
「温泉旅館トリモチへようこそ。
…二泊三日でご予約のダイアンサス様ですね。こちらがルームキーです。
当旅館のご利用について、簡単にご案内させていただきます。まず、お食事は朝と晩をご用意しております。
朝食は朝7時~9時までのバイキング形式となっておりますので、1階の大広間へお越しください。
夕食は18時半・19時・19時半の3つの時間帯からお選びいただけますが、本日はいつ頃お召し上がりになられますか?」
ガイルが「お前はいつぐらいがいい?」と聞いてきたので「じゃあ19時くらいかな」と私は答えた。
「…承知いたしました。お食事はお部屋までお持ちしますので、お時間までに部屋へお戻りください。それでは、ごゆっくりおくつろぎくださいませ」
ふと私は気になっていたことを、受付嬢に聞いた。
「あの、ここのお風呂って何時から入れますか」
その一言で受付嬢の表情が曇った。
「…当旅館の温泉は16時からとなっております。お客様のご都合が宜しければ、どうぞお入りください」
温泉旅館なのに、温泉の説明を渋っている…?
おまけに私たちの都合が良ければって…温泉の説明って一番アピールすべき点だと思うんだけどなぁ。
「おい、温泉の時間なんざ、宿泊施設のパンフに書いてあっただろ。もう行くぞ」
ガイルに促されて、とりあえず私も一緒に、宿の部屋までついていくことにした。
私たちの部屋には、綺麗な畳の和室とモダンな浴室や洗面所が用意されていた。
3階の部屋なので、窓の外から温泉街の様子も見れる。いい景色だ。
「へえ~…キレイな内装だね。この旅館は5年前に建てられたばかりらしいけど、建築デザインにこだわりを感じるね」
私は部屋の様子をじっくり観察しているが、ガイルは茫然と立ち尽くしている。
「どうしたの、ガイル?せっかく来たんだから、ゆっくりしようよ」
「…おい。この部屋、仕切りがねえぞ。おまけにベッドはダブルじゃねえか。
確か予約したときはツインだって聞いてたが…絶対学生向けのプランじゃねえだろ、これ」
確かに部屋に仕切りはない。ベッドは2つずつのツインベッドではなく、ダブルベッドが一つ。
「ま、まさか、ここで寝る時、ガイルと同じベッドで寝ないといけないってこと…?」
少しだけ気まずい雰囲気が私たちの間に流れる。
「わ、私は畳で寝るから、ガイルはベッドを使って…」
「却下だ。んなことできるわけねぇだろ。俺が畳で寝るから、お前はベッドを使え」
「そ、そんなことできないよ!」私は慌てて否定した。
「じゃあ、どーすんだ?お前、俺と一緒に寝ても問題ないんか」
確かに年頃の男女が一緒のベッドに寝るのはまずい。
だが、どちらかが床下で眠るのも相手に悪い気がする。
「フロントへ行って、他の部屋に変えてもらおう。その方がまだいいでしょ?」
「お、おう…」
私たちは急いでフロントへ行き、受付嬢に他の部屋へ変えてもらうよう説明した。
「それが…申し訳ございません。他のお部屋が現在ちょうど修繕中でございまして、お部屋の変更が出来ない状態なのです。ご不快な思いをさせてしまい、重ねてお詫び申し上げます」
ダ、ダメだったか…ってことは。
「悪あがきしてもダメってことだな。…シエン、もうこうなったら腹括れ」
「ぐぬぬ。しょうがないから腹括るけどさ…ガイル、変な気を起こさないでね」
「あぁ?てめぇこそ、妙な真似すんじゃねぇぞ」
私たちはその後も、気まずい雰囲気のまま部屋へ戻ってしまうのだった。
*****
「俺は夕飯まで少し寝る。お前は好きにしろ」
部屋へ戻るとガイルはトップスの上着を脱いでしまい、さっさとベッドに潜ってしまった。
もう、すぐ不貞腐れるんだから…同じ部屋に居ても気持ちが塞ぎ込んじゃうし、旅館以外の温泉にでも浸かりに行こうかな。
「分かった。じゃあ少し外に出るね。19時までには必ず戻るから」
必要な物だけ携帯用の鞄に詰めて、私はパタンッと部屋の扉を閉めた。
「アイツ…マジでどっか行きやがった」
(こういう時って、女のほうが駄々こねて男の気を引いたりするもんじゃねぇの?
…もうちょっと俺に構ってくれても良くないか?)
シエンに対し、少しだけ拗ねるガイルであった。
*****
私はガイドブックを片手に、温泉が入れる場所を探していた。
「色んな温泉があるけど、ガイドブックに書いてあるオススメの温泉は…あった!ここだ」
丸太を敷き詰めた山小屋のような建物を見つけた私は、さっそく中に入ってみた。
「いらっしゃいませ。お一人様、銅貨3枚で温泉に入れますよ」
カウンターで支払いを済ませた私は、脱衣所で洋服を脱いで女湯に入った。
私が体を洗っていると、老婆が隣に座り彼女も体を洗い始めた。
「アンタ、旅行でこっちに来たのかい?」
意外にもハキハキしゃべる老婆であった。
「はい。ネメシスの中央地域から来ました」
下手に素性をしゃべるのはあまり良くないだろう。
私は大事な部分をぼかして老婆と話すことにした。
「そうかい。確かにあんたは発音が綺麗だね。…ところで、どこの宿へ泊ってるんだい?」
このくらいのことなら素直に答えても良さそうだな。
「温泉旅館トリモチです。なかなかモダンな雰囲気で、良い旅館ですよね」
「…そうかい。それなら、あの旅館の噂話を教えてあげるよ。」
「噂話…ですか?」これは何やらフラグが立ってしまったようだ。
「3年前からあの旅館では、若い旅行客が宿泊して温泉に入ると、いつの間にか男湯と女湯の暖簾が入れ替わって、大騒ぎになるって噂が流れてんだよ」
「それは…女湯と男湯が切り替わる時間帯に、たまたま湯に浸かっていただけでは?」
普通ならば、暖簾の切り替わり時間を避けて温泉に入ったりするだろう。
だが、たまたま切り替わりの時間に気づかず、
そのまま客が入ってしまったという話は、ままあることである。
「普通ならそう思うだろう?だけどさ、そもそもあそこの旅館は、
男湯と女湯を切り替えたりしないんだよ。…誰かが意図的に暖簾を変えてんのさ。
それも、若い旅行客が入った時だけ、すり替わっているらしい」
ここまで読んでくださり、いつもありがとうございます。
ちなみにこれは裏設定ですが、シエンは前世で人付き合いに対して消極的だったため、遊びやご飯に誘われると、嬉しくてついホイホイついて行ってしまうクセがあります。
彼女は基本的に良い子ですが考えが聡い子で、おまけに気が乗らないと誘いに応じないので、悪い男には騙されないでしょう(恐らく)。
次回もお楽しみに♪




