第18章 闘いの終わりとご褒美
準決勝でトーマに勝利したクランベリー。
決勝戦はガイルとクランベリーが闘うこととなった。
果たして勝負の行方は?
「さあ、いよいよラストの決勝戦です!
優勝の王冠をいただくのはガイル選手か、それともクランベリー選手か?」
「どちらも魔術能力が高いですからね。良い活躍を期待しています」
ナタリア先生とフォックス先生も、この闘いを楽しみにしているようだ。
「それでは、決勝戦。
Sクラス、ガイル・ダイアンサス 対 Sクラス、クランベリー・スパイラキシス!
両者とも、闘技場へお入りください」
俺は勝つ。シエンのためにも、母上のためにも。
もう、自分の犯した罪から逃げたりしない。
俺は気持ちを切り替えて、目の前の相手に集中する。
「両者、構えて。用意、…始め!」
俺とクランベリーはほぼ同時に動いた。
「爆炎陣!」俺たちは互いに火魔法を得意とする。
魔術だけなら互角だろう。
「焔衝撃!」クランベリーも負けてはいない。
炎と炎の攻撃がぶつかり合って闘技場は熱を帯び、少しずつ気温が上昇していく。
火魔術でやり合うのは、消耗するだけだな。
「風砲丸」
俺は無数の空気砲を創り出し、クランベリーへ目がけて攻撃する。
まさか、俺が風魔術も使うことになるとは、正直思ってもみなかった。
*****
魔闘大会に向けて能力向上授業を受けていた頃、デューイの先公から言い渡されていたことがあった。
「おそらく、魔闘大会では金属性の使用禁止が発表されるだろう。そこで、お前は2種類の属性魔術を使いこなせるようになれ」
いつものように訓練をした後、俺は先公からアドバイスを受けていた。
「は?なんで1種類じゃダメなんだ?」
「確実に勝ちたいのなら、同じ魔術で闘うのには限度がある。
お前は火魔術が得意だが、2種類の魔術を織り交ぜて闘うことを想定するならば、風魔術をも極めてみせろ」
*****
クランベリーは魔術の使い方は学年一だが、闘い方は大技が多く単純になりがちだ。
アイツはまだ、自分の弱点に気づいていない。
「むむむ…!やるねえ、ガイル…!だけど、シエンちゃんと温泉旅行に行くのは、僕だよ!」
攻撃を避けるクランベリーだが、空気砲の数が多すぎて何発か喰らってしまう。
俺は隙が出来たクランベリーの背後へ気配を消して近づき、彼の背を狙って、右脚で跳び蹴りをお見舞いする。
「あぁ?背中がガラ空きだ!ボケが!」
「ぎゃう‼」
クランベリーは受け身が取れず吹っ飛んでしまい、残念なことに場外へ出てしまった。
「おっと!クランベリー選手、場外!」
「いてて…(あーあ…シエンちゃんと温泉旅行、行きたかった…グスン)」
「そこまで!…勝者、ガイル・ダイアンサス!」
デューイ先生の判定の後、観客席からワアアアアと大歓声が起こる。
「すげーな、金属性使わずにあの強さかよ!」
「ガイル君、強くてカッコイイ!」
―決勝戦。優勝、ガイル・ダイアンサス。
*****
「今年の魔闘大会優勝者は、1年Sクラス、ガイル・ダイアンサスです!優勝、おめでとうございます!
これにて、すべての魔闘大会の試合が終了いたしました。
続いて、表彰式に移りたいと思います。壇上を設置しますので、しばらくお待ちください」
表彰台にはガイルが1位、クランベリーが2位、トーマが3位の段に登っている。
それぞれ金・銀・銅メダルをフォックス学園長先生から授与された。
「おめでとう。ダイアンサス君。素晴らしい闘いだったよ」
「お褒めに預かり、光栄です」
フォックス先生はそれぞれ入賞者と挨拶を交わしている。
「それでは、最後に学園長先生より、閉会のお言葉を賜りたいと思います」
ナタリア先生がスッと拡声機をフォックス先生に渡す。
「1年生の皆さん、この魔闘大会で色々なことがあったと思います。
大変な思いも、嬉しい思いも、すべてこれからあなた達が生きていく上での糧となるでしょう。
今日の日の思い出を胸に刻み、明日からまた、共に勉学に励みましょう。
では最後に。我らプリムラ魔術学園に、栄あれ!」
「「「栄あれ!」」」
こうして、魔闘大会は無事閉幕したのだった。
―1年Sクラスの教室―
「…負傷した者も、無事回復できたようだな。この後、魔闘大会の打ち上げパーティーが開かれる。
今回ベスト8まで残った者は必ず出席するように。
また、それ以外の生徒は任意での参加で問題ない。
パーティーは午後7時から始まる。くれぐれも遅れることのないよう。以上。解散!」
必要事項だけ伝え、デューイ先生は教室を出ていく。
「シンリーは打ち上げパーティー、参加するの?」
私は誰が参加するのか気になって、まずシンリーに声を掛けた。
「んあ?行くに決まってんだろ。つか、Sクラスの奴らは全員参加じゃないのか?」
周りを見渡すと、全員が「うんうん」と頷いている。
そして皆、「何着て行こうか」「○○と連絡先とか交換できるかな」などと騒ぎ合っている。
「シエン…お前、体はもう大丈夫なのか」
ふと声がするほうへ振り向くと、ガイルが心配そうに私を見ている。
「ん?養護教諭の先生からもらった回復薬を飲んだら、すっかり良くなったよ。
怪我の痕も残ってないし。それと、私も本気で闘ったんだから、恨みっこなしだよ?
ガイルこそ、魔闘大会で疲れてない?
打ち上げパーティーまで、まだ時間があるから、寮に戻って休んだら?」
「ああ…そうする」
そうして各々「また、後で!」と言葉を交わし、パーティーに向けて休養と準備に取り掛かるのだった。
―パーティー会場―
打ち上げパーティーについては、魔闘大会のお知らせにも記載があった。
『服装は軽めの正装で、なるべく上品なものを選ぶよう。そして、大会で闘い合った仲間たちと労うための会なので、喧嘩や暴動を起こした者は謹慎処分とする。』という注意書きがあった。
パーティー会場は学園の食堂を貸し切って行われるようだ。
打ち上げ用にテーブルがセッティングされている。ちなみに立食パーティー式である。
私は、デザインが上品な深緑色の半袖シャツワンピースを身に着けている。
髪は下ろし、雫の形をしたライトグリーンのイヤリングを着用した。
念のため、常備薬の入った濃いブラウン色の革のポーチを肩から下げることにしている。
「あと10分くらいで、パーティーが始まるな。Sクラスのみんなは…あ!居た!」
クラスメイトの姿を見つけ、私は急いで皆のところへ行った。
「お、やっと来たー!待ってたよ~シエンちゃん!」
クランベリーが元気よく手を振る。
ガイルとの闘いを見ていない私だが、1位を取れなかったのは、彼にとって悔しかったのではないだろうか。
皆それぞれスーツを着用したり、少しカジュアルなドレスを身に纏っている。
「軽めの正装って言ったら、やっぱりスーツになるよな。実家から一帳羅持って来ておいて良かった~」
ロックスが皆の服装を眺めて安心している。
私の魔術攻撃で魔力と体力を奪わせてしまったが、元気そうな様子を見れてホッとした。
「フフ。僕は敢えてタキシードで参加させていただくよ!美しいこの僕にふさわしい装いだね★」
リリー・オリエントから攻撃を受けたとは聞いていたが、相変わらずの様子で私は少し(ほんの少しだけ)安心した。
突然、会場の照明がフッと暗くなる。とある一角だけ明かりが照らされている。
「一年生諸君、静かに!…これより、魔闘大会の打ち上げパーティーを開催する。
フォックス学園長先生より、お話があるので良く聞くように」
背広を着用したデューイ先生は拡声機をフォックス先生へ渡す。
「一年生の皆さん、魔闘大会お疲れ様でした。せっかくの打ち上げですので、堅苦しい挨拶は抜きにします♪…今から乾杯の音頭を取りますので、近くのスタッフから飲み物を受け取ってください」
私達の周りにボーイが立っており、配られたジュースを手に取る。
「だいたい、行き渡ったかな?…それでは、皆さん、乾杯!」
「「「乾杯!」」」
そして、会場の明かりは戻り、打ち上げパーティーが始まった。
「なあなあシーちゃん、あっちに美味しそうなスイーツあったよ。見に行ってみようよ」
シャーリーもすっかり元気になっている。
ベルライン・ラグルスから受けた攻撃で倒れた時は、本当に肝が冷えた。
「シャーリー、体はもう平気?どこか痛いところはない?」
私は心配になってシャーリーに質問した。
「うん?もう全然へっちゃらだよ!んでね、たぶんベルラインと出会っても、もう問題ないと思う」
「…そっか。良かった。同じ医務室に居たけど、姿を全然確認できなかったから、心配してたんだ」
「シーちゃんは心配しすぎだよ~!ほら、スイーツ食べよ!」
私とシャーリーはスイーツのテーブルへと一緒に向かった。
*****
スイーツを堪能したあと、私はシャーリーと一旦別れた。
スイーツもいいけど、お料理も少し食べたいよね。
豪華な料理の前まで移動したところ、トーマと出会った。
「トーマ、魔闘大会お疲れ様。3位入賞おめでとう」
「シエンさん、ありがとう。体はもう大丈夫?」
物静かで無駄を嫌うような印象があったが、気にかけてくれるのは意外だった。
「うん。もう大丈夫。心配かけてごめんね」
「…そこまで心配はしてないけど。ここのピザ、美味しいよ。少し取ってあげる」
そう言うとトーマは近くの取り皿を持って来て、少しだけ装ってくれた。
「お!ピザ残ってんじゃん。俺も食べよ!」
横からロックスが近づいて、自分の皿にピザを乗っける。
「ほどほどにしなよ。他の人が食べられなくなる」トーマがロックスを窘める。
「あ、ロックス。その…私が言うのもなんだけど、体はもう大丈夫?」
「ん?ああ、全然平気だよ!お前が睡眠薬を俺の体に注入してくれたお陰で、ぐっすり眠れたからな。逆に体が軽いくらいだぜ!」
「そうか…良かった。一応、目が覚めなかった場合を考慮して、解毒薬も作っておいたんだけど、必要なかったみたいだね」
私の言葉にロックスは目を丸くしている。
「お前、本当に薬作れるんだな。すげーな!」
「ふふ。これが仕事だから」
(…先に僕がシエンさんと話してたんだけど…まあ、いいか)
私はしばらく、ロックスとトーマと一緒に会話を楽しんだ。
*****
近くのテーブルにある飲み物を手にし、会場内を散策していると、シンリーとジャイロを見つけた。
「あ、シンリー、ジャイロ。魔闘大会お疲れ様!」
私は二人に声をかけてみた。
「おー、お疲れさん!準決勝までよく頑張ったな、シエン。そうそう、さっきそこで聞いたんだけどさ…」
シンリーの話によると、今回の魔闘大会で第2部に出場した1年生の人気が、上昇しているらしい。
「ああ、俺も耳にしたぞ。シエンは『華の女王様』という渾名がついているらしいな」
ジャイロから噂を耳にした私は、露骨に嫌な顔をしてしまう。
「え、何その渾名。普通にキショイ…」
「言っておくが俺が付けたわけじゃないからな?周りが持て囃しているだけだ。気にするな」
「他の生徒にも渾名があるの?」
「ああ。確かガイルは『暴君王子』とか、クランベリーは『魔術戦闘狂』とか…みんな好き放題言ってくれるよな」
途中からほぼ悪口になっている気がする。
ガイルやクランベリーには黙っておこう。
*****
料理やスイーツを堪能し、しばらく会場内をうろついていると、スーツ姿のガイルを見つけた。
「ガイル、お疲れ様。優勝おめでとう」
「…ああ、ありがとう。準決勝ではその…色々とすまなかった」
「何言ってるの。それだけ本気だったってことでしょう?もう、お互い謝るのはなしだよ」
ガイルは私と和解できたためか、顔の緊張が少し緩んでいるように見えた。
「ねえ、第1部の時に約束したこと、覚えてる?」
「第1部…?あれか、飯奢るって話か」
「そう、それ!約束したからには、ちゃんとランチを奢ってもらうからね」
「確かにランチは奢るが、一つだけ条件がある」
少しだけガイルが勝ち誇ったかのような表情を見せた。
「条件って何?(何かよからぬことを考えているな)」
「ランチは奢るが、代わりに俺と2泊3日の温泉旅行について来てもらうからな。いっとくがてめえに拒否権は…」
「え、いいの?温泉旅行、一緒に連れて行ってくれるの?」
ガイルの発言に、思わず私は目を輝かせてしまう。
「バ、バカ、声がでかい!…その、お前が行きたいんなら連れて行ってやる」
「わあ~、ありがとう、ガイル!ふふ。温泉旅行、楽しみだな~。
今度本屋で旅行ガイドブック買おうかな~」
(思ったより好反応だな。てっきり断ることも予想してたんだが…そんなに俺と温泉旅行に行きたかったのか?…コイツもしかして、俺のこと…)
ガイルが脳内で盛大な勘違いをしている最中、私は温泉旅行に心を躍らせていた。
(温泉は好きなんだけど、前世でほとんど行けてなかったから、すごく嬉しいなぁ。美味しいもの食べて、お土産買って、露天風呂浸かって…)
ガイルとシエンの間で、温泉旅行に対する思いのすれ違いが起きているようだ。
もちろん、当の本人たちは知る由もない。
そして、彼らが温泉旅行へ行くのは少し先の話になる。
ここまで読んでくださり、いつもありがとうございます!
魔闘大会編がやっと完結しました。
温泉旅行、私も行きたいッス…。
次回から日常の学園生活に戻りますが、これからシエンたちは夏休みに入ります。
次もお楽しみに♪




