第17章 飴と鞭?勝つのは俺だ!
準決勝でガイルの攻撃を受けて倒れ込むシエン。
ガイルはシエンを傷つけてしまったことで、古い過去の記憶を思い出していた。
そんなガイルを励まそうと、Sクラスのメンバーたちが選手控室へ押しかけてきて…?
※内容を一部修正しました。2026.10.12
―10年前。ダイアンサス邸―
俺が5歳の頃のことだ。
俺の母上は病弱な方だったが、俺たち兄弟には優しく接してくださった。
中々眠れない夜に、母上が歌う綺麗な子守唄が、俺は一番大好きだった。
紅葉が綺麗なとある秋の日。
母上はこのところ体調が優れない様子で、床に臥していることが多かった。
そんな折、俺は自分の城の庭師から綺麗な花を貰った。真っ赤な薔薇だ。
「お見舞いに、持っていこう。母上、喜んでくれるかな」
だが、母上の容体は日に日に悪化していき、その日俺は母上に会うことはできなかった。
薔薇は勿体ないので、花瓶に差して時々水をやりかえては、綺麗な薔薇を楽しんでいた。
そして俺には専属の家庭教師が付き、公爵家の息子といて勉学に励むよう、父上から言い渡された。
俺はだんだん母上の見舞いから、足が遠のいていた。
いつしか、花瓶の薔薇も枯れてしまっていた。
そして、雪が降る寒い日。母上は静かに息を引き取った。
(俺がもっと見舞いに行っていれば…母上に会える時に、きちんと会っていれば)
後悔してももう遅い。俺は自分にとって大切な女性を、守ることができなかった。
*****
―選手控室―
『ガイルー、入るよー』
選手控室のドアをノックもせず、勢いよくクランベリーがドアを開ける。
そこにはシンリー、レイン、ラインハート、ジャイロ、トーマとロックスの姿もあった。
「ガイルお前、珍しく落ち込んでるなぁ。シエンなら大丈夫だってデューイ先生が言ってたぞ」
シエンの術から目覚めたロックスが真っ先に励ます。
だが、当のガイルは控室の椅子に座って、先ほどの試合を悔やむように顔を下へ向けて項垂れている。
ガイルはスッと顔をあげ、トーマを睨みつけた。
「…おい、トーマ。これがお前の言っていた『スパイス』か?」
「そうだよ。シエンさんに『薬師』として闘うよう仕向けたのは、僕だよ」
トーマの言葉に、ガイルは突っかかるように吠えた。
「俺に対して全力で闘うことが、アイツにとってどれだけ危険なことか、分かってんのか!」
「じゃあ君は、シエンさんが闘いを『棄権』しても喜べるの?」
二人の間にピリピリとした空気が流れる。
「ガイル、落ち着きな。トーマもあんまり煽るな。…クラン、あれを出してくれるか?」
シンリーが両者を宥めながら、クランベリーに指示を出す。
「イエッサー!シエンちゃんにグーパンして気絶させちゃったガイルへ、朗報でーす!」
「てめえも本気でぶっ飛ばすぞ?」
クランベリーはガイルに構うことなく、バンっとA4サイズのチラシをガイルに見せつけた。
「さっきね。デューイ先生が、『これをダイアンサスに見せてやれ』ってくれたの!
でもこれ、まだ公表してない内容だから、内緒なんだけどねー」
そこには『魔闘大会景品一覧!上位3名の特典』と書かれてある。
「…3位は銅貨500枚、準優勝はカタログギフト5点セット、優勝者には2泊3日の温泉旅行チケット1組2名まで…これが魔闘大会の景品か?」
「そうなのー♪僕ね、優勝したらシエンちゃんを温泉旅行に誘うんだ~!」
いきなり唐突なクランの発言に、ガイルは理解が追い付いていないようだ。
「は…?」
「そういうことなら、僕もシエンさんを温泉旅行に誘いたい。彼女となら話が合いそう」
クランベリーとトーマが楽しそうに語っている。
(クランベリーとトーマがシエンを誘う…?いや、ただの三文芝居だ。真に受ける必要はない…が、もし本当にこいつらがシエンを誘ったら、アイツはたぶん、断らないだろう)
「ガイルも…優勝したら、シエンちゃんの温泉浴衣姿が拝めるかもよ~?」
クランベリーがガイルの耳元で、悪魔のような囁きを呟く。
「な…発言がエロオヤジなんだよ!つか、お前らがシエンを誘っても、もし断られたらどうすんだよ」
「日和ってますね」レインが溜息をつきながら追い打ちをかける。
「ああ、完全に日和っているな」ジャイロも激しく同意する。
ガイルの脳内でブチっと何かが切れる音がした。
「ハッ。…ふざけるな。俺が優勝してシエンと温泉旅行に行く。てめえら2人に絶対勝って、オレがシエンと温泉旅行に行く。大事なことだから2度言った」
ガイルはクランベリーとトーマに対して宣戦布告し、わざと煽りをきかせる。
「…おい、これ『魔闘大会に優勝する』のが目的じゃなくて、『シエンと温泉旅行に行く』ことが目的になってないか?」
シンリーはロックスに耳打ちする。
「いーんじゃね?ガイルも元気出たみたいだし」
そして、この状況を楽しむようにラインハートも興奮しているようだ。
「ふむ…一人の女性を三人の男が取り合う…これが俗に言う、『逆ハーレム』というものか!実に興味深い!マーベラス!」
こうして、準決勝の第二試合が始まる前に、ガイルはクラスメイトのお陰で元気を取り戻すことができたのだった。
*****
「シエン選手の負傷にあたり、一時対戦を中断しておりましたが、ようやく準備が整いました!
続いて準決勝、第二試合。
Sクラス、クランベリー・スパイラキシス 対 Sクラス、トーマ・イベリス!
両者とも、闘技場へお入りください」
(ふふん♪優勝したら、シエンちゃんと温泉旅行…絶対勝つ!)
(シエンさんと温泉旅行、楽しそう…)
機嫌の良さそうな二人の選手の様子を、デューイ先生が訝しげに見ている。
「(何か邪念を感じるな…)では両者、構えて。用意、始め!」
先手を打ったのはトーマだった。
「風衝撃!」
風で螺旋を創り上げ、トーマは僕(=クランベリー・スパイラキシス)へめがけて攻撃してくる。
いきなり大技を出すってことは、かなり本気のようだ。
トーマの魔術も中々いいね。でも威力が少し足りないかも。
「なかなかやるね!焔防壁」
僕は炎の鉄壁でトーマの攻撃を相殺した。
闘いは互角のように思われたが、トーマに異変が起きた。
「…!あ、脚が!」
気づいたときには遅かったようだね。
僕はトーマの脚を彼の影に束縛させ、自由を奪ってやった。
「実は一番初めの試合のとき、カインって子が影魔術が使えるって話を小耳にはさんだから、どんな風に使うのかなって想像してみたんだ。意外と出来るもんだね、影魔術」
「なんと、クランベリー選手!カイン選手の技を見ないで、影魔術を使いこなしている様子です!これぞまさしく魔術の申し子!」
ナタリア先生の解説アナウンスが流れる。
「ごめんけど、僕も譲れないから。炎暴嵐!」
僕は高速の火炎魔術を出現させ、爆風でトーマを遠くへ吹き飛ばした。
「ぐぁ…!(受け身を取るので精一杯…なんて魔力量!)」
トーマはフィールドの枠外へ吹き飛ばされてしまい、悔しそうに顔を歪める。
「これは、トーマ選手!場外に飛び出てしまいました!」
「そこまで!」デューイ先生の掛け声で、試合は終わった。
―準決勝、第二試合。勝者、クランベリー・スパイラキシス。
「やったぁ!決勝戦進出~!(温泉旅行は譲れないもんね♪)」
クランベリーは闘技場で両手を広げて喜んでいる。
「なお、シエン・フロックス選手の負傷により、3位決定戦は棄権とし、トーマ・イベリス選手が自動的に3位となります」
いよいよ決勝戦が始まる。勝利を掴むのはどっちだ?!
ここまで読んでくださり、いつもありがとうございます。
魔闘大会の景品ですが、うーん。商店街の福引みたいな内容になってしまいました。
一応、学園も予算内で運営しておりますので、あまり豪華な景品は用意できないと思われます。
さて、魔闘大会もいよいよ終盤。
次回もお楽しみに♪




