第16章 愛する者との悲しき闘い
準決勝の相手にオロオロするシエン。
そこへトーマがある助言をするが…?
※内容を一部修正しました。2026.10.11
いよいよ準決勝が始まろうとしていた。
ちなみに、対戦カードは以下のとおりである。
・第一試合…ガイル・ダイアンサス VS シエン・フロックス
・第二試合…クランベリー・スパイラキシス VS トーマ・イベリス
*****
準決勝の控室は一人につき一つの個室が与えられる。
しかし、私(=シエン・フロックス)には今世紀最大の難関が立ち塞がっていた。
(準決勝の相手が…ガイル‼ど、どうしよう…?私の木属性でどうやってガイルと闘える?
きっとガイルは容赦なしに攻撃してくるだろうし…休憩時間の間に闘い方をシュミレーションしないと)
すると、コンコンっと控室のドアからノックが聞こえる。
『シエン、入っていいか~?』シンリーの声だった。
「どうぞ。空いているよ」
「じゃーん!僕とトーマも来ちゃった~!」
「え、みんな、どうしたの?」
「うーんとね、ちょっとシエンちゃんの様子を見に来たの!」
そんなクランベリーとは対照的に、トーマは相変わらず物静かだ。
「…ガイルと闘うんだね。シエンさん」
トーマが口を開いた。まっすぐ私を見つめる。
「そうだね。…そうなんだけど…どう闘えば勝利できるか、全然想像できなくて正直困ってる」
「恐らく…君が勝利するのは難しいだろう。けど」
「けど?」
「君は生まれた時から、最大の武器を持っているはずだ」
「生まれた時から…?あ!そういうことか」
シンリーとクランベリーの頭に?マークが浮かんでいる。
「僕が伝えたかったことは、それだけ。じゃあね」
用件が済んだのか、トーマは足早にシエンの控室から出て行った。
「シエン、今のは一体…」シンリーが神妙な顔でこちらを見ている。
「ふふ。私ったら、一番大切なことを忘れていたよ。あれはね…」
*****
トーマがシエンの控室を出ると、ガイルが壁に寄りかかって腕組みをしている。
「てめえ、シエンに何を吹き込んだ。余計な真似しやがって」
「…君がより闘いを楽しむための、スパイスを仕込んだだけ」
瞬時にガイルはトーマの胸倉を掴み、彼をギロリと睨みつけた。
「あんま調子に乗るな。決勝で勝つのは俺だ」
「僕も君には負けないから」
準決勝が始まる前から火花を散らす二人。
「チッ…俺に喧嘩売ったこと、後悔させてやる」
不穏な空気が流れる中、ガイルとトーマはそれぞれの控室へと戻るのだった。
*****
「それでは皆様、お待たせしました!これより準決勝を行います!
準決勝、第一試合はSクラス、ガイル・ダイアンサス 対 Sクラス、シエン・フロックス!」
「俺はてめえが相手だからって手加減しねぇからな。本気で来いよ」
「ええ。もちろん」
「静粛に!…両者、構えて。用意、始め!」
先手を打ったのはガイルだ。火炎攻撃で私を圧倒しようとしている。
私は手を前に掲げて、蔦で攻撃を防いだ。蔦では防ぎきれないので、連続技で樹木を出現させる。
「ハッ!闘技場に草生やしてんじゃねぇぞ!お前の実力はこんなもんか?」
ガイルの言うことなど全く気にせず、私はガイルを取り囲むように樹木を出現させることに精を出す。
「こんなもの、燃やしちまえば、ただの灰だろうが!」
ガイルは私が出現させた植物たちをどんどん燃やしていくが、私もお構いなしに樹木を出現させる。
「おい、さっきから何がしてぇんだ!やる気あんのか、ゴラ!」
すると、ガイルは膝からガクっと崩れ落ちた。
「なんだ…くそ、眩暈がする…てめえ、何をした!」
「馬鹿だねぇ。私が何の考えもなしに、木や草を出現させるわけないでしょう?
忘れたの?私は『薬師』だよ」
そう、私の本分は『薬師』だ。私はトーマの言葉で思い出したのだ。
木魔術で勝てないなら、『薬師』の力で相手に打ち勝つ。
それが今の私に出来る『唯一の戦闘法』だった。
「…それが何だってんだ」
「植物の中には燃やすと有害ガスが発生するものもあるの。
今、君の意識が朦朧としているのはそのせいだよ。
もちろん、命にかかわるような症状が起きたら、すぐに助けるから安心して」
「誰がてめえの助けなんざ…借りるかよ!」
ガイルは火魔術を駆使し、火炎の爆風を使いながら周囲の有害ガスを相殺した。
「ったく、ぬるいやり方で闘ってんじゃねーぞ」
「…私も、君相手だとこういう闘い方しかできないからね。でも、まだ終わってないよ」
パチンっと私は指を鳴らし、無数の竹を出現させた。
「蔦なんぞ、俺には通用しねえ。それもお前には分かってんだろ」
「うん。もちろん蔦は出さないよ。だけど…」
私は両手の手のひらをパアン!と叩いた。
その合図で竹が割れ、中から水が溢れ出す。
私はなるべく水に引っ掛からないよう、即座に距離を取った。
「だ!冷めてぇ!なんだ、この水。さっきから何なんだよ!」
「少し時間が経てば分かるよ。それまで薔薇鞭で遊んであげる」
ピシっと鞭を叩き、ガイルに攻撃を仕掛ける。
「ハッ。忘れたのか?お前の植物は俺の炎で燃えちまうんだよ!」
ガイルが私の薔薇鞭を掴んで、ボウっと燃やし尽くす。
「時間稼ぎさえ出来れば、問題ないよ」
その時、ガイルの動きがピタリと止まった。
「ぐ…か、体が…」
「なかなかの即効性だね。先ほどの竹に仕掛けたのは痺れ薬だよ。
痺れは1時間くらい続くから、まあ頑張ってねー」
ガイルは俯いたまま、顔を上げない。
「痺れがきついなら、『参った』って言えば解毒薬をあげるよ」
私は腰のポシェットから透明な瓶を取り出し、片手に持ってガイルに揺さぶりをかける。
「ま……いるわけねえだろ!ガアアア!」
ドンッと大きな爆発音を立て、ガイルは白目を剥いて自分の体を爆発させた。
爆発のせいで体操服が破れ、鍛え抜かれたガイルの上半身が露わになる。
「な…?自分の体を焼いて、痺れを相殺した…?なんて無茶を!」
私は思わずガイルの身を心配してしまう。闘技中ということをうっかり失念してしまっていた。
その時、私の隙を逃さなかったガイルが、目の前に現れた。
「茶番は終わりだ」
ガイルは、私の腹に渾身の一撃でストレートパンチをお見舞いしてきた。
受け身を取れなかった私は、あまりの衝撃に倒れ込んでしまう。
「がはっ…」
膝から崩れ落ち、地面に倒れ込む。休憩中に補給した水分まで吐き出してしまう。
「ごほっ…(喉がつっかえる…かなりまずいかも…)」
「これはシエン選手!倒れ込んでしまいました!カウントダウンが始まります!」
「9、8、7、6…」(だめだ、体が痛くて起き上がれない…)
「5、4、3、2…」(瞼が重い…意識が、遠のく…)
「1、0!」
「シエン選手、起き上がりません!ガイル選手の攻撃で相当なダメージを喰らってしまったのでしょうか」
「……」フォックス先生は答えようとしない。
「そこまで!」試合の進行をデューイ先生が止めた。
―準決勝、第一試合。勝者、ガイル・ダイアンサス。
ガイルは倒れたシエンの元へ駆け寄り、屈みこんでシエンを起こそうとした。
「シエン、立てるか?おい、シエン」
少しだけ揺さぶるが、反応がない。
「おい、シエン!聞こえるか?目を開けろ!…おい、嘘だろ」
シエンの容体が急変したのを察知して、デューイ先生は急いで救護係を呼ぶ。
「ダイアンサス、あとは私たちが処置するから控室へ戻れ」
シエンが起きないことへ動揺するガイルに、デューイ先生が冷たく言い放つ。
「だ、だけどよ…」
「邪魔だと言っている!…フロックス、聞こえるか?返事をしろ。…意識が無い、急いで担架を!」
ガイルは、罪悪感で胸が締め付けられる感覚を覚えつつも、控室へと戻った。
(俺は自分の大切な女を、守るどころか傷つけた)
(俺はまた、守れなかった)
ここまで読んでくださり、いつもありがとうございます。
準決勝早々、不穏な空気が漂っております。
シエンとガイルの仲はどうなってしまうのでしょうか?
次回はガイルのとある過去が明かされます!お楽しみに!




