第13章 圧倒的な力の差
第一試合の闘いが終わり、無事に勝利を収めたガイル。
第二試合のシエンの相手は、1年Aクラスのリリー・オリエント。
だが、シエンの様子がいつもと違い…?
※内容を一部修正しました。2026.10.11
「それでは第二試合に参ります!
Aクラス、リリー・オリエント 対 Sクラス、シエン・フロックス!
両者とも、闘技場にお入りください。」
相手のリリーはレインとラインハートの敵ということらしいけど。
どんな魔術を使うんだろう。何故かいつものリ・サーチが反応しないな。
「あら、またお会いしましたわね。シエンさん」
リリーが不敵に笑いかける。
「ええ。貴女のような麗しいご令嬢に、再びお目かかれて光栄ですよ」
私もにこりと微笑んだ。
普段こんな寒い発言しないのに…なんだろう。いつもよりテンションが高くなっている気がする…?
「対戦が始まる前は静粛に。…両者、構えて。用意、始め!」
デューイ先生の掛け声と共に、先に動いたのはリリーのほうだった。
「残念ですけれど、貴女はすでに私に魅了されているのですわ」
「え…?魅了?」
なぜだろう。リリーの言葉の意味が理解できない。
「ええ。だって私、サキュバス族でございますから!そして…」
スルっと体から羽飾りのついた煌びやかな扇を手にし、リリーは妖艶に舞を舞い始める。
「私の舞を見た者は、5分後に気絶してしまいますの!貴女にそれが耐えられるかしら?オホホホ!」
―観客席―。
「あの舞を見てはいけません!」
レインが咄嗟に叫んだ。
観客席がざわつく中、「急にどうしたんだよ!落ち着けレイン」とシンリーが宥める。
「心配ないよ。レディ・レイン。あの技はせいぜい半径10メートル程度しか効力がないからね」
ラインハートが静かに解説し始めた。
「知ってたんですか?ラインハートさん」
「もちろん。彼女はサキュバス族で、僕はインキュバス族だからね。何度か顔を見たことはある。
それに、彼女の舞を見ても、1時間もあれば回復できるから、僕のことは心配しなくて大丈夫さ。」
「ふーん…」
レインはつまらなさそうに顔を膨らましている。
「ふむ。だが正直俺は、あのままシエンが篭絡されるとは思えないな」
ジャイロが冷静に試合を分析して意見を言った。
「あったりめーだ。うちらのシエン、舐めんなよ!」
ー闘技場―。
(舞さえ舞ってしまえばワタクシの独壇場。この勝負、もらいましてよ)
「これが、君の特殊スキル…なんだね…」
(目の前のシエン・フロックスは先ほどからふらついてばかり。あっけないですわ)
「おやおや?立っているだけで、精一杯のようですわね。
『参った』と言えば、術を解いてあげてもいいですわよ~?
さあ、どうします?シエンさん」
「…その必要は、ないね」
すると、シエンの体が花びらのように散っていく。
本体が消えてなくなってしまった。
「おおっと!シエン選手の体が花びらのように散っています!
フォックス先生、これもリリーさんの技なのでしょうか?」
ナタリア先生がフォックス先生に解説を求める。
「いいえ。これはシエン選手の技ですね。しばらく様子を見てみましょう」
*****
「な、き、消えた…?私の技にこんな効力はありませんわ!一体どこに…」
するとどこからか「パチン」と指を鳴らす音が聴こえ、私の体に無数の蔦が巻き付いた。
細い蔦でぐるぐる巻かれ、引っ張ろうにも解けない。
「な、なんですの!い、一体、何が起こっているというのです!
正体を現しなさい!シエン・フロックス!」
(姿が見えない?彼女はどこにいるの?)
「ねえ、君。さっきからどこを見ているの?」
ふと声がするほうに目をやると、どこからか無傷のシエンが現れた。
「これは一体、どういうことなんですの?説明なさいな!」
「わざわざ敵に種明かしなんて、するわけないでしょ。これはとっておきの魔術なんだから」
そう言ってシエンは、蔦を使って私の体を持ちあげ、ブンっと放り投げた。
勢いよく蔦で放り投げられ、私は地面に叩きつけられてしまう。
受け身を取ることができず、私は体に擦り傷を負ってしまった。
「よくもやってくれましたわね…!もう、容赦しないんだから…」
「おおっと!リリー選手、フィールドの枠から外に放り出されてしまいました!失格です!」
ナタリア先生のアナウンスで私は気づかされた。
シエン・フロックスは、始めから私を場外に出すつもりでいたのだ。
その証拠に周りを見渡すと、私の体は黒いフィールドの枠からはみ出していた。
「勝者、シエン・フロックス!」
デューイ先生がシエンの方に白い旗を上げた。
「ま、まさかこの私が負けるなんて…」
シエンはフィールド場外で倒れ込んでいる私の前に立った。
「な、なんですの?負けた私を笑いにでも来たのかしら?」
ちくりと嫌味を返すと、シエンから優しく手を差し伸べられた。
「大丈夫ですか、リリー様。…お手をどうぞ」
恭しくシエンは私の手を取り、立ち上がるのを手伝ってくれた。
「な、情けなんてかけないでくださいまし。余計惨めになるだけですわ」
(いきなりなんですの?あら…もしかして、ワタクシの魅了がまだ解けていない?)
「貴女と拳を交えたこと、光栄に思います。どうか今後も良しなに」
闘いの後で気分が高揚しているのだろうか。
気がつけばシエンは、私の手の甲にキスを施していた。
観客席から「キャー!素敵―!」と悲鳴のような嬌声が聞こえる。
「またお会いできるのを楽しみにしております。ごきげんよう。リリー様」
にこやかに挨拶し、シエンはその場を離れた。
「ま、まさか魅了されていたのは、彼女ではなくワタクシ?なんだか…胸が熱いですわ」
(試合は終わったのだから、さっさと帰ればいいものを…一体私は何を見せられているのだ)
デューイ先生は頭を押さえて呆れながらも、一部始終を見届けてしまうのだった。
「なんとも素敵な友情ですね、フォックス先生」
「それは私の意見が必要なのでしょうか。…ナタリア先生、次の対戦も目が離せませんよ」
「そうですね。続いて第三試合。
Bクラス、ネロリ・コルチカム 対 Sクラス、クランベリー・スパイラキシス。
両者とも、闘技場にお入りください」
―観客席―。
「シエンの技すごいなぁ。勝ってくれて良かった~…でも闘いの後のアレ、何だったんだ?」
「あれはまさしく、麗しき百合の友情だね!ああ、僕の心と体の一部が震えているよ…!」
シンリーがラインハートを汚物でも見るかのような目で見ている。
「それはそうと、ネロリさんって、確かBクラスのハーピー族の女子でしたよね」
「ああ、確か飛行が得意だと聞いたことがあるな」
レインとジャイロは何事もなかったかのように話を進めていた。
「相手が飛び回るんじゃ、クランもやりにくいだろうな」
シンリーが率直な意見を言う。
「どうだろう。クランの魔術も桁違いだから、甲乙つけがたいな」
―闘技場―
「悪いけど、僕は女の子でも容赦しないからね。恨みっこなしだよ★」
クランベリーは緊張をほぐすために、ネロリに話しかけた。
ネロリは黒髪のストレートロングにグリーンの瞳をしている。
「い、いえ、こ、こちらこそ、よ、よろしくお願いします…」
(この子、すっごくオドオドしてる…あがり症なのかな)
「それでは、構えて。用意、始め!」
合図の音とともに、私(=ネロリ・コルチカム)は大きな翼を広げ、上空を旋回し始めた。
(相手はSクラスで入学試験において実技200点満点の男子生徒。大技で一気に畳み掛ける!)
「悪いけど、私は普段こそオドオドしているけど、闘いにおいては冷静になれるの。勘違いしないでね」
「へえー、そうなんだぁ。やっぱり学園っていろんな人が居て面白いなぁ」
(余裕そうなのが気に入らない…そうして居られるのも、今の内よ!)
「調子に乗らないで!…竜巻斬撃!」
風の刃と竜巻を練りこんだ大技を繰り出す。
竜巻がゴウゴウと鳴り響き、クランベリーを包み込んでいく。
「おおっと、ネロリ選手。いきなり大技を繰り出している様子!」
「先手で容赦なく攻撃していますね」
ナタリア先生の実況とフォックス先生の解説が途中で入る。
「これを喰らって立っていられた者は、今まで居なかったわ。
残念ね。クランベリー・スパイラキシス」
竜巻の勢いが強すぎ、砂埃が舞っているためか、クランベリーの姿が目視で確認できない。
(でも、これで動きは完全に封じた…私の勝ちよ。クランベリー・スパイラキシス)
私がクランベリーに背を向け、立ち去ろうとしたその時。
「どこに行くの?ネロリちゃん」
何事もなかったかのように、クランベリーは円形の炎の防御壁でネロリの技を防いでいた。
「僕、まだちょっとしか闘ってないよ。もう少し相手してよー」
そういうとクランベリーは親指と人差し指の角度を90度に固定し、手で銃の形を作る。
人差し指の先で、私に狙いを定めた。
「バンッ!」
クランベリーの指先から、高速の火球玉が私に目がけて飛んできた。
かろうじて瞬時に私は避けたが、ジュワッと羽の端部分が焦げてしまった。
後ろを振り返ると闘技場の壁に火球が当り、丸焦げになっている。
(こ、こんなの当たったら…死んじゃう…!)
私は鳥肌が立ち、身の危険を感じた。この男子生徒は本気にさせたら危ない!
「ま、参った!参りましたから!もう攻撃してこないでー!」
半ベソをかきながら、私はクランベリーに「参った」と言って試合を棄権した。
「そこまで!勝者、クランベリー・スパイラキシス」
「あれぇ?もう終わりー?もうちょっと楽しみたかったなぁ。また遊ぼうね、ネロリちゃん!」
(例え闘いでも、彼にとっては遊びなの…?まるで、虫を捕まえて遊ぶ子どものよう…)
「ヒィッ!」
私はクランベリーの恐ろしさを実感し、逃げるように闘技場を去っていった。
「クランベリー選手、なかなかの魔術の使い手のようですね。フォックス先生」
「彼にとっては遊びのようなものなのでしょうけど、魔術の使い方にセンスを感じます」
*****
「選手たちの勢いは止まりません!続いて、第四試合です!
Sクラス、シャーリー・ベロニカ 対 Bクラス、ベルライン・ラグルス。
両者とも、闘技場へお入りください」
ベルライン・ラグルスは細身で背が高く、鬼人でブルーのショートヘアにグレーの瞳が印象的だ。
「それでは、構えて。…用意、始め!」
デューイ先生の掛け声とともに試合が始まる。
(どんな相手でもやっつけてやる!シーちゃんだってあのリリーに勝ったんだ!
私もみんなに良いとこ見せたい!)
私(=シャーリー・ベロニカ)は土魔術で無数の石の欠片を出現させ、ベルライン目がけて投げつけた。
「シャー!先手必勝!負けないもんね」
だが、ベルラインの体には傷一つ無い。
「ありゃ?確かに攻撃したはずだけど…」
「ええ。確かに貴女は僕に石をぶつけましたね。ですが、それは僕の分身体です。
先ほどのシエンさんではありませんが…さて、本物はどれでしょう?」
見れば複数体のベルラインが私の周りを取り囲んでいた。
「こんなの、匂いで分かるし!…あ、あれ?全部同じ匂いがする…なんだか頭がくらくらして…」
(ベルラインが4体…5体…どんどん増えていく?もう、どれが本体か分からない!)
「おやおや?僕はここですよ?しっかりしてください、シャーリーさん」
どうやら私は匂いを嗅ぎ分かられない上に、
ベルラインの分身が自分の周りをぐるぐる回り始めたため、眩暈を起こしているみたいだ。
(立っているのがやっとだし…目が回る…!)
「おっと。シャーリー選手!ベルライン選手の攻撃で立っているのがやっとのようです」
ナタリア先生のアナウンスが入るが、私の耳には届かなかった。
「も、もうダメにゃ…頭がくらくらする…ごめん、シーちゃん…」
私は意識を失い、その場にバタンっと倒れてしまった。
*****
「戦闘不能になった選手は10カウントで起き上がらなかった場合、失格となります」
ナタリア先生が解説をした後、カウントダウンが始まった。
「9、8、7、6…」
「頑張れ、シャーリー!目を覚ませー!」
観客席でシンリーが必死に応援するも、シャーリーは目を覚まさない。
「5、4、3、2…」
「シャーリー…お願い、起きて!」
選手の控室で闘技場の様子を見ていたシエンも、ただただ願うばかりだ。
「1、0!」
シエンやシンリーの声援も虚しく、シャーリーは起き上がらなかった。
「勝者、ベルライン・ラグルス!」デューイ先生が無情にも判定を下す。
「シャーリー選手は起き上がらず、ベルライン選手が勝利しました!
素晴らしい魔術ですね、フォックス先生」
「属性魔法に頼らず、特殊スキルであそこまで闘えるのは素晴らしいです。
ですが、シャーリーさんの容体が、すこし心配ですね」
闘技場のデューイ先生は、急いで近くにいる教師たちに指示出しをしていた。
「急いで担架を持ってきてください。救護係はまだですか。養護教諭の先生に内線で連絡を入れて…」
「シャーリーさんの容体が気になるところではありますが、一旦ここで休憩を挟みます。
15分の休憩の後は、ベスト8の闘いです。選手の皆様、お疲れ様でした!」
(シャーリー、大丈夫かな…)
私はこっそり選手控室を出て、救護室へと向かった。
ここまで読んでくださり、いつもありがとうございます。
キャラの人数が多くなるにあたり、一人称と三人称の表記ゆれがあるかもしれません。
お気づきの点がありましたら、誤字としてお知らせいただますと幸いです。
さてさて、シャーリーは大丈夫でしょうか。
次はいよいよベスト8の闘いが始まります。
お楽しみに♪




