第10章 地獄の特訓!傷だらけの男子と回復魔術
ついに学校行事『魔闘大会』に向けて、能力向上授業が始まる。
そしてシエンはフォックス先生から、とある課題を出題された。
一方のガイルはデューイ先生に厳しく指導されているようで…?
水曜日の昼休憩―。
昼食を終えた一年生たちが、次々と各属性のクラスへ移動する。
私も移動の準備を始めていた。
ただ、能力向上授業に向けての用紙を配られ、なぜか木属性の教室が「図書室」となっていたのが気になる。
5限目が始まる5分前に、私は図書室へ着いた。受付カウンターにフォックス先生が立っている。
「やあ、フロックスさん。これから君の能力向上授業を務める、フォックスです。よろしくね」
カウンターから先生が出て来て、私に挨拶をしてくれる。
穏やかで鬼人には珍しく、優しい風貌の先生だが油断は禁物だ。
「はい、こちらこそご指導のほどよろしくお願いします」
私は深々と頭を下げる。
「そんなに畏まらなくていいよ。さて。さっそく能力向上の授業に入るけど…まずはこれを熟読してもらおうかな」
そうフォックス先生は言うと、ドサッと大量の本を机の上に積み上げた。
「…これは、何の本でしょうか」
「ん?もちろん、木属性に関する資料と、回復魔術に関する文献だよ。テストはしないけど、しっかり読み込んでね」
「先生。魔闘大会では、回復魔術は役に立たないのではないでしょうか」
「そんなことはないよ。回復魔術は自分や相手が受けた傷を回復することはもちろん、戦う相手を異常状態にしたり、麻痺や痙攣を起こさせることも出来るんだから」
そして私は、フォックス先生の笑顔が黒い笑顔に変わっていることに気づいた。
「回復魔術はね、本当はこの世で一番穏やかで、一番怖~い魔術なんだよ。覚えられることは全て暗記しようね。大丈夫!フロックスさんの学力なら、全然問題ないよ♪」
本当に…デューイ先生といい、この人といい。
この学園が最高峰と呼ばれる理由が、今更ながら分かった気がする。
こうして、私とフォックス先生による地獄(?)の特訓が始まったのだった。
*****
水曜日の6限目が終わって、私たちは自分たちのクラスへ戻っていった。
他のクラスメイト達も、結構スパルタな教育を受けたようである。
皆、頬がこけてげっそりしている。ただ一人、ガイルは少し別で、手や顔に絆創膏が貼られている。
「おい、ガイル、大丈夫か?他のクラスの奴と喧嘩でもしたのか」
ロックスが心配そうにガイルに近寄る。
「ちげーよ。…デューイの先公にやられた。アイツ、かなりの武闘派だ」
ガイルがやられるとは、相当強いのだろう。
手合わせしているところを見てみたい気もするけど、ガイルが嫌がるだろうから、きっと無理だろうな。
すると、デューイ先生が教室に入ってきた。
「ホームルームの時間だ。さっさと席につけ」
相変わらずの涼しい顔で、デューイ先生はホームルームを始める。
さっきまでガイルの指導をしていた割には、無傷でいつもと変わらない様子…?
ガイルとデューイ先生は、一体どんな特訓をしているんだろう。
私はチラっとガイルの方を見てみると、彼は少しだけ痛々しい顔をしていた。
(ガイル…大丈夫かな)
*****
特訓も3週目となると、大分体が慣れてきて、ようやく私はフォックス先生に出された大量の文献を読み終えることができた。
「思ったより早かったね。どう、木属性の基本魔術は習得できそうかな?」
「そうですね。魔術の原理は理解しました。ただ、実践でどれだけ再現できるかは分かりません」
「ふむふむ。なるほどね。…フロックスさん。魔術の源は何か、覚えているかな?」
「魔術の源は…想像力です!」
そうだ。小さい頃魔術書を読んで覚えていたはずなのに、なんで今まで思い出せなかったんだろう。
「そのとおり!さすがです。だけど、実際は少し違うんだ」
「…と、いいますと?」
「魔術の源は『空想と創造性』なんだ。だから、魔術を使うときに、『こんな風にしたい』とか『こうなってほしい』という自分の欲や願いを込めて、魔術を使うんだ。
だから、原理こそ大切だけど、あとは君が魔術を『どう使いたいか』を考えてごらん。
じゃあ、次の授業からは実践編ということで、屋外でやろう。今後は体操服に着替えて来てね」
実は今まで私は、魔術をうまく使いこなせていない感覚があった。
だが、フォックス先生のお陰で一番大切なことに気づかされた。
「これなら、うまくやれそう…優勝も夢じゃない!」
*****
次の週の水曜日、いつものようにクタクタになりながら1年Sクラスの教室へ戻ると、教室の入口の前でロックスが私に手招きしていた。
「どうしたの、ロックス」
「しーっ!小声で頼む…あのさ、シエン。最近、ガイルの傷が増えてるみたいなんだよ。
俺らが気にかけても『うるせえ、お前らには関係ない』の一点張りでさ…。
その、シエンなら回復魔法が使えるんじゃないかと思って、相談したかったんだ」
「そういうことね…私が声掛けても同じかもしれないけど、後で様子を見てみるよ」
ロックスは拝むように手を合わせたポーズを取る。
「悪いな、ありがとうシエン。あ、俺が相談したことは、ガイルには内緒で!」
ガイルは見かけによらず、友人に恵まれているようで少しほっとした。
ホームルームを終えた私は、シャーリーとシンリーに「調べものがあるから先に帰っていいよ」とだけ告げ、ガイルの座っている机にメモをスッと置いた。
「伝えたいことがあるから分館3階の図書室へ来てください。シエン」
*****
「おい、伝えたいことって何だ。もったいぶらずに、さっさと言え」
小声でガイルが私に話しかけて来る。
まさか本当に来るとは思わなかったな。
ちなみに私達は受付カウンターから遠く離れた、人気の少ない席に座り、小声で話しあっている。
「それなんだけど…ガイル、ちょっと腕見せて」
「はぁ?それと何の関係が…」
「いいから見せて」
私の勢いに根負けして、ガイルはしぶしぶ制服の袖をまくって腕を見せた。
「やっぱり、傷だらけじゃない」
ガイルの腕は切り傷のほかに、痣まで浮かび上がっている。
「しょうがねぇだろ。デューイの先公から『お前との特訓内容についてだが、金属性の力を使わずに私に攻撃を当てたら特訓終了とする』って言われて、
殴る蹴るでボコボコにされてんだよ…お前らのお遊びみたいな特訓とは、わけが違うんだ」
なんとなく予想はしていたが、中々に過酷な扱いを受けているようだ。
「なら、その特訓の成果を見せてあげる。そのままじっとして」
私はガイルの腕に手をかざし、魔力を込めた。
「全回復」
紫色の光がガイルの腕を包み込む。
全回復魔術は、対象の一部分に回復魔法を充てることで、対象全体の傷を癒すことのできる魔術だ。
「すげぇ…体中の痛みが消えた…」
「体に傷をつけるのは仕方がないとして、痛みを無理に我慢しないこと。ガイルの傷は、私が必ず治すから。痛かったらちゃんと言って。約束だよ」
「お、おう…ありがとな。…けど、なんでそんなに俺に優しくするんだよ。それに、俺が傷の痛みに悩んでるの、なんで知ってんだ」
ここは上手く誤魔化さないとね。
「…私は薬師の家系の生まれだから。父の仕事柄、怪我をした人はたくさん見てきたし、痛みを隠す魔族の癖も見抜くことだってできる。
言っとくけど、ガイルに優しくしたんじゃなくて、私は薬師として自分に出来ることをやっただけだから」
ふとガイルを見ると、顔が真っ赤になって、目が少し潤んでいる。
あれ、魔術のかけ方がきつかったかな。
「顔が赤いようだけど…大丈夫?熱があるわけではなさそうだけど」
私はスッとガイルの額に手を触れた。目も少し充血しているようだ。
だが、恥ずかしがるようにガイルは私の手を振り払ってしまう。
「…!も、もういいだろ。お前のお医者さんごっこに、付き合ってる暇はない」
「へえ~…『お医者さんごっこ』とかスケベなこと言っちゃうんだ。」
すこしからかってみたが、ゴンっと頭突きを喰らってしまった。
「あいたたた…」
「俺はもう帰る。その…治療は助かった。感謝する」
そういうとガイルはスタスタ歩いて、図書室から出て行ってしまった。
とりあえず、結果オーライかな。
こうして特訓の日々は続き、各々能力を高め、ついにXデーがやってきた。
ここまで読んでくださり、いつもありがとうございます。
次回はいよいよ、『魔闘大会』が始まります!
みんなで、推しキャラを応援しましょう♪




