18話 決戦前夜。
18話 決戦前夜。
俺は、決戦場で、天井を見上げていた。
明日には、レベル53万の化け物が、この場所にやってくる。
周囲は静まり返っていて、ダンジョン特有の、じっとりとした空気だけが漂っている。
「主上様……明日が決戦の日ですので、はやくお休みになられた方が……」
アダムが、いつの間にか、そばに控えていた。
気配を消して近づくのはやめていただきたいところ。
「そうなんだけどねぇ……こういう時にすやすや眠れるほど、人間ってのは完璧にできていなくてね」
俺は、寝転がったまま、力なく笑ってみせる。
「添い寝でもいたしましょうか?」
「よけい寝れないよ。男子高校生の情緒をナメんな」
アダムは、それ以上、何も言わず、ただ静かに、俺のそばに控えていた。
そのまま、色々と考える。
――ダンジョンを拡張したから、この決戦場でも田中玉は使える。
世界中からエネルギーを集めた田中玉なら、相手のレベルが53万でも、普通に殺せるはずだ。
頼むから、通じてくれよ……
一撃で、死んでくれ……
頼むぞぉ……
心の中で、何度も、何度も、そう繰り返す。
考えれば考えるほど、不安が、じわじわと胸の奥に染み込んでくる。
誰かに、その不安を吐き出したくなった。
「アダム」
「なんでしょう」
「もし、明日……田中玉をはずしたら……正直、その時点で終わりなんだけど……でも、だからってあきらめるわけにもいかないから、最低限の打ち合わせだけでもさせてくれない?」
「かしこまりました」
アダムの声は、いつもと変わらず、静かで、揺るぎない。
「もし、はずしたら……君たちは手を出さないで」
「……」
一瞬、アダムの表情が、わずかに揺れた気がした。
「アカシアの時と同じように……交渉に持ち込む。アダム、君は強いけど……相手は53万だから、さすがに戦いにならない」
言いながら、自分でも、情けなくなる。
結局、また、誰かに、命がけの役目を押し付けようとしている。
「……おひとりで抱え込まないでくださいますよう、伏してお願いもうしあげます」
アダムが、跪いて、俺の手を、そっと両手で包み込む。
「私は、主上様の奴隷。どうか、道具としてお使いつぶしください。あなた様の力になれるのなら、それ以上の幸福はございません。私はあなた様を愛しておりますゆえ」
まっすぐな瞳。
迷いも、打算も、何一つない。
その言葉が、痛いぐらい、まっすぐに届く。
「……それだけ愛されていながら……『心配するな、任しておけ』の一言も言えないんだ、俺は……心底、自分に腹が立つ……」
俺は、天井を見つめたまま、そう呟いた。
誰も何も言わない、静かな決戦場に、俺の声だけが、小さく、虚しく響いた。




