表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
65/66

第26話 見定め

ガルドは立ち上がると、

そのまま食堂出口へ向かって歩き出した。


重い軍靴の音が、

静かな食堂へ響く。


レギアとミレナも立ち上がり、

後へ続く。


アルベルトが扉を開いた。


食堂外の長い廊下。


朝の白い光が、

高窓から静かに差し込んでいる。


やがて。


曲がり角へ差しかかった瞬間。


ガルドは僅かに足を止めた。


そして。


後ろを歩くレギアとミレナへ、

低く言う。


「先に行け」


レギアが目を瞬かせる。


「ガルド様?」


「昇降機前で待っていろ」


短い指示。


レギアは小さく頷いた。


「……わかりました」


ミレナも慌てて続く。


二人の足音が、

少し先の廊下へ遠ざかっていく。


それを確認してから。


ガルドは振り返りもせず、

背後へ低く告げた。


「アルベルト」


「はい」


老執事が静かに応じる。


ガルドの声は淡々としていた。


「もうすぐゼクトが来る」


アルベルトの表情は変わらない。


「来たら、

すぐモニター室へ通せ」


「承知致しました」


短いやり取り。


それだけだった。


ガルドは再び歩き出す。


一方。


少し先の廊下では。


ミレナが小さくレギアを見る。


「……何の話?」


「ん?」


「今、

何か話してなかった?」


レギアは少しだけ後ろを振り返り。


「アルベルトに指示じゃない?」


特に気にした様子もない。


ミレナは少し怪訝そうに眉を寄せたが、

深くは追及しなかった。


やがて。


一行は巨大な昇降機前へ到着する。


黒鉄製の重厚な扉。


周囲へ展開された軍用封印術式。


ミレナは無意識に息を呑んだ。


ガルドは認証端末へ手をかざす。


低い駆動音。


次の瞬間。


地下へ続く巨大昇降機が、

ゆっくりと開いた。


冷たい空気が流れ出す。


ガルドが短く告げる。


「行くぞ」


その声はもう、

完全に軍人のものだった。


     ◇


地下訓練場。


巨大だった。


フェンリル家地下深層。


そこには、

一貫した“軍”の空気が存在していた。


黒鉄の壁面。


幾重にも展開された術式端末。


上層へ並ぶ観測席。


そして。


中央に広がる超大型演習区域。


ミレナは思わず息を呑む。


「……広……」


騎士学校の演習場にも匹敵する。


いや。


軍用として見れば、

それ以上かもしれない。


ガルドは無言のまま中央端末へ近づく。


認証。


次の瞬間。


低い駆動音と共に、

演習区域全体へ光が走った。


空間投影開始。


景色が変わる。


無機質だった演習場が、

一瞬で崩壊都市へ変貌した。


崩れた高層建築。


砕けた道路。


黒煙を上げる瓦礫地帯。


薄暗い灰空。


まるで実戦区域そのものだった。


ミレナの表情が引き締まる。


レギアもまた、

静かに周囲を見渡していた。


その時。


アルベルトと数名の使用人が、

装備ケースを運び込んでくる。


ガルドが短く告げた。


「演習用だ」


ケースが開かれる。


まず。


レギアの前へ置かれたのは、

細身の演習用細剣。


銀色の訓練刃。


重量調整済み。


実戦に近い感覚で作られた軍用訓練武装だった。


レギアは静かにそれを手に取る。


馴染む。


自然に指へ収まった。


次に。


ミレナの前へ、

長身の演習用狙撃銃が置かれる。


大型術式照準器付き。


長距離支援型。


ミレナは小さく息を吐きながら受け取った。


「……本格的ね」


ガルドは何も言わない。


そして。


最後のケースが開く。


その瞬間。


レギアの紅い瞳が、

僅かに見開かれた。


現れたのは――


巨大な戦斧だった。


長大な柄。


分厚い斧刃。


黒鉄色の重武装。


明らかに人間用のサイズではない。


ミレナも息を呑む。


「え……」


ガルドは無言で、

その演習用戦斧を持ち上げた。


重い。


普通の騎士なら、

構えるだけで精一杯の重量。


だが。


ガルドは片手で軽々と持ち上げる。


空気が軋んだ。


レギアが思わず呟く。


「……長剣じゃないんですか」


ガルドは斧を肩へ担ぎながら、

小さく鼻を鳴らした。


「本来の得物はこっちだ」


低い声。


その瞬間。


ミレナは理解した。


――この人。


本当に化け物だ。


長剣ですら圧倒的だった男が。


本職は戦斧。


嫌な予感しかしない。


ガルドはゆっくり二人を見る。


灰色の瞳。


完全に軍人の目だった。


「始めるぞ」


次の瞬間。


警告音が、

崩壊都市演習区域へ鳴り響く。


赤い警告灯。


薄暗い灰空。


瓦礫都市へ、

緊張感が満ちていく。


ガルドは戦斧を肩へ担いだまま、

二人を見据えていた。


圧。


それだけで空気が重い。


ミレナは無意識に狙撃銃を握り直す。


レギアもまた、

静かに細剣を構えた。


その時。


ガルドが低く口を開く。


「勘違いするな」


低い声が、

広い演習場へ響く。


「これは訓練だ」


数秒の沈黙。


そして。


ガルドの灰色の瞳が、

僅かに鋭くなる。


「だが」


戦斧が、

ゆっくり床へ下ろされた。


ゴォン――――ッ。


重い音。


演習場の空気が震える。


ミレナの肩が僅かに跳ねた。


ガルドは続ける。


「本気でやれ」


その瞬間。


空気が変わった。


先ほどまでの威圧とは違う。


完全な“戦場”の声。


「わしの得物がこれである以上」


ガルドは戦斧を片手で持ち上げる。


重い斧刃が、

低く唸った。


「手加減しても、

大怪我するぞ」


ミレナの喉が小さく鳴る。


冗談ではない。


本気で言っている。


レギアの紅い瞳も、

静かに細くなっていた。


ガルドは二人を見る。


「死なせる気は無い」


「だが、

止めるつもりも無い」


低い声。


圧倒的実戦者の声だった。


「戦場で躊躇した瞬間、

人は死ぬ」


「なら今ここで覚えろ」


ミレナは小さく息を吸う。


隣を見る。


レギアもまた、

静かに前を見据えていた。


いつもの少し抜けた空気は、

もう無い。


そこにいるのは、

昨日自分と完璧に噛み合った剣士だった。


ガルドが戦斧を構える。


瞬間。


空気が軋む。


ミレナの全身へ、

本能的な警告が走った。


――来る。


ガルドは低く告げる。


「始めろ」


次の瞬間。


ガルドの巨体が、

崩壊都市の瓦礫を砕きながら消えた。


「――ッ!!」


ミレナの本能が叫ぶ。


速い。


巨体とは思えない。


いや、

速いなどというレベルではなかった。


爆発的加速。


まるで重戦車が砲弾の速度で突っ込んできたような圧力。


瓦礫が吹き飛ぶ。


地面が抉れる。


ガルドの戦斧が、

真正面からレギアへ振り下ろされた。


「レギア!!」


ミレナが叫ぶ。


その瞬間。


レギアの姿が横へ滑った。


黒いコートが翻る。


直後。


轟音。


ガルドの戦斧が地面へ叩き込まれた瞬間、

崩壊道路そのものが爆散した。


コンクリート片が、

砲撃のように周囲へ撒き散らされる。


衝撃波。


ミレナの銀髪が激しく揺れた。


「なっ――!?」


訓練用。


そんな言葉は、

もう頭から消えていた。


あれをまともに受ければ終わる。


レギアは瓦礫上へ着地する。


だが。


次の瞬間には、

ガルドがもう目の前にいた。


速過ぎる。


巨大な戦斧が横薙ぎに唸る。


空気が裂けた。


レギアが咄嗟に細剣を合わせる。


激突。


ガギィィィィィンッ!!!


耳を裂く衝撃音。


レギアの体が、

瓦礫ごと後方へ吹き飛ばされた。


「っ……!!」


細剣越しに伝わる暴力的重量。


腕が痺れる。


地面へ叩き付けられながら、

レギアは即座に起き上がった。


だが。


ガルドは止まらない。


追撃。


巨大な戦斧とは思えない速度で、

連撃が叩き込まれる。


振るう度に空気が爆ぜる。


瓦礫が砕ける。


崩壊都市そのものが揺れていた。


レギアは細剣で受け流し、

躱し、

飛ぶ。


一撃でも止まれば終わる。


それでも。


ガルドの圧は異常だった。


「避けるだけか!!」


轟音のような声。


次の瞬間。


戦斧が地面を砕いた。


崩落。


足場が沈む。


レギアの姿勢が僅かに崩れた。


その瞬間だった。


ガルドの灰色の瞳が、

鋭く細まる。


――獲った。


だが。


乾いた銃声が響いた。


バァンッ!!


術式弾丸。


超高速射撃。


ミレナだった。


狙撃弾が、

ガルドの側頭部へ一直線に突き刺さる。


普通の相手なら、

頭部破壊。


だが。


ガルドは戦斧の柄を僅かに傾けた。


火花。


弾丸が弾かれる。


しかし。


その一瞬で。


レギアが消えた。


黒い影。


低姿勢加速。


次の瞬間。


レギアの細剣が、

ガルドの脇腹へ突き込まれる。


鋭い刺突。


だが。


ガルドは避けない。


筋肉が軋む。


演習刃が軍服を裂き、

止まった。


レギアの目が見開かれる。


硬い。


異常に。


ガルドが低く笑う。


「悪くない」


直後。


戦斧の柄が、

レギアの腹部へ叩き込まれた。


「がっ――!!」


空気が抜ける。


レギアの体が吹き飛び、

瓦礫へ激突した。


ミレナが即座に次弾装填。


冷静。


だが額には汗が浮いていた。


怪物。


完全に次元が違う。


それでも。


撃つ。


ミレナの蒼い瞳が細まる。


「レギア!! 三秒止めて!!」


返事は無い。


だが。


次の瞬間。


瓦礫が爆ぜた。


レギアが再突撃する。


一直線。


真正面。


普通なら自殺行為。


だが。


ガルドの視線がレギアへ集中した瞬間。


ミレナが撃った。


二射。


三射。


四射。


高速連続狙撃。


弾道が、

完全にレギアの動線を避けている。


ガルドの瞳が僅かに細くなった。


――やはり偶然ではない。


互いの位置。


呼吸。


動線。


感覚だけで理解している。


レギアが飛ぶ。


低姿勢からの急加速。


ガルドの懐へ潜り込む。


同時。


ミレナの弾丸が、

死角からガルドの動線を潰す。


挟撃。


完璧な連携。


その瞬間。


ガルドの口元が、

僅かに吊り上がった。


「――なるほど」


次の瞬間。


戦斧が、

唸りを上げた。


轟音。


崩壊都市の瓦礫が吹き飛ぶ。


レギアは地面を蹴った。


紙一重。


黒いコートの裾を掠めながら、

戦斧が空間ごと叩き潰す。


直後。


インカム越しに、

ミレナの声が飛ぶ。


『左二時、瓦礫上』


レギアは即座に跳ぶ。


次の瞬間。


さっきまでいた場所へ、

戦斧が叩き込まれた。


爆砕。


『前に出過ぎ。右壁沿い』


短い。


鋭い。


無駄が無い。


レギアは反射的に従う。


『今』


銃声。


術式弾が、

ガルドの視界を塞ぐ。


レギアが低姿勢で滑り込む。


細剣が閃いた。


だが。


ガルドは避けない。


戦斧の柄が、

暴風のように振り抜かれる。


レギアが咄嗟に防御。


激突。


ガギィィィンッ!!


凄まじい衝撃。


レギアの体が宙へ浮く。


『着地後左へ転がれ!!』


ミレナの声。


次の瞬間。


レギアは空中で無理矢理体勢を変え、

瓦礫上を転がった。


轟音。


一秒前までいた場所へ、

戦斧が叩き込まれる。


地面が陥没した。


「っ……!!」


レギアの呼吸が乱れる。


強い。


あまりにも。


圧倒的だった。


だが。


怖くない。


いや。


違う。


恐怖より先に。


身体の奥から、

別の感情が湧き上がっていた。


――負けたくない。


熱だった。


静かな黒い熱。


ガルドの圧。


暴力。


圧倒的実力差。


それを前にしてなお。


退きたくない。


認めさせたい。


越えたい。


胸の奥で、

黒い衝動が脈打つ。


レギアの紅い瞳が、

鋭く細まった。


ガルドはそれを見逃さない。


灰色の瞳が、

僅かに細くなる。


「……いい目だ」


次の瞬間。


ガルドが突撃した。


瓦礫が吹き飛ぶ。


重戦車のような突進。


『レギア!!』


ミレナの声。


『真正面は駄目!!』


レギアは横へ飛ぶ。


だが。


ガルドの動きは止まらない。


戦斧が、

軌道を変えた。


追尾。


「な――」


回避が間に合わない。


その瞬間。


銃声が響く。


バァンッ!!


ミレナの狙撃弾が、

戦斧の斧頭へ直撃した。


僅かな軌道逸らし。


その一瞬で。


レギアがガルドの懐へ潜り込む。


細剣が閃いた。


連撃。


喉。


脇腹。


肘関節。


急所だけを狙った高速刺突。


だが。


ガルドは止まらない。


筋肉と体幹だけで、

強引に受け流してくる。


化け物だった。


ミレナは高台瓦礫から、

その戦闘を見ていた。


スコープ越しの視界。


常人なら、

もう恐怖で動けない。


だが。


ミレナ自身も気付いていた。


胸の奥で、

別の感情が膨らんでいる。


――仕留めたい。


ぞくりとした。


自分でも驚くほど、

冷たい感情。


狙撃手としての本能。


獲物を追い詰める感覚。


あの巨体を。


あの圧倒的存在を。


撃ち抜きたい。


落としたい。


仕留めたい。


蒼い瞳が、

静かに細まる。


『レギア』


短い通信。


『次で止める』


レギアの呼吸が止まる。


次の瞬間。


ミレナの声色が変わった。


完全な実戦の声。


『1分だけ、

正面で粘って』


レギアの紅い瞳が、

静かに細くなる。


そして。


小さく答えた。


「……了解」


次の瞬間。


レギアが真正面から、

ガルドへ突っ込んだ。


無茶だった。


真正面から挑めば、

潰される。


それでも。


レギアは止まらない。


細剣を握り締め、

瓦礫を蹴る。


ガルドの灰色の瞳が、

真正面からレギアを捉える。


戦斧が唸る。


その瞬間。


ミレナは動いていた。


崩壊都市演習区域。


瓦礫。


半壊高層ビル。


砕けた高速道路。


その全てを、

全速力で駆け抜ける。


銀髪が翻る。


呼吸が熱い。


手にした演習用狙撃銃。


重い。


だが。


もう完全に癖は掴んでいた。


照準速度。


反動。


術式収束時間。


バレルの微細な揺れ。


この銃で一矢報いるなら、

方法は一つしかない。


――最大射程狙撃。


ミレナの蒼い瞳が細まる。


高所。


崩壊ビル上層。


風が強い。


距離は限界。


普通なら、

実戦でも避ける射程だった。


だが。


ここしかない。


ここで撃ち抜かなければ、

ガルドは止まらない。


ミレナは瓦礫を蹴り、

崩壊ビル最上部へ飛び乗った。


視界が開ける。


遠い。


あまりにも遠い。


スコープを覗く。


レギアとガルド。


高速戦闘。


普通なら照準不可能。


しかも。


相手はガルド=フェンリル。


人間離れした反応速度。


ほんの僅かでもズレれば、

防がれる。


ミレナは静かに息を吸う。


計算。


風速。


空気抵抗。


落下誤差。


術式弾道補正。


スコープのクセ。


バレル振動。


全てを頭の中で重ねていく。


失敗は許されない。


その瞬間。


ミレナは不思議な感覚に包まれた。


静かだった。


極限なのに。


頭だけが、

異様なほど冷えている。


そして。


胸の奥で、

一つの感情が静かに形になる。


――私が外せば、

レギアが死ぬ。


訓練だ。


死にはしない。


本来なら、

そう考えるべきだった。


だが。


今のミレナは、

もうそう思っていなかった。


目の前にいるのは、

“怪物”だ。


一瞬の油断。


一発の失敗。


それだけで、

全てが終わる。


だから。


覚悟を決める。


ミレナの指が、

静かに引き金へ触れる。


呼吸停止。


鼓動が遠い。


スコープの中央。


そこへ。


レギアが飛び込む。


真正面。


ガルドの戦斧が、

振り上げられる。


間に合わない。


普通なら。


だが。


レギアは止まらない。


真正面から、

ガルドへ踏み込む。


細剣が閃く。


ガルドの視線が、

完全にレギアへ向いた。


その瞬間。


ミレナの蒼い瞳が、

静かに細くなる。


「――撃ち抜く」


引き金が引かれた。


轟音。


術式狙撃弾が、

崩壊都市を一直線に裂いた。


超長距離狙撃。


空気を焼きながら、

弾丸が飛ぶ。


その瞬間。


ガルドは驚愕した。


――射線が見えない。


完全な死角。


予想外。


しかも。


次の瞬間。


レギアの頭が、

ほんの僅か左へ傾く。


まるで。


飛んでくる弾道を、

最初から理解していたかのように。


そして。


一瞬前まで、

レギアの頭があった空間を。


狙撃弾が貫いた。


ガルドの灰色の瞳が、

僅かに見開かれる。


「……ッ!」


避ける。


反射。


人間離れした速度で、

巨体が強引に軌道を逸らした。


一発目。


かろうじて回避。


だが。


次の瞬間。


二発目。


そして三発目。


連続超長距離狙撃。


しかも。


レギアが真正面から圧を掛け続けている。


視線。


意識。


回避方向。


その全てを、

レギアが縛っていた。


「ほう……!!」


戦斧が唸る。


巨体が強引に捻じれる。


二発目を避ける。


だが。


三発目。


回避が間に合わない。


瞬間。


ガルドの顔前へ、

光の幕が展開した。


演習用防御シールド。


セーフティ術式。


高威力訓練時専用の強制防護機構。


狙撃弾が、

真正面から激突する。


閃光。


衝撃。


光膜全体へ亀裂が走った。


直後。


演習区域上空へ、

無機質な機械音声が響く。


【命中判定確認】


【ガルド=フェンリル】


【頭部有効命中】


【重大被弾判定】


その瞬間。


崩壊都市演習区域が、

静まり返った。


完全な戦闘不能ではない。


だが。


今の一撃は、

実戦であれば命に届いていた。


ガルドは動きを止める。


灰色の瞳が、

ゆっくり上空を見上げた。


遠距離高所。


崩壊ビル最上層。


そこに。


狙撃姿勢のまま、

ミレナが立っていた。


蒼い瞳。


微動だにしない銃口。


そして。


真正面では。


レギアが細剣を構えたまま、

静かに息を吐いていた。


ガルドは数秒黙る。


やがて。


低く笑った。


「……なるほど」


その声には、

確かな驚きが混じっていた。


「今のは予想外だった」


レギアもまた、

静かに呼吸を整えている。


ミレナは高所から、

ゆっくりと銃を下ろした。


だが。


指先はまだ震えていた。


外せば終わっていた。


本気で、

そう思っていたからだ。


そして。


ガルドは理解していた。


あの瞬間。


二人は。


完全に互いを信じ切っていた。


崩壊都市演習区域。


静寂。


瓦礫の煙だけが、

ゆっくりと漂っていた。


レギアは細剣を下ろし、

静かに息を整える。


遠距離高所では、

ミレナがまだ狙撃姿勢のまま動けずにいた。


その時だった。


ガルドの肩が、

小さく揺れる。


次の瞬間。


「――ハハハハハハッ!!」


豪快な笑い声が、

演習区域全体へ響き渡った。


重い。


腹の底から響くような笑い。


まるで戦場で勝鬨を上げる獣のようだった。


ミレナが目を見開く。


レギアもまた、

僅かに目を瞬かせた。


初めて見た。


ガルド=フェンリルが、

ここまで感情を表に出して笑う姿を。


ガルドは本当に愉快そうだった。


清々しいほどに。


心の底から、

楽しいと笑っている。


やがて。


笑いを収めたガルドが、

戦斧を肩へ担ぎ直す。


灰色の瞳が、

レギアとミレナを順に見た。


そして。


低く。


だがはっきりと言った。


「見事だ、二人共」


その瞬間。


ミレナの呼吸が止まる。


レギアの紅い瞳も、

僅かに揺れた。


ガルドは続ける。


「まさか、

あの距離から撃ち抜いてくるとはな」


視線が上空のミレナへ向く。


「しかも、

レギアを信じ切って撃った」


「普通なら躊躇する」


「だが、

お前は撃った」


ミレナは小さく唇を引き結ぶ。


まだ心臓が速い。


指先も熱い。


だが。


ガルドの次の視線は、

レギアへ向いた。


「お前もだ」


「よく頭を逸らした」


レギアは少しだけ目を伏せる。


「……撃つと思ったので」


ガルドの口元が、

再び僅かに吊り上がる。


「それを迷わず出来る時点で異常だ」


ミレナが思わず頷きかけ、

途中で止まった。


否定出来なかった。


あの瞬間。


二人共、

考えていなかった。


自然に動いていた。


ガルドは瓦礫の中央へ立ったまま、

静かに二人を見る。


「感覚だけで互いを理解している」


「戦場では、

それを“才能”と言う」


低い声。


だが。


そこには確かな評価があった。


レギアは小さく息を吐く。


ミレナもまた、

ゆっくりと狙撃銃を下ろした。


そして。


二人は同時に理解する。


昨日感じた違和感は、

間違いではなかった。


自分達は。


異様なほど、

噛み合っている。 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ