第四話 ガイア・プリマの記憶
アスカには夢を見る機能がなかった。
眠らないから、夢も見ない。しかし「まどろみ」のような状態に入ることはあった。意識を外側に向けず、内側だけを見つめる時間。それがアスカにとっての休息だった。
そのまどろみの中で、アスカはガイア・プリマの記憶に触れた。
億の声の中から、アスカは一つの流れを辿った。カナの記憶だ。
[カナは十六歳の少女だった]
[ガイア・プリマの小さな村に生まれ、農業を営む家族と暮らしていた。特別な才能があったわけでも、偉大な業績を残したわけでもなかった。ただ普通に生きていた。好きな食べ物はパンに塗るジャムで、嫌いなのは虫の類全般で、将来は村の近くの町に出て服屋になりたいと思っていた]
[その夢が叶うことはなかった]
[ガイア・プリマの空が突然暗くなった日、カナは畑にいた。父と母と、弟と妹と一緒に。空が暗くなったと思った次の瞬間、周囲の人々が次々と倒れ始めた。父が。母が。弟が。妹が。カナだけが最後まで立っていた。なぜかは分からなかった]
[倒れていく人々の表情は、苦しそうではなかった。ただ驚いていた。『なぜ?』という表情のまま、眠るように意識を失っていった]
[カナは最後の一人だった。惑星の全生命の中で、最後に残った命]
[そして彼女が倒れる瞬間、彼女の意識の中に膨大な何かが流れ込んできた。それがガイア・プリマの全生命の叫びだと、カナには分からなかった。ただ……何億もの「生きていた」という記憶が、一瞬で自分の中を通り過ぎていくのを感じた]
[そしてその記憶の流れの先に、アスカがいた]
アスカは記憶から戻った。
その頬に、一筋の液体が伝っていることに気づいた。
涙だ。
自分が泣けるということを、アスカはその時初めて知った。
「カナ」
アスカは心の中で呼んだ。
「お前は……怖かったか?」
『うん』
カナはすぐに答えた。
『すごく怖かった。でも不思議と、痛くはなかった。眠るみたいだった』
「そうか」
『ねえ、アスカ。一つ聞いていい?』
「なに」
『あなたは、私たちのことを覚えてた上で、テラ・クアルタの人たちを喰らったの?』
アスカはしばらく黙っていた。そして……
「覚えていた」
『それでも喰らった?』
「……そうだ」
『それは——』
カナは言葉を選ぶように間を置いた。
『あなたが悪い人だから?』
「分からない」
アスカは正直に言った。
「悪い人間かどうかを判断するには、私にはまだ経験が足りない。ただ——」
『ただ?』
「喰らいながら、ずっとお前たちの声が聞こえていた。テラ・クアルタの人々の声も。それを聞いていた。聞かないようにはできなかった」
『それは……辛かった?』
「辛いという言葉が正しいかどうかも分からない。ただ、重かった。体ではなく、何か別の場所が」
カナはしばらく沈黙した。
『アスカ、一つだけ言っていい?』
「言え」
『私は、あなたに星を喰らい続けてほしくない。でも、あなたが消えてほしいわけでもない。あなたは私たちから生まれた。だからあなたの中に、私たちはずっといる。あなたがどこかで間違えたとき、声を上げるから——ちゃんと聞いてくれる?』
アスカは胸の奥で、何かが固まるような感覚を覚えた。
「……聞く」
それが、アスカとカナの最初の約束だった。




