第十話 惑星喰いの咆哮
翌朝、アスカはテラ・セプティマに向かった。
今度は、エレンを探すためではなかった。
エレンに、真実を話すために行った。
荒野に、エレンはいた。昨晩の焚き火の跡の近くで、朝の剣術稽古をしていた。アスカの姿を見ると、驚いて剣を構えた――が、すぐに下ろした。
「お前か、アスカ! また来たのか」
「来た」
「焚き火仲間がいなくなったかと思ったぞ」
エレンは笑った。
「どこ行ってたんだ?」
「少し、整理する必要があった」
アスカはエレンの前に立った。
「エレン。以前、もし世界が消えたらと聞いた」
「ああ、覚えてる。唐突な質問だったな」
「あれは仮定の話ではなかった」
エレンの表情が変わった。
「……どういうことだ」
「私は――惑星喰いだ」
アスカは右手の袖をまくった。
手の甲の亀裂が大きく広がり、漆黒の光が溢れた。エレンが思わず後退した。
「魔王ヴァルゴスが、異世界勇者が生まれる前に星ごと消すために作った存在だ」
「え……」
「この星には勇者候補がいる。魔王の命令は、この星を喰らうことだ」
「待っ――」
エレンの顔が青くなった。
「それって、俺たちを――」
「そのためにここに来ていた。最初から」
エレンは剣を構えた。本能的な反応だった。しかしすぐに、その剣がアスカには意味をなさないと気づいたのだろう、震える手で剣を下ろした。
「……なんで、今話す。こんなこと」
「昨日の夜、私の中で何かが変わった」
アスカは言った。
「お前の話を聞いて。周囲の言葉を聞いて。今できることをすると決めた。それは星を喰らうことではなく、真実を話すことだと思った」
「それで……どうするんだ」
「この星は喰らわない」
「っ……」
「ただし、魔王はいずれ知る。そうなった時、この星に別の刺客が来るかもしれない。私では守り切れない場合もある」
「じゃあどうするんだ!」
「お前に知っておいてほしかった。エレン、お前が勇者候補であることを。そして世界を守る力が、お前の中にあるかもしれないということを」
エレンは長い間沈黙した。
荒野の風が吹き、朱色の砂が舞った。
「……俺は、勇者なんかじゃない」
エレンはやっと言った。
「騎士にもなれてない。ただの剣術修行中の半人前だ」
「そうかもしれない。しかし半人前は、いつか一人前になれる。なれるかどうかは――今どこにいるかではなく、どこに向かうかで決まる」
エレンがアスカを見た。
「……それ、俺が師匠に教わった言葉に似てる」
「お前の言葉を借りた」
アスカは初めて、わずかに口の端を上げた。
「近くの行動を積み重ねる、という言葉も」
「アスカ」
エレンは剣を鞘に収め、アスカに近づいた。
「お前は――今、どうするんだ」
「魔王と戦う」
「一人で?」
「仲間がいる。かつての勇者の生き残りと、星の番人と。そして――」
アスカは胸に手を当てた。
「この身体の内に居る、億の声が、背中を押してくれている」
「億の声……」
エレンは首を傾げた。
「お前の中の、声か」
「そうだ。私の素材になった命たちだ。彼らは最初から、私に星を喰らわせたくなかった。ただ私が理解するまでに、時間がかかった」
エレンはしばらくアスカを見た。そして――笑った。
「そうか。じゃあ俺も行く」
「来るな。危険だ」
「お前が危険なことをするのに、俺だけここで剣の稽古してたら、ずっと半人前のままだ」
エレンは剣の柄を握った。
「俺は騎士になりたい。騎士ってのは、守るべきものがある時に動かないといけない。この星は守るべきものだろ」
「……強情な奴だ」
「褒め言葉として受け取っとく」
城へ向かう前に、アスカはテラ・クィンタに寄った。
オラクルはいつものように大木の上にいた。アスカとエレンの姿を見て、静かに降りてきた。
「来たか、アスカ。そして――新しい者も連れて」
「エレン・ヴァースだ」
エレンが名乗った。
「テラ・セプティマから来た」
「勇者候補か」
オラクルはエレンを見た。
「強い輝きをしている。まだ磨かれていないが」
「磨かれてない、は余計だ」
「事実だ」
オラクルはアスカに向いた。
「魔王に戦いを挑む気か」
「そうだ。力で、ではない。ヴァルゴスを――変えさせる」
「変えさせる?」
オラクルは眉を上げた。
「あの男は千二百年前、勇者に言われた言葉を忘れられないでいる。『お前はまだ変われる』と。それがずっと、あの男の中に引っかかっている。恐れと一緒に」
「つまり――可能性があると」
「かもしれない。確かなことは分からない。ただ今できることをする」
オラクルは長い間、アスカを見つめた。
そして、深く息を吐いた。
「……星の番人として、惑星喰いに協力するのは本来あり得ないことだ。しかし、お前は既に普通の惑星喰いではない」
オラクルは立ち上がった。
「行こう。共に」




