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魔女と竜狩り  作者: 合併
第4節 竜狩りの呪い
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第4節 4

王都に戻った頃には、コハクの体力も戻り、少しふらつきながらも彼の後ろについていった。

 ヴァンとしても、本人が歩けると言うならそれを咎める必要もない。歩幅だけは合わせて、王城の四隅にある棟の1つ、国営の研究機関に向かっていく。

 兵士達に身分を明かせば顔パスで通れるので、特に止められることもなく、転送石も利用して2人は研究棟へと到着した。

 白を基調とした、気分が悪くなるほど清潔感が溢れる入口は気にも留めず、その向こうにある受付へと歩いていく。

 とは言うものの、そこは手が入る程度の穴が空いた壁であり、彼は壁に空けられた、細かな穴に向かって話す。

「ごきげんよう。ノーゼン博士に、金色が調査を依頼したいと伝えてくれないか」

 傍から見ると滑稽な独り言のように見えるが、壁の奥からきちんと答えが返ってきた。

「兵から聞いています。金の竜狩り様、ですね? お調べします。

 ――丁度、会議から戻ったあとで、おられますね。こちらから先に伝えておけばよろしいですか?」

「そうだな。よろしく頼むよ。これから向かう、と伝えてくれ」

「かしこまりました」

 受付と短い会話を終えてから、彼はコハクの所に戻ってきて、手で移動することを伝える。

 コハクも無言で頷いたのを見て、ヴァンは先導するように歩き出す。それに着いて行きながら、見慣れない、真っ白な廊下を眺めながら聞く。

「王城に、こんな施設あるんですね」

「まぁ、普通の傭兵たちがこんな所まで来ないからな。ここは、王都の研究棟。国が擁する、国内最大級の研究機関だ。

 色々研究しているが、今から向かうのは、竜の研究を続ける物好きな博士の所だ」

 ヴァンは軽く説明し、歩くこと数分。他と変わらない景色の中、壁に埋め込まれた名札に『ノーゼン』と書かれた札を見つけた。

「ここだな。変な爺さんだが…悪い人じゃない。あの耄碌の妄言はほどほどに流しておけよ」

「えぇ…」

 なんだか不穏な事を言われ、ツッコミも間に合わずにヴァンはノックをした後、遠慮なく扉を空けた。

 開けた先は、木で作られた部屋。ここだけ木造になってるのかと思いきや、僅かな隙間から覗く白色から、研究棟の壁を隠すように木で覆い隠しているだけのようだ。ただ、すぐに研究室になっているわけではなく、応接間のようで、部屋の右半分には相対できるよう、2つのソファーが置かれ、左半分は本棚で埋め尽くされている。その向こうに見える扉が、恐らく研究室に繋がっているのだろう。

 そして、その応接間の奥側のソファーで休んでいたのは、ヒゲだけではなく、頭髪まで剃り上げ、光り輝く頭をした、見た所60以上に見える、黄土色のズボンにワイシャツと、ラフな格好をした老人。

 眉間や顔に染み付いたシワは、気難しそうな印象を与えたが、よく見ると湯気の立つお茶を火傷しないように、険しい顔で飲んでいただけだった。

「お久しぶりです、博士」

 ヴァンが兜を外してから挨拶し、一礼すると、彼はヴァンに気がついたようで、片手を上げた。

 どうやら、お茶を飲んでるからそれが挨拶代わりなのだろう。ヴァンも兜を抱えたまま応接間側にある棚から勝手に茶菓子を取り出し、博士の前に置いてから、自分とコハクの分のお茶まで淹れ始める。

 そこまでやってもらって、ようやくお茶を置いた博士が答える。

「久しぶり、金色の。相変わらず気が利くな」

「まぁ、いつも世話になってますから」

 相変わらず、目上の相手にはきちんと礼儀正しく対応しつつ、コハクに目を向ける。

「コハク、さっき話した博士がこの方だ。竜、それに属する生物学の権威とも言われる方だ」

「あっ、はい。コハクと言います。よろしくお願いします」

 ヴァンに促されて、彼女も頭を下げて自己紹介をすると、博士も表情を和らげた後、同じく頭を下げて名乗る。

「彼には随分な紹介をされてるが、私がノーゼン。権威だのなんだの言われてるが、ただの好き者の爺さんだよ」

「また謙遜されて…。まぁ、それはともかく、早速本題に入っても?」

 紹介を手短に済ませ、お茶を用意したところで、ヴァンは博士の向かいに座ろうとしたところで、コハクも呼んだ。

「お前も座ってくれ」

「あっはい」

 2人が座り、お茶も飲んで一息入れたところで、博士も聞いた。

「お前さんがわざわざ急に来るなんて珍しいじゃないか。何か見つけたのか?」

 博士にもそう言われ、彼はポーチから先ほどの土地で見つけた痕跡の数々を机に並べる。

「仕事の先で、この痕跡を見つけたので、竜種の特定と、経過時間を調べてほしかったんです」

「ほう?」

 並べられた様々な痕跡に、彼の目つきが鋭いものに変わり、1つずつ手に取っていく。

「調査は急ぎだな?」

「そうですね。時間がかかりそうです?」

 手短に聞くと、彼は鼻を鳴らした。

「この時間だからな。今から動き出しても、よほど急いだとしても、明日中に何とかできるくらいだろう。

 お前さんはどうする?」

 少なくとも、明日までに結果は出せないと断言され、彼は少し考えるも、すぐに答える。

「一旦、仕事を優先します。擬似竜(ヴォイス・ドラゴン)の討伐の際に見つけた痕跡ですし、まずはそちらから」

 本来の目的を聞いて、博士も納得したように頷いた。

「なるほど、そういう経緯か。

 相分かった、明後日の朝までにはバッチリ仕上げておこう」

「頼みます。―では、失礼します」

 邪魔をしないよう、ヴァンも早々に退散しようとしたところで、博士に釘を刺された。

「おう。―次、時間があるときは隣の嬢ちゃんについても、ちゃんと紹介してくれよ?」

「…ちゃんと、覚えておきますね。―コハク、行くぞ」

 ヴァンは苦笑しながら答え、とりあえずコハクを連れて部屋を出ていった。


 そして、部屋を出て扉を閉めた後。兜を着け直したヴァンは面倒そうに呟いた。

「…ま、仕方ないか」

「先生、何かあったんです?」

 ヴァンの反応に、物珍しさを感じていたコハクがようやく口を開いて聞くと、ヴァンは歩きながら話し出す。

「ん? あぁ、痕跡の解析に思った以上に時間がかかるってことと、次捕まったときはお前のことを色々聞かれて面倒くせぇって呟きだ」

 それに着いて行きながら、聞き返す。

「面倒なんですか?」

「あの爺さん、仕事モードじゃないとただのセクハラジジイだからな。確かに知識とか、色々な所で尊敬に値する人ではあるんだが、素の内面が終わってる」

「えぇ…」

 先ほどの会話からは思えないような人物像に困惑するも、彼女は続ける。

「でも、あたしを紹介しようとするってことは、凄い人なんですよね?」

「お前の目的にもきっと役立つと思うから紹介したのは事実だが、セクハラスケベジジイなのも事実だからな。折角なら、今回ので思い切って今後の付き合いを考えてほしかったんだが…タイミングが悪かったな」

 ヴァンの言葉から冗談を言っているようには聞こえず、とても不安になるものの、まぁ、とフォローした。

「仕事以外で関わらなきゃそんなに気にならねぇよ。あの人も、普段からそんな暇なわけじゃないしな」

 そんな話をしている内に、研究棟の入口に辿り着く。

「さて、ここまでくれば帰り道は分かるな?

 さっきも博士の所で言ったけど、明日はまた村で1日捜索になるから、体を休めておけよ」

 時計を見ると、夕刻に差し掛かっており、コハクの魔力も相当消耗した状態で戻るのも得策ではない。宿泊費は事前に支払っていたが、どうせ端金だ。外よりも、慣れた自室のベッドで眠りたいので、ここで別れを切り出そうとすると、コハクは、ヴァンの裾を掴んだ。

「…先生」

 恥ずかしそうに俯きながら、消え入りそうな声でヴァンを呼ぶ。彼女の言いたいことはだいたい察していたからこそ、早く消えようとしたのだが、それは遅かったようだ。

「……はぁ。お互い、汗かいてるし風呂に入ってから、な?」

「―! はい!」

 分かりやすいほどに嬉しそうに彼女は笑う。その反面、ヴァンは兜の下、本当に嫌そうな顔をしていた。



 結局、公衆浴場で汗を流した後、2人はどうせ移動するなら宿泊費も勿体ないので、村へと戻ることにした。

 その頃には日も落ちる頃であり、閉める準備をしていた長と出会した。

「お、お前ら帰ってきたのか」

 転送室から出てきた彼らに気付き、応接間の鍵を閉めようとしていた長は振り返って気さくに声をかけた。

「なんか、結果が出るまで時間がかかるみたいだからな。その間に本来の仕事でも優先しようかなと思ってな」

 誤魔化すことなくヴァンも説明し、それを聞いて彼は笑った。

「それはそれで助かるよ。竜も大概だが、アイツラも邪魔なことには変わりないからな」

「……、アイツ"ラ"?」

 言葉の中に違和感を感じ、聞き返すと、長は不思議そうに首を傾げた。

「契約書にも書いたぞ? 今回の獲物…擬似竜(ヴォイス・ドラゴン)? だったか?

 あいつら、番だって書いてあった筈だが」

 初めて聞く情報に2人は顔を見合わせる。それを見て、長も困惑気味に返す。

「…聞いてなかったのか?」

 ヴァンは静かに頷きつつ、普段通りに呟いた。

「…まぁ、2匹くらいなら何とかなるか」

「いや、本当に大丈夫なのか?」

 想定していたものと違うならば、装備も変わってくる。それも含めて心配してくれていたが、元々、ヴァンの装備はコハクの教育も兼ねていたので"竜狩り"仕様。数が増えたくらいでは影響は大したことはない。

「元々、装備も整えてたからな。元より、竜相手でも抗える程度には固めてきた。

 仕事はきちんとこなすから、安心しろ」

 ヴァンは自信を持って答え、長もそうか、と返す。

「そこまで言えるだけの自信があるなら安心だな」

「そうさ。大船に乗ったくらいの気持ちでいろ」

 ヴァンは茶化すように言って、改めて歩き出す。

「じゃあ、俺らは失礼するよ。また明日から、仕事を再開する」

「そうしてくれ」



 元々とっていた民宿に戻り、2人は改めて荷物を置いてから話をする。

「さて、明日からの方針だが、とりあえず、当初の予定通り、目標の擬似竜(ヴォイス・ドラゴン)の捜索に入る。

 それで今回、竜の痕跡が見つかったのも踏まえて、単独行動は禁止する。何かあった時、王都へ緊急連絡する相方が必要だからだ。まず、この時点で質問は?」

 兜も外し、両手の爪と角も外しながらヴァンが聞くと、同じく装備を外していたコハクが聞く。

「さっき、村長が話していた通り、目標が2匹同時に見つかった場合は?」

「それはそれで、きちんと対処する。

 それも1つの勉強だし、お前はちゃんと見て学べ」

「はーい」

 コハクの質問にも答え、今後の行動について、注意点を話す。

「それと竜についてだが、仮に見つかった場合、お前は真っ先に逃げろ。そして村長に話した上で、王都への緊急連絡網に連絡を」

「……ヴァンも、あたしを守りながら戦えないのかな?」

 あくまで、竜との戦いも見学したいと言いたそうな彼女に、ヴァンはポーチを外しつつ呆れ気味に答える。

「竜との戦いとなれば、流石に俺も周りの気遣いなんか出来ない。そして、竜を足止めして時間稼ぎをする必要もあるんだ。

 そして、この村の連中への避難の指示や、王都の援助を求める必要がある。これは、俺1人じゃ絶対に出来ない、お前だけに出来ることだ」

「……はい」

 説得され、彼女は大人しく従ったところで、ヴァンは彼女の頭を撫でる。

「良い子だ」

 大人しくそれをコハクは受け入れつつ、彼と密着した状態で聞いてきた。

「…ところで、先生の指輪、魔力の補充をしなくていいんですか?」

「お前と風呂に行く前に魔女協会に戻って補充してたから大丈夫だ」

「へぇ…でも、足りなくなったら困りません?」

「やらんぞ。明日の体力を残しておけ」

 分かってはいたが、明日の体力も残したい。遠回しな夜のお誘いを受けるも、彼は即座に拒否した。しかし、コハクは引き下がらない。

「もう少し、魔力補充したいんです!」

「そういうことならちゃんと言え。…1回だけだからな」

 明日の仕事に関わる理由があるなら、拒否する理由もない。1回だけと約束をして、2人は同じベッドへと向かっていった。

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