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魔女と竜狩り  作者: 合併
第4節 竜狩りの呪い
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第4節 2

 長との話を終え、2人は一時的な拠点として、案内された民宿へと移動した。

 早速1泊分の料金を支払った後、部屋に入り、内装を確認してすぐに、彼は伝えた。

「よし、早速行くぞ」

「あ、やっぱりただの確認だけだったんですね」

「何せ、宿泊費は自費だからな」

 思ったよりもケチ臭い理由を話した後、ポーチからコンパスを取り出して方角を確認する。

「長が話していた山はあっちの方か。よし、直ぐに向かうぞ」

「はーい」

 そして外へと出た所で、今日も強めの日差しが目に入り、ヴァンは眩しそうに手を傘にする。

「うまくいけば、今日中には片付けられそうだな」

「そんな早く狩れるんですか?」

 明日の天気を話すような口調での呟きを聞き、コハクが聞き返すと、彼は歩き出しながら付け加えた。

「獲物が逃げたりしなきゃな。外敵から守るためとはいえ、竜を模した進化をするような"臆病者"だ。奴らは確かに普通の生き物から見たら上位種に入るが、それでも命の危機になるとすぐに逃げ出すんだよ。

 格下に舐められるとかなきゃ、基本的にヤバいと思ったらすぐ逃げる。だから、面倒なんだ」

 面倒そうに言った後、思い出したように聞いた。

「それにしても、擬似竜(ヴォイス・ドラゴン)と竜の生息地の被りなんてよく知ってたな。凄いじゃないか、勉強したのか?」

 ヴァンの素直な称賛に、彼女は苦笑した。

「…えぇ、まぁ。必要な、知識だと思ったので」

 その反応で、彼女もまた、竜に未来を奪われている人間の1人だと言うことを思い出し、謝罪した。

「余計なことを、思い出させてしまったな。少し無神経だった」

「いえ。この道を選んだからには、過去にも、向き合わなければなりませんし」

「そうか」

 コハクの決意を聞いて、ヴァンは淡々と答えたあと、言い聞かせるように言った。

「それなら、竜を狩る上で一番大事なことを教えてやる」

 ―脳裏にこびりつく、焼けた村。自分を残し、全員生きたまま食われるか、溶かされて死んでいった。

 それどころか、生き残った己にかけられた、身勝手な呪いのせいで真っ当な生き方を―昔なように、泣き、笑うことさえ許されない。いつ思い出しても、感情が昂りそうになるのを抑え、彼は告げた。

「―絶対に、諦めるな」

 ―本懐を遂げるまで。

「―その復讐心(かんじょう)を研ぎ澄まし続けろ」

 ―いつか、仇敵の首を斬り落とす日が来るまで。

「これだけは、絶対に忘れるな」

 言葉に隠された、その感情と意図まで伝わったかまでは分からない。それでも、じっと見ていた彼女の真面目な顔を見て、彼は前を向く。

「―さて、そろそろ出口だな。外に出たら、すぐに目的地までは飛んでいくぞ、準備をしておけ」

 それ以上、彼女の顔を見ることなく、前へと進んでいった。


 その言葉の通り、村から出た途端、2人は角を使って、近隣の山まで飛んでいった。

 遠くから見えていたので、分かってはいたが、そこまで高い山ではなく、1日もあれば反対側までいけそうなほどの小山だった。ただ、複数の峠から成る山脈であるため、全体を見るとなると結構骨が折れそうだ。その為に、彼らには飛ぶための道具がある。

 麓まで到着した所で、ヴァンが指示を出し、上空から目当ての獲物を探すことにする。山の傾斜に沿うように登っていき、三十分もせずに、山頂まで辿り着いた。

 簡単な山登りを終え、ヴァンはコンパスで方角を再確認してから呟く。

「…さて、ここからが本番だな」

「とりあえず山頂まで来たけど、どうするんです?」

 コハクの問いかけに、彼はそうだな、と答える。

「ヤツの図体を考えれば、上から見ても分かるくらいには、轍のようなものが出来ているはずだ。

 まずは、それを探す」

「もしかして、かなり地道な探索から始まります?」

 嫌な予感がし始めたコハクの呟きに、彼は当然のように告げた。

「そうだぞ。大体、こういう任務だからって華やかな戦闘だけで終わるわけないだろう。

 俺らは"狩人"。痕跡を見つけ出して、それを基に、獲物を追い詰める。そこでようやく俺らは狩りを始める。―色付きの竜狩り、だなんて大層な名前は付けられていても、実際の仕事は地味なもんさ」

 そして彼は、ポーチから手のひら大の端末を取り出して続ける。

「さて、じゃあ早速捜索に入ろうか。お前に渡した伝声器も持ってきていただろう? せっかく2人いるんだから、今回は手分けして探そう。何か、おかしな物が見つかったらこれで連絡してくれ。伝声器の反応からお前を探す」

 伝えることは伝えたので、そのまま行動に移そうとする前に、1つ聞いた。

「先生、こっちから探知するやり方もあるんですか?」

 ヴァンが探知できるのであれば、魔女である彼女でも同じ事ができるはず。当然と言えば当然の質問に、彼は頭を掻いた。

「…まぁ、あることにはあるが、今、口だけの説明で教えられる自信はない。こういうのは、魔女協会に手馴れたやつがいるから、そいつを紹介してやる。

 だから、何かあったらすぐ呼べ。すぐに行く」

 正直、面倒なので誤魔化したのだが、少なくとも嘘は言っていない。少し不満げにするも、素直にそれを聞き入れた彼女は、背中を向ける。

「分かりました。ちゃんと、教えてくださいよ?」

「分かってる。だから、お前も生き残ることを考えろよ」

 この約束が反故にならないためにも、彼は釘を刺してから捜索を始めた。


 ―生い茂る森を観察しながら、ヴァンは空を駆けていく。擬似竜(ヴォイス・ドラゴン)は、大きさとして翼竜と同程度か少し小さいくらい。実際の竜とはかなりの体格差があるのだが、彼らが本当に擬態しているのは"小竜"である。小竜を傷つければ、親竜が黙っていない。生物には本能的に竜を恐れる習性を利用した進化の形の1つである。それ故に竜の生息地に自分から入り込むという一歩間違えば、命を脅かしかねない生態もあるため、竜の生息地を判断するための手段の1つとされている。―ただ、必ずしも竜がいるとは限らず、竜が休眠してない限り、すぐに見つけられる上、そのまま食われる事も多いらしい。

 それで、この地に竜がいると仮定した上で擬似竜(ヴォイス・ドラゴン)が定着していることは、休眠状態で身を隠している可能性が高いということ。仮に休眠している竜がいた場合、事前に見つけておくことで、余計な問題を起こさないようにするのも竜狩りの仕事でもある。

 ―それ故、ヴァンは2つの目標を想定した上で捜索を続ける。ただ、このやたらと広い山脈の中で、僅かな痕跡を探すというのも骨が折れる。

 指輪の魔力は十分にあるが、1時間ほど軽く捜索した時点で、小休憩を挟むことにした。

 そこで、勝手に休憩していいことを伝え忘れていたので、伝声器を近付ける。

「あー、もしもし。言い忘れていたが、休憩は各自適当にとってくれ。水とか食い物が足りなければ、余分に用意してるからまた連絡をくれ」

 伝言だけ伝えて休憩に入ろうとしたが、彼女も返事をくれた。 

『了解しましたー。

 ところで先生、なにか見つかりました?』

「いやまったく。この山脈、思ったより広いから難航しそうだぞ」

 地上に降り、適当な木に登って、太い枝に腰掛けた状態で、彼は答える。

『そうですか。ある程度したら合流したほうがいいですよね?』

「そうだな。あまり捜索に熱を入れすぎて、離れすぎるのも良くない。日が落ちる前には合流しようか」

『…ところで、何食べてるんです?』

 ちょうど登った木に、都合良くそのまま食べられる果実があったので、素直にそれに手を付けていたところ、伝声器越しにツッコミが入る。

「ん? いや、ちょうど良いところに木の実があったから摘んでるだけだ。お前も拾い食いする分には何も言わないが、腹を壊さないようにしておけよ」

『…呑気ですね』

 嫌味半分の言葉が聞こえてくるも、彼は種や芯までしっかり噛み砕きつつ、答える。

「こうやって食料を探して楽しむのは、野外捜索の楽しみの1つだぞ。お前もこういう仕事するなら、覚えておいたほうが後々楽になる。

 延々、疲れずに外で動き続けるのもコツがいるからな」

 ヴァンの説明に、彼女は納得したような、していないような唸り声をあげる。

『うーーーん? 何か、やっぱり想像してたのと違う気がするんですけど』

「さっきも言っただろう。こういう仕事とは言え、華やかなモノじゃない。地道な作業になるからこそ、小さな楽しみは見つけられるようにしておくべきだ」

 改めて、狩りとは言え、すぐに獲物が見つかるわけではない。それまでの過程で疲弊しては、元も子もない。だからこそ、些細な楽しみで精神的な余裕を持っておくべき。

 ただ、現実を知らない者に、現実を突きつけたところですぐにそのギャップを矯正できるわけではない。ヴァンもそれを理解した上で、水を飲みつつ続けた。

「それに、こういう野草や木の実ってのは、山でしか自生しないのもあって、なかなか流通しないものだ。―まぁ、今日中に仕事が終わらなそうならその醍醐味をしっかり教えてやる。楽しみにしておけ」

 ヴァンはそれだけ言って通信を切り、水筒をポーチに戻し、再び空へと駆け上がる。


 一面に広がる森。ここからの奥地は、人の手があまり入っていないのだろう。道らしきものすら見当たらず、生い茂る木々を眺めつつ、僅かな痕跡でも見逃さないよう、空から観察していく。

 ―そこで、突然鳥たちが飛び立つ音が聞こえた。位置は、ここからも見えるが、少し離れた場所。

 異変を感じ取り、ヴァンはすぐそちらに向かう。すると、突然の上昇気流に襲われ、その風圧にバランスを崩しかけるが、上方に角を飛ばし、不可視の足場に突き刺すことで落下することなくぶら下がる。

 その気流の中心にいたのは、口の周りを捕食した鳥の羽で汚した、全身を緑の鱗で多い、細身だが、とても大きなトカゲ。

 ただ、そのトカゲは普通の個体ではなく、背中に4枚の大きな翼を持ち、長い手足は、二足歩行を可能にしていた。翼を持つ爬虫類―竜にとても似通った生き物、擬似竜(ヴォイス・ドラゴン)の姿がそこにあった。

 ―ただ、逃げる鳥を撃ち落とすために放った気流、もとい風が、狩人に居場所を教えることになる。

 早速獲物を見つけたが、今は単独行動をしており、これでは元々の目的である、コハクへの師事が出来ない。

 食事に専念しており、油断しているこの瞬間は仕留めるには好機でしかないのだが、さっさと仕留めて帰りたい気持ちを抑え、伝声器を取り出した。

「コハク、合流できるか?」

『あ、先生も何か見つけたのですか?』

 こちらは獲物を見つけ、移動する前に奇襲をかけようと思っていたのだが、コハクから返ってのは、予想に反した言葉。

「その口ぶりから、何か見つけたのか?」

『えぇ、ちょっと不思議な痕跡を見つけて。

 最初の場所に移ってから案内したほうがいいですか?』

 この場にこの獲物がいるならば、この一帯が縄張りになってるはず。逆方向に分かれたコハクが見つけた痕跡が、必ずしも擬似竜(ヴォイス・ドラゴン)のモノとは考えられない。

「いや、俺が直接そちらに行く。

 お前は、あまり余計なことをしないでそこにいてくれ」

 何故か、とてつもなく嫌な予感がして、ヴァンはコハクにこちらから向かうと伝え、伝声器の反応を元に、すぐに向かうことにした。

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