表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女と竜狩り  作者: 合併
第3節 魔女の騎士団
83/93

第3節 22

 そして翌日。朝から合流したヴァンとコハクの2人は、適当な村へ転移し、門の前で準備体操をしていた。

「とりあえず、竜狩りの角を使った飛び方とか、そういうのは分かってるな?」

 右手の指輪、両手に装備した爪と角と、フル装備のヴァンが聞くと、彼女は少し不安げに答えた。その表情の揺らぎは把握しつつも、彼はスルーしてすぐに前を向いた。

「とりあえず、前に見えてる山頂まで飛んでいくぞ。先導するから着いてこい」

「はい」

 その声と共にヴァンは駆け出し、助走の勢いを膝に溜め、指輪の身体強化で高く飛び上がる。それと共に前方に不可視の魔力の足場を作り出し、そこへ向けて角を発射、引っ掛けて勢いを維持したまま駆けていく。

 竜狩りの角を使うにあたって、基本的な移動方法。これが出来ないというのであれば、ヴァンが教えられることはないのだが―後ろを見ると、少し速度は劣るものの、ヴァンに着いてくるコハクの姿があった。

 それを確認し、彼も失わないよう、速度を少し落としてコハクの先導をしていった。

 進み始めて小一時間。そこまで高くない山ということもあり、山頂付近の休憩所として作られた広場に到着し、2人はまず休憩する。

 慣れているヴァンは特に問題ないが、不慣れな空中移動で来たコハクは肩で息をしており、体力面でも課題があるようだ。

 それでも若さ故か、10分ほどの休憩で体力も戻ったようで、息はまだ荒いものの、大分整ったコハクは顔を上げた。

「もう、大丈夫、です」

「そうか」

 動けるというのであれば、心配はいらないのだろう。ヴァンは淡々と続けた。

「移動が問題ないなら、早速訓練と行こうか」

「―はい!」

 元気な返事をする彼女に対し、ヴァンは左手の爪を外し、代わりに鉄製の鞘を取り出した。

「じゃあ、実戦訓練だ。その辺の鳥なんかじゃ訓練にならんし、俺が相手になる」

「…え?」

 突然告げられた、訓練内容。コハクが呆気にとられて聞き返すも、彼は当然のように答えた。

「俺と空中戦の訓練だ。そっちは魔法を使っても構わないし、こっちも死なない程度には手加減してやるから、魔力か体力の切れるまでやるぞ。

 ―覚悟もあるだろうし、5分だけ待ってやる。それでも突っ立ってるなら、それはそれで殴りに行くからな」

 ヴァンは無慈悲に言って、空へと飛んでいき、上空に足場を作って待機する。

 その言葉に嘘偽りはないようで、コハクも覚悟を決めて角を飛ばし、空へと舞い上がる。

 それを確認し、ヴァンも構えるが、攻めてはこない。こちらのタイミングで始めて良い、とのことだろう。

 それに甘え、コハクは真正面から爪を構えて突撃するが、ヴァンは足場を消し、自由落下で落ちてかわす。地面に落ちるまでもなく、彼は空中で宙返りをして頭を上に上げると共に、作り出した足場に着地。バネのように衝撃を受け止め、空へと飛翔する。その時間、わずか数秒。

 攻撃を避けられ、呆けている隙は穴となる。ヴァンはすぐに彼女の元へと接近し、強化した筋力で殴りつける。

 それを真っ当に受け止めてしまい、彼女は予想外の力に体勢を崩す。危うく落ちそうになった所、すぐ近くに足場を作ったヴァンが受け止め、早速叱る。

「俺が人間だからって、油断するな。ただでさえ足場が不安定な状態なんだから、竜の攻撃を真正面から受けたらひとたまりもない。体格差を考えろ」

「…はい、」

 身をもって、その危険さを知ったところで、彼はしっかり立たせ、再び距離をとる。

「よし、仕切り直しだ。真面目にやれよ?」

 こちらを人間だと思って油断するな、と念押ししつつ、彼は再び飛び上がる。

 空高く飛び落下しながらも足場を蹴って加速。流星となって、襲いかかってくるのを避けようとするが、一瞬、判断が遅れ、距離を離せない。

 ヴァンの重力を乗せた一撃は、暴風を纏い、特大の風も同時に巻き起こし、コハクはその風に煽られる。そして着地する前に崩した体を狙い、方向転換したヴァンが向かっていく。

 その姿は確認できたようで、迎撃するように手を突きだした瞬間、閃光。彼女から放たれた電撃が槍となって向かっていくが、角すら使わず、足元に生み出した足場を使って方向転換。寸での所で避け、そのまま空中で体勢を整えられていないコハクの腹へ、鞘がめり込む。

 勢いはあるものの、魔法の補助を全て消しており、ダメージは最低限にしていたが、その一撃で彼女はえずく。

 ヴァンもそうなると分かった上で、手を回し、器用に空中で彼女を抱きかかえて作った足場に移動する。

「何度も言わせるな。もう少し真剣になれ」

 小指の指輪で治療しつつ、隙だらけの彼女に、ヴァンは呆れながら言う。必死に息を整えている間に、念のため付け加えた。

「それに、俺の動きはある程度竜の動きを模している。確かに的が小さい分、狙いにくいだろうが、奴らの鱗は生半可な武器じゃ歯が立たない。少ない急所を狙うことには変わらないんだから、小さい的を狙い撃つことは意識しろ。

 こっちも、女を殴る趣味はないんだ。訓練にさせてくれ」

 彼は珍しく本当に嫌そうにそう言ったところで、彼女も復帰したようだ。目の輝きが消えていないことを確認し、彼は返答を聞くことすらせずに距離を離した。

「まずは避けて、動きを見ることに集中しろ。その隙で、攻撃できるならやればいいが、攻撃している間は自分の隙にもなることを忘れるな」

 戦闘において、基本ではあるが、大事なことを伝え、彼は再度動き出す。


 今度は真っ直ぐ飛んでいき、鞘を構える。

 それを確認してすぐに彼女は飛び上がり、十分な距離を離す。

 空を切るのが分かっている行動を律儀にやってやる必要はない。空中で体を捻り、コハクの姿を確認した上で、右手を突出し、角を発射、不可視の足場に突き刺し、振り子運動で方向転換を行いつつ、更に高度を稼ぐ。

 十分な高さで角を切り離し、空を舞う。そのまま足場を蹴って、コハクの元へと向かっていく。それと同時に鞘に風を纏わせて構えるも、彼女は逃げない。足がすくんだなんて訳ではなく、彼女にも迎撃の準備があるということだろう。それを理解した上で、風を鞭のようにして、まるで尾で叩きつけるように振り回した。

 彼女はそれを見切った上で、手に溜めた電気のグローブで頭を掠めるように尾を弾き飛ばし、構えを戻せず、がら空きの身体に向け、電撃の槍を放った。

 ヴァンはそれに直撃する、訳ではなく、目の前に障壁を作り出して防ぐ。

「それ良いのぉ!?」

 まさかの防御方法に、思わず素で文句をいうが、彼は足場に着地しつつ答える。

「竜なら腕で防いでるだろうしノーカンだ」

 当然のように言い、ヴァンは鼻を鳴らす。

「それでも、さっきのは良かったぞ。俺も少しだけ焦った。

 攻められる時はお前からも手を出して構わんからな」

 ちゃんと褒める所は褒め、少し誇らしそうに笑う彼女に向け、ヴァンは忠告する。

「だからといって、あまり調子に乗りすぎるなよ。戦場での慢心は、よほど自信がない限り死に繋がるからな」

 しっかり忠告もして、再び構える。

 ―一度、ヴァンの意表を突くことは出来たが、空中戦において、ヴァン相手では経験値の差で勝てる道理はない。

 その後は大した有効打もないまま、ひたすら攻撃の防御や回避に専念する事になり、30分ほど経過した頃には、コハクの魔力も切れており、足場の維持すらも限界になっていた。

 それでも未だに余裕のあるヴァンは、頃合いと見計らって、彼女の元に向かう。

「そろそろ限界か?」

 確認のため、彼女の近くで聞いてみるも、まだ意識ははっきりしているようだ。

「まだ、まだ…!」

「……無理をさせたいわけじゃないんだがな。

 まだやると言うなら、俺は構わないが」

 諦めの悪い彼女に、彼は呆れ気味に呟く。

 それでも、諦めろとまでは言わず、静かに構え、現実を叩き込むことにする。

 既に距離は詰めている。鞘を握り、風を纏わせる。ヴァンの構えを察し、彼女もゆっくりと迎撃の構えを取った。

 薙ぎ払うように鞘を振り回し、それに付随する風が彼女の体を吹き飛ばそうとするが、残った魔力を使い、彼女は飛び上がって避ける。

「…おい! 少し、後先のことも考えろ!」

 無謀な行動に彼は少し、感情を表に出して叱り、すぐに彼女の元へと向かっていく。

 そして、ヴァンの予想通りにコハクはその時点で魔力切れとなってしまい、角のリールの巻き上げや、足場の形成すらままならない。身体強化すらも切れて、何が起きているのか理解しないまま落下していってしまう。

 それを追いかけるように彼も空を駆けながら追いかけ―地面に衝突する前に彼女の体を抱きかかえた上で、空に向けて角を飛ばして空中に静止することで大怪我を回避する。

 間一髪の所で大惨事にならずに済み、ヴァンは安心したように大きく息を吐いた。

「―おい、自分のキャパシティくらいは把握しとけ」

 物凄く不満げに彼は伝えるも、彼女は聞いていない。魔力切れという、普通であればなかなか経験できないことに慣れていないのか、そのまま意識を失っていたからである。

「……はぁ」

 ヴァンは地上に降りつつ、面倒くさそうに空を仰ぐ。

 昼時から大して時間も経っておらず、日はまだ高い。とは言え、この荷物を抱えたまま帰るなら、それなりに時間は必要となる。

 指輪の魔力自体は十分に残っているため、どちらでも構わないが、このまま目が覚めるまで待っているのも時間の無駄なので、一旦帰ってから考えてもいいだろう。

「これだから、新人の教育は嫌なんだ」

 面倒そうに言いながらも、彼はそれ以上不満は言わずに、彼女をしっかり抱きかかえたまま、空を駆けることにした。


 ―その後、王都まで帰ってきたヴァンは、魔女協会に貯蓄してある魔力をコハクに分けて与え、ヴァンの装備を片付けるついでに部屋に置いて、目を覚ますまで寝かせてやることにする。

 兜を外し、シャワーで軽く汗を流し、髪を乾かした後、服を着るのも面倒だったので、首にタオルを掛けたまま、半裸の状態で昼食の準備を始めた。

 とは言え、材料も大したものが無いので、残っていた野菜と肉を軽く炒め、切り分けたパンに挟んだ、簡単なサンドイッチと、残っていた凍結乾燥させたスープをお湯でふやかしたものとなるが。

 ある程度準備も終わったので、テーブルの準備をしてから、いい加減服を着る。事前に用意していた白いシャツに袖を通した所で、昼食の香りにつられて、彼女も目を覚ましたようだ。

「あれ…?」

「目を覚ましたか」

 ヴァンは特に気にした様子もなくソファーに座り、自分で用意した食事を摂り始める。

「魔力切れで気絶したから、勝手に運んで来た。ついでに魔力を分けてもらって着替えるついでに寝かせてただけだ」

 ここまでの流れを端的に説明し、魔力を補給したことも伝えると、彼女は赤面して聞いた。

「寝てる間に、したんですか!?」

「そういう趣味はないから安心しろ。それに、魔女協会ならそんなんやらなくても補給する手段がある」

 ヴァンは淡々と伝え、スープを啜る。

 意識もはっきりしているようなので、ヴァンはそのまま今日の訓練の結果を踏まえて、今後の予定を伝えた。

「それと今日の感想だが、戦闘慣れしていない割には動けている方だが、もう少し戦闘訓練を積んでから本番に挑め。

 3日後の擬似竜(ヴォイス・ドラゴン)の討伐について、お前の参加は認めん。とりあえず俺が何とかするから、今回は見学だ」

 確かに、他所の木っ端の傭兵たちに比べれば動けている方ではあるが、"竜狩り"を名乗るには実力不足にも程がある。はっきりと伝えた所で、彼女は少し不満ではあるものの、素直に受け止めた。

「――分かり、ました。

 でも、今後も訓練はつけてくれるんですか?」

「手が空いてる時にならな。

 少なくとも、マダムの依頼がなければ、お前の面倒を率先して見る義理もない」

 今回はマダムの依頼ということもあり、手伝っている部分が大きい。それに、協会所属の魔女ならまだしも、組合所属であれば、深く関与する理由もないからだ。

 暗にそれも含めて伝えると、彼女は聞いた。

「傭兵組合の魔女、だからですか?」

「そうだな」

 思ったより話の裏も理解していたようで、ヴァンも特に隠さず伝えると、彼女はこちらを真っ直ぐ見て聞いた。

「それなら、魔女協会に移籍することって出来ますか?」

「……それは、俺の管轄じゃない」

 思ったより面倒な話になりそうな気配を感じ、ヴァンはとりあえずはぐらかす事にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ