表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女と竜狩り  作者: 合併
第3節 魔女の騎士団
80/93

第3節 19

 快く、とまではいかないものの、素直に答えてくれることを確認し、彼は早速聞いた。

「君が、あそこに捕まっていた経緯はどちらでもいい。それでも、あそこに捕らえられたまま、売られたりしなかったのは、理由があるのか?」

 魔女が殺されていた、という事実は伏せた上で、無事に生きていた理由を確認すると、彼女は嫌そうに答える。

「売られるか、魔法道具の作成に協力するかって条件出されたら、協力するのを選ぶよね」

「なるほど。一時的な金よりも、持続的な収入を狙ったということか」

 いつの間にか取り出してたメモ帳に、聞いた内容をメモしつつ、応える。熱心に文字へと書き起こしている姿を見ながら、彼女は不思議そうに聞いた。

「あたしも、傭兵組合にはそれなりにいたから君の噂も聞いてるけど、手の付けられない荒くれ者って噂ってのは当てにならないものよね」

「…あー、それは俺の若い時に囁かれてた噂の延長線だろ。確かに昔は結構な頻度で喧嘩していたが、今は流石にそんなすぐ手を出すような事をしない」

 昔の印象や、悪い噂というものはいつまでも尾を引いていく。散々噂に尾ひれがついた後、真っ当にしていたところで、それを払拭することはできない。それを実感した上で、彼も言い返す。「それを言えば、君も大概だろう。噂では、君と組み上がる連中も一定数いると聞いたけど」

「あぁ…それね」

 ヴァンの言葉に、本当に嫌そうに顔をしかめて彼女はコーヒーを啜る。

「どうしても、あたしを見る目にフィルターが掛かっているっていうか、ね。―そう言われると同じことかぁ。ごめんね、嫌だった?」

「いや、俺の事は事実だからな。ただ、悪評もそれなりに役に立ってな。それなりに組合に所属している奴なら、滅多にちょっかい出してこねぇ」

 そう言いつつ、傭兵組合の数少ない魔女が金の竜狩りと相席して、話をしているという異様な光景に、興味の視線が注がれているのに気が付いていたヴァンが、周囲を睨みつけると、その視線は蜘蛛の子を散らすように外れていった。

「…な?」

 とても効果的な、悪評の使い方を見て、彼女は笑う。

「便利だねぇ」

「―ま、話は脱線したな。ルナ―お前を先に見つけた子から聞いたが、魔力がほとんど尽きていたのは、必要な分の魔力しか供給されていなかったからか?」

 ルナがクリムを見つけた際、魔力をほとんど使い切っていたことについて聞き直すと、彼女はそうだね、と答える。

「必要な時だけ、使われる道具みたいなものさ。食べる分くらいは用意されてたけどね」

 傭兵、しかも女性となればそういう目に遭う事も少なくはないのだろう。淡々と答え、ヴァンも普段通りに、無感情に続ける。

「そうか。それで、もう1つ聞きたいのだが、あの拠点で、ほかに魔女には会ったか?」

「それは―」

「答えろ」

 有無を言わさない、冷たい、ナイフのような言葉。兜の下からじっと見つめる目は、先ほどの雰囲気が嘘に見えるほど冷たかった。

 冗談を一切許さない空気で、彼女はありのままに伝えた。

「ほかに魔女がいたって話は聞いたけど、その後どうしたかまでは知らない」

「…………」

 ヴァンは何も言わず、静かにクリムの目を見ていたが、十数秒、見つめたあとに纏う空気を和らげて答えた。

「それなら良い。

 お前が白と言うなら話すが、あの後の調査で、魔女協会所属の魔女の死亡を確認した。今回、君に声をかけたのは、魔女殺しの容疑がかかっていたからだ」

 先ほどの質問で概ね察知していそうだが、ヴァンは今回の聞き取りの理由をはっきりと伝える。それを聞いて、彼女は聞いた。

「仮に、あたしが黒だとしたら?」

「それ相応の代償を支払わせるだけだ」

 一切の迷いなく、彼は回答する。あまりの迷いのなさに、彼女は背筋に寒気を感じたが、それを表に出さないように取り繕いながら続ける。

「具体的には?」

「魔女なら、ある程度は予想がつくだろう?

 "殺された分、産んでもらう"だけだ」

 魔女とは、次世代の魔女を産むことで"継承"される。それを知った上で、彼は淡々と答えた。

「…それは、恐ろしいね。魔女協会ってのは、そんな事もやってるの?」

 迷いのない言葉に、彼は必要となれば間違いなく実行する。そう感じながらも、少し茶化すように彼女は聞いた。

「必要となれば、やるだけだ。それに、継承先の魔女には何の罪もない。魔女協会として、真っ当に育てるだけだ」

「…そういうのは、しっかりしてるんだね」

 ヴァンの答えを聞いて、彼女も少し安心したように呟き、彼は笑った。

「敵には容赦はしないが、身内にはそれなりに甘い組織だからな。良くも悪くも、俺もその風土に染まっている部分もある。

 それに、君も魔女なら、移籍についても検討してくれるなら協力するぞ?」

 しれっとクリムを勧誘してみるも、彼女は首を横に振る。

「悪いけど、あたしにもここでやることがある。それまでは、他所に行くって考えはないかな。

 それに、個人の傭兵として動くのが性に合っててね。何かと縛られるのはそんなに好きじゃない」

 誘いを断られるも、彼はそれ以上突っ込むことはなく、軽く笑う。

「それは残念だ。

 ―さて。これで俺が聞きたいことは終わりになる。それで、折角こうして話す場があるのだから、君個人として、聞きたいことはあるか?」

「…個人的な興味でも?」

「別に構わない」

 少し、探るようにこちらを見ながら彼女が聞くも、彼は動じず、普段通りに答える。それを聞いて、彼女は聞いた。

「黒竜を追うのは、復讐から?」

「――さぁな。きっと、復讐なのだろう」

 黒竜に異常に執着する竜狩り。使えるものはなんでも使っている、という噂から、彼の動機について聞いてみるも、彼は当たり前のように受け流した。

「答えてくれるんじゃないの?」

「話を聞くといっただけだ。答えるとは言ってないぞ」

 言ってることには間違いないのだが、少し納得のいかない答えで話を流そうとしたが、彼女は食いついてくる。

「教えてくれてもいいんじゃない? あたしだって傭兵なんだし、ヴァンの依頼を受けることだってあるんだしさ」

 ヴァンが、黒竜の調査について何度も依頼を出しているのは、傭兵組合ならばよく知っているのだろう。その事を踏まえて聞くも、彼はうまく言いくるめようとする。

「依頼の時も、俺はいつも情報だけを求めて依頼を出してるだろ? 別に調べてくれる奴の人柄まで気にしてないよ。

 こちらとしては調査をしてくれればいいし、そちらもそれに応えて求めた事をやってくれればいい。依頼主の意図にまで気に掛ける必要はない、傭兵ならそれも常識だろう?」

「…恨みでないなら、どうして探そうとするの?」

 余りにもしつこく食いついてくるので、彼は面倒になりつつあるが、彼女は暗い顔で呟いた。

「復讐をしたところで、何の解決にもならないじゃない」

「……、」

 その言葉に、彼は何かを察する。それを最後に暫し、沈黙が流れるが、ヴァンがその沈黙を破る。

「俺にも分からないんだよ。

 ―俺は、黒竜に呪われてる。魔女協会のどの魔女が見ても、解けないような呪いだ。

 その呪いを解くためにただ、俺はアイツを追っているんだ。その結果、呪いが解けるかなんて分からない。それでも、俺は黒竜を見つけ出さなきゃならない。俺が、やるんだ」

 ヴァンが打ち明けたのは、脅迫されているのではないかと思うような、告白。

 ―魔女協会には、呪いに権能を持つ魔女もいる。その魔女でさえ、解けないのが、彼の呪いだ。彼は真っ当な人生を取り戻すために、藁にもすがる想いで竜を追う。

 その本音が垣間見え、彼女は力なく笑った。

「…そう、なんだ」

「……話しすぎたな。まだ、聞きたいことはあるか?」

「いや、貴重なものも聞けたし、もう十分だよ。

 君も、大変なんだね」

「そうだな、大変なんだよ」

 自分に言い聞かせるように彼は呟き、顔を上げて時計を見る。

「さて、もう昼ごろか。

 折角だから、どこかで一緒に食事でもどうかな?」

「それは、ナンパかな?」

 茶化す彼女に向け、彼はそうだな、と笑ってから立ち上がり、彼女の横で手を差し出す。

「ナンパ、そう言ったらそうだな。それで、お誘いに乗ってくれるのか?」

 問いの答えを待つと、彼女はその手を取って聞いた。

「そうだね、美味しい店知ってるの?」

 手を握り返し、立ち上がった彼女をこちらへ引き寄せながら、当然のように腰に手を回す。

「任せてくれ」

「……あのさぁ、君、その思わせぶりなのは素なの?」

 まるで、ダンスのエスコートをするような動きを、一切の躊躇なく行なっていることにツッコむと、彼は少し心外そうに聞いた。

「こういった扱いは嫌いか?」

「…まぁ、慣れはしないね。君、結構な数の女泣かせてきてるでしょ?」

「そんな褒めても何もでないぞ」

「褒めてないから」

 そんな会話をしながら、2人は外へと出ていった。


 ―その後、食事ついでに彼女の頼みで、仕事道具について聞かれたので、ヴァンがよく使っている道具について教えていたら、いつの間にか日も傾いていた。日が沈む前に2人は解散し、ヴァンはルナの迎え、という訳では無いが、様子を見に向かう。

 とはいうものの、少し早く来てしまい、夜の開店前には着いてしまった。ただ、店の裏ではかこん、という小気味良い音が聞こえたので、そちらへと向かうと、裏の小さな庭で、薪を割っているルナの姿があった。

「精が出るな」

 きちんと仕事をしていたことを確認し、少し安心したように声をかけると、ルナもこちらを振り返る。

「ヴァン兄、仕事は終わったの?」

「とりあえずな。見た所、ちゃんと仕事してるみたいで安心したよ」

「ちゃんと、金貰ってる立場だからね。昨日少し手伝ったおかげで多少は動けるし」

 当然のようにルナは言い、ヴァンはしみじみと頷く。

「そうなんだがなぁ。案外、それが出来ない人間ってのはそれなりにいるんだ。

 お前はちゃんとやってくれてるみたいだし、安心したよ」

 ヴァンはそれだけ言って、店の方を指差した。

「それで、レルベアは中にいるのか?」

「中で掃除と仕込みやってると思う」

「そうか。なら、声だけかけて、俺は協会で残った仕事を片付けているかな。お前は大丈夫そうだからな」

 これからやる予定を伝えつつ、中に入ろうとする背中をルナが呼び止めた。

「ヴァン兄、明日は予定あるの?」

 明日以降、仕事について聞いてみるも、彼は少し考えてから答える。

「今のところ、緊急の依頼が入らない限りはないな。俺も、俺宛の依頼が溜まってないか確認したいし、数日は好きにしていい。心配なら、お前に渡した伝令石でも使って呼んでくれ」

「分かった。こっちも仕事終わらせたら、そのまま帰るよ」

「頼んだぞ」

 予定の擦り合わせが終わったところで、ヴァンは裏口の扉を開けて中へと入っていった。

「…さーて、頑張るか」

 話している相手もいなくなったので、ルナも頼まれた丸太を薪にする作業を、黙々と再開することにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ