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魔女と竜狩り  作者: 合併
第3節 魔女の騎士団
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第3節 18

 次々と来る客を捌いていき、ようやく客足が落ち着いたところで、2人はようやく席に案内された。

「…まったく、いつになったらアイツは従業員を雇うんだ」

 流石に仕事続きだったため、疲れた様子でヴァンが愚痴る。セルフの水をコップに注いできたルナは、ヴァンの前にも置きつつ笑う。

「お疲れ様でした。でも、そう言う割にはちゃんと付き合うよね」

 頼まれるわけでもなく、自然と足が動いていたのを指摘されると、彼は表情1つ変えずに水を飲む。

「それだけの恩もあるってことだ」

「そんな大層なものでもないんだけどね」

 そう言って、レルベアは前菜のサラダと野菜のムースを蒸して固めた小鉢を持ってきた。

「…今日は、珍しく凝った物を持ってきたな」

 普段見ない、コース料理のような前菜について聞くと、彼は少し自慢気に答えた。

「少し前、王国の調理コンテストの予選を通ってね。折角だし、本戦で使う料理を練習してたのさ。その材料が余ってたし、仕事を手伝ってもらったお礼みたいなものだ。味は保証するよ」

 その話を聞いて、ヴァンは遠慮なくスプーンを手に取る。

「じゃあ、いただくとするか。ルナも嫌いじゃなきゃ、遠慮なく貰っておけ。働いた対価だからな」

 すぐに手を付けだしたヴァンを見て、ルナも頂くことにする。

「…不思議な感じですね」

 口溶けは滑らかで、最初は卵、その後に野菜の味が続けてきて、美味しいが、なんとも言えない感覚になる。

「こういうのは前菜、特に食前酒と合わせて出ることが多い。酒の味をぼかさないように、こういう味付けにしてるんだろうな」

 言わんとしていることを、的確に解説し、ヴァンはサラダを食べつつ続けた。

「まぁ、お前みたいに若いのには少し味気ないだろうな。それなら、その辺にある調味料使えば、結構変わるぞ。好きなの試してみろ」

 ヴァンの言う通り、試しにビネガーをかけて口にしてみると、ビネガーの酸味が丁度良くマッチする。

「これ美味いね、金持ちっていつもこんなの食べてるの?」

「さぁな。俺もそういう席に何度か出たことがあるが、飯の味より話しか気にしてないからな」

 ヴァンはそっけなく答え、味変でサラダにビネガーをぶっかけた。


 その後は普通の定食が来て、暇になったレルベアとゆっくり話しながら食事を済ませる。食べるものも終わり、帰ろうとしたところで、ヴァンが聞いた。

「そうだ、明日、俺は個別に仕事をしたいから、ルナはレルベアのところで働くか?」

 ふと、ヴァンがそんな事を聞くと、ルナよりも先にレルベアが反応した。

「本当に!? いいのかいっ!?」

 露骨に喜んでいる彼を無視し、ヴァンはルナのほうを見ている。ヴァンとしては、受けても受けなくてもどうでもいいが、どうせ見ていられないなら、安心できる相手の下においていたほうが楽だから、という理由だろう。それなりに長くいるので、彼の考えをある程度理解した上で、仕方なく頷いた。

「…うん、それなら明日はお手伝いしてればいいのかな」

「やったぜ。

 朝だと仕込みとかやってるから、日が昇ってから、開店1時間前に来てくれればいいよ。それからなら、粗方の仕事も教えられる」

 早速、明日の流れを伝え、ヴァンはそれで決まりと言いたそうに、残っていた水を飲み干す。

「じゃあ、それで決まりだな。夜に顔出すついでに迎えに来るよ。

 それとレルベア、変なこと教えたりしたらぶっ飛ばすからな」

 最後に真顔で忠告すると、彼は悪びれずに答えた。

「モチロンさ! 何せ、大事な後輩だからね!」

「本当か…?」

 あまりの聞き分けの良さにむしろ疑いの目を向けつつ、疑ったところで予防はできないと判断し、彼はそれ以上は何も言わなかった。

「さて、じゃあ俺らはこの辺で帰るとするか。

 今日も美味かったぞ」

 しっかり礼を言って、そのまま扉へと向かっていくヴァン。会計をせずに帰るつもりだというのに、レルベアは止めず、困惑していたところでレルベアが教えてくれた。

「今日の仕事分は、お金じゃなくて食事代で払ってるんだ。いつものことだから、君も大丈夫だよ。

 ―明日は楽しみにしてるからね」

「…はい。ごちそうさまでした!」

 レルベアに見送られ、ルナはヴァンの後を追って駆け出していった。



 ――そして夜は明け、朝。いつもの夜のお勤めもこなした後、部屋に帰ってで寝ていたヴァンは、いつも通りにシャワーを浴び、軽い朝食を済ませた後に武器は着けないものの、兜だけ着けて彼は出ていった。

 向かう先は、傭兵組合。朝は仕事の依頼書が更新されるタイミングというのもあり、普段以上に混んでいるが、カウンターに続く列へと並び、待つこと十数分。

 見知った顔、ウルリッヒの前まで来て、声をかける。

「忙しそうだな」

「―ヴァンじゃない。今日はどうした…って、この前、魔女協会から連絡来てたわね。ちょっと待っててね」

 相手も見知った顔で、気さくに聞いていた途中で、依頼を思い出し、確認しに向かう。そうして待つこと数分。彼女は席に戻りつつ答えた。

「―うん、君が探してた相手は、今日は仕事を受けに来てないみたい。依頼が来る前後からどこかに仕事で出てるわけじゃないし、療養しているかしているんじゃないかしら」

 傭兵組合の管理している範囲では、先日九州きた傭兵組合所属の魔女―クリムは、顔を見せていないらしい。その情報を受け取ったヴァンは、そうか、と言って聞いた。

「今日は特に予定を入れていないんだが、ここで張っててもいいか?」

「まぁ、構わないけど。変なのに絡まれても問題は起こさないでね?」

 傭兵組合で問題を起こすな、と釘を差されるも、彼は困ったように肩をすくめる、

「それは俺じゃなく相手に言ってくれ。

 それと、注文は別口でいいんだったな」

「そうね。お目当ての相手が来たら、また呼んであげるわ」

「助かる」

 受付の協力も取り付け、ヴァンは列から外れて厨房のカウンターへと向かっていく。

「木ノ実ジュースとチーズをいくつかくれ」


 ほとんど人のいない、2人分のテーブルに着き、備え付けの新聞をいくつか読みながら、ジュースとチーズで口寂しさを紛らわせる。

 少し前、国王と話していた国境紛争について、記載されており、国外で奴隷として扱われている魔女を順次救出していく、と公式声明として出したようだ。それに対し、一部反対勢力から非難されていることにも書いてあり、国というものが一枚岩ではないことがよく分かる。

 しかし、いくつかの記事を見ても、そこに魔女協会の名前はなく、魔女協会からの要請という事実は、公的にはされていないようだ。国王なりの、気遣いだろう。

 ヴァンとしても、魔女協会も巻き込んだ戦争となれば、ルナが戦火に巻き込まれることになる。少年兵を起用するほど切羽詰まってはいないだろうが、子供扱いを嫌う彼にはあまり話さないほうが良い話題だろう。

 それ以外にも、どうしようもないニュース―少し前、シルが起こした、魔女を狙った誘拐犯を追った事件についても取り沙汰されており、暴行をした犯人は不明で、今も逃走中という形で処理をされていた。これに関しては、シルが捕まらないように国と協会が裏から手を回しているのだろう。事件の実情を知っているだけあって、第三者の目から見たら奇怪な事件になるのだろうと、1人考えていたところで、ジュースのコップが空になってしまっていたことに気が付いた。

「…もう終わっていたか」

 追加の飲み物を用意しようとした所で、目の前にコーヒーのカップが置かれた。

「…ん? くれるのか?」

 ヴァンが新聞を畳みつつ顔を上げると、20代の若い女性がコーヒーの入ったコップを手に、立っていた。

 着ているのは、関節や急所を合金で補強した革鎧。見えるだけでも、腕、胸にナイフを仕込んでおり、有事の際はすぐに抜けるようにしてある。それ以外には腰に厚く、平たい刃をした鈍器のような剣を携えていた。

 髪は鮮やかな赤。肌は日焼けをしているものの、荒れている様子はない。目鼻立ちも整ってはいると思うが、目立った感はなく、あまり印象に残らない、"どこにでもいる娘"という印象が強い。

 髪に反して落ち着いた黒い瞳がヴァンの姿を捉えており、身に纏う雰囲気で、彼は察した。

「―君が、クリムか。

 どうぞ、座って話そうじゃないか」

 ヴァンに促されるまま、彼女は無言で座ってから、重苦しそうに口を開く。

「…名前、誰から聞きました?」

「知り合いの情報屋からね。誰かという質問には、こちらも対価を払って教えてもらったんだ。それには答えられない」

 見知らぬ相手が、名前を知っていれば警戒するのも当然だろう。それを理解した上で、ヴァンは答えられる範囲で答えると、そう、と返した。

「―まぁ、公平にこちらも名乗ろうか。

 俺はヴァン。巷では金の竜狩りと呼ばれている。好きな方で呼んでくれ」

 彼は正直に名乗るも、彼女は一口、コーヒーを飲んでから聞き直した。

「それ、本名ですか?」

「…ふむ。それは、どうしてそう思う?」

 予想していなかった回答に、彼もコーヒーを一口含んでから、静かに聞く。逆に答えを求められ、彼女はどうでも良さそうに答えた。

「別に。女の勘って言えばいいのかな」

 なんの根拠もない、謂わば当てずっぽうの質問に、彼はテーブルをとん、と指で叩いた。

「久々にされたよ、その質問。

 折角だから答えるが、この名前は本名じゃない。昔から呼ばれてる愛称でね、俺もこの名前が気に入ってるんだ。良ければ君も、ヴァンと呼んでほしい」

 別に本名が嫌いな訳では無い。ただ、この名前は本名の愛称と、日光を嫌い、そよ美貌で多くの女性を魅了した物語に出てくる魔物―吸血鬼(ヴァンパイア)から取った名前が、皮肉にも今の自分の生き様と合致していることから、彼はこの名前を愛している。

 その事情までは話さないものの、彼の言葉を聞いて、彼女もそれ以上の追求はやめた。

「…分かったよ、ヴァン」

「ありがとう」

 呼び名について、落ち着いたところで、彼は早速話を始めることにした。

「それじゃあクリム、今回君を呼んでもらったのは…言わずとも分かるだろう?」

「…この前の、件についてだよね。それは、魔女協会として?」

 少し、うんざりしたように言うが、彼はそうだな、と一言置いてから続けた。

「俺の仕事として、必要なことだからな。面倒だろうが、付き合ってくれ」

 ヴァンがはっきりと伝え、その言葉に嘘偽りがないと彼女も理解したのだろう。面倒そうにはしているものの、ちゃんとこちらを向いて、聞いてきた。

「―仕方ないな。それじゃあ、どこから話せばいい?」

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