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魔女と竜狩り  作者: 合併
第3節 魔女の騎士団
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第3節 16

 翌日。決められた時間に、指定された場所―人気のない倉庫―へ2人とも近くせずに間に合った。ただ、ヴァンの方が早く到着しており、普段通りの外回りの装備を着けたうえで、一足先にケイと話していた。

「―事情は分かった。でも報酬に色は付けないからね?」

「そんなもの最初から期待して参加してないから大丈夫だぞ。俺を何だと思ってるんだ」

 どうやら、報酬についての話をしているようだ。その点においてはヴァンは非常に公正であり、事前に顔見知りのボーナスをするなと釘を差していたようだ。

「おはようございます」

 話も一段落した所でルナが会話に入ると、2人も気が付いたようだ。

「おはよう。時間通りだな」

「おはようルナ君、時間通りだね。

 時間厳守はポイント高めだよ」

「そんな時間通りに来ない人がいるみたいな…」

 当然のことに対して褒められたことに苦情すると、彼女はため息混じりにルナの頭を撫でる。

「よしよし、君は真面目に育ってくれててお姉さんは嬉しいぞぉ。

 結構時間通りに来ない舐め腐った連中もそこそこいるから、ボクも困ってるんだよねぇ」

「子供扱いしないでください」

 不満そうにその手を払うと、彼女はおやおや、と意外そうな反応をする。

「魔女協会で可愛がられてると思ってたけど、こういう扱いは嫌いかな?」

「…子供扱いは、嫌いなんです」

 ケイの問いに答えに詰まりながらもはっきり答え、彼女は何かを察したように頭を下げた。

「それは悪かった。そういえば、君も外回りをする戦士の一人だったね」

 素直に謝ったことで、ルナの機嫌も少し良くなったところで、彼女はさて、と話し出す。

「まぁ、依頼書で分かってるとは思うけど、今日の仕事はボクらの仕事場の掃除だ。

 早速、作業場に移るとしよう」

 彼女がそういった途端―彼らの周囲に闇の塊が出現し、飲み込んでいった。

 何度か経験している彼女の移動方法に、ヴァンは何の反応も示さないが、ルナは明らかに狼狽えている。しかし、数分経過して何もないことに気が付いてからは、すぐに落ち着いた。

 そうして、更に十分ほどが経過した。心地よい闇に包まれ、眠気に襲われつつあった2人は、突然地面に戻された。

「――む、」

「うわっ!」

 不意打ちのように着地を求められ、ヴァンは問題なく着地したものの、ルナは着地に失敗し、のろめいてから転んだ。

「いってぇ…」

 ルナも軽鎧は身に付けていたので、大きな怪我はなかったものの、腕を軽く擦りむいたようだ。

「油断は大敵だぞ。どれ、見せてみろ」

 ヴァンは呆れ気味に指摘し、ルナの傷口を確認する。大した傷ではないが、念のため右小指の指輪の力を使って、治療してやる。

「これで大丈夫だろう」

 傷1つなく、瞬く間に治療されたことにルナは声を漏らす。

「魔法って…やっぱ凄いな」

「それなら、その力をずっと使えるように、励めよ」

 遠回しに魔女協会の維持について話し、そんな事をしている間にケイが現れた。

「説明を忘れてたね。ボクたちの道具置きなんだけど、普通じゃ入れない場所に作ってた。それで、移動には毎回さっきみたいに、特定の移動方法を使うようにしている。

 ―この事は、他言無用で頼むよ。それについてら契約書にも書いてあるし、破るような真似をしたら、ボクもそれなりの対応をさせてもらうからね」

 笑いながら話すが、その目は一切笑っていない。元より、不気味な存在であるが故に、2人は背筋が凍るような感覚にも襲われる。

 2人に注意を伝えたところで、ようやく部屋の明かりが灯り始め、彼らはその全貌を視界に入れる。

 そこは、100人は軽く入りそうな大広間。密閉空間であるが、不思議と圧迫感を感じることはなく、気温や湿度は過ごしやすいように完璧に調節されているようだ。

 しかし、広さの割には物で溢れかえっているため、別の圧迫感を感じる。特に、目に入るものとしてはナイフやハサミといった、いわゆる刃物が多く、それらのほとんどが血に汚れていた。

「……仕事の内容ってもしかして」

 元々嫌な予感はしていたが、想定以上の惨状にヴァンが素直に聞くと、彼女はにっこり笑って答えた。

「勿論、ここの道具の整備…というより、洗浄だね。仕事で使ってた物なんだけど、どうしても後回しにしがちでね。それに見合う報酬は設定していたんだけど、なぜか人が集まらなくてさぁ、本当に助かるよ」

 道具の管理なんて、商人の基本だというのにいけしゃあしゃあと答える。そして、気がつくと天井からホースが伸びてきており、近くには洗剤やブラシが用意されていた。

「じゃあ、よろしく頼むよ。ちゃんとお昼は持ってくるから、頑張ってね」

 絶望するには間もなく、彼女は言うだけ言って去っていった。


「――すみません、まさかこんな事になるなんて…」

 どんな仕事であれ、任されたものはしっかり遂行する。ヴァンはそう言って、一足先に仕事を始め、ルナもそれに続いて数十分後。想像以上の重労働に付き合わせてしまったことに謝る。

 既に邪魔となる武器や兜を外し、黙々と掃除を進めていたヴァンは、諦めたように答える。

「まぁ、初めてならこんなもんだ。うまい話には、大体裏がある。特にアイツは金払いを渋るようなヤツではないが、それでも尚、好条件なのに、前日の午後でも依頼を請けるやつが1人も居ないってことは、目に見えてる地雷ってわけさ」

 それを分かった上で指摘せず、実際に体験させることで、彼の勉強とする。強引ではあるが、良い勉強になっただろう。ただ、これを単純な作業として見てほしくないため、大事なことを伝える。

「ただ、今回は辛い仕事をした、というだけの経験で終わらせるな。今回、ケイの仕事道具だが、こいつらには血がびっしりこびり付いている。

 俺らの本来の仕事は、血に汚れる仕事でもあるんだから、今回の機会に血の流し方をしっかり学んでおけ。使い捨てるなら構わないが、長く扱って、血を浴びる武器ほど、手入れが重要になるからな」

 如何なる経験も、経験値とするように彼は伝え、淡々と伝えた。

「大事なことだぞ。常に思考し、経験にする。このクソみたいな世間を歩くには重要な考え方だ」

「―はい」

 その言葉を胸に、ルナの手つきが少し変わったのを見て、ヴァンは口元を少しだけニヤけさせて仕事に戻った。



「―いやぁ、随分と進んだねぇ」

 仕事をこなしていき、外の様子もわからないので、どれだけ時間が経ったかすら感覚を失い出した頃、ケイの暢気な声が聞こえてきて2人は現実へと引き戻された。

 仕事に集中している内に、半分以上の器具を洗い終え、至る所に設置されていた棚に並べてある。ケイも満足そうに言いながら、綺麗なテーブルに弁当の入った袋を置いた。

「いい時間だし、一旦休憩にしようか。前に言ってたお弁当も持ってきたからさ」

「―そうか。これだけ片付けてからそっちに向かう」

「俺も。もう少し待っててください」

 作業の手は緩めずに、まずは今洗っている道具の洗浄に集中し、ざっと終わらせたところで、2人はテーブルへと向かっていった。

「で、差し入れは何だ?」

 席につきながらケイに聞くと、弁当と水筒に入ったお茶を配膳しながら答える。

「今日は、ラセルタの焼肉弁当だね。最近、野生の狩られたラセルタを引き取ったものだから、ちょっと肉が余っててね。味は保証するから、良ければ食べてくれ」

「じゃあ遠慮なく、いただきます!」

 待ちわびた昼食に、ルナは元気よく食いつくが、ヴァンは静かに手を合わせてから聞いた。

「俺もいただこう。ところで、この前回収したヤツの肉は使ってないのか?」

「君たちの心情的に使わないほうがいいかなって。あぁいう悪食寄りのは案外スキモノがいるから、心配しないでよ」

「そうか」

 ヴァンは淡々と受け止め、食事を始める。―この世界においても、猿は人と近い種族として認知されており、いくら巨体の猿であっても、それを食べることにはヴァンも少し抵抗がある。それも含めて、"余り物"を使っていないか確認したものの、問題はないようだ。

 ラセルタの肉。普通はなかなか出回らない希少な肉であり、希少取引所(レイディアント)という仕事に従事するケイだからこそ持てる在庫。一般的には貨物の運送に使われる高価な生き物ではあるが、肉もそれなりにうまい。ただ、雑食性故の独特な臭みと希少性から、市場にはなかなか出回らない。

 今回出された焼肉弁当は、しっかり香辛料に浸けて臭み取りもしっかりされており、ラセルタ特有の脂も逃さず内に閉じ込めている。出来立てということもあり、濃いめの味付けがされた肉と米がしっかりとマッチして自然と手が進む。

 食べ盛りのルナはあっという間に平らげ、少し物足りなさそうに天井を見た所で、もう1つの弁当箱が何処からか出てくる。

「食べ盛りがいると思って、余計に作っておいて良かったよ。食べていいよ」

「あ、ありがとうございます」

 少し申し訳なさそうにするも、食欲には敵わない。素直に受け取り、そのまま食べ始める。

「よく食うな」

「おじさんには重たかったかな?」

「…馬鹿にするな」

 ルナに対し、あまり進んでいないヴァンに向け、ケイが煽るように聞くと、呆れつつ答えた。

「元より、俺は食わない方なんだよ」

「でも、食べないと動けないじゃない?」

「まぁ、その辺は何とかしてるから大丈夫だ」

 普段の行動量の割には食べないヴァンは、特にした様子もなくゆっくりと食事を進めていく。そこで、ケイの前には水筒1本しかないことに気が付いた。

「お前も食わないのか?」

「ん? あぁ、ボクはこれだけで大丈夫。特製の栄養剤ってやつさ」

「それこそ不健康の極みみたいな食事だな…」

 時間効率のみを追求したような食事を聞き、流石のヴァンも困惑する。そう言われるも、彼女は特に気にすることもない。

「いやぁ、案外慣れるとこれだけでも満足できちゃうからさぁ。作るのは少し手間だけど、これ1本で1日持たせられるし」

「…答えられるかは知らんが、中身は?」

「必要な栄養素満たす食材全部ぶち込んで味整えてミキサーだよ」

「監獄の飯か何かか?」

 あまりのディストピア飯にツッコミを入れるも、彼女は笑うだけ。

「世の中、効率突き詰めたらこうなっちゃうからね。せめて君たちは普通に生きてくれ」

 何か達観したように見るその目には、一体何が映っているのだろうか。それ以上、余計な追求をすることはなく、彼らは自身の食事に集中することにした。

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