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魔女と竜狩り  作者: 合併
第6節 2人の狩人
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第6節 4

 その後、しばらくの間クリムを介抱してやり、復帰した後、ラセルタを見失った場所に地上から向かう。

「―これは」

 そこで見付けたのは、背は1mほどと低いものの、横に広く作られた入り口。

「随分と大きい巣穴だね。やっぱり、さっきの?」

「だろうな」

 ラセルタも頭を下げれば、入れなくはない巣穴。先ほどの個体はこちらを通って逃げていったのだと思われるが、ヴァンは流石に入ろうとはしなかった。

 観察を続けるヴァンに向け、クリムも聞いた。

「ヴァン、入らないの?」

「この高さの穴に入って追いかけて、出会したら対抗できる術もない。そこからすぐに逃げられるなら話は別だが、そういう場所でもないだろう?」

 ヴァンは冷静に答え、クリムもそれは理解したようで、改めて聞いた。

「その気持ちは分かるんだけど、そうするとどうするの?」

「巣穴経由でこちらに来ているのであれば、こちらも出来ることがある。ただ、この時間から用意は難しいだろうし、一旦休むことにしよう」

 追跡は失敗だが、移動経路が分かってしまえば対策は出来る。それだけでも十分な収穫であると告げて彼女に向き直る。

「さて、ここから戻るんだが大丈夫か?」

「…お手柔らかにお願いします」

 今回の追跡は方角も何も確認せずに走り出してしまったため、迷わないためにも、来たときと同じように、上空から村を探したほうが早い。再び飛翔するため聞いてみると、彼女は嫌々ながらも応じてくれた。

「悪いな。今度は、ちゃんと掴まっていろよ?」

「はーい」

 ただ、行きとは違い、帰りはゆっくり準備する時間もある。右手を塞ぐわけにはいかないので、彼女が乗れるよう、屈んで背中を見せる。

 少しだけ躊躇いながらも、彼女はヴァンにおぶさり、それを確認した時点で軽々と彼も立ち上がった。

「じゃあ、行くぞ」

「大丈夫」

 短く返答をして、彼は右手を空へと向け、飛び上がった。


 空に広がる、藍色の世界。それを照らすのは星々と、青い月だった。

「―良い、景色だね」

 空へと飛び上がり、足場に飛び乗ってから村を探そうとしていた時にクリムが呟いた。

「…悪くはないが、もう見飽きたな」

 ヴァンは淡々と答える。

「それは羨ましいって言ったら怒る?」

「怒りはしない。傍から見たら贅沢なんだろうが、そんな感想はもう出なくなってしまったな」

「大人になったって事かな」

 ぽつり、とクリムが呟いた言葉にヴァンは何も答えない。彼は何も言わないと考え、彼女はそのまま続ける。

「そうやって、何も感じないようにしてるのも、呪いのせいなの?」

「答える義理はないな」

 彼女もそれなりの期間、傭兵をしていると聞いた気がする。そうであれば、ヴァン―金の竜狩りの噂を耳にしたことはあるだろう。

 有能ではあるが、怒り狂うと手のつけられない乱暴者。不本意ではあるが、傭兵組合ではその評価が一般的だ。

 それを知っていれば、ヴァンは普段怒らないよう、感情を抑えていると聞いても納得するだろう。その根本には抑えられない呪いの存在があるが、それをわざわざ答える理由もない。

 他愛もない話であるからこそ、不必要なことは口走らないようにするが、彼女はお構いなしに続ける。

「…言いたくないのは分かるけど、突っぱねられるのはちょっと悲しいな」

「悪かったな」

 悪びれずにヴァンは答え、村を見つけたのでそのまま飛び始める。

「そんな君に聞くけど、魔女ってどう思ってるの?

 協会の利益のために守るべき相手? それとも、父性みたいなもの?」

「俺は魔女協会の騎士だ。前者に決まってるだろう」

 彼の言う言葉に偽りはなく、普段から魔女を守るのも、魔女協会という立場と、師匠に教え込まれた意識によるもの。彼自身が、本心から魔女を守ろうとしたことがあるのか、と言われると彼も答えることはできない。

 彼女も傭兵組合の所属だから、と言うこともあるのだろう。魔女協会では滅多に見せない本音で答えると、彼女は小さく笑った。

「君みたいな人でも、そう思うんだね」

「だからって、魔女を道具だとは思ってない。確かに、魔女が扱う魔法そのものは世話になっているし、必要なものだ。魔法に付随してる都合のいい肉塊なワケがないだろう。

 俺等と変わらず、生きてる人間だっていうのを忘れてるのが多すぎる」

「……、そっか」

 ヴァンの言葉には思うことがあったのか、彼女はヴァンの体をより強く抱きしめ、密着する。一方のヴァンは気にした様子もなく続ける。

「俺らも、"色付き"だってそうだ。与えられた称号だけで見て、個人として見てくれる奴は本当に少ない。

 確かに、俺は竜を狩った狩人だ。それは俺の一面でしかない。更に言えば、お前が噂で聞く、荒くれ者と、いつも女を連れて歩いてるのも俺の一面だ。それ全部をひっくるめたのが、ヴァンっていう"個人"だ。一面だけを見て、全部を知ったつもりになるのは勘違いも甚だしい。そうだろ?」

 きっと、彼女もヴァンと似たような経験はあるのだろう。彼は無感情に淡々と言いながらも同意を求めると、彼女も小さく呟いた。

「そう、だね」

 背中に捕まる彼女の顔は見えない。ヴァンは特に気にすることなく、次の足場を蹴って進んでいく。

 次第に近付いてくる村を見て、何処か見透かしたように聞く。

「…何を隠してるかなんて、俺は聞かない。聞いて欲しけりゃ聞いてやるだけだ」

 彼も思う所はあるが、聞くだけ野暮と考え、ぶっきらぼうに言い切ると、少し拗ねた声が帰ってきた。

「…………、何もないよ、本当に」

「そうか。まぁ、お前もしばらくは此処にいるんだろう? 俺も仕事が終わるまでは居る予定だから、気が向いたら声をかけてくれ。

 お前が構わないなら、こっちからも声をかけるからな」

 淡々と妙なことを口走り始め、それには流石にクリムもきちんと反応する。

「…お節介でも焼くつもり?」

「そんなところだな」

「魔女だから?」

 冷たく言い放つも、ヴァンは首を横に振る。

「いや、お前に、クリムに興味が湧いた」

 無感情ながらもはっきりと伝え、彼女はわざと彼に密着して、耳元まで顔を近付ける。

「他の娘にも、そうやって口説いてるの?」

「さて、どうだろうな」

 問いかけを軽く受け流し、ヴァンは前を向いたまま続ける。

「本音を言えば、最初に話した時から気にはかけていた。何せ、傭兵組合で単独で行動する魔女なんて、よほどの事情がなければいないからな」

「それは、そうだろね」

 魔女の性質上、ペアを組むことはあれど、単独で積極的に活動するのは前例がない。彼女も自覚はしているのか、否定せずに頷いた。

「仕事ではあるが、こうやって同じ現場に居られるなら、是非とも君の色々な目線から知りたいのが本音だ。おかしいか?」

 その声に感情がない故に、どこまで本気かは分からないが、ヴァンなりに本音に彼女も困惑する。

「えぇっと…、」

 それを見て、ヴァンは小さく笑った。

「深い意味はない。同じ、雇われの兵士として気になっただけだ」

 彼はそれだけ言って、忠告する。

「そろそろ村の入り口に着く。着地の衝撃はそれなりにあるから、備えてくれ」

「ん」

 そんな話をしている間にもう村も大分近くになってきており、振り落とされないよう、ヴァンの体を一層強く抱きしめる。

 異性に密着されている状態でも彼は全く気にした様子もなく、右手の角を飛ばしながら空を駆け、元いた焚き火跡を見つけて、そちらに向かって減速せずに飛び降りて行く。

「え…?」

 迷いなく地面に向かって突進していくのを見て、嫌な予感がして彼女が声を漏らす間もなく、ヴァンは地面に直撃する前に前方に角を飛ばして振り子運動をする事で勢いを弱める。そのまま頂点に達して、一番勢いが弱まったところで角を外し、地上から数メートルの位置で、ようやく着地した。

「よし、これで無事到着したな」

 空中での移動に慣れているヴァンはケロッとしているが、ほとんど耐性のないクリムは青い顔でヴァンの背中から降ろされる。最後のアトラクションに一気に生気を奪われたものの、地に足をつけたことで、ようやく余裕が戻ってくる。

「…最後の、アレ、何?」

「普段のノリで着地しようとしたら、背中にお前がいるのを思い出して急いで軌道修正した結果だ」

 恨めしそうに聞くも、彼は白々しく言い訳をする。

「…じゃあ、あたし居なかったらどうしてたの」

「いや、下限に達したところで受け看取りながら着地しようかと」

「……納得はしないけど、ヴァンなりに考えた結果なんだね?」

「あぁ」

 とてつもなく怖かったが、結果的には怪我もなく帰ってこれたので、クリムもこれ以上言いたい気持ちを抑えて、呼吸を整える。

「…君なりに考えてくれたんだし、言いたいことはあるけどちゃんとお礼は言わないとね。…ありがと」

 過程はともあれ、結果としては何の不利益もない。彼なりの気遣いの結果であることは認め、曲がりなりにも礼を伝えると、彼も少し申し訳なく答えた。

「…すまなかった」

「もういいよ、過ぎたことだし。…それでも悪いと思ってるなら、何か食べるものないの?」

 先ほど、食べた物を大体戻してしまったこともあり、少し腹が空いたクリムが聞くと、彼もポーチを漁り始めた。

「携帯食料がまだいくつかあったはずだ。食うか?」

「大丈夫ならもらおうかな」

「分かった、少し待ってろ」



 焚き火の火も完全には消えておらず、火種としては使えたので、そこから火を起こし、再びコップを用意して乾燥させた食料にお湯を注いでスープにする。ただ、水も少なくなってきたので、今日見つけた川から水を汲み、木の皮で作った鍋で蒸留も始める。

 その作業はクリムも手伝ってくれたので、すぐに終わった。

「お前も、こういう心得はあったんだな」

 蒸留した、綺麗な水を水筒に移し替えつつ、少し意外そうに聞くと、彼女も火を眺めながら答えた。

「別に、あたしも街の生まれじゃないからね。というより、狩人の生まれだから」

「そうだったのか?」

 ヴァンの興味を引き、更に深掘りしようとしたところで、それを察知したクリムは話を逸らす。

「昔の話よ。今は、そういう事をしなくていいからやらないだけ。

 そういうヴァンはどうなのよ?」

 彼としては追求しても良かったが、あまり妙なことでこの関係に亀裂を入れることを嫌がり、素直に答えてやることにした。

「俺か? 俺はここみたいに山中に作られた村の生まれだ。

 北にあった小さな村でな、夏季は農耕、冬季は狩猟を主にして、ほそぼそと自給していたところの出だよ」

 懐かしむように、ぽつりぽつりと話し出す。

「まぁ、そこで暮らしてたのは6歳くらいまでだったけどな。それからは、シャバルガンっていう集落で過ごしてた」

「……どうして?」

 当然と言えば当然の質問に、隠すことなく答えた。

「黒竜に、全部壊されたからな」

「……それは……、ごめんなさい」

 特大の地雷を踏んでしまったと理解し、彼女も咄嗟に謝るが、ヴァンは気にしない。

「何も知らない相手に蒸し返されるのは気分と悪いが、こっちも分かって言ってるんだ、気にするな」

 ヴァンも淡々と話し、そのまま続けていく。

「多少の基礎は故郷だったが、今の技術のほとんどはシャバルガンで師匠から教わったモンだな。

 サバイバル、狩りのやり方、傭兵としての生き方―沢山のことを教わった」

 仮に師匠がこの場にいたら、調子に乗っていただろう。それはそれで気に入らないので、敢えて面と向かっては言わないが、彼なりに本心を話す。

「それには、今でも感謝してる。今の俺を作ってるのは、そういった積み重ねだからな」

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