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魔女と竜狩り  作者: 合併
第6節 2人の狩人
131/136

第6節 3

 門番と一悶着を起こしている女性を思い出したところで、ヴァンは思わず声をかけてしまった。

「―クリム」

「ん…? あれ、ヴァン?」

 思わぬ所で自分の名前を呼ばれ、彼女が振り向いてしばらくこちらを見てから、ようやく少し前に出会った男であることを思い出した。

 きちんと覚えられていたことを意外に思いつつ、ヴァンは彼女に近付いていく。

「こんな山で何やってるんだ?」

「何って、仕事よ。まぁ、あたしは戦闘はしないけどね。調査の仕事」

「それで、仕事に集中してたら締め出された訳か」

 ここまでの流れを先読みして聞くと、彼女は鼻を鳴らして答える。

「ふん、正解よ。そういうあんたも、同じみたいだけどね」

 不満そうに彼女は言ってきたので、一応ダメ元でヴァンも交渉してみる。

「そこの、俺もダメか?」

 特に期待もせずに聞いてみると、高台にいる彼も律儀に答えてくれた。

「勿論だ」

「そうか。じゃあ、ここで野宿する分には構わないのか?」

「それならいいぞ」

 彼らが守っているのは門であり、門限を過ぎた者たちが村へ侵入しないように阻む事である。それ故、ここで門が開くまで待機している分には何の問題もないようで、あっさり許可を貰えた。

「よし。許可も貰えたし、野宿でもして時間を潰すか?」

 中に入れないのであれば仕方ない。比較的安全な場所で時間を潰すことを提案すると、彼女は困惑気味に応じた。

「切り替え早すぎない?」

 早速その辺の森から枯れた木の枝や火種の葉っぱを集めつつ、ヴァンは当たり前のように続ける。

「そう言われてもな。調査の関係で夜に動くこともあるし、必要に応じて何処でも野宿するくらいの心得も準備もしている。

 どうせだから、一緒に時間を潰すだろう? お前も焚き火の準備を手伝え」

「…分かったよ」

 ここで下手に話を拗らせて野外の中では危険も低く、快適な寝床から離れる理由もない。彼女も、ヴァンに倣って火種や枝の準備を始めた。


 そして軽く集めた枝に火打石を使って火を起こす。焚き火の準備も終えた所で、ヴァンが手頃な木を切り倒して作った、丸太の椅子に座りながら火を囲んだ。

 残っていた水筒を火にかけて湯を沸かし、余った木で作った簡素なカップに注ぎ、凍結乾燥させていた携帯食を溶かして野菜スープにする。

「ほら、お前も飯は用意してないんだろう?」

 元々村に戻るつもりであれば、中で済ませる予定だったのだろう。少し羨ましそうにこちらのカップを見ていた彼女に、まず先に作ったスープを手渡す。

「え、いいの?」

「今用意できるのはこのくらいだが、それでも構わないなら」

「いや、十分だよ。ありがと」

 彼が気を利かせて分けてくれたものを、無碍に扱うわけがない。礼を言ってからカップを受け取ると、そのまま固まっているヴァンに気が付いた。

「どうしたの?」

「…………いや、それが普通の反応だよな。気にしないでくれ」

 クリムとしては当たり前の事ではあるが、ヴァンにとってはとても珍しいことらしい。彼もあまり聞かれたい様子ではないので、それ以上は追求せずに有り難くいただくことにした。

 風よけも何もない山での野宿。少し肌寒い風が通るものの、焚き火の炎とスープのおかげで温かい。ちびちびと飲みながら、ぽつりと呟いた。

「あったかいなぁ」

「そうだな。ただ、少し薪が足りんな。ちょっと切るか」

 椅子にするために切り落とした木の残りをバラすために、彼は立ち上がる。ただ、生木のため、煙が出る可能性が高いので、声をかける。

「ついでに、風上に移っておけよ。煙が出るぞ」

「はーい」

 他愛もない会話をしながら、サクッと木を細かく切り分けたヴァンは、その破片を適当に投げ入れ、薪を持って、元の場所に戻る。

 ぱちぱち、と爆ぜる音を鳴らして煙を上げる火を見ながら、彼は少し冷めたスープに口をつける。

「普段は、あまり野宿はしないのか?」

「1人ならね。わざわざ、夜に出歩くことはないし」

「そうか」

 淡々と答えるも、夜間の出歩きを避けるのも、彼女が魔女であることも大きな要因だろう。彼らを見ているのは、門番だけだろうが、誰が聞き耳を立てているか分からない。不用意にクリムが魔女であることを口に出すのはあまり良くないだろう。そう考えた上で素っ気なく答えると、逆に彼女が聞いてきた。

「そういうヴァンは? 見たところ、大分慣れてそうだけど」

「俺は夜通し外で動いていることも多いからな。虫除けの香とか、火打石は常備するようにしている」

 誇ることではないが、隠すようなこともない。淡々と答え、改めて話の本題に戻ることにした。

「それで、調査の仕事で来ていたと話していたが、それなりの成果はあったのか?」

「…いや。それっぽい足跡を見つけたくらいだね」

「そうか。こちらもそれくらいの痕跡しか見つけられなかったな。強いて言うなら、少し離れた所に川が流れていたくらいか」

 お互い、有益な情報はないからこそ、彼なりに気になった情報を共有しておく。話はそれだけでは終わらず、川の話を聞いて彼女も思い出したことを話してくれた。

「川って言えば、この村も川から生活水を引っ張ってるって聞いたね」

「……まぁ、結構な畑や果樹園を構えているからな。川から引っ張ってこなきゃ、賄えないだろう」

 そう言われると、この村にも引き込んだ用水路があってもおかしくはない。ただ、軽く見た限りでは、そんな水路は見当たらなかった筈だが。

「…地下に水路でも引いてるのか?」

「聞いた話だと、地下水脈の上に作られた村みたいだから、そこから引っ張ってきてるみたいだよ?」

「成る程な。じゃあ、ここ以外にも繋がってる水脈がある可能性もあるってことだな?」

 彼女の話を聞いて、伝えんとしている意図を理解して聞き直すと、彼女は少し困ったように笑った。

「そういうことだね」

「調査のやり直しか。下手に目の前のことだけに集中して、目が曇ってたみたいだ。

 有益な情報、助かるよ」

 水源が1カ所に固まっているわけでないなら、川に固執して調査しても無駄骨になる可能性もある。地道に調査をするべきと考えを改めた所で、彼は飲み干したコップを焚き火に投げ入れてから立ち上がる。

「じゃあ、俺はそろそろ出るぞ」

「何処に?」

「調査だが?」

 不思議そうに聞く彼女に向け、ヴァンは当然のように返すと、露骨に嫌そうな顔をする。

「うら若き乙女を1人で放置するの?」

「お前も別に戦えるだろう…それに、調査を終えたら戻ってくるつもりだが」

 あからさまな反応をする彼女に向け、ヴァンも面倒くさそうにするが、引くつもりはないようだ。

「何かあったら、寝覚めが悪くならないの!?」

「いや、それほど」

 クリムも魔女であり、協会として見れば、保護対象ではあるもものの、女1人で当然のように単独行動をしている彼女が簡単にやられるようには思えない。魔女の騎士団(オルタレイト)ではなく、1人の竜狩りとして心配はいらないと思っていたのだが、置いてかれるのを拒む彼女は指を突きつけて告げた。

「それならあたしも着いていくよ」

「まぁ、邪魔をしなきゃ構わないが」

 ヴァンとしても特に断る理由はなく、彼女の要求に二つ返事で答え、戻ってきてから再度火をつけ直すのが面倒なので、最低限の火の番を門番にお願いして、2人は調査に向かうことにした。


「――ありがとね」

「ん?」

 門番から離れ、少し後ろに着いてきていたクリムは、急に礼を言って、ヴァンも何事かと振り返る。

「あたしが魔女ってこと、敢えて話さなかったんでしょ?」

「あぁ…気付いてたのか」

 不自然に会話を止めないように注意はしていたのだが、聞く側としては違和感を感じたのだろう。見事に看破されていたことを誤魔化すことなく、彼は続けた。

「下手に魔女とバレて、良いことはないだろう。特にお前も単独行動を好むならな」

「…そうだね」

 1人でいるということは、何かあった時にそれで全てが終わってしまうということ。魔女という存在はとても狙われやすく、それでも1人で行動するということは、よほど自信があるか、1人でこなせるような安全な依頼だけを受けているのだろう。

 彼女も重々承知しているのだろう、面倒そうにそっぽを向いた所で、小さく鼻で笑った。

「それに、俺も1人のほうが好きだからな、分からなくはない」

「1人でいるのが多いのは、人が嫌いなわけじゃないの?」

「勿論、誰かとツルむのが嫌いというのもある。仕事の関係で、誰かしら連れていることは多いがな」

 魔女協会のメンツでなければ、特に支障はないため本心を隠すことなく話していたところで、ヴァンは足を止める。

「わぷ」

 ちゃんと前を見ていなかったクリムが彼の背中にぶつかり、変な声をあげる。ヴァンは全く気にせず、彼女を前に出さないように腕を広げる。

「静かにしろ」

 機械的に彼は告げ、クリムも口答えせずに彼に促されるまま屈んで暗闇の先にいる相手を見ようとする。

 それは、六本脚の大きなトカゲ。侵入を防ぐための柵をじっと見ており、入り込めそうな隙間を探しているが、しっかり組まれた柵にそんな隙間はない。

 トカゲ、ラセルタは柵をじっと見つめたあと、数歩近づいて、頭で軽く柵を小突くが、ビクともしない。1つの脚を4本の支えでガチガチに固めているため、当然と言えば当然であるが、ラセルタは何度か小突いてから、力尽くで壊そうとしたが、その前に反応してしまったクリムが物音を立ててしまった。

 その音が聞こえた途端、ラセルタは近くに人がいることに気付き、すぐに森に逃げ込もうとする。

「…ちぃっ!」

 それをすぐに理解したヴァンは、背中にいたクリムを片手で担ぎ上げ、右手を高く伸ばして空からの追跡に入る。

「ぅえ"ぇぇっ!?」

 突然担がれた挙句、一気に上昇するGをかけられ、彼女も呻くような悲鳴をを漏らす。

 ヴァンもそれは聞こえていたようで、空へと上がりながら器用に抱き直し、彼の肩によりかかれる形へと姿勢を正した。

 普段よりも1人分重い状態であるにも関わらず、彼の動きは普段と何ら変わらず、木々をざわめかせながら逃げていくラセルタを追っていたが―突然、その痕跡がなくなった。

「……?」

 突然消えた反応に気付き、ヴァンもそれ以上の追跡はせず、痕跡が消えた場所をじっと見ている。そんな事をしている間に、先ほどの衝撃で咳込んでいたクリムがヴァンの背中を叩いた。

「ちょっと…! いきなりそんなことされると…吐くから…!!」

「―あぁ、悪いな。逃がすわけにはいかなかったが、お前を置いておくわけにもいかなかったから」

 そこでようやくクリムに先ほどの行動の理由を伝えるも、青い顔をした彼女はそんな事を聞いていない。

「とりあえず、降ろして…!」

「あぁ、少し待ってろ」

 必死の懇願に、彼もゆっくり地面へと降りていくと、彼女は木にもたれ掛かって先ほど食べたものを吐き出した。

「うぇぇぇぇえ……」

「……なんか、悪かったな」

 ヴァンとしては善意でやっていた筈だが、完全に裏目になってしまい、素直に謝った。

 ヴァンの言い分も聞けるくらいにはまだ余裕もあったのか、とりあえず1度吐き出したら楽になったようで、息を切らしながら口元を拭った。

「……一応、分かってるから大丈夫、だよ。でも……」

「でも?」

「せめて、一言は欲しかったなぁ」

「それは、本当に申し訳なかった」

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