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魔女と竜狩り  作者: 合併
第5節 シャバルガン
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第5節 幕間 後編

 ―その後、無事に人里に辿り着き、ヴァンの案内にて、初めて転移石を使用し、王都に辿り着いた。

 初めて訪れた外の世界に興味を抑えきれない様子はあるが、ヴァンはすぐに2人を魔女協会の本部に連れて行く。

 そこで丁度、受付で事務仕事をこなしていたマスターと出会した。

「マスター、ただいま戻りました」

 ヴァンがその姿を確認したところで声をかけ、それに反応した彼女は振り向いて、シルに気がついた。

「お帰りなさい。―それに、知らない男の子ね。名前は何ていうの?」

 彼女は静かに聞いてきて、シルは少し躊躇ったのを見て、彼女は思い出したように名乗りだした。

「っと、こちらから先に名乗るのが礼儀ね。

 私はプラナ。この魔女協会の会長で、皆からはマスターって呼ばれてるわ」

「―! 失礼しました、僕はシル、シルヴァルディです」

 ここ、魔女協会のトップであると聞き、シルも慌てて名乗り返すと、彼女は笑った。

「構わないわ。その背中で眠っている子が、魔女ね?」

 ヴァンかりは何も聞いていない筈だが、的確にやってきた経緯を見抜かれており、隣にいるヴァンが捕捉した。

「そうだ。それと、シルも魔女協会に所属したいと話している」

 魔女の保護だけではなく、シルの入会希望を聞いて、彼女の目の色が変わる。

「そうなの? それなら、面接とさせてもらおうかしら。ヴァン、人払いをお願いね」

 早速立ち上がりながら、話を進める彼女の行動は予想内なのだろう。ヴァンは既に外に向かっており、静かに扉を閉めた。

 それを確認しつつ、彼女はゆっくりと近付いてくるが、少なくとも敵意はない。シルもわざわざ動かない―否、動けないことに焦りながらも、平静を装って彼女の目を見る。

「結構、警戒する子が多いからいつも魔法で縛り上げてたんだけど、見た目よりも肝が据わってるのね」

 彼女は淡々と聞いてくるが、シルは隠すことなく答える。

「焦ってますよ。そういう風には見せないようにしてるだけで」

「…そう。聞くだけ聞くんだけど、君って訓練は受けてるの?」

 彼女の質問の意図が分からず、少し考え込むが、比較的すぐにその意図を理解して答える。

「…? あぁ、少し教育は受けてますよ。

 一応、村の跡継ぎだったので」

「なるほどね。その技術は、忘れないほうがいいわよ。君個人の利益を守るためにも必要だから」

 そう言いながら、彼女は目と鼻の先まで近付いており、口を閉ざして静かに目を閉じる。

 何か、妙なことはされている気はしなかったが、しばらくすると、彼女は目を開いて離れる。

 そして、両手を広げて結果を伝えた。

「――うん、合格よ。魔女協会の長として、シル、貴方を歓迎するわ」

「ありがとうございます。…でも、何もしてなかったんですけど良いんですか?」

 とても早く終わった面談に、シルも困惑気味に返すと、彼女は悪戯っぽく笑って答えた。

「大丈夫よ。さっきので、君の記憶も、考えも読ませてもらったから」

「!?」

 突然の言葉に驚きを隠せずにいると、彼女は人差し指を鼻の前に当て、笑っていた。

「他の人には言っちゃダメよ? この魔法は、この国の王にも言ってないんだから」

「えぇ…」

 とんでもない暴露に困惑していると、受付後方にある扉が開き、真っ黒なドレスを纏い、顔は同じく黒いヴェールで隠した大きな女性が入ってきた。彼女も、シルの姿を確認したものの、何も言わずに近づいてきて、マスターが答える。

「そうね、今面談してた新入りの子。…折角だから、オルタが面倒見る?」

 オルタ、そう呼ばれた、シルよりも大きな女性は、無言でこちらを見ていたところで、彼に背負われているゴルの姿に気が付いた。

 やはり何も声には出さないものの、マスターとは何やら会話をしているようで、彼女が続ける。

「そういうことよ。本気で守ろうとするなら、オルタの指導のほうがいいでしょう?」

 詳しい話は分からないが、この女性がシルの世話を見てくれるということなのだろう。そのまま、しばらく様子を見ていると、話も纏ったようでマスターが話しだす。

「何となく察してそうだけど、君の訓練はこの子、オルタが見ることになったわ。

 ここに所属してる魔女の1人だけど、ウチの保有する自衛組織、魔女の騎士団(オルタレイト)の団長に当たる人よ。

 色々あって声は出せないけど、魔法で声を伝える事もできるから、この子が触ろうとしてきたら拒絶しないであげてね」

 そう言われ、2人は先ほどまで魔法で会話していたことを理解し、オルタも一礼してから手を差し出してくれたので、シルも握り返すと、頭の中に少し低い、女性の声が響いた。

『よろしくお願いします』

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 お互いに自己紹介を終えたところで、シルは気になったことを聞いた。

「ところで、ヴァンは呼び戻さなくてもいいんですか?」

「…あー、」

 当然と言えば当然ではあるが、ヴァンの名前を出されて、マスターはバツが悪そうに目を逸らす。

 何も知らないオルタとシルは首を傾げる。ただ、マスターは黙っているのもそれはそれで不義理と判断したのだろう。彼女は諦めたように答える。

「ヴァンはきっと、来た道を戻ってるわ。―魔女は回収したからこそ、今後の懸案をなくすためにね」

「……!!」

 魔女協会としてみれば、当然の行動。形はどうあれ、今回、村ぐるみで魔女を道具として扱う所から魔女を誘拐してきた。つまりそれは、魔女協会からの宣戦布告のようなものであり、その実行犯でもあるヴァンが、先制攻撃のために出ていったと理解し、シルはすぐに動き出そうとしたところでマスターが止めた。

「気持ちは分かるけれど、君にはヴァンを止める言葉があるの?」

 彼女も、わざと、意地悪に聞いているのもあるだろう。2人にとって、故郷の存在は呪いのような物だったのだから、それが消える分には何も悪いことはない。それでも、シルにとっては掛け替えのない故郷でもあるのだ。

「…僕が、始めた物語ですから」

 だからこそ、自分で決着をつけたい。合理的でも何でもない、シルの本心を聞いて、マスターは諦めてオルタの方を見た。

「…仕方ないわね。魔女協会の会長として、正式に依頼するわ。オルタ、シル。2人であの子を止めて来なさい。そこの魔女は、こちらに任せていいわよ」

「…ありが―! うわっ!!」

 その言葉と共に、背中の籠を奪われて床に置かれたと思ったら、彼の体をオルタが抱きかかえ、そのまま颯爽と走り出していた。


 気恥ずかしさはあるものの、自分では到底出せそうにない速度で駆けていくのを見て、諦めて受け入れる。ただ、彼女の顔を見上げる形は、隠されていたヴェールの下側が、過去の実験によって焼き潰された口や、削ぎ落とされた鼻、抉られた目が嫌でも見えてしまう。息一つ切らさずに走りながら、彼女は申し訳なさそうに声を伝える。

『ごめんなさいね、綺麗な顔じゃなくて』

 自嘲気味に笑う彼女に、シルも言葉が出ない訳では無い。

「――いえ。気にしてない…訳じゃないですけど。魔女だからといって、皆が皆、幸せだった訳じゃないんだなって…」

 そこから流れる感情は、同情でも恐怖でもなく、安堵。オルタ自身、古い魔女であり、古い時代だったこそ、死にたくなるほどの悪夢のような現実を見てきた。この数百年の間でそれが正されたかと言うと、必ずしもそうではない。虐待を受けて魔女協会に保護された者、ゴルのように道具としての生を運命づけられた魔女も、多くはないものの、少なからずはいる。そんな過去があったとしても、今はこうやって生きていられることを知り、彼は安堵したのだろう。

『――名前、シルって言うんでしたよね』

「ええ、僕はシル、シルヴァルディです」

 突然名前を聞かれ、素直に答えたのも彼女として好印象だったのだろう。走りながらも、彼女ははっきりと伝えた。

『気に入ったわ。この私が、責任持って育ててあげる。それこそ…"解放の王"と、謙遜ないくらいの戦士に』

「…? よ、よろしくお願いします」

 この国の生まれではないシルには、三英雄の話をしても寝耳に水だろう。それでも、形式的に答えていた。



 ――そして場面は変わり、2人で談笑しながら歩いていた山道に辿り着くと、木々をなぎ倒し、荒らし回った道の中心に、腰を抜かしている男に右手の角を突き出しているヴァンがいた。

「――ヴァン!!」

「……、シル」

 聞き覚えのある呼び声にヴァンが反応してこちらを見るも、右手は微動だにしない。

「何をしに来た?」

 変わらず無感情に聞いてきて、シルは隠さずに答える。

「君を止めに来た」

 それを聞いて、しばらく沈黙していたと思ったら、肩を震わせて笑い出した。

「ふ、ふふふ…! 面白いことを言うな、お前は」

 とはいえ、その声色は一切動いていない。すぐに、彼は角を男の首に突き刺して、息の根を止める。吹き出す血しぶきを足に受けながら、彼は改めて聞いた。

「何故止める? これは、お前にかけられた"呪い"のはずだ。このまま放っておけば、いつか後悔するぞ」

「分かってるよ。だからって、僕が精算すればいい話だ」

「簡単に言ってくれるな。お前に、その精算を果たす覚悟があるのか? 簡単に言うが、その精算とは、一族郎党皆殺しだ」

 次代への禍根を残さないために、女子供関わらず族滅する。それを、目的のためならヴァンは果たすことができる。だからこそ、果たせる者が、それを果たすべきだというのが、彼の意見なのだろう。それでも、シルは引かない。

「全部の発端は僕だ。それを他人に代わりにやって欲しいとも思ってない」

 ヴァンなりの気遣いであることは分かっていても、クソ真面目な性格がそれを許さないのだろう。断固として拒否をするシルを見て、彼も呆れたようにため息をついた。

「……お前がそこまでいうなら、その覚悟を見せてみろ」

 そう言って、彼は腰に付けているポーチから何か取り出し、それを投げ渡す。受け取って確認してみると、それは鞘にしまわれた刃渡り15cmほどの短剣。

「今ある得物はそれくらいしかない。それで、俺を殺すくらいの覚悟を見せてみろ」

「……、そういう、ことか」

 ヴァンの言葉に疑問を覚えるが、今回の件の責任を持つと言うことは、女子供だけではなく、家族や友人をもその手にかける覚悟を見せること、ということなのだろう。少なくとも、今、ヴァンに対して敵意を抱くことは難しい。それでも、その刃を突き立てることができるなら、彼も口だけではないと認める、ということだ。

 即座にその意図を理解して鞘から短剣を引き抜き、ずっと後ろで待機していたオルタに渡す。

「――、」

 ヴァンも何か言っていた気がするが、意識を集中させる。五感を全て目の前の"敵"に集中し、余計な考えを全て消し去る。

「……コイツ、」

 その変貌に気が付いたヴァンが身構えるよりも早く、シルは足を踏み出した。

 大きく踏み出した足は、1歩、2歩で間合いへと入り込み、ヴァンの首元めがけてその手が伸ばされる。構えが間に合ったヴァンが咄嗟に回避し、一切の迷いのない突きに冷や汗をかいている間にシルはこちらを向いていた。

 再度接近し、短剣で斬りつけようとするが、その動きに合わせてヴァンも爪を構えるが、その動きを目視した上で軌道修整。その盾をかわすように逃がした上で、ガードの外側から腕を振り上げ、その薄い服を切り裂いた。

 元々薄い生地の服は簡単に裂かれ、雪のように白い肌が顕になる。直撃は避けられたものの、ヴァンも予想以上の動きに、考えを改めて腰を落として、右手を引き、左手を盾のように突き出す構えをとる。

 そして再度ぶつかろうとした2人の隙間に黒い塊、オルタが入り込み、軽々と投げ飛ばした。

「うぉ!!」

「ぐっ!!」

 地面を転がって受け身を取ったヴァンに対し、シルは受け身に失敗し、背中から地面に直撃する。

 その衝撃で落ち着いた2人を確認し、珍しく魔力で発声したオルタが仲裁する。

『この辺りで構わないでしょう。ヴァンも、煽るにしても止まれるくらいの理性を持ちなさい』

「……悪いな。久々に歯ごたえのある奴だと思ったら嬉しくてな」

 ヴァンも素直に謝り、立ち上がったところでシルの元へと歩いていき、痛みに悶えてる彼に手を差し伸べる。

「ほら起きろ」

「……今ので、合格かい?」

 その手を握って立ち上がりながらも、そんな事を聞いてくる生真面目な彼に、ヴァンは小さく笑った。

「そうだな、合格だよ。

 ――その"呪い"は、お前に預ける」

「……?」

 ヴァンの言い方―呪いへの執着とも言える拘りに彼は疑問に覚えるも、まずは自分の故郷が、自分の知らないところで滅ばなかったことを喜ぶことにした。



「――これが、僕とヴァンの出会いかな」

 すっかり紅茶も冷めてしまったが、残った分を流し込みつつシルは語り終えた。

「……ヴァン兄って、結構いい性格してるよね」

「そうだよ。…ま、ヴァンも、呪いってのがなければもっとマシな生き方を出来たんだろうね」

 そこで話は終わりと思っていたが、ルナは聞き忘れていたことを思い出した。

「でも、ヴァン兄を贔屓するのはそれだけなの?」

 拾ってもらい、故郷の後始末を任された。ここまでの話を纏めるとこれだけとなるが、彼を特別視する理由としては弱く感じる。それを聞いて、彼は力なく笑う。

「…助けてもらった、故郷のことを自分で片付ける機会を与えてくれたのは、ほんのひとかけらさ」

 ―ただ、改めて聞かれると、回答に困ってしまう。だから、シルはこう締めくくった。

「―難しい話は無しだ。ヴァンはいい奴だろう? だから、僕も力になりたい。それだけだ」

 逃げるような回答に、ルナも納得はしないものの、シルの意見は理解できたので、素直に受け入れた。

「…納得はしないですけど、俺も、ヴァン兄のことは好きですから。わかりますよ、その気持ち」


 ―己が呪われてるからこそ、他者の呪いを許せない。その為なら、自分が不利益を被ろうと構わないその生き方が、心配で仕方ない、なんて言えない。

 だからこそ、シルも本心だけは心の内にしまっていた。

おまけ


 シャバルガンにて。

オーキス「ところで、ヴァンは彼女とかできたの?」

ヴァン「できるわけねぇだろ」

オーキス「で、本当は? 我師匠ぞ?」

ヴァン「本当も何も作る気もないし、協会では俺への恋愛禁止令出てるの知ってるだろ」

オーキス「でも、外で会ってるイケメン女子がいるって聞いたけど?」

ヴァン「あぁ? ……あぁ、ウルリッヒか。あいつはただの情報提供元だぞ」

オーキス「つまりお遊び…ってコト!? かわいそうね!!!」

ヴァン「うるせぇ。元よりレンタル彼氏だって契約でやってんだよ」

オーキス「でもヤることヤッてるんでしょ?」

ヴァン「あっちがやりたきゃ付き合ってるだけだが」

オーキス「責任取る気はないの?」

ヴァン「ない」

オーキス「ヤリ逃げなんて酷くない?」

ヴァン「そもそも避妊してるし取る責任なんてないだろ」

オーキス「体は弄んだんじゃないの!」

ヴァン「なんか今日の師匠めんどくせぇな。

 おい、その飲み物中身なんだ」

オーキス「これは私が気持ちよくなるものなのぉ!!」

ヴァン「やっぱ酒じゃねぇか!!!

 おいルナ! レルベア! 一緒にこのバカ取り押さえるの手伝え!!!」

ルナ「…はーい、」

レルベア「師匠、あんたまた俺の酒盗んだのか!!」

オーキス「いっぱいあるんらから、ちょっとくらい良いじゃないのぉ!」

レルベア「大量に使うんだから沢山持ってくるに決まってんだろバカ!」

オーキス「みんなぁ〜!! 先輩たちがいじめるぅぅぅう!!!」

ヴァン「うるせえぞ酔っ払い!!」

レルベア「いいからそのコップから手を離せ! アンタの酒じゃないんだよ!」

一同(師匠…楽しそうだなぁ)

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