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魔女と竜狩り  作者: 合併
第5節 シャバルガン
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第5節 幕間 中編

 ―ファウンテンの領地から山を一つ越えた先にある森。日が昇り始めているが、近くの人里はまだ離れており、安心はできない。

 足もなく、最低限の食事だけを与えられていたため、とても軽いゴルは、シルが自作した籠に括り付けられたまま眠っていた。

 外に出たときははしゃいでいたが、時間も夜だったため眠ってしまったのだろう。その間も道を歩き続けていた、まだ顔つきこそ20にも満たないが、身長だけは180cm近く、体つきもがっしりとしており、遠くから見ても大きな体をしている青年―若き日のシルは、その顔に疲労を濃く見せていた。

 それもそのはず、いくら軽くとも、人を背負って夜通し歩き続けているのだ。ただ、魔女を誘拐して逃げ出したとなれば、間違いなく追っ手が来る。それから逃げるためにも、早く近隣の人里に逃げ込み、助けを求めなければならない。

 そう焦る気持ちはあるものの、シルの体も限界が近い。別に仮眠を取った訳でもなく、ろくに休憩もしていないで動けるほど人間の身体は都合よく出来ていないのだから当然だろう。

「…………、」

 限界を悟り、少しの間だけでも休もうとしたその時、人が歩いてくる足音が聞こえ、シルは反応する。

 荷物になるため武器の類いは持っておらず、頼りになるのはこのデカい体だけ。この辺りに山賊が出るような話は聞いていないが、こんな山道を通るような商人は滅多におらず、旅人だとしてと魔女がいると知れば、襲いかかってくる者もいないとは限らない。

 シルも最大限の警戒をした上で道を歩いてくる人影を注視していたところ―シルよりも、大きな人影が歩いてきた。

 それは、滅多に見ない異様な姿。頭は鋼鉄製の兜を装着しており、きちんと防御しているが、首から下は防御力皆無の布製の服であり、右手にはリールに取り付けられた角、左手には鋭利な鉤爪を付けた男だった。身長こそ、遠くから見ても分かるほどには大きいものの、線は細く、戦闘になったとしても、大きな脅威にはならないように見える。

「――――、」

 山道でこちらを警戒しているシルたちに、男も気が付いたようだ。ただ、戦闘準備も何もすることなく、静かにこちらへと近付いてきた。

 そして間近に迫ってきたところで、静かに声をかけてくる。

「今日も良い朝だな。それで、君たちは旅人かな?」

「そちらこそ、何者ですか」

 少なくとも、敵意はない。武器の装備はしているものの、リーチの短い武器であり、少なくとも先手を取れれば制圧できる可能性はある。シルも警戒しながら相手に質問すると、彼は静かに答えた。

「少し、この辺りに仕事できた傭兵のようなものだ。逆に君たちこそ、こんな山道で何をしている? その格好…何処かの護衛にしては軽装すぎるし、後ろに担いでる子は…足がないのか?」

 彼が背負っているゴルに気付いたのを見て、シルは怪しまれないように答える。

「…いや、この子は元からこういう生まれなんだ。だから、僕が連れて行ってる」

 シルの申し出に、彼は無感情な声で笑った。

「それはそれは。なかなか殊勝な心がけじゃないか」

 そして、突然声が凍りつく。

「ところで、この辺りの村に、生まれたばかりの娘の足を切り落として監禁するという場所の話を聞いたんだが、君は何か知らないかな?」

「――――!!」

 その言葉と同時に向けられた敵意にシルの反応が遅れ、一瞬躊躇ったその隙を突いた男の爪が、シルの首元に当たる。

「余計な動きはするな。無用な殺しをするつもりはない」

「……!!」

 シルは観念して力を抜いて地面に座り込むと、男も爪を引いて再度名乗った。

「―俺は、魔女協会所属の竜狩りだ。今回、仕事の依頼を聞いて、この辺りにやって来た。まぁ、こんな掘り出し物が見つかるとは思ってなかったがな」

「……魔女、協会?」

 気になる単語を繰り返し呟くと、竜狩りと名乗った男は構えを解いて聞いた。

「なんだ、聞いたことがないのか? いや、王国に関与してなければ知る由もないか。

 ―わかりやすく言えば、各地にいる魔女を必要に応じて保護する組織だ」

 魔女の保護、その言葉を聞いて、シルの目に生気が戻る。

「それは、本当か?」

「一応聞くが、お前の背中にいるのが魔女なんだな?」

 シルの反応から、件の村にいる魔女がこの場にいると理解した竜狩りは、改めて目線を合わせ、聞いてきた。

「話を、聞かせてもらえるか?」



 ―ただ、追っても来ているため、山道で長々と話をするのは危険だとシルが伝えると、その理由も聞かずに、竜狩りは少し道から外れた森を進み、天然の広場を見つけたところで、冷たい水の入った木製の水筒を投げ渡しつつ話し出した。

「―飲むといい。毒はいれていない。

 それで、追っ手が来ているということは、お前たちは逃げ出してきたのか?」

 慣れた手つきで虫除けの香を焚き、近くの枝に引っ掛ける。周囲に独特の匂いが漂い始めた頃に、シルは静かに身上話を始めた。

「――――なるほど。大体は理解した」

 本当に簡潔に話を終え、その少ない情報だけでも竜狩りは大まかな流れをを理解した。その言葉の後、改めて名乗り出す。

「改めて、名乗ろう。俺はヴァルハルト、周りからはヴァンと呼ばれているし、そう呼んでほしい。お前が望むなら、その子の保護を提案させてくれないか?」

「…!」

 偶然にしては、出来過ぎた奇跡。こんな所で、望んだ助け舟が出てくるとはまたとない好機ではあるが、それ故にシルは信じられずにいた。

「その申し出は有り難いが…まだ、君を信じられない」

 人によっては怒り出しても仕方ない言い方にも、彼は無感情に答えた。

「そうか。であれば、どうすればお前の信用を得られる?」

「……、」

 村の長となるため、少なからず対人面での教育を受けていたが、彼の返しは想像していないものであった。それも、故郷では如何に少ない損失で利益を得ることを求められていた故に、どちらかというと交渉術に近い。今、ヴァンと名乗る男が出しているのは、シル個人への信頼の対価。悪意がないと証明を求められ、シルは回答に悩む。

 それを見かねてか、彼は何処からか取り出した、温かくなった野菜スープが注がれたマグカップを持っていた。

「信用というものは、築くのは難しい。一時の担保として出せるものは、このくらいだ。後ろの子に飲ませてもいいか?」

 逃げ出す前準備こそしていたが、その後の食料や水の準備は何もしていない。その無計画を見透かしたかのような言葉には流石に反応する。

「その前に、毒味をしてからだ」

 当然と言えば当然の答えに、彼は気を悪くすることなく頷く。

「それもそうだな。じゃ、一口いただくぞ」

 ヴァンはそう言って兜の蝶番を外して口を露出し、シルの眼の前で中身も含めて一口含み、しっかり咀嚼して飲み込んだ。しばらくして、何の反応もしないことから、再度聞いてくる。

「どうだ? これで信用したか?」

「……、そうだね」

 ここまでされた以上、拒否する理由がない。シルは仕方なく背負い続けていた籠を降ろし、未だに眠り続けていたゴルをヴァンの前に差し出す。

 彼は静かに彼女の鼻先にスープを近付けていくと、その香りに釣られて反応する。

「んぅ…?」

 それを見て、薄目を開けていた彼女の口元にスープを持っていくと、無意識に飲んでいく。ゆっくりと喉を通っていくも、元々まともな食事を与えられていない彼女には量が多かったようだ。

「やぁ…!」

 しばらく飲んだ後、赤子のように拒絶したのを見て、彼はそれ以上は無理強いせず、すぐにカップを遠ざけて残った中身は捨ててしまった。

 食事の刺激で彼女もまた目を覚ますかと思いきや、ヴァンが軽く手をかざしてやると、そのまま眠ってしまった。

「良く効いたな」

「…お前、何か盛ったのか…!?」

 それを見て、彼が小さく呟いたのを聞き逃さずにシルが指摘すると、彼は蝶番をかけ直しつつ答える。

「軽い睡眠剤を、な。魔力を注ぐことで薬として機能する代物だ。どうせ毒味を強要されるだろうから、苦肉の策だ」

 信用を損なう可能性もある指摘に、彼ははっきりと答え、逆に聞き返した。

「逆に、この子の御守りをしながらこの先も進むつもりか?

 この籠は見たところ、しっかり作られているし、安全な場所に到着するまでは大人しくしてもらった方が安全だろう」

「ぐ…!!」

 確かに、精神年齢は赤子と何ら変わらない彼女が起きた状態で移動しようにも、不必要な手間がかかる可能性のほうが高い。自分よりも関わりが薄い相手に正論をぶつけられてしまい、彼も悔しそうに唸る。その一方で、ヴァンは無感情に香の火を消し、再度爪と角の状態を確認しつつ続ける。

「優先事項を見失うな。少なくとも、お前の今の使命は、その子を安全な場所まで送り届けること。それの為なら、俺は助けになれる。

 意固地にならず、使えるものは使うくらいの柔軟性は持て」

「本当に、信用していいのか…?」

 ここまで行動で示されても、完全な信用は出来ない。それは当然のことであり、彼は一切声色を変えずに断言した。

「俺には信じる神も、祈る神はいないが、魔女協会の竜狩りの名において、誓ってやる」

 そこまで言ってから、呆れたように彼はため息をついた。

「―そもそも、そうでないなら、さっさとお前を殺して魔女を連れて逃げた方が賢いだろ」

「…確かに」

 実際、出会い頭に殺されかけたことを思い出し、今も生きていることこそ、敵意はないと言っているようなものである。正論を叩きつけられ、シルも大人しくそれを信じることにした。

 ―その後、方位磁針を持つヴァンに先導を任せつつ、2人は色々なことを話していた。

 村のこと、ゴルのこと、そしてシルのこと。特にヴァンは、シル自身のことについて詳しく聞いていた。

 それに対して、シルも特に隠すことなく話していた途中で、ヴァンは静かに聞いてきた。

「――それで、お前はこの子を魔女協会に渡した後はどうするつもりだ?」

「この後…?」

 そう言われ、シルも回答困る。元々、彼の目的はゴルをあの異常な村から連れ出し、安全な場所に送り届けること。

 それを果たした今、シルに目的はない。その質問に黙り込んでしまったのを見て、彼は変わらない様子で聞いてきた。

「それなら、お前も魔女協会に来るといい。経緯はどうあれ、お前は婚約者のようなものなのだろう?」

 ヴァンはシルのことを想ってこう言っているのだろう。だからと言って、何もかも世話になるのは彼の良心が痛む。

「いや、それは村の決めたことだろう。僕は…」

 遠回しに断ろうとするも、彼は挑発的に笑って聞き直す。

「ほう。なら、この子が知らん男に抱かれても文句はないのだな?」

「…!」

 流石の言葉に、シルも表情が固まる。そんなシルをよそに、ヴァンは話を続けた。

「魔女協会、魔女を保護していることは間違いないかも、慈善事業ではない。当然、所属するからには、どんな形であれ、魔力を対価に頂いている。

 お前も知ってると思うが、魔女の魔力の源は男の精液だ。男女の営み自体は避けて通れないし、特定の相手がいないのならば、俺ら魔女の騎士団(オルタレイト)、もしくは協会が経営している娼館で働いてもらっている」

 正直な話、ゴルの様子を見る限り、娼館に回されるのはある程度きちんとした応対をしてもらうようになってからだが、そのことは敢えて伏せて改めて彼に聞いてみると、散々苦悩したあと、絞り出すように答えた。

「……そうだね。僕も、お邪魔させてもらえるかい?」

 その答えを聞いて、ヴァンは歩きながらもこちらを向いて、ほんの少しだけ、嬉しそうに言った。

「そうしてくれると助かるよ。これからよろしく頼むぞ、シルヴァルディ?」

 わざとらしくフルネームで呼ばれ、シルも答えようとする前に、ヴァンが付け加えた。

「ヴァルハルト。俺の本名だ」

 感情はあまりに表には出していないものの、ヴァン、ヴァルハルトは本来"こういう性格"なのだろう。シルもそれを理解し、苦笑しながらも手を差し出した。

「まずはちゃんと所属できるかどうかだけど…よろしくね、ヴァルハルト」

「あぁ、頼むぞ」

 差し出された手に気が付き、ヴァンはしっかりとその手を握り返した。

おまけ

 魔女協会所属からしばらくして。

シル「やぁヴァン。数週間ぶりだね」

ヴァン「シルか。久しぶりだな。元気…というか、随分…鍛えなおしたな」

シル「そうなんだよ。指導の一環でビルドメニューだとか言われてさ。今、結構食事とか訓練について付きっきりでみてもらってるんだ。体重も随分増えてさ」

ヴァン「一瞬誰かと思うくらいにはな」

シル「よく言われる。でも、それのお陰で過集中に体が追いつくようになってきてさ。やっぱり筋肉はいいね。全部とは言わないけど大体のことを解決してくれる」

ヴァン「…俺には縁のない話だな」

シル「ヴァンもその気になれば、パンプアップ出来るでしょ?」

ヴァン「空を飛ぶ都合で余計な体重は増やさないようにしてるんだよ」

シル「だからって、普段から果物とか野菜スープだけじゃ体壊すよ? ほら、肉食べよう」

ヴァン「やかましいぞ筋肉ダルマ。これでも体形維持に気を遣ってるんだから、余計なお世話だ」

シル「まだまだ全然でしょ! まだ増やせるよ!!」

ヴァン「まだ成長するつもりなのかお前は…」

シル「目指せ体重200kg!」

ヴァン「何を目指しているんだお前は」

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