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魔女と竜狩り  作者: 合併
第5節 シャバルガン
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第5節 17

 食事を済ませた後、シャバルガンの玄関にある転移石までルナたちを見送った後、オーキスに呼び出されていたので、約束通りに中庭にやって来る。

「―お待たせしました」

「構わないわ。挨拶は大事だもの」

 いつもよりも遥かに広く見える―実際に魔法で数倍広く拡張された中庭の真ん中で、珍しく軽い革鎧を纏った師匠が待っていた。

 ヴァンも殺風景な地面を踏みしめて歩み寄っていく。

「正直なところ、アナタを拾ってから魔女の戦い方を教える日が来るとは思ってなかったわ」

「俺もですよ。師匠には、竜の狩り方を教われば十分だと思ってたので」

 距離を縮めながら、とてもどうでも良さそうに話す2人。10メートル程の距離まで近寄った所で、改めて聞いてきた。

「一応確認だけど、口頭で教える必要はある?」

「いえ、時間が惜しい」

 初めてやる訓練ではあるが、ヴァンも今更頭で理解したところでそれを体に叩き込むまで時間はない。それならば、最初から体で覚えてしまったほうが早い。即答したところで、彼女も笑った。

「そう言ってくれて助かるわ。私も、面倒だと思ってたの」

 そう言って、2人が構えた瞬間に、訓練が始まった。


 ―即座に足元の地面に異変を感じ、側方へ飛び上がると、地面が抉れて土塊が跳ねる。何が起きたかを理解するよりも早く、ヴァンは円を描くように師匠の周りを駆ける。それに追従するように師匠はヴァンを見て、次々と地面が爆ぜていく。

 ヴァンの動きに慣れ、先読みしてヴァンの脚を狙おうとした所で彼は高く飛び上がり、その頂点で垂直に作った足場に着地し、そこを起点に一気に距離を詰める。

 爪を構え、師匠の首元を狙って一直線に迫るが、そんな単調な攻撃が当たるわけがない。

 距離もあるので、師匠は後ろに跳んで距離を離し、着地点目掛けて魔法を構えるが、ヴァンはその手前で前転、無理矢理着地した衝撃を膝に溜め、そのまま跳ねると同時に右手の角を飛ばして、空高く弧を描いて飛んでいく。

 古いの竜狩りでもある、オーキスの教える技術―全身をバネとして、あらゆる着地の衝撃を力に変換する方法。それを存分に利用し、ヴァンは空から襲撃をかける。

 爪に風を纏わせ、遠隔からの暴風の斬撃を複数放ち、逃げ道を誘導する。その前提でヴァンも先回りし、オーキスもその動きを見ながら走って回避する。

 そして、追いついたヴァンが急降下して襲いかかるも、彼女も魔力の壁を生み出してその爪を防ぐ。

 力こそ拮抗していただろうが、体重も乗せた一撃は壁にヒビを入れ、そのまま瓦解する。ただ、その間に距離を離せるだけの時間は稼がれており、砕けた魔力の残滓と共に、ヴァンは地面を転がっていく。

 その隙を狙おうとするが、ヴァンは転がった勢いのまま飛び上がり、足場を伝って空へと駆け昇る。

「――こっちも地上だけで動きを縛ってるのもあるけど、こうやって毎回空に逃げられると面倒ねぇ!」

「そう教えたのは師匠だからな!!」

 改めて、空中戦を基本とする竜狩りの手法に対し、彼女も攻め時を見失っており、真面目に対処法を考えているようだ。

 その一方で、ヴァンはヴァンで決定的なタイミングを見つけられておらず、拮抗した戦闘が続いている。

 だからと言って、あくまで訓練という条件だからこそ問題ないが、下手に長期戦に持ち込めば、相手に逃げる選択肢を取られる可能性もある。ヴァンとしても、今回の狩りで確実に仕留めるためにも、攻め方を迷っている余裕はない。

 相手の出方を伺うことはなく、ヴァンから先に動き出した。

 この殺風景な訓練場では、物理的な搦め手を使おうにも使えるものはない。だからこそ、真正面から潰しにかかる。

 急降下して襲いかかるが、とても読みやすい、愚直な攻撃は軽々とかわされる。それはヴァンも想定済みで、敵の動きをよく見た上で着地、爪を構えた状態で追撃に入り、こちらへと魔法を放つ隙を与えずに攻め立てて行こうとしたが、何処からか取り出した小刀で、ヴァンの爪が受け止められる。

「―悪いわね、魔女の死体の情報から、刃物を使ってる可能性も否定できないの」

「そうか」

 改めて師匠の報告を受け、ヴァンは爪で敵の刃物を弾き飛ばすが、当然のように受け止められる。

「振動を放ったりする権能以外にも、身体強化も入ってるわ。それは、キミの指輪よりも強い」

「―心しておく」

 弾かれた勢いのまま後方へと跳んで逃げ、着地と同時に前方に弾けるように前進、それを狙った攻撃も横に跳んで避ける。敵の攻撃を的確にかわし、再度距離を詰め直し、ヴァンは一直線に師匠の首元を狙っ右手のて角を突き出す。分かりやすい動きのため、彼女は軽々と回避して、ヴァンの右手側、自身の腕で作った死角へと潜り込む。

 その時、同時に自分の身体と同じ大きさで展開していた、指輪の魔力で作り出した壁を押し込んで体勢を崩す。不意打ちで体勢を崩したが、師匠はそのまま転んでくれるほど平和ボケをしていない。

 自分から大げさに転がっていくことで勢いを付けて、ヴァンかは距離を離しつつこちらの動きを確認する。

 ヴァンもその動きを見据えながら左手の爪を下から縦方向に振るい、風の刃を飛ばす。転がった状態から回避は難しく、立ち上がれたとしても、逃げ先を限定させるために放った一撃。ただ、師匠はそれを避けることなく、一直線に向かってくる刃を誘導するため、角度をつけた薄い魔力の障壁を張って難を逃れる。

「……師匠、戦闘中、不意突かれた上でその動きが出来る魔女っているのか?」

 流石に並の魔女、どころか竜狩りでさえやらなそうな回避方法に苦言を漏らすと、彼女も立ち上がりつつ答える。

「世の中には、過集中状態になれる魔女や竜狩りだっているんじゃないの?」

「いることにはいるだろうが…」

 その才を持つ訳でもないのに、当たり前のようにそれら天賦の才と同等の動きをしてくるこの師匠は何なのだろうか。彼女もヴァンが言わんとしていることは分かっているが、敢えてしらばっくれたまま続ける。

「まぁ、お相手はどんなことしてくるか分からないんだから、それくらい想定して戦いなさい。

 ほら、続けるわよ」

「……そうすることにするよ」

 納得はしないものの、話していることは間違いないので、ヴァンも大人しく従うことにした。



「―はぁっ、はぁ…!!」

 それから、更に6時間ほどが経過した。ヴァンもかなり疲労が蓄積しており、膝から崩れ落ちそうになるものの、気合いで持ちこたえる。

 その一方、オーキスも長時間、魔力を使い続けた戦闘は流石に堪えたようで、既に息を切らして地面に座り込んでいた。

「―あぁ、疲れた……、もう、今日はいいでしょぉ…?」

「…そう、ですね…」

 その言葉を皮切りに、ヴァンも膝をついてへたり込む。

「それで、出来るだけ普通寄りの魔女を演じてみたけど、多少は掴めたの?」

 疲れてはいるが、今日の振り返りは早い内にやっておきたいのだろう。こちらをじっと見つめながら聞いてきたオーキスに向け、ヴァンは静かに息を整えながら答える。

「それなり、には。ただ、今日は広い訓練場だったから。森の中でのゲリラ戦となれば、またやり方は変わるな」

「…野戦、ねぇ。その気になれば、周囲まとめて吹き飛ばせば良いんじゃないの?

 呪い使えば出来るでしょ」

 元も子もない発言をして、ヴァンも苦笑する。

「呪いを使ったら、まずこの訓練が意味なくなりますよ」

「今日は長めのプレイだったし、多少は残らないの?」

 師匠はやたらと引っ掛かる言い方をするものの、ヴァンはスルーして真面目に答えた。

「それが出来てるかどうかを、確認する術がないですからね」

「本当、便利そうに見えて使い物にならない呪いよね」

 オブラートに包むことなくはっきり言われ、ヴァンも困ったようにため息をつく。

「力を得られると言えば聞こえは良いですが、自我を失った獣に堕ちてしまえば、意味はありません」

「逆に、その呪いを制御できたら、本当に黒竜を越えられるかもね」

 深い意味もなく吐き出された言葉に、ヴァンは自嘲気味に笑った。

「果たして、それだけで勝てるでしょうかね」

 珍しく弱気な返しに、オーキスは不思議に思い、聞き返した。

「人して、黒竜を討ってこそ、ヴァンの呪いは克服できる、と思ったことはないの?」

「―さてね。そろそろ、夕飯の時間になりますよ」

 露骨に答えを控え、立ち上がって歩き出そうとした背中に、オーキスは言葉を投げつけた。

「――ヴァルハルト。少し前にした約束、忘れるんじゃないわよ」

 その言葉に彼は一瞬足を止めるも、すぐに迷いなく進め出した。

「分かってる。俺だって、いつまでもガキじゃないんだ」

 それだけ言って、中庭から出て、遠くなっていくヴァンの背中を見ながら、彼女は呆れたように呟いた。

「いつまで経っても、私の子供には変わらないわよ」




 ―そして翌日。装備を整えたヴァンは、マスター、プラナからの連絡も届き、シャバルガンを去る日が来た。師匠には相談も連絡もせずに帰ることになるが、やれまた顔を見せろだの、今度は寄り添う相手か孫の顔を見せろだのとうるさいので何も言わずに王都へと戻ろうとした。

 だが、マスターから連絡が来ていれば、当然彼女にも連絡が行ってない訳がない。日が昇る前に退散しようとしたが、数少ない出入り口である玄関の前で、眠そうな顔をして待っていた。

「――まったく、何年キミの面倒見てたと思ってるの。腐っても、この私、黒の竜狩りの後継者を名乗ってるんだから、最後に挨拶くらいしていきなさいな」

 別に後継者を名乗ったことはなく、勝手に呼ばれてるだけでヴァンとしては一々師匠と比較されて嫌気が差している、なんて本音は言った所で泣かれるだけだろう。ヴァンは喉まで出かかっていた言葉を呑み込み、素直に答えた。

「……、行ってきます」

「ヨシ!」

 オーキスは上機嫌にヴァンに近寄り、軽くハグをし、腕を回してその大きな背中を軽く叩く。

「行ってらっしゃい。それと、これはキミにかける呪いよ。―絶対、生きて帰ってきなさい」

「……それだけは、承諾しかねるな」

 下手をすれば自分にかけられた呪いよりも、遥かに呪いじみた約束に、流石にヴァンも二つ返事で返せずにいると、彼女は拗ねたようにヴァンから離れて、通り過ぎていく。

「そこはノータイムで答えるところよ、バカ弟子! 次は孫の顔を見せなさいね!!!

 伴侶でも可!!!」

「何時だと思ってるんだやかましい」

 別れ際のバカみたいなやり取りに、2人は小さく笑い、改めて距離を空けたまま互いの顔を見る。

「―じゃあ、行ってくる」

「行ってらっしゃい。

 ――本当に、助けが必要なときは、迷わず来るのよ?」

 改めて戦場に戻ることを告げると、彼女はようやく、本心からの言葉を投げかけた。ヴァンも、この言葉だけは冗談でもないと受け取って、大きく一礼した。

「あぁ、分かってる。…しばらく、世話になりました」

 その言葉を最後に、ヴァンは背中を向け、静かに扉を開けて、出ていった。


 1日ぶりに吸った、外の空気は澄み渡っており、冷たい風が体を冷やしていく。

 まだ暗いが、山に囲まれているため、日の出から暫くは暗いままなのだろう。改めて懐中時計で傭兵組合の営業が始まっている時間と確認し、白ずんだ空を見上げて呟く。

「さて、仕事の時間だ」

 久々の故郷での休養は、リフレッシュするには十分な時間だった。だから、暫くは休憩はいらない。

 ヴァンを、金の竜狩りを待つ人も、彼が追い求める仇敵もまだいるのだから、休むわけにはいかないのだ。


 気分を新たに、竜狩りは歩を進める。まず、今なすべきことは、魔女狩りの討伐。

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