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魔女と竜狩り  作者: 合併
第5節 シャバルガン
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第5節 13

 転移石の成形、研磨を終えた後、3つの魔石を用意した。師匠はそれらを部屋の中心に置いて、少し離れたところで魔力を込めると、元々刻まれていた魔法陣が浮かび上がり、光り輝く。

 師匠は真剣な面持ちで魔力を注ぎ続けていると、徐々に原石に魔法の力が定着していって、淡い光を帯びだした。ヴァンも物珍しそうにその光景を眺めていて、10分が経過した頃、師匠が床から手を離すと、魔法陣に送られていた魔力が途切れ、光も収まっていった。

「――ふぅ」

 思い出したように息を深く吸って吐いた後、彼女は体を伸ばしながら事前に用意していた水筒に手を伸ばす。

「今ので出来たのか?」

「いや、これはまだ準備段階よ。一番最初に、魔石そのものに魔力を溜め込める性質を付けただけ。ここから、段階的に機能を増やしていって、ようやく転移石として使えるようになる」

 本来、極秘とされている転移石の製作現場に居合わせることが出来たヴァンが、興味を隠しきれずに聞いてくる。師匠も律儀に答え、再び深く息を吐いた。

「疲れるのか?」

「そうね。転移石を作るのって、一々繊細な操作が必要になるから、気をつけてやらないと」

 普段大雑把にも程がある師匠から想像もつかない答えが返ってきて、さらに質問を続ける。

「他の魔女に協力してもらうことは出来ないのか?」

「そうしたいのは山々だけど、この作業は本当に細かくてね。1つの工程で複数分の魔女の権能が必要だから、それなら私がやった方が効率がいいのよ」

 本当に、この作業を任せたいのは山々なのだろう。だが、それを任せるには現実的にではなく、仮に出来ても、割に合わないのだろう。

「悲しいことに、資源もお金も時間も有限だからね。私1人で出来るなら、それでやろうっていうのが魔女協会、というよりプラナの方針ね」

 彼女の言う通り、魔女協会に所属する魔女のほとんどは、所属して10年以内にパートナーを見つけ、次代の魔女に継承を済ませる者が多い。その中で、緻密な操作を要求する、いわば専門技術を教え込むのは非効率だ、という判断なのだろう。師匠もそれを理解した上で話しており、ヴァンは1つの疑問が浮かんだ。

「――師匠は、魔女の力を捨てようとは思わないのか?」

 魔女の力を捨てる、つまりは次代の魔女へと継承させること。多くの魔女がそうしてきており、オーキス本人も多くの魔女を継承しているだけで、普通の魔女だ。本人が望めば、長い時間を必要とするが、天寿を全うできるだろう。ヴァンが知る限りでは、彼女が妊娠したという話を聞いたことがない。

 魔女とは何か、知っているヴァンだからその質問であり、彼女も困ったように笑った。

「…私は、私たちはね。色々背負いすぎたの。建国の英雄になる、それよりも昔にね」

「…?」

 ヴァンも思わぬ反応に気になったが、下手に触れられる話題ではないと、今までの経験が告げており、言葉を控えた。師匠はヴァンから目を背けたまま、腕を回す。

「さて、休憩もこの辺にしましょう。期限もそんなにないから、早く仕上げないとだからね」

「それならちゃんと仕事してくれ」

 いつもの調子に戻った師匠に向け、ヴァンも普段通りにツッコみを入れ、2人は何事もなかったように作業に取りかかった。



 雑談を交えながら、作業を進めていき、日が沈む頃には1/3程度の工程を終わらせることができた。彼女としては、ここから複雑化してくるため、進みが遅くなると笑いながら話していた。ただ、ヴァンの訓練の面倒を見る時間は作れるらしい。それが出来る余裕があるのだから、実際はそこそこ余裕があるのではないか、と思うものの、付き合ってくれるのは素直に助かるので何も言わないでおく。

 そのまま夕食を済ませた後、昼間構ってやれなかった分、ルナとの訓練も済ませる。その後、ヴァンは汗を流してから誰もいない食堂で煙草を吸っていた。

「――――ふー、」

 調理場の換気扇の下、肺に溜め込んだ煙を吐きながら、呆けていた時、突然食堂側から声をかけられた。

「やっほー」

「…………、お前、なんでいる」

 突然現れたのだが、目の前に出てきたわけではない。ヴァンも突然の来客に対し、思考を巡らせるだけの時間は十分にあった。

 それは、真っ黒な外套を纏い、そこから見える手足も手袋と靴で黒に染め、印象に残らないわけではないが、絶妙に覚えにくい、これといった特徴のない女性。

 それは今日話題にも挙がった、怪しい女商人こと、ケイ本人だった。彼女は食堂と調理場の境のカウンターに寄りかかりながら答える。

「友人の家にお邪魔するのに、理由がいるかい?」

 創作物のセリフが何かだろうか、やたらとキメ顔でそんな世迷言が飛び出すが、ヴァンの反応は冷たい。

「普通はいるだろ」

 ド正論に対し、彼女は困ったように笑って真面目に答えた。

「そうだね。まぁ、実際の所、用事はいくつかある。例えば、お得意先に回す情報を持ってきたのに、外出中だったりね」

 とても遠回しだが、つまりはヴァンに向けて、比較的緊急性のある話題があるとのこと。そう受け取って、彼も煙草に着いていた火を消して、残った煙を吐き出して彼女の側へと向かう。

「どんな話だ?」

「よくぞ聞いてくれました。最近、結構な頻度で翼竜とかの大型の爬虫類、だけじゃなくて竜種の動きが活発になってる」

「…理由は?」

 黒竜の情報でないのは、なんとなく分かっていたが、予想していたものとはまた違う報告で、ヴァンもケイに意見を求めると、当然、そこまで調査を進めていたようだ。

「竜の権威こと、ノーゼン博士の憶測だと、黒竜が活動したのがきっかけとのこと」

「…黒竜が?」

 予想していない答えにヴァンも反復して聞き返す。その反応に、彼女も信じられないと言いたそうに答える。

「君の追う、あの黒竜。あれ自身が相当なエネルギーの塊だからさ。下手に動くだけでも、その熱量を感じ取れる生き物は、活性化しやすいって言われるみたい。

 実際、何度か黒竜の動きを確認された後、少し間を空けて同じ事象が起きてるみたい」

「そういうものか。それで、記録に残ってる限りは、黒竜の活動からどれだけ期間がある?」

 ヴァンもそれはそういうものだと落とし込み、今までの記録を確認するが、彼女の反応かららそこまでの調査をしていないのだろう。

「分かった。必要であれば、こっちもノーゼン博士に直接聞きに行く」

「そうして。それで、こっちもそれに対しての対処の依頼がいくつか舞い込んでる。早い内の対処をしてくれるなら、こちらも助かるかな」

「…それほど急ぎか?」

 ケイの目論見とは裏腹に、ヴァンの反応は乏しい。それは、久々に師匠の指導を受けていることもあるが、それ以上に気になる事があった。

「そこで、下手に動いて生態系に問題は起きないか?」

 1頭や2頭、大型の獣を狩ったところで、生態系への影響は大きくない。しかし、規模によっては乱獲まがいの真似を、人里への被害が出る前に行って良いのか。大きな災いをもたらすことのある竜であっても、乱獲することは禁じられているからこそ、竜の狩猟は国が絶対的な権限を持つ。

「稼ぎ時だと思ったんだけど、やっぱりダメ?」

「そんな稼ぎ方、不健全だろ。お前、俺を試してるのか?」

 ヴァンは呆れつつ聞くと、彼女も諦めてこの話を引っ込めた。

「それなら仕方ないね、先行の依頼は全部断っておく。こちらからも、国に対して働きかけをして、傭兵組合が暴走しないように釘刺しておくよ」

 当たり前のように国へ掛け合う台詞が飛んでくるが、彼は聞かないフリをして、改めて聞いた。

「頼むぞ。それで、他にも用事あるんだろう?」

 ヴァンの見透かしたような聞き方に、彼女も嬉しそうに返す。

「あ、分かった? それでこっちが本題なんだけど、ちょっと、本格的に戦争が始まるかもしれないからさ。場合によっては、ボクの護衛で外国に着いてきてくれない?」

「……は?」

 あまりにも唐突な提案に、ヴァンも素っ頓狂な返事をしてしまう。ケイは聞こえなかったのかと勘違いして、もう1度要点を伝える。

「だから、場合によってはボクの外での工作に付き合ってって話だよ」

「…何で、俺が?」

「まぁ色々理由はあるけどこっちの計画を実行するのに、1番都合がいいからかな」

 彼女は悪びれずに理由を言い、ヴァンも色々端折られたこともあって聞き直す。

「そもそも、なんでお前が隣国との緊張が高まってることを知ってるんだ」

「え? 王都じゃ噂になってるし、色んな業界にちょっかいかけるついでに聞いてきたからね」

 ヘラヘラ笑いながら、とんでもないことをさらっと言い、彼女はヴァンの反応を待たずに続ける。

「ただ、1つ問題なのは、こっちも下手に戦争を起こされると困る内情を抱えてるってこと。ヴァンも知ってるでしょう? 国王に反乱を企てる連中がいるってのはさ」

 彼女曰く、現状不安定な国内状況で戦争をすれば、内乱のきっかけになりかねない、ということ。

「だから、戦争を起こす前に戦争の火種そのものを取り除こうって話。丁度いいことに、両国共に戦争は回避したいのが本音だからね」

「それは、すぐにやる話なのか?」

 彼女の言い分は分かった。それを聞いた上で、ヴァンは彼女の考えについて確認する。ヴァンも即座に断らなかったあたり、思う所はあるのだろう。彼女もそれを感じ取って、誤魔化さずに答えてくれた。

「いや、それもすぐには始められないと思ってる。何せ、準備には色んなところの協力も必要だし、ボクも潜入のためのルートの確保を進めてるところだからね。

 こう見えても、外国のコネはそれほど持ってない。ボクもこの大陸に流れ着いたのは結構最近だからね」

「つまり、今週中には始まらないって言うことだな?」

「そういうこと。それだから、時間稼ぎも含めて、最近活発化してる狩りのお誘いをしたわけさ」

 先ほどの大型の爬虫類の討伐依頼をした経緯まで含めてバラし、ヴァンもその言葉を信じて返事をする。

「…そうだな、始まる時期にもよるが、参加はできるだろう。こちらからやっておくことは?」

 意欲的な返事を聞き、ケイも嬉しそうにぱん、と手を合わせる。そのまま、何処からか取り出した資料を眺めつつ、確認を始めた。

「それは助かるね。とりあえずは大丈夫。何かあったらこっちから連絡する。

 それで一応情報のすり合わせをしておくけど、今回の火種になってるのは、魔女の誘拐が発端だ。それについてこちらからも抗議をしているが、相手側は聞き入れるつもりがないってこと。一応、相手側の言い分では、その魔女はそもそも"居ない"のだから、返せと言われても出来ないし、それで調査に入るのは内政干渉と反論している」

「だからと言って、こちらも魔女は貴重な人的資源だ。折れるわけにはいかず、緊張が高まってる、といった感じだな」

「そういうこと。周辺諸国は静観を貫いてるけど、この戦争をダシに下手に周りにも動かれると何かと面倒だ。だからこそ、戦争への発展は避けたいけれど、お互いに引き際を失ってる状態だね」

 情勢について擦り合わせを行い、2人は困ったように笑う。

「…つまり、俺らは国際問題にならないよう、その誘拐された魔女の救出をして逃げ帰ればいいんだな?」

「そういうこと。ただ、1つ幸運なのは、隣国は魔女の誘拐を認知していないってこと。つまりは、隣国の国籍を持たない魔女がいるってことだから、それを誘拐してもこちらは何も言われる筋合いはないってこと」

 彼女は少し前の新聞記事を取り出し、隣国が公式声明として、王国の言う魔女は存在しないと明言した記事。しかもご丁寧にこちらではなく、隣国の記事であり、十分な証拠となるだろう。

 話も区切りがついて、彼女はさて、と全く隠す素振りもなく聞いてきた。

「ところで、その仕込み作業に転移石が必要だったんだけど、進捗どうなの?」

「大体3割終わったくらいらしい」

「じゃあまだ1週間はかかるね! ボクは他の根回しとか仕事済ませてるよ!」

 彼女はまだ時間がかかるとはっきり告げ、帰ろうとしたところでヴァンが呼び止めた。

「…ところで、アンタが当たり前のように転移石の取引をしてることに指摘したいんだが」

「あぁそれ? 非合法だけどちゃんと国のために使ってるから見逃してくれない?」

 当然のように違法であることは理解しており、しれっと伝えるが、ヴァンも素直に引き下がるわけにはいかない。

「一応、違法行為してる自覚はあるんだな…。それで、反省するつもりは?」

「反省はしている。けど、必要なことだから改めるつもりはないよ」

 ケイは当然のように言い、退く気がない。どことなく師匠と同じ匂いを感じ、半ば諦めているが聞いてみる。

「俺が国に告発する、と言ったら?」

「やらせない、かな☆」

 彼女はにこやかに笑いながら、既に首飾りを手にしている。構えているわけではないが、一切の隙がなく、彼が言葉を撤回するまで軟禁しても構わないと読み取れる。それを見て、ヴァンも諦めて首を横に振った。

「――冗談だ」

「助かるよ。それに、何かあれば責任はちゃんと取る。―どんな手を使ってでもね」

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