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魔女と竜狩り  作者: 合併
第5節 シャバルガン
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第5節 12

 結局、話はそこまでで、2人は無言で先に進んでいき、洞窟のような通路から突然開けた場所に出た。

 彼女はスイッチを押して照明を着けると、その全貌が明らかになる。

 そこは、大きな作業場。通路とは異なり、白い鉱石を削って作られた床と壁が広がっており、その中には数多の岩が転がっており、それを削るための丸ノコのようなモノを取り付けた機械や、表面を整えるためのヤスリが複数置いてあった。その他、壁際に転移石も置いてあり、これで外界との連絡を取っているものと思われる。

「ようこそ、私の作業場へ。もう察しがついてると思うけど、ここで世界中に散らばる転移石が作られてるのよ」

「…何処かで作られているとは思っていたが、こんな所で作られていたとはな」

「別に王都に作業場を作っても良かったんだけど、下手に場所がバレたり、盗みに入られたら面倒だからね。ここなら、私以外誰も入り込むの考えにはならないだろうし、常に居なくても安全性が確保できる」

 彼女なりに考えた結果の場所だったようで、自慢げに胸を張って説明する。それを見せられて、ヴァンは魔女の騎士団(オルタレイト)として聞いた。

「それを俺に伝えたってことは、有事の際は任せた、とでも?」

 転移石の技術が下手に外に出回るとなれば、混乱は避けられない。深読みして、彼女の意図を確認し直すと、想像とは異なってのんびりと答えた。

「そんな深い意味はないわよ。ただ、キミも随分と名前が知れ渡ったようだからね。信頼できる相手として、教えても良いかな、と思っただけよ」

「…本当か?」

「本当よ」

 思った答えと異なり、ヴァンも困惑気味に聞き返すが、すぐに答えが返ってきてさらに困惑する。その様子を彼女は楽しみつつ、機材の下へと向かっていく。

「まぁ、余計な話も程々にして、仕事をしながら話しましょう」

 呆気にとられているヴァンを置いて、彼女は機械を動かして岩を削り出していく。

 ヴァンもそれ以上は何も聞かず、その作業を見守ることにした。


「それで、この転移石の送り先なんだけど」

 本来であれば轟音と火花を撒き散らしながら削っているが、魔法で防音と防護処理を施されている為か、師匠は視界の防護の為にサングラスだけ付けながら、普段通りに話し出す。

「色々あるだろ。この石を欲しがる連中はごまんといる」

「そうね。で、その送り先なんだけど、キミの知り合いよ」

「ほう?」

 ヴァンも仕事上、知り合いなら沢山いる。その内の誰かと興味が出ると、彼女は当然のように答えた。

「ケイよ」

「寄りによって、アイツと転移石の取引…って、知り合いだったな」

 思いがけない訳では無いが、そういう取引をしていたことを意外に思いつつも、懸念を伝える。

「ただ、アイツは信用できるのか? …正直、かなり胡散臭いが」

「…キミもそう思う? 私もそう思う」

  予想通りではあるが、お互いに意見が合致するも、彼女はそれでも、と続ける。

「でも、私は多分キミよりもケイの事をよく知ってる。だから、信用に値すると信じてはいるよ」

「師匠がそう言うなら、それ以上何も言うことはないよ」

 どちらかというと、人間不信寄りの彼女がここまで言うのだ。それだけ信頼に値する話をしたということだろう。ヴァンもそれを察して話を戻す。

「で、なんであの女が転移石なんか何に使うんだ?」

「今回はなんかの取引だって言ってたね」

「それ普通にマズイやつだろ。似たようなことして何人捕まってると思ってんだよ」

 使用意図の分からない転移石の譲渡について、ヴァンが冷静に指摘する。実際の所、普通に検挙されてる例も何件もある。

「まぁ、今に始まった話じゃないし。転移石の置いてる先はこっちで追跡できるようにしてるし、変なことに使ってる訳じゃないし、良いかな」

「だからって、はいそうですか、で済ませられる内容じゃないだろ…」

 呑気な回答をする師匠に苦言を漏らすが、彼女は困ったように唸る。

「うーん、確かに本来はそうなんだけどね。

 それに、検挙されてる例ってのは大体が盗難とか、申請に虚偽があって、悪用の恐れがある事例ばっかじゃない?」

「それはそうかもしれないが、違法に流通した転移石なんて、いくらでも悪用しようとすれば悪用できるだろ」

 ヴァンの懸念について、師匠は思い出したように付け加えた。

「まぁ、その辺はこっちもセキュリティとして、機能に制限かけてるし。転移石同士でも、一定距離間での転移しかできないようにしてるよ。

 その辺はケイもちゃんと分かって売る相手選んでるだろうし、何かあればあの子が責任持って片付けるって言ってくれてるし、安心でしょ」

 あくまでケイを信頼してるからこその行動と断言し、彼女が有事の際は動くと話しているのだ。あまり余計なことを言えば、関係にも傷がつく。

「そうだとは言え、アイツの戦闘能力は未知数だろう? 荒事になっても解決できるのか?」

 ヴァンの心配に対し、彼女は手を留め、目を丸くして聞いた。

「え、知らないの? あの子、下手したら呪い使ってるキミより強いよ?」

「…は?」

 初耳の情報に対して、ヴァンも耳を疑うが、彼女はもう一度告げた。

「いやだから。あの子、キミよりも強いわよ。それこそ、呪い使っても勝てるか怪しい位には」

「でも、喧嘩を俺に結構回してくるぞ?」

 能力そのものが未知数であり、それなりに腕が立つのはなんとなく察していたが、そこまでとは思っていなかった。何せ、彼女に間接的に頼まれ、喧嘩を代わりに買った回数はそれなりにあり、それに見合った報酬までわざわざ貰っている。自分で戦えるのなら、そういった手段を使う理由が分からない。

 混乱しているヴァンに対し、彼女は適当に返す。

「面倒だったんじゃない? それか、下手に目立ちたくないとかね。

 ヴァンの悪名も有名だし、下手に騒ぎを起こすより、代行したほうが何かと便利だろうしね」

 彼女の言う通り、ケイが売られた喧嘩を買った結果、妙な噂が流れて今後の取引に支障が出る可能性を考えれば、元より喧嘩っ早いと言われている金の竜狩りに任せたほうが、波風は立たないし、金の竜狩りとのコネを持っていると知られれば、余計なことをすれば彼が出てくる可能性も考えさせられる。

「……つまり、上手いこと使われてたと?」

「その線が強くないかな? あの子、結構したたかだし」

 そう言われるとその通りであり、師匠もそれを肯定したところで、ヴァンも呆れたように溜息を吐いた。

「ま、それを知らずに付き合ってた俺も俺か」

「でも結構貰ってたんでしょ?」

「まぁ、それもそうなんだが」

 実際、その"労働"に対する対価も十分もらっており、彼女に上手いこと使われてはいるものの、不当な扱いではないので怒る必要も感じない。

 そして、また話が脱線していたことを思い出して、ヴァンは話を戻す。

「で、話は戻すけど、師匠の言い方からして、もうそれなりに渡してるんだな?」

「そうね。何処から仕入れてるか知らないけど、転移石の元になる原石も持ってきてるし」

「魔女協会にすらバレてないのはそれのせいか…」

 転移石の原石。それは特殊な鉱石であり、魔力を保有することのできる性質を持つ。それを成形した上で、複数の魔力を定着させるための工程を踏んだ上で、それは転移石として機能し始める。その原石自体も、本来は王国内で管理して流通している筈なのだが、彼女は何処からか持ってきているとのことだ。

 それから思いつく候補は1つ。

「なぁ、アイツ密輸してないか?」

「多分やってるだろうね。ほら、あの子元々海の外から来てるらしいし」

 ヴァンの冷静な指摘に彼女も冷静に返し、原石の成形作業を再開しつつ、続ける。

「だからといって、証拠がないから糾弾も難しいしね。悪いことしてるかもって段階だから、それを見つけない限りは告発も出来なくない?」

「まぁ、それもそうだな」

「それに、私たちとしても、あの子との付き合いのおかげで収入面とか、いろんな面で助けてもらってるわけだからね。下手に追放とかしても良いことないし」

「それは隠蔽とも言うのでは?」

 色々理由をつけながらも、やってる事は、こちらに利がある為に泳がしている状態であり、ヴァンも流石にツッコむが、師匠は今更、と言いたそうに答える。

「そうとも言う。とはいえ、ヴァンもこの話を聞いたからには共犯だからね」

「…まぁ、それはそうなのだが」

 上手いこと丸め込まれてしまった気はするが、口には出さないでいると、彼女もざっと切り出した転移石のバリを、棒状のヤスリで削りながら続ける。

「だから、ヴァンもうまく付き合っていきなさい。何か問題があれば、私も協力するからさ」

「…使うだけ使って、あとは切り捨てるような真似はしないよな?」

 その言葉から、彼女としても、今は問題がないから見逃しているだけと受け取れる。それに対し、ヴァンは懸念を伝える。

 その懸念に対し、彼女は転移石の形を整えながら続けた。

「それはあの子次第じゃない? この国を壊すような真似をしたら、私たちも出ないといけない。いくら大事な取引先でも、私たちの生活の根本に食い込んでくるようなら、排除しないといけないわ」

「それは、分かっているが」

 ヴァンの言いたいことははっきりしないが、彼としても恩があるだけに、割り切れないのだろうと分かっている。それに対して、彼女ははっきりも告げた。

「まぁ、そうなりたくないなら、あの子の動向に気を付けておいた方が良いわよ。ここだけの話、あの子、魔女協会、というかプラナからも目をつけられてるから」

「マスターも…?」

 思いがけない情報に、彼も少し困惑気味に聞き返す。

「いつぞやの時、あの子から接触したみたいよ。何か約束を取り付けたみたいだけど、あんまり得体がしれないから、マークとまではいかないけど、注意はされてる」

「何でアイツ、目立ちたがらない癖にそういう問題は起こしてるんだよ?」

「私に聞かれてもね。ただ、世間に知られることなく、上の役職に目をつけられるって意味では間違ってないかもね。有力者たちに顔を知ってもらえば、何かあった時に取り入る時にも便利だし」

 ヴァンの疑問に、分からないと言いつつも自分の考えを述べる。その間に、綺麗に成形を終えた転移石を抱えてヴァンに渡す。

「じゃ、成形しておいたから、表面を磨く作業手伝ってもらえる?」

「…もしかして、その為に俺を?」

「ソンナワケナイヨー」

 恐らく、成形よりも研磨作業の方が圧倒的に時間がかかりそうなものだが、彼女はわざとらしく目を逸らして誤魔化す。ヴァンも反論したかったが、諦めてそれと紙ヤスリを受け取る。

「仕方ないな、どれくらい磨けばいい?」

「艶が出るくらいでいいよ」


 オーキスが切り出した石を、ヴァンが磨く作業をしながら、彼女は突然話し出した。

「―そういえば、ヴァンに渡した爪と、角には少し変わった特徴があるのは気付いてたかな?」

「……? いや、そんなものは特に――」

 否定しようとしたが、1つ、気になっていたことがあった。

「―あったな。呪いで魔力を増幅したときに、形が変わってたと聞いたことがある」

 呪いに侵され、意識はほぼ残っていなかったが、無意識でも禍々しく変形した角と爪を使って竜や大型の獣を狩ったことは何度もある。辛うじて覚えている程度なので、言われるまで考えたこともなかった。それについて話すと、彼女は作業の手を留めずに答える。

「その爪と角ね、少し前に話していた、友人から作ったものなの」

「……その話は、タブーじゃないのか?」

 先日、その話をしたためにボコボコにされたことを思い出しつつ聞くも、彼女はそうね、と呟いた。

「他の子たちに聞かれなければ、構わないわ。もう、キミは知ってるんですもの」

 ここであれば、他人の目を気にする必要は無いということなのだろう。彼女も懐かしむように話し出した。

「―その子は、黒竜を探して私に接触してきた1人よ。海の外から来たと言って、色々な話をしてくれて、面白い子だった」

「…黒竜に、殺されたのか」

 黒竜を探して、という時点で何かを察したヴァンが結論だけ呟くと、師匠は頷いた。

「そうね。その子は黒竜を見つけて、1人で挑んでしまった結果、殺されてしまった。私が急いで駆けつけた時には体の半分が食われてたの。その時には、もう死んでた」

 無残な結果を伝えられるも、ヴァンは何も言わない。

「その遺体を私が回収して、灰になるまで焼き尽くしたの。そして、その灰を魔法を使って固めて、その爪と角に成形した。…死体を使った、古い呪具の作り方よ。

 その武器には、死にきれなかった友人の"未練"が残っている」

 突然告げられた、自分の持つ武器の正体に、彼は混乱気味に聞いた。

「…………、その武器を、俺に寄越した理由は」

 端的な問いかけに、彼女はしばらく言葉に詰まるも、思い切って話し出した。

「――本懐を遂げてほしかった。それだけよ」

「……、そうか」

 師匠の言葉を聞いて、彼は再び手を動かし始め、小さな声で呟いた。

「――本当、参ったね」

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