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魔女と竜狩り  作者: 合併
第5節 シャバルガン
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第5節 9

 汗も流し、今日もレルベアの作った食事を済ませる。夜の空いた時間に訓練をするつもりにはなれず、ヴァンは誰も居なくなった食堂に戻り、薄暗い部屋の中、換気扇の下で気分転換に煙草を吸っていた。

「そんなものを使うようになったとはねえ。歳をとったわね、ヴァルハルト。そんな子に育てた覚えはないのだけど」

「…師匠」

 突然、誰が声をかけてきたのかと思ったら…風呂上がりで、少し髪が湿っている師匠が、こちらに近寄ってきていた。

 そして、椅子3つ分ほど離れた所に座った所で、ヴァンは不満そうに答える。

「ここを離れてた時間のほうが長いんだ。余計なお世話って言葉しか出てこないだろう?」

 親らしいことをされた覚えがないだけあって、流石に反応的な台詞を吐く。それに対して、彼女は何の反応も返さず、静かに聞いてきた。

「…それで、呪いの方はどうなのよ」

「……、良くはない」

 ここを出ていったあの日から、身体を蝕む呪いに、良くなる要素はない。昔とは違い、怒りであれ、歓喜であれ、感情の昂りが意識を蝕んでいく。皆までは言わずとも、大方予測は出来ているのだろう。オーキスは、首飾りを外してテーブルに置いた。

「そう。…ヴァンの事だから、ケイにももう話は聞いてるんでしょう?」

 恐らく、少し前にあった、黒竜と対峙した時の話なのだろう。予想はついていても、ヴァンは敢えて白を切る。

「さぁな。アイツからは色んな話を聞くから、はっきり言ってくれなきゃ分からん」

「それなら構わないわ」

 オーキスもあっさりと手を引き、しばしの沈黙が流れる。話す内容に困っているというわけでは無いが、ただ、師匠に話す内容であるかという葛藤。それでも、気になったのでヴァンが沈黙を破った。

「―ルナからも、戻ってくるようにとは以前から聞いていました。その理由は?」

 それは、ルナと会った日にも言われた言葉。理由は違えど、今回それを達成したため、改めてその真意を聞こうとするが、彼女はヘラリ、と受け流す。

「そりゃあ、愛弟子の成長を見たかったからよ」

「悪かったな、顔も見せない一番弟子で」

 嫌味に対して嫌味で返し、彼女は笑う。

「本当に、成長したわね。…でも、まだ自分で伸び代を見つけたいんでしょ?」

 何処か、見透かしたような言葉。それに対し、ヴァンは隠すことなくはっきり伝えた。

「まだ、な。師匠の出番はまだ時期尚早だ」

「頑固ねぇ。本当、そういう所ばっかり変わらないんだから」

「俺なりの意地だ。少なくとも、今の装備でも師匠に権能全部使わせるくらいにならなきゃ、泣きつくには早いだろ」

 ヴァンの正直な言葉に、彼女は楽しそうに更に笑う。

「それはそれは。その日を楽しみにしてるわ」

「そうやって、笑ってられるのも今のうちだからな」

 子供のようにムキになって言い返した後、小さく呟いた。

「……これでも、感謝はしてる」

「ん? 今なんて言った?」

 何処からか取り出した酒をグラスに注ぎ、勝手に飲んでいたオーキスは、彼の呟きを聞き逃して聞き返すも、ヴァンはしれっと答える。

「気のせいだろ」

「いや、間違いなく何か言ったね。言いなさい。師匠命令よ」

 大した量飲んで居ないはずだが、既に顔を紅潮させ、ダル絡みが始まった師匠を見て、ようやく酒が入っていた事に気が付く。

「そんな命令聞いたことないだろ。あと師匠、酒まだ止めてなかったのか。アンタ酒弱いだろ」

「うるさいなぁ。あたしがお酒飲んで悪いのぉ!? もぅ成人も成人、君らよりもじゅっと年上らんだからねぇ!!」

 大声を出して更に酒が回り出したのか、呂律が回らなくなってくる師匠。このダル絡みを祝い事の度にやられたせいで、ヴァンがいた時期は禁酒令が張られていた筈だが、いつの間にか解除されていたのか、と思いつつ彼女の持っているラベルを見ると、見覚えのある銘柄が。

「…師匠、それ、レルベアの調理用で持ってきた酒じゃねぇか! やっぱ禁酒令は続いてただろ!! 何飲んでんだ!」

 彼の店の厨房でよく見た銘柄であり、恐らく元々あったものではない。どうせ後で使うので、手間を減らすためにも彼が置いていったものだろう。ヴァンが慌てて酒瓶を没収すると、それを見たオーキスが子供のように手を伸ばす。

「持ってかないのぉ!」

「やかましい! 没収だ!」

 ヴァンは容赦なく瓶の蓋をして持つ手を高く上げると、物理的に届かない高さとなる。

「むぅぅぅうん…」

 酒を没収され、未練がましく鳴いた後にグラスに残っている酒をチマチマと飲み始める。

「ヴァンもさぁ、大人になったんだし飲もうよぉ。お母さん淋しいよぉ」

 何母親ヅラしてるんだ、と咄嗟に口に出かけたが、歪みなりにも何人の孤児を引き取り、その子たちが成人するまで、面倒を見ていることを考えれば、彼女としては親の代わりのつもりなのだろう。流石に喉まで出かけた言葉を呑み込み、彼は煙草の火を消したあと、携帯灰皿に吸殻を捨てて彼女の隣に座り直す。

「……俺の呪いのこと、知ってんだろ。

 酒なんか飲んだら、制御が効かなくなる」

「……そうだねぇ」

 アルコールの回った頭でも、そのくらいの思考はできるようだ。彼女は酒を飲みながらも素直に聞き入れ、左手を出してきた。

「それなら、呪いが解けたら吐くほど飲もうか」

「いや、吐くほどはちょっと…」

「んん、ノリ悪いなぁ。程度は冗談に決まってるじゃん」

 ヘラヘラ笑いながら、彼女は小指を立てて手を近づけてくる。

「だから、約束。全部終わったら、皆で宴会やろう」

 ―だから、絶対に生きて帰ってこい。皆までは言わずとも、続く言葉は分かっていた。

 突然突きつけられた、酔っているのはフリなのかと思うくらい、ヴァンにとっては重い約束。口約束とは言え、黒龍の呪いとはまた違う、一種の呪いだ。

 新たな呪いを刻むことに悩んでいると、もどかしくなった彼女が、ヴァンの手を取って無理やり小指を結ぶ。

「あっ―」

「まどろっこしいよ、ヴァン?

 こうやって約束したんだから、この言葉を忘れないでね?」

 ―いつの間にか、シラフに戻っていたオーキスは白い顔で笑っている。

「……酔ったフリをしてたのか?」

「そんな訳ないじゃない。でも、キミが酔いが醒めるようなことを言うから、ね?」

 詰まる所、呪いの話をするから、彼女はどうにか酔いを醒まして、こんな約束を取り付けるようにした、と。

「相変わらず、抜け目がないというか、セコいというか…」

「キミが大人になったとは言え、私の方が場数が多いからね。大人ってのは卑怯なもんさ」

 彼女は笑いながらそんな事を言い、立ち上がろうとした所で大きくふらついた、

「あっやばっ」

 意識はしっかりしていただけで、酒はまだしっかり残っていたようで、綺麗に足を踏み外して頭から転んでいく彼女がぶつかる―前に、ヴァンが抱きとめた。

「…大人が…なんだって?」

「言わないで…」

偉そうなことを言った途端に、だらしない大人の面をしっかり見せつけ、ヴァンが不満そうに聞き返すと彼女は抱き留められたまま、顔を手で隠す。

「禁酒は前から言ってたよな?」

「はい…」

「これでも酒飲むか?」

「止めます…」

「よろしい」

 ヴァンはしっかり言質を取った所で、彼女を抱えて起こしてやると、今度はちゃんと立ち上がった。

「…でも、本当に大っきくなったわねぇ。今身長どれくらいあるの?」

「196cmだな」

「でっかぁ…。体重は?」

「90kgだ」

「ちゃんと、体重制限もやってるんだね、偉い偉い」

 改めて体型の維持に努力していることを認めた所で、話題を変えた。

「週に何人の子と相手してるの?」

「何の時間だこれ?」

 あまりにも意味のわからない問答に、遂にツッコミを入れると、彼女は楽しそうに笑う。

「うちの子たちが見てるビデオだとこんな会話してたよ?」

「多分それ教育的に良くないモノだろ」

「大丈夫よ、私も中身は検閲してるから」

「そういうことじゃ…いやでも、師匠の性処理が仕事にある時点で今更か」

 冷静になって、ここでオーキスの餌食にされた子供たちは文字通り星の数いるので、今更と言われたら今更な会話であったことを諦め気味に呟いた。

「それで提案なんだけどさ」

「断る」

「まだ何も言ってないじゃん」

 皆まで言わずとも、話の流れで碌でもないことを言う気配を感じ、即答するも彼女はとてもわざとらしく、もったいぶって続ける。

「明日の訓練について話そうとしてたのに残念だなぁ」

「で、本音は?」

「そりゃ訓練用の魔力補充に付き合ってもらおうと」

「断る」

 案の定な回答にヴァンは即答するも、彼女は泣きついてきた。

「そんなこと言わないでよぉ! 今日は誰も呼んでないんだよ!?」

「何で断られない前提で話進めてんだアホ師匠」

「えっ!? 男多めの複数プレイの方が良かったの!?」

「どう解釈したらそうなるんだ?」

 ヴァンが断るという大前提がないまま、勝手に話を進めていることを指摘するも、彼女は当然のように聞く。

「そりゃあ愛する子が久々に帰ってきたんだし当然じゃない?」

「師匠…、一応言っておくが、普通親ってのは子供に手を出さないものなんだぞ?」

 ヴァンも困惑しつつ世間一般論を説くが、彼女は反省してる様子はない。

「いやでも、私は魔女だし? 血も繋がって…そう! 教育! 教育みたいなものだから!」

「…一応言ってやるが、ここを出てった連中が師匠のところに顔見せないの、少なからずその"教育"のせいだからな?」

 何なら、1番ここに顔を出しているであろうレルベアでさえ、今まで相手を作れなかったのも、オーキスの相手を続けてきた結果、成人女性へとトラウマが植え付けられている結果。という残酷な事実を伝えることは流石にしないが、改めてはっきり言うと、全く自覚のなかった彼女は本気で困惑した顔になる。

「えぇ…?」

「いやそんな顔されてもな。俺も、ここから出ていった連中との交流はほとんどないが、少なくとも俺が帰ってきたくない理由の1つに挙がる程度には酷いぞ」

 この際なのでヴァンの本音も伝えると、彼女は泣きそうな顔になる。

「そんな…私が子供でしか興奮できないばっかりに…!!」

 そんな顔しながら最低のことを口走る師匠に向けて更にツッコミを入れる。

「少し反省しろ。というか、子供にしか興奮しないなら、俺が相手しても辛いだけだろ。

 俺も嫌だぞ、無理やりするのは」

「"子供"の定義は私が決めるもの。キミはどうか知らないけど、今も私にとっては可愛い子供よ?」

「そういう所だよ、子供出来ても連れてこれねぇのは」

 トラウマ以前に、父子共に貞操の危機があるのであれば、それを許容する真っ当な親や配偶者は居ない。特にヴァンやルナのように、戦場に身を置く故に配偶者を作らないようにしている者であればまだしも、ここから出ていった者たちはそれぞれ職をもらい、真っ当に相手を見つけ、子供を作って生きている。その生活が壊れかねない相手であれば、戻ってこないのも大いに理解できる。

「そんな…! これを続けていればいうか親子丼が楽しめると思ってたのに…」

「最悪なプレイを画策するの本当にやめろ」

 トチ狂った会話をしていて、結局本題から大きくズレてしまったことに気が付いて、ヴァンも覚悟を決めて飲み干したグラスを取り、本当に嫌そうに答えた。

「師匠、諦めて相手してやるから、体を洗っておいてくれ」

「本当!? じゃあ一緒に洗いっこし」

「飯の前にシャワー浴びてるからしねぇよ」

 顔を輝かせて阿呆なことを言い出すも、彼はグラスを洗いながら即答した。

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