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魔女と竜狩り  作者: 合併
第5節 シャバルガン
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第5節 4

 シャバルガン。黒の竜狩りことオーキスの権能を注ぎ込んで作られた、この王国の中でも屈指の巨大な施設。

 中に入ると、柔らかな日の光が差し込んでおり、天井を見上げると、外と全く同じ青い空が広がっている。彼らは屋内にいるはずだが、外にいるのと変わらない環境であり、これも、彼女の魔法によってもたらされたモノ。光に反射され、少し眩しい白い壁に目を細めつつ、大きな玄関を抜けて複数の道に分かれた通路に出る。

「ヴァン、久々だろうけど、見たいところは?」

 通路に出て、先に進んでいたレルベアたちが足を止めて、ヴァンの意見を求めた。レルベア本人としても、ここにコハクが間違いなくいるのであれば、急いで再会する必要もなくなったのだろう。

 ヴァンもこちらに久々に戻ってきたとなれば、見たいものがあるだろうと気を遣ったからこその発言と理解し、素直に甘えさせてもらうことにした。

「それなら、農場の方を見れるか?」

「了解。じゃ、行こうか」


 分岐を分かれ、先に進んでいくと、日の光に照らされた、大きな農場に出てきた。1辺30mほどの畑がいくつもあり、地下から引かれた水路を水源として、血脈のように農場の側溝を流れている。

 そこでは十数人の少年が作業に従事しており、丁度作業を終えた少年たちがこちらに気が付いた。

「おーい! 師匠の連れ出しは終わったのかよぉ!?」

 大きな声で聞いてくるので、一行は近付きながら返す。

「そうー!! また部屋にこもったから、一旦俺らで客人の案内してるんだよー!!」

 そう言われて、見慣れない巨漢に、見覚えのある2人も一緒にいた事に気が付き、声を上げた。

「ルナ兄に、レルベアさんじゃん! みんなー!! あんちゃんたち来たぞー!」

 その1人の合図を聞いて、作業していた少年たちが手を止めて、こちらを見る。それで客人たちに気が付いた皆が汗を拭きながら一斉に近寄ってきた。

「ルナ兄、この前出てったばっかなのにもう戻ってきたのかー?」

「レルベアさんも今日は新しいレシピあるの?」

 直近に出ていったルナもそうだが、比較的頻繁にこちらに来ていたレルベアも、慣れた様子で少年たちを対応してた所で、静かに見ていたヴァンに、1人が気がついた。

「それで、この人が客人? ルナ兄とかは客って感じはないしなー」

「あっ…その人は…」

 その言葉で、ヴァンに興味が一斉に向かい、彼は少し気まずそうに名乗る。

「俺はヴァン。そこにいるレルベアと一緒にシャバルガンを出ていった、ここの出身だ」

 レルベアと同期であると告げると、その時点で何かを察した少年たちが矢継ぎ早に聞いてくる。

「じゃあ、お兄さんが金の竜狩り?」

「そうだな」

「いつも師匠が愚痴ってた人か!」

「そうなのか…?」

「あと、ケイさんがいつも名前出してた人だ!」

「……そうなのか」

 本当に戻ってくるのは出ていった日以来なのだが、思った以上にこちらで名前が広まっていたようだ。なんなら、名前を勝手に広めている主犯の1人が隣にいるとは知らなかった。

 子供たちの質問を一旦制止して、ヴァンはレルベアの肩を叩く。

「レルベア、一応確認なのだが、ここならともかく他所で変に俺の話をしてないよな?」

「そんな訳ないだろう? 俺を何だと思ってるんだい!?」

 色々安心したのもあるのか、いつもの面倒くさいノリになっているレルベアに向け、ヴァンは軽く小突いて今更ながら言っておく。

「まぁ良いが…程々にしてくれよ」

「何の話ー?」

 興味が湧いたのか、子どもたちも話の詳細を聞きたがるが、ヴァンは敢えて悪い顔で誤魔化す。

「大人の秘密の会話ってやつだ。ガキにゃ教えられねぇよ」

「なにそれずるくない!?」

「そうだぞ、大人ってのはズルいんだ」

 ヴァンに合わせて、レルベアも悪ノリしてくれて、2人で子どもたちを煙に巻く。

 そして、子どもたちを適当にあしらいながら、彼らは収穫した食料を確認していた。

「―今あるのはこの辺?」

「最近収穫できたのはこれくらいだね。ある程度は出荷するけど、基本はウチで消化するぶんかな」

 食糧庫で天日干しをしていた野菜を眺めつつ、レルベアが聞いた質問に、子どもの1人が答えてくれる。

「じゃあ、今日の飯に使えそうなものをいくつかもらっていこうかな。今、何人くらいいるんだい?」

「あぁ、それなら食堂に行って確認したほうがいいかも。最近、こっちも大型の冷蔵庫が完成したから、食材は基本そっちに保管してるんだよ。

 飯も、食堂の担当が基本的に予定立ててるからさ」

 少年から、食料の大多数が食堂にあると伝えた所で、レルベアは嬉しそうに返す。

「こっちの冷蔵庫が見えないと思ったら、ようやく作ってくれたのか。了解、俺はちょっと見てくるかな。

 ヴァンとルナ君はどうする?」

「俺は――」

 ヴァンが答えようとした所で、農場の奥―確か、家畜たちの牧場がある場所で、大きな音が聞こえた。

「ヴァン!」

「分かってる。ルナも来い」

「はい!」

 問題が起きたと理解し、大人3人は誰よりも早く反応し、外に出ていって農場方面へと向かっていく。

 いくつかの畑を超えたあと、有刺鉄線に囲まれた牧場から逃げ出そうとしている、豚の小さな群れが見える。

「…!! 管理者は何やってんだ!

 ルナ! 手伝え!!」

 彼らが幼い時にも何度かあったことにはあったが、まさかこのタイミングでこんな物をみる羽目となり、ヴァンは少し面倒そうに叫び―数少ない出入口でもある、鉄製の扉を開けて中へと侵入し、豚の群れへと突撃していく。

 半狂乱となっている豚たちへと真っすぐ向かっていき、軽々と跳んで、先頭の豚の背に乗って、その額に全力のアームハンマーを叩き込んで、意識を飛ばす。

 ふらついた所で再度跳んで逃げると、少しふらついた後に大きく転び、その豚に引っかかってもう1匹、ドミノ倒しのように地面に転がっていった。数多の豚に轢かれた先頭の豚は既に意識を失っていたが、後続の豚たちはまだ意識があったので、バランスを崩している間に1匹ずつ、しっかりとぶん殴って大人しくさせた。

 悲痛な豚たちの悲鳴が木霊している現場で、殴り忘れがいないかしっかり確認していた所で、他の少年よりも年を食っているのか、15近くに見える少年が慌てて駆けてきていた。

「すみません、屠殺場に連れて行くところ、暴れられて…って、ルナ?」

「あれ、サンディじゃん。まだここの管理者やってたの?」

「知り合いか?」

 ルナの反応から、知り合いのようで、ヴァンが確認すると、彼からも聞かれた。

「おいルナ、この人があの竜狩りか?」

「2人して聞くならお互いで話してもらえます?」

 ルナも面倒になって、一々説明をせずに直接対話するように言う。2人は改めて、面と向かっている間に、遅れてやってきたレルベアと他の子どもたちが意識が混濁している豚たちを連れて行っていた。

「改めて、初めまして、だな?

 俺はヴァン。金の竜狩りで知られてる。

 ルナを知っていると言っていたが、元々俺の話は聞いていたのか?」

「あ、初めまして。俺はサンディ。ここの牧場の管理者として今は勤めてます。

 金の竜狩り…ヴァンさんのことなら、ルナとか師匠からそれなりに聞いてましたので。

 ルナと一緒に来てるなら、その人かなと」

 礼儀正しく、彼がヴァンと判断した理由まで聞かせてくれた。なかなかの判断力に、ヴァンも少し感心しつつ、改めて聞いた。

「屠殺場に送るときに暴れられたと言っていたな。元々対策していなかったのか?」

「対策はしていたのですが、移動のタイミングの一瞬の隙を突かれて…。怪我人も出なくて、助かりました」

 彼の言う感じ、恐らく、豚を別の柵に移し替える隙を狙われたのだろう。ヴァンはそれに対しても、一言で済まさず、一応忠告しておく。

「こういう脱走も、俺がいた時代でも数年に1回はあった。今後もここの管理者をやるのか分からんが、油断は大敵だぞ。特に、ここはそのミスが人名に繋がるぞ」

「…肝に銘じておきます」

 口うるさい事ではあるのだが、ミスをしてトラブルを起こしたのは事実だ。それに、今回のように、戦闘慣れしている者たちが即座に鎮圧してくれるとも限らない。彼の言う通り、数年に1回は起きていることなので、油断した頃が危険なのだろう。口答えはせずに、その言葉を素直に飲み込んだ。

 それを見て、ヴァンは茶化すようにルナに聞いた。

「お前もこのくらい聞き分けがよければ可愛いんだがなぁ?」

「やかましい」


 その後、少し牧場の柵の修理を手伝ったりしている内に、それなりの時間が経っていた。案内してくれた他の少年たちも、仕事は残っていたようで、牧場で色々作業をしている内に各々の持ち場に戻っている。

 そんなことをしている間に日も陰り始めており、レルベアが提案する。

「そろそろ食堂行くか。俺らは客ではあるけど、予定のない客だしな」

「そうだな。手伝いもいるだろうし、俺らも一緒に行こう」

 少なくとも自分たちの食事、ついでにここの少年たちに食事を作りに行くと暗に言っているレルベアに、2人も異を唱えることなく着いていく。

 これまでの通路や作業場は全て、空が見えていたが、流石に居住区に当たる場所はきちんと日の光を遮る形で屋根が張られていた。

 人工的な光に照らされた通路を通っていき、3人が食堂の扉を開くと―落ち着いた赤い壁に、木製の床が広がり、100人はゆうに入れそうな大きな部屋に、長いテーブルが3つほど並んでいた。その奥にあるカウンターの更に奥が食堂の調理場となっており、夕食に備えて、担当の少年たちが忙しそうにしているが、その中に1人、見覚えのある人物がいた。

「コハク、こんな所で精が出るな」

 彼女自身、中性的な顔立ちというのもあるが、見知った顔を見間違えるほどヴァンの記憶力も衰えていない。髪が入らないように頭巾をして、エプロン姿のコハクが一生懸命に下処理をしているのを見ながら、茶化すようにヴァンがカウンター越しに声をかける。

「……!!? ヴァン!? どうしてここに!?」

 全く予想していなかった、師の来訪に彼女も驚くが、それよりも彼の後ろにいるレルベア―彼氏の姿を見て更に狼狽えた。

「えっ、レル…!! なんで!?」

「それはこっちの台詞だよ」

 レルベアは怒っているわけではない。ただ、嬉しさと困惑の2つの感情が混ざっているからこそ、言葉にも詰まってしまったのだろう。

 それ以上何も言えない2人に割って入るように、ヴァンが提案する。

「まぁ、なんだ。お互いに話したいことはあると思うが、一旦やる事を終わらせようか」

「あっ、はい」

 その言葉で、仕事の途中だということを思い出し、コハクはまず目の前の仕事に集中し、こちらもここの担当の少年に話を通して、調理器具を借りられることになった。

 なお、その対価ではないが、今日のメインの担当がレルベアに変えられてしまい、その手伝いとして、ルナとヴァンも駆り出される。

 なお、彼の手伝いの歴はこの2人が一番長いため、散々こき使われることになった。

「―俺1人にこれやらせるとか、人使いが荒いぞレルベア!!」

 食材の下処理を手慣れた様子でこなしながら、ヴァンの叫びに対し、彼は朗らかに答える。

「それでも対応してくれるんだから、やっぱり助かるよ!」

「お前の所で何年手伝ってると思ってんだ!

 おい、そこもさっさと火を下ろせ、焦げるだろ!」

「分ぁかってるって!」

「……なんであの2人、悪態つきながらあんな手が早いんです?」

 お互いに下らない会話をしながらも、山のような食材を手早く処理していく2人を見て、少年の1人が呟くが、サイドを作っていたコハクは首を傾げるのみ。

「さぁ…? 付き合いが長いからじゃないかな…?」

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