↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女と竜狩り  作者: 合併
第5節 シャバルガン
110/136

第5節 2

 そして仕事を終え、折角なのでレルベアも魔女協会に連れて行くことにした。

 娼館の受付も終わり、護衛に立っていたオルタと魔法を通じて話していたマスターは、3人の帰宅に気がついて声をかけてくれた。

「おや、お帰りなさい、…そこのは、オーキスの弟子ね? ようこそいらっしゃったことで。何か御用かしら?」

 彼女はレルベアの顔を見た途端、ヴァンたちの同郷であるとすぐに思い出し、にこやかに聞いてくる。レルベアもガキではなく、狼狽えることもなく、真っすぐに聞いた。

「コハクの外出許可を出したようですが、何処へ行ったのでしょう?」

 突然、コハクの名前が出てきたことに、流石のマスターと豆鉄砲を食らったような顔をしていたが、すぐに理解して笑った。

「なるほどねぇ! キミが、コハクの言ってた彼氏さんかぁ!

 ―あの子は、無事だよ。もう少ししたら戻ってくるだろうから、心配いらないと思うけど、知りたいの?」

「……教えてくれるんですか?」

 その言葉に、少し裏を感じ取ったのか、途端に警戒心を強くして聞き返すと、彼女は楽しげに笑う。

「対価に何を求めるつもりはないわ。別に、今となっては隠す必要もないからよ。ただ、それでも警戒してそうだし教えてあげる。

 ―あの子は今、シャバルガンに通じる転移石を伝って行ったわ」

 シャバルガン。この王国の東に位置する、黒の竜狩りが治める小さな集落であり、彼ら3人の第2の故郷ともいえる場所。

「どうして、あそこに?」

 とても素直な質問に対し、マスターは当然のように答えた。

「そりゃあ勿論、黒の竜狩り、オーキスに会いによ。

 ―そう言えば、話す必要が無かったから言ってなかったけど、いつぞやヴァンが昏睡していた時に、2人は顔を合わせてたのよね」

 3人が全く知らない接点を急に出されるも、興味がある話でもないので、適当に受け止めてスルーしておく。

「それは分かった。だからって、師匠にわざわざ会いに行くなんて、何があったんだ?」

 ヴァンにとって、彼女は弟子の1人であり、わざわざ自身の師匠の下に向かったと言われると、指導面で何か原因があったのではないかと勘繰ってしまう。当然と言えば当然の問いに、彼女は少し唸る。

「ヴァンの指導は知らないけど…そういう内容じゃないわよ。ま、本人の口から聞くかすればいいんじゃないの? 大事な話ではあるけど、相談が済めば、アナタ達に話す必要のある話題だろうし」

 一体、どんな話をしているのか気になるが、本人の口から出るまでは話すつもりはないらしい。

 行き先も分かったし、師匠、オーキスの下にいるとなれば、下手な敵は近寄ることが出来ないだろう。

 それならば、あとは帰ってくるのを待つだけで良いのだ。ヴァンはさて、と一息ついてレルベアを返そうとした。

「―ここまで分かれば、もう一安心だろう。あとは寝て待ってればいい」

 そう言うヴァンに対して、レルベアは俄然やる気を出して断言した。

「じゃ、俺はシャバルガンに行ってくるよ」

「話聞いてたか?」

 正気の沙汰ではない発言に、即座にツッコミを入れるが、むしろレルベアはきっぱりと告げた。

「いや、むしろ早くあの子の真意を聞いたい。いる場所が分かってて、待つなんてできないよ!」

「でも、師匠のいる所って師匠の許可ないと直通で転移できないよね?」

 ルナが諭すように、シャバルガンには無断で直接転移することは出来ない。転移石自体、オーキスの管理下に置かれており、彼女の許可がなければ、山に囲まれた集落まで、徒歩で移動しなければならない。

「それでも、師匠の許可待つくらいなら、直で行ったほうが早いだろう?」

「いや、入れ違いになったらどうするんだ。面倒だろう」

 レルベアの言う通り、オーキスの許可を取るのを待つくらいなら、歩いていったほうが早いのも事実。ただ、その間にコハクと入れ違いになる可能性もあれば、待っているのが最善策なのだ。淡々とヴァンが現実を突きつけるも、レルベアは諦めない。

「誰が何と言おうと、俺は行くね!」

「その心は」

「シャバルガンの子に寝取られるかもと思ったら、今にでも吐きそう」

「そういうことは先に言え。行くぞ」

 レルベアの必死な本音を聞き、ヴァンも前言撤回して同意する。

「…ヴァン兄が行くなら、俺も着いていこうかな」

 ルナも困惑していたものの、ヴァンと一緒に外出する機会なので、同行することにした。話もまとまったところで、マスターは当然のように聞いてきた。

「それなら、アナタの護衛って形で2人を着けるって形で申請出しておけばいいかしら?

 ここを空けている間に、ヴァン宛の依頼が来るとまた面倒でしょう? それに、魔女協会からの依頼から、連絡通路の使用も許可できるしね」

「それは助かるな」

 彼女の提案は特にヴァンにとっては有り難い。仕事を断る口実にもなり、これからシャバルガンに向かうにしても、緊急時のために用意してある、魔女協会が秘密裏に作っていた連絡路の利用もできるなら時短になる。素直にその好意に甘えようとした所で、少し前に言われた小言を思い出して首を横に振った。

「…俺も、小言を言われてたんだ。マスター、あんまり会長の立場を利用して、その他の手続き全部すっ飛ばしてハンコ押さないでくれってよ」

「…バレてたか。キミも共犯にすれば、話も早かったのに」

 ヴァンの指摘にいたずらっぽく笑うが、そんなのに誤魔化される訳がない。ヴァンははっきりと伝えた。

「それで、こっちにまで文句言われるのと面倒なんだ。マスターはここの長なのだから、ちゃんとしてくれ」

「はいはい」

「真面目に聞いてくれ」

 何度言っても、マスターも見た目以上に年を食っている。凝り固まった老人の価値観を正すには骨が折れるが、腐らずに言い続けるしかない。ヴァンも呆れ気味に再度告げる。

「そういうのされると、受付の子たちも残業増えるんだからよ。少しは加減してやってくれ」

 文句言われる理由も、仕事が増えることなので、ヴァンが嫌そうに言うと、彼女もふーむ、と考え出した。

「今になってそういう話がよく聞くようになったけど、そういう時代なのかね?」

「時代関係なく、マスターがちゃんとしてくれ…」

 恐らく、この言葉も届くことはないだろうが、ヴァンはこれ以上は不毛なので話をきり上げることにした。

「――まぁ、この下らん話はこの辺でいいだろ。

 依頼書周りはこっちが仕上げておくから、レルベアはもう帰っていいぞ。早い内に出られるようにはしておくが、いつ頃の予定で立てればいい?」

 今からレルベアに依頼書の書き方を教えるのも面倒なので、ヴァンが代行すると伝えた上で、予定を確認すると、彼は意気揚々と答える。

「明日の朝には出られるようにしておくよ!」

「この時間から書いて提出した所で承認降りるわけねぇだろアホか。窓口もう閉まってんだよ」

 アホな提案を一蹴して現実的な予定を告げるように言うと、彼は悩ましげに考えてから答えた。

「それなら昼過ぎにはいけそうかい?」

「分かった。どうにか通しておく」

 現実的な提案に対し、ヴァンは二つ返事で了承し、折角なのでこの場でマスターに聞く。

「マスター、シャバルガンへの連絡通路の利用は事後承諾で構わないか?」

「構わないわよ。ちゃんと書類出しておいてね」

「助かる。―じゃ、こんなモンで何とかなる。俺もすぐ書類を揃えて書き始めたいから解散でいいか?」

 確認することは確認したので、解散を提案し、2人も頷いた。そして解散する前に、レルベアは申し訳なさそうに笑った。

「何から何まで悪いね。あとで相応の金は渡すよ」

「金はいらんぞ。タダメシにしてくれ」

「ヴァン、主語がないのは卑怯じゃない? 依頼を受けるキミたち限定ならいいよ」

「…金にしてくれ」

「やっぱりね」

 対価として、食事代を要求したが、敢えて主語を抜いた提案にすることで、その範囲を好き勝手決められたのだが、それは店長という経営者か。一瞬で看破されたので、大人しく仕事に対する、正当な金銭という対価で納得することにした。



 ――そんなやり取りがあり、翌日にはシャバルガンへと向かうことになった3人。その前に、コハクの考えや、同行するレルベアの飯のことで頭が一杯だったせいもあるが、最も重要な事をすっかり忘れていた、

 それは、師匠にも絶対顔を合わせること。そもそも、今回は目的としてレルベアの付き添いであり、黒竜の事で来たわけではない。訓練も今のところ順調なので、彼女の手助けはなくてもまだ成長できると思っていたので、ここでの再会はヴァンの予定にはない。

 ―そうは言うものの、彼自身覚えていないとはいえ、黒竜に敗北したヴァンを病院まで送り届け、元の状態に戻したのは師匠本人であり、彼の勝手な約束そのものが、ただの自己満足でしかないのだが。

 今更ながらその事を思い出し、シャバルガンへの道を引き返そうとするが、ルナとレルベアの2人はそのつもりはない。元より、この依頼はヴァンの名義で通しているので、1人逃げ帰るのはそれはそれで契約違反だ。

 自分の子供の頃の約束も大事にしているが、それ以上に大人としての対応を優先したヴァンは、苦虫を噛み潰したような感覚で2人に着いていくことにした。


 魔女協会の特定の転移石から飛んでいった山の麓。そこに掘られたトンネルを歩きながら、レルベアは呟く。

「魔女協会が、こんな通路を持ってたなんて知らなかったよ」

「一応、ウチの師匠も所属は魔女協会だからな。何かあった時は秘密裏に繋がれるように、アナログではあるが、確実な通路を用意している」

 ヴァンの説明を聞いて、レルベアは訝しんだ。

「お前、その口ぶりから、知ってたのに教えてくれなかったのか?」

 お互い、子供ではない。いくら仲が良くても、隠し事があるのは当然だが、少し不満そうにレルベアが呟くと、ヴァンも呆れつつ答えた。

「秘密裏に使ってる通路だって言っただろ。当然、一般には本来開放されていないものだし、今回も、魔女協会の魔女が関与してるから特例で通してもらってるだけだ。

 基本的には、シャバルガンに直接取り合って、転移石の利用許可をもらうか、少し遠方にある村まで転移してから山を越えて来てくれ」

 この連絡路は、有事の際、オーキス本人への連絡手段がない時に使う緊急手段。それを一般に公開してしまえば、必要な時に使う前にこの連絡路を潰されかねない。

 魔女協会としても、秘匿しておきたい隠し通路の1つなのだから、常用するのは許されない。はっきりその事を話して、ようやく彼も理解したようだ。

「…それもそうか。悪かったな」

 レルベアも素直に謝り、ヴァンも気を取り直して前を向く。

「誰も通らんと思うが、それなりの距離はある。適当に休みながら行くぞ」

「具体的には、どんくらい歩くんだ?」

「ペースにもよるが、4、5時間くらいだな」

 歩く距離として、参考として聞いてみたら思った以上に遠く、レルベアは渋い顔をした。

「…結構あるな」

 それに対し、普段から依頼で山や獣道を歩き回っている2人は涼しい顔をしている。ただ、基本的に屋内で動き回る程度のレルベアには酷だと判断し、ヴァンは立ち止まった。

「まあ、楽する手段はある。何せ、ここは魔女たちが作った連絡路だからな。非力な魔女でも迅速に連絡するための手段も用意してある」

「お前今さりげなくディスった?」

「気のせいだろ」

 レルベアを非力な魔女と同一視したことに対して、即座にツッコミを入れたが、ヴァンは聞き流してトンネルの壁に向かって歩いていき、その滑らかな壁に触れると―突然壁にリールが現れ、それに沿うように、大人1人が座れるようなプレートが現れた。

「魔女の魔力を使って起動する輸送用のコンベアだ。これを使えばいい」

「あのさ。俺ら、普通の人間なんだけど」

 魔女用の移送手段と聞き、嫌な予感はしていたが、魔力が必要と言われ、レルベアは呆れ気味にダメ出しするが、ヴァンは指輪を外し、2人に1つずつ投げ渡す。

「魔女の指輪だ。それを着けるなり、手に持ったまま壁に触れれば起動できる。その後は、どこかしら触れていれば、勝手に連れててってくれる」

「……お前が来てくれて、本当に助かったよ」

 ヴァンに言われるままに、指輪を手に壁に触れると、言っていた通りにプレートが浮き出してきて、レルベアがそれに座りつつ指輪をプレートに当てると、それなりの速度で進みだした。

「ヴァン兄、あれ結構速くない?」

「元々緊急連絡用の設備だからな。時間も重視して設計されている」

 みるみる内に見えなくなってしまったレルベアを見て、2人は淡々と会話する。あまりのんびりして置いていかれるのも嫌だったので、ルナも同じようにプレートを出して運ばれていった。

 そして2人が見えなくなる前にヴァンも壁、ではなくジャンプして天井に触れ、そこから現れた手すりに捕まり、ぶら下がる形で筋トレついでに片手で懸垂しながら運ばれていった――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。