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魔女と竜狩り  作者: 合併
第4節 竜狩りの呪い
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第4節 幕間 後編

 ―夜。空を飛んでいる3頭の大きな影―翼竜の背中に括り付けた鞍に乗っていた外套の男は、ふと夜空を仰ぐ。

 予定とは1日繰り上げて移動してきたこともあり、ここまで着いてきてくれた、3頭の翼竜たちも大分疲れている。それでも、同業が仕入れてくれた強壮剤を飲ませ、無理矢理動かしている状態だ。

 それもこれも、今回の件に竜狩りが絡んでいると知ったから。あの怪しい若者が竜狩りだったのは意外ではあったが、早い段階でこちらに連絡をくれたことには感謝しかない。

 これからの予定は、改めて組み直しているので、その情報が流れない限りは、竜狩りの追跡も難しいだろう。

 強壮剤のおかげか、まだ羽ばたく翼に疲れの見えない翼竜たちに、労いの言葉をかける。

「お前たち、もう少し先が休憩所だ。頑張ってくれ」

 周囲にも伝えるように言い、それを聞いた翼竜たちも、呻くように返事をする。

 そして、変更した休憩地点が見えてきた頃に―空に浮かぶ、赤い月が一瞬陰る。

 雲でもかかったかと思ったが、それにしては時間が短すぎる。不審に思った男が空を見上げると―月に照らされて、赤く染まる空に、小さな人影が――


「――!!!?」


 想定していなかった強襲。人間の形をしているのは分かったが、その影は、間違いなくこちらへと向かって急降下してきていた。そして、その接敵までの時間は少ない。

 咄嗟に翼竜の脇に取り付けていた大槍を引き抜き、迎撃態勢を取る。そして、歴戦の相棒だからこそ、その変化にすぐに気が付き、男に合わせて態勢を飛行から、その場でホバリングするような体勢に入れ替える。

 それを確認した上で、その人影は、虚空を蹴って方向転換して来た。

 獣じみた咆哮と共に繰り出された爪の一撃は男の大槍で受けとめ、力を逃がして弾く。そして、弾いた先にいる敵の正体を見て、後悔した。

 姿形は、先日話をした竜狩りの少年と全く変わりはないが、その纏う空気はただ事ではない。兜でその顔は見えなくとも、身体に纏う黒い力場と、両手に装着された、禍々しく変形した角と爪。獣のように唸る姿には、微塵も理性を感じない。

「どうやってここまで来たか、なんて野暮なことは聞かない。ただ、向かってくるなら若者だろうと容赦はせん」

 男はそう言って迎撃態勢を取り、ヴァンの前に立ちはだかるように位置して後ろの翼竜2頭を逃がそうとする。だが、ヴァンの狙いは最初から男ではなく積み荷。右手の角を空高く向けて発射し、男を飛び越える形で跳躍し、不可視の足場を蹴って後方の翼竜たちに向けて爪を構える。全快の彼らであれば、その動きに追いつくことも出来ただろうが、ヴァンを騙すために、予定を繰り上げた分体力を消耗している。ヴァンの爪をかわすために翼竜は咄嗟に急降下するが、完全に避けきることは出来ず、爪が掠った結果、その背中にワイヤーで括り付けていた、封印をされた棺桶を落としてしまう。

 一時的な呪いの発現であれば、完全には飲み込まれていないようで、棺桶が落ちていくのを確認し、彼は翼竜たちを無視して棺桶に一直線に向かっていく。

 その判断についても、師匠から、"魔女を絶対に傷つけない"ようにする教育の賜物だろう―地面に衝突する前に、ヴァンのワイヤーが棺桶に巻き付き、左手で作った足場をしっかり掴み、受け止めることで地面への衝突は回避する。

 無事にゆっくりと地面に下ろした所で、ヴァンは改めてこちらへと迫りくる3頭の翼竜たちに意識を向けた。

 そこでようやく意識の底にこびりつく、魔女への気遣いは消えた。ここからは、怒りに狂う呪いのまま、彼は戦闘を開始する。

 足場に再度着地したヴァンはまず、先陣を切って突撃してきた槍を片手で掴み、翼竜もろとも軽々と振り回して次に来る翼竜にぶつける。それに巻き込まれて後方に飛んでいった仲間たちに意識が奪われている間に、残る3頭目の目の前にヴァンが接近して、その首をいとも容易く斬り落とした。

 重力に従い、濁流のような血を流しながら地面へと落ちていく姿を見て、体勢を整えた2頭と1人は、激昂の咆哮を上げる。

 明確な敵意や殺意、憎悪をその身に受け、ヴァンの呪いは高まるのではなく、落ち着きを見せた。それもそうだろう。感情の暴走が呪いのトリガーであるならば、その感情を鎮めれば呪いは弱まっていく。だからといって、彼の力は収まるわけではなく、むしろ呪いに支配されていた思考がクリアになることで、その凶悪性に拍車がかかる。

 迫りくる2頭は、それでも冷静さは欠いておらず、先ほどのように簡単に巻き込まれないよう、片方は死角を維持して陣形を組んでくる。そして、死角からの一撃を狙ってくるのは翼竜ではなく、男の方。どうやっても真正面から向き合おうとしてこないが、それを追いかけていると死角から別の翼竜が迫ってくる。

 それも簡単に回避しながら、ヴァンは死角からの殺意を感じつつ、立ち回りを求められた。

 ただ、時間の経過はヴァンの感情を落ち着かせ、更に思考は研ぎ澄まされていく。既に感情のままに戦うつもりは一切なく、まだ燃え盛る怒りは残っているものの、完全に自我を取り戻した。

 その頃ようやく、埒のあかない戦いには不利だと悟った2頭は、一気に攻め立てて来た所で、彼  は兜の下、嘲笑の感情のままに笑みを浮かべた。 

「――!!!」

 咄嗟にポーチから取り出したのは、閃光弾。同時に迫ってきた翼竜たちは、夜目に慣れてきたことも相まって、突然の閃光に目を潰され―その隙に、男の首元に熱いものを感じる。

 それが己の血だと知るより先に、男の首は胴体から切り離された。

 手に伝わる、肉と骨を断ち切った感触をしっかりと感じながら、ヴァンは飛び乗った翼竜の首に爪を突き立てる。

 制御を失い、そのまま崩れ落ちていったかつて主だったものを確認すらさせずに、2頭目の翼竜の首を後ろから迷わず斬り落とす。

 首を失い、そのまま地面へと落ちていく2つの骸を蹴り飛ばすようにして跳躍し、ヴァンは最後の翼竜と向き合う。

 ただ、閃光で潰していた視力は既に回復しており、仲間たちの命を簡単に奪っていったヴァンに、ようやく恐怖を覚える。

 ヴァンの呪いも、解けてきてはいるものの、呪いが起動した根底には、ヴァンを騙して魔女を誘拐していった連中の怒りがある。その目的を達するまでは呪いは解けず、彼は静かな怒りを制御しながら、人間離れした脚力で駆けていく。

 それに対し、半狂乱気味に翼竜は抵抗しようとするが、恐らく主力である、男とのペア以外は輸送用として連れて来られた個体。戦闘慣れしていない故に、その隙を簡単に見抜かれ―その両翼を、指輪の魔力を使った、黒い暴風の一閃にて斬り落とされる。

 空を飛ぶための翼を削がれ、無様に墜落していくが、ヴァンは苦しんでる姿を見て愉悦に浸るような趣味はしていない。地面に衝突して即死されるよりも早く接近し、敵の肉を、己の手で両断せんとする。2択の"死"が迫ってくることを理解し、全てを諦めた翼竜は目を閉じたと同時に、目の前には黒く捻れた爪が迫っていた。


「……、」

 一旦、スパイたちを全滅させ、正気に戻ったヴァンは、地上に降ろした棺桶に向かっていき、すぐにその蓋を開くと―緩衝材代わりに白い花―花粉には、睡眠作用を持つ花弁に囲まれた若い女性が眠っていた。

 ヴァンは彼女の息があることを確認した上で、何も言わずにその身体を棺桶から引きずり出して背負う。

 女性であっても、意識のない相手を背負うのは重労働だ。それでも、彼の呪いはまだ残っているからこそ、人間離れした筋力で彼女を背負ったまま、空を駆けていく。

 まず向かうのは、近隣の村。救助した魔女を王都に届けるためにも、一旦転移石を利用したかった。


 ――そして、無事に王都まで魔女を送り届けたヴァンは、もう1つの残っている仕事のため、再び転移石を使って、元々潜伏していた付近の村まで転移する。


 ヴァンが村に戻り、空へと駆けて周囲を確認すると―広い範囲に、彼を探しているであろう、松明の明かりが点々に見えていた。

 それを見て、ヴァンは歪んだ笑みを浮かべる。それもそうだろう。まさか、獲物から自分の居場所を知らせてくれているとは思わなかったから。


 ―裏切りの対価は、その命をもって償ってもらおう。


 裏切られた怒りを糧に呪いが再び燃え上がり、その感情に身を任せ、狩人は狩りを始めた。



「――で、結局その後どうなったんです?」

 何故かヤラれながらヴァンの昔話を聞かされていたルナは、息を切らしながら話のオチを聞くと、全裸で冷やしておいた水を飲みながらスピネが話し出した。

「あの後ねぇ、その密輸に加担してた連中のうち、ほぼ全員が死亡。表向きは翼竜に殺られたって話にされたけど、本当の犯人はヴァンだって傭兵組合の連中は皆知ってた。

 それが、あの子が傭兵組合で恐れられるようになった、最初のきっかけね」

「最初の?」

 スピネから投げ渡された水を受け取り、ルナもそれを飲みつつ聞く。

「傭兵連中には頭の悪いのが何人もいるのよ。ヴァンのその噂はあくまで噂だろって挑発して、結果怒らせて、死ぬ寸前までの一方的な暴力沙汰になったり、街中の少し離れにある飲食で、コックが馬鹿にされたのにあの子が怒って、中傷した同じ"竜狩り"を全員病院送りにしたりね。

 今じゃ滅多に喧嘩沙汰なんか起こしてない…って思ったけど、少し前に碧の竜狩りの所の若衆を黙らせてたわね」

「…あぁ、なるほど」

 スピネはわざわざ明言していなかったが、その飲食店での事件は恐らく、レルベアの店だろう。付き合いは短いものの、それでも分かるくらい、仲間にはとんでもなく甘いヴァンのことだ。同郷で、一緒に上京してきたという話もあったし、彼にとっては兄弟とほぼ同じ扱いなのだろう。

 よほど真っ当な理由がなければ、彼がキレるのは割と想像に難くない。

 そこで、1つ疑問を感じた。

「ヴァン兄って、割と昔はキレてたのに、今までどうやって抑えてたの? 昔は今みたいに安定剤を使ったりしてなかったんでしょ?」

 そう言われると、あの厄介な呪いをどうやって対処していたのか気になって聞くと、一足先に水を飲みきったスピネがベッドサイドに腰掛けて答える。

「そりゃあ、無理矢理気絶させて拘束よ。

 この前みたいに、本当に酷くなければ時間が経てば勝手に落ち着くからね。ただ、呪いの強さ次第で死人こそは出ないけど、それなりの怪我人は出てたわね」

 そこで言葉を区切り、彼女はでもね、と付け加える。

「あの子は、魔女に傷付けられないように強く躾けられてる。それは呪いに匹敵するくらいのトラウマになってるみたいでね。致命傷になった魔女は1人もいないし、逆に言えば魔女を動員しなきゃそれ以上の被害が出てたことは何度もあった。

 今でなら、シルがいるからね。そんな事も滅多に起きることもなくなったわ」

 当時のヴァンの鎮圧を思い出したのか、少し懐かしそうに目を細めてから笑顔でこちらを向いた。

「じゃ、休憩も大丈夫よね」

「え?」

 当たり前のように告げられた言葉を理解できず、ルナが素っ頓狂な声を上げるも、彼女はルナに覆いかぶさってくる。

「だってまだ満足してないし?

 さっきの水に強壮剤も入れといたし、まだやれるわよね?」

「いやもう足腰立たな―ぁぁぁぁぁあああ!!!」

 今日も今日とて、干からびそうになるまで搾り取られているルナの悲痛が、魔女協会に響いていた。

 なお魔女たちの部屋は防音性完璧なので、その叫びは誰にも届くことはない模様。

 お ま け 

ルナ「…………」

ヴァン「相変わらず搾られてるみたいだな」

ルナ「ヴァン兄…」

ヴァン「継承してる魔女は、それだけ魔力の補充が必要だからな。普通の魔女相手ならそこまでやられねぇよ」

ルナ「それフォローになってないよね?」

ヴァン「フォローしてるつもりもない。覚悟はしておけって話だ」

ルナ「だからって、予防できるものでもないじゃん? ヴァン兄が直接着いてくれればいいんのにさぁ」

ヴァン「そう言われてもな。俺も依頼次第ではお前らを連れて行くのが難しいのもあるし、だからって、俺が直接契約している碧の竜狩りたちと仕事させるわけにもいかない。

 人間性とかその辺さえ無視すれば、教官…スピネは良い人選だぞ」

ルナ「その人間性がヤバすぎてこうなってるんだけど?」

ヴァン「それはそうなんだがな。シルは基本的にゴルの御守りがあるから、街を離れたがらないし、他の連中に、教育込みで信頼できる奴はほとんどいないんだよ。何せ、外回りしてる連中は滅多に街まで帰ってこないから俺もほとんど接点がないからな。

 その点、アイツはどうしようもないショタコンではあるが、やる事はきっちりやってくれるし、人に教えるのも慣れてる」

ルナ「ヤル事もきっちりやるけどね」

ヴァン「なかなか口が回るじゃないか。そこまで言えるならまだ元気だろ」

ルナ「体力じゃなくて、いい加減チ◯コが起たなくなりそうなんだよ…」

ヴァン「まぁ、師匠のところだとまず師匠1人に対して、こっちは数人が基本だったからな。1人でアレと似たような相手するのは流石に酷か。

 教えるのは早いと思ってたが、抜け道を教えてやろうか」

ルナ「え、そんなのあるの?」

ヴァン「アイツの魔力補充って名目を無くすくらいだけどな。マスターに、こっちから外部からの魔力補充について進言しておくよ」

ルナ「…ん? 外部?」

ヴァン「そうだ。ここで、わざわざ娼館に登録せずに、特定の相手を作ってない魔女がいるのは知ってるな?

 当然、魔女にとっては本来魔力ってものは必要なもの。それを補充できないと、不調につながる。

 明確にその魔力補充をしていない魔女が、ここでどうやって普通に生きていけるのかっていうと、魔力を貯蔵している設備がここにはあるからだ。

 アイツが魔力補充を目的で求めてくるなら、それの利用をこちらから進言していると言えば、使えなくなるだろ?

ルナ「…それでも、求めて来そうなんだけど?」

ヴァン「回数は減るだろ。

 それでもキツイなら、精力剤の申請も出しておくか? 実際、アイツのパートナーが全く出来ないのは、年齢とか相性以前にアイツの性欲が原因だからな。改めて必要なら話せ」

ルナ「……まぁ、頑張ってみるよ」

スピネ「―ルナくぅん! 今日も元―へぶぅっ!」

ヴァン「白昼堂々セクハラしようとするな痴女が」

スピネ「そのバカでかい身体で割り込まないでくれる!?」

ルナ「はは……」


 なお、その進言のおかげか、それからの夜の相手は3時間は眠れるくらいには短くなった。


ルナ「……まぁ、これなら何とかできるか」

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