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魔女と竜狩り  作者: 合併
第4節 竜狩りの呪い
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第4節 15

 2人分の紅茶を淹れたケイは、イニスと対面する形でソファーに座る。

「話は脱線したけど、なんで魔女協会がそんな情報を持ってるか、だったっけ?」

 最初に話した内容を忘れていなかったケイは、熱い内に紅茶を啜りながら話し出した。

「ヴァンが魔女協会に送られたのは、オーキスの弟子であって、ヴァン自身、魔女の指輪を使う都合上、何かと便利だっていうのが世間では言われてるけど、確かにそれも理由の1つだ。

 それ以上に、魔女協会に所属する理由は、ヴァンの呪いを調べさせるため。何せ、魔女の権能の中には"呪うこと"に特化した魔女もいるからね」

 ―彼女が言うように、オーキスの要請もあり、魔女協会はヴァンに掛けられている呪いの調査を行なっていた。ケイの言うとおり、魔女の中には呪いにも精通する者もいるため、その知識や権能に賭けた結果だろう。

「…それじゃあ、ヴァンの呪いの解呪って、始まってたりするのかい?」

 イニスの言葉に対し、ケイはまさか、と答える。

「そう上手く事が進んでいたら、あの子もここまで苦しんでないでしょう?」

 二十年近く、魔女協会に所属してもなお、呪いに苦しめられているのだから、当然と言えば当然の回答が返ってくる。

「それでも、ヴァンのおかげで魔女協会が精神安定の香を開発だったり、安定剤を含んだ煙草とかも開発するきっかけになったのは事実だ。

 彼の呪いに直接介入できる手段は見つからなかったけど、それによって発展した技術もある。形はどうあれ、全く無駄じゃなかったのは良いことじゃないかな?」

「そういうものかねぇ」

 理解しがたいと言いたそうにイニスは呟くが、ケイが話すよりも先に、背後から声がした。

「こっちの想定とは外れたけど、多少なりともあの子が楽に生きられるなら、紹介した価値があるというものでしょう?」

「…………、オーキス。よく、ここが分かったね」

 ケイは振り返らず、背後にある気配と声で彼女―オーキスの来訪を当ててみせ、彼女は自慢げに答える。

「アナタに渡していた転移石をこちらが探知できないと思っていて?

 それにしても、良いところねぇ、ここは」

 薄暗い部屋の中、ケイの背後から腕を回し、彼女の首に手が触れる。

「暴れるなら、帰ってもらいたいね。ここは、ボクの家だ」

 静かな脅しに対しても、彼女は一切動じずに静かに指摘すると、彼女はいけしゃあしゃあと答える。

「あら、物騒ね。私は、協力をしてもらいだけよ?」

「協力の是非については、内容によるね」

 首に手をかけられた状態での会話に、空気が張り詰める。ただ、当事者の2人は争う気はないと言いたそうにお互いに得物すら持たず、和やかに会話している。

「簡単なことよ。アナタたちに、ヴァンのサポートをお願いしたい」

「…それは、どういう意味でかな?」

「皆まで言う必要はある? 悪趣味な監視をしてるのはこっちも知ってる上で聞いてるんだけど」

 ケイの問いに、全て見透かしたようにオーキスは答える。自由に動けるイニスが加勢しようとした所で、ケイは真っすぐ彼女を見て制した。

「…ケイ、過度な干渉をするなと言ったのはキミだろう?」

「分かってるよ。でも、この人が言ってるのは、そういった事じゃないでしょう?

 それに、ボクはオーキスの出した条件にはまだ答えられないよ。貴女の要求を全部聞いていない」

 ケイは普段通りにゆったりとした態度で、紅茶を啜る。余裕な態度のままのケイに向け、オーキスも馬鹿馬鹿しくなって手を離した。

「…はぁ、意味がないわね。ここまでやって、動じない相手は初めてよ」

「そんなに褒めないでよ。"死ぬくらい"の脅しなんかじゃ、脅しにすらならないだけだからね」

「褒めてないわよ」

 オーキスは不機嫌そうに言って、外側を回って、ケイの隣に座る。

「それはともかく、こちらの要求は通るのかな?」

「―まぁ、ボクらとしてもヴァンに死んでもらっちゃ困るのは事実だからね。判断自体はこちらの尺度によるとはいえ、それについては喜んで協力させてもらうよ。でも、その前に約束してほしいことがある」

 素直に了承すると思いきや、彼女はずい、と顔を近づけて、念押しするように伝えた。

「ここはボクらの…ボクの隠れ家だ。許可した者以外、不用意に入れたくはない。

 ここの存在は誰にも教えないこと。それと、この空間では家主であるボクの命令が絶対ということ。この2つを守ってくれるなら、ボクら希少取引所(レイディアント)が出来る限りの協力を約束しよう。もちろん、あの子には秘密でね」

 ケイの条件に、彼女は少し顔を離しつつ答える。

「それなら、契約成立ね」

「でも、文面での契約は断るよ。この話については、ボクらの密約だからね」

「構わないわ。仮に、文面でなくても簡単に大口の取引先との約束を反故にするような真似はしないでしょう?」

 試すようにオーキスが聞くと、ケイも少し困ったように笑った。

「その話を出されると困るなぁ。

 確かに、キミのところと契約を結んでから稼がせてもらってるけどさ」

「ところで、自分は特に聞いていなかったが、君らが契約を結んでるという転移石の根回し先とは何処なんだい?」

 大人しく2人のやり取りを聞いていたオルタが、突然横槍を入れる。それに対し、仕入れ先でもあるオーキスも思い出したように聞いてきた。

「そういえば、私もそれ聞いてなかったね。国家の敵にならない範囲かつ、国内で消費するって約束だったけど、何処に回してるの?」

「それ言わなきゃだめかな?」

「いい機会だから教えなさいよ。それに、答えられないような場所に回してるなら、契約違反で回収しないといけないし」

 ―ケイは、オーキスから非公式に転移石を融通してもらっている。建国者でもある三英雄の1人でもあり、国家への奉仕精神も強いオーキス本人が一歩間違えれば国家転覆にも利用されかねない転移石の取引に応じる理由には、金銭的な取引以上に、彼女が気にかけている金の竜狩り、ヴァンの足取りを細かく知っているから。その情報も含めて、ようやく首を縦に振ったのである。

 元々、悪用はしないという書面での契約を交わした上で取引を行っている。その詳細についてはある程度まではオーキスに伝えているものの、1部は秘匿していた。それについて、お互い事情があると考え、彼女も深くまで指摘しないようにしたが、人目のない隠れ家であれば、周囲に気付かれる心配なく聞ける。

 オーキスも引く素振りがないため、ケイは観念したように、冷めた紅茶を啜りつつ答えた。

「個人的な転移に使ってる」

「…それだけ?」

 思った以上大した事ない理由に彼女は困惑気味に聞き返すと、ケイは不満そうに言い返した。

「商人にとっては販路の確保ってのはとても大事な事だよ。オーキスから分けてもらった転移石を子機化するように加工した上で、各地の転移石と繋げて隠して配置してるんだ。それで、ボクはそれを通じて好きに転移できるようにしてる。

 当然、国の転移石の利用手続きは踏んでいないし、各所の転移石を利用して、個人的な転移先を確保してるわけだから、ガッツリ違法だよ」

「ケイってコソコソ各地を回りつつ、そんな回りくどい手段使ってたのかい?」

 イニスの呆れ気味の言葉に、彼女は引き続き不満げに答える。

「迅速な現場への到着もそうだけど、ボクらの"闇の沼"で引き込んだ商品の移動が1番だよ。キミもよく知ってるだろうけど、ボクらの沼にも質量はちゃんとある。

 他所で不用意に見せたい技術でもないんだから、その転移の経路を確保しておくのは重要だよ」

 そこまで言い返され、ようやくその意味を理解したイニスが黙り込んだところで、オーキスが聞き直す。

「じゃあ、別に反乱分子に売ったりはしてないってことね?」

「勿論。下手なことされたら、責任はこちらに回ってくるんだ。

 余計な面倒事は持ち込まないに限るよ。キミもそうでしょう?」

「それもそうね」

  念のための確認も済ませ、今更ながらオーキスが聞いてきた。

「ところで、その紅茶美味しそうね。私にも淹れてくれない?」

 本当に今更ながら客人のように振る舞おうとしてくる彼女に向け、ケイは嫌そうに告げる。

「え、イヤだけど。話も終わったなら帰りなよ」

「ケチ臭い事言わないでさぁ」

 はっきりと帰るように伝えるも、彼女は引かない。ケイもここで引くつもりはないが、下手に話がこじれてこの状況が長引くくらいなら、折衷案を取ることにした。ため息混じりに立ち上がった後、棚へと向かっていき、今回淹れた紅茶の茶葉が入った缶を手に取って、投げ渡す。

「それあげるから。帰りなって」

 最初からこれが狙いだったかまでは分からないが、オーキスはケイから缶を受け取ってから上機嫌に立ち上がる。

「いただいていくわね。―じゃあ、今後もよろしくね、希少取引所のお二方!」

 そう言って、オーキスが消えていった背中を見送り、イニスは聞いた。

「嵐のような人だったねぇ。

 ところで、転移石の仕入れ先ってあの子からだったんだ」

 2人だけの組織に所属している割には、ケイの仕事について知らないことが多いイニス。元々、多くのことに無関心な故だが、ケイも勿体ぶらずに答える。

「ん? そうだよ。言ってなかったっけ。

 元々、ヴァンの情報を土産に話を聞きに行ったのが馴れ初めかなぁ。本来は国というか、魔女協会で管理してる代物だからさ。とんでもない便利品だから需要はとんでもないんだけど、国に申請するにしてはかなり面倒くさいし、良い値で売れるんだ。

 まぁ、取引するにしても非公式の取引所でやらないと普通に危ないから、そんな頻繁には売れないんだけどね」

 当然のように闇市に関わっていることを話すケイ。彼女たちは仕事として、希少生物を取り扱うため、どうしてもアウトな案件はそういった裏取引をしなければならないため、仕方ない面はあるのだが。

 表向きの仕事に比べて、稼ぎの良さから裏稼業専門に移籍してしまう同業者も多い中で、表向きでも名が知られる位には活動しているのも珍しいのだが。

 そうやって表裏を切り替えられるのも、表向きの取引や鑑定はイニスが担当してくれている面が大きく、違法な取引についてはケイが単独で済ませているのもあったりする。

 今更ながら、ケイが裏でも何かと動いていることを知り、彼女は無邪気に聞いてきた。

「それは初耳だなぁ。いつも忙しそうにしてるなら、助けも必要なんじゃあないか?」

 イニスの申し出に、彼女は再び紅茶を淹れ直しながら答える。

「それは断っておくよ。1人でも何とかできてるし、むしろ1人でやった方が楽だからね。

 今回の転移石の密売然り、不手際で討伐された保護種の隠滅だったり、ボクのやる仕事は何かと足がつかないように何かとやることが多いしね」

「そうかい? それならいいや」

 あっさりとイニスは身を引いて、冷え切った紅茶の残りを飲み干した。

「自分ももう一杯飲んだから帰ることにしようか」

「そうしてくれ。送ろうか?」

 帰る素振りを見せたイニスを止めず、ヤカンの前で沸騰を待っているケイが聞くと、首を横に振った。

「それは大丈夫。帰り道くらい分かってるさ」

「それなら良かった。

 また明日から、いくつか仕事も入ってるから頼むよ。ボクは、今回引き取った擬似竜(ヴォイス・ドラゴン)の洗浄と、引き取り先の申請を出してこないとだからさ」

「ん? それなら洗浄後は自分の仕事じゃあないか?」

 獲物の洗浄、その後にある解体した素材の鑑定はイニスの仕事の範疇であり、ケイの言う仕事を理解したところで、彼女は沸騰前のヤカンを火から取り上げ、ティーポットにお湯を注ぐ。

「そういうことさ。

 仕事なら取ってくれば、いくらでも増やせるんだから、頑張ってね」

「じゃあある程度抑えれば時間も取れるんじゃあないか?」

「いや、取引先との信用問題もあるから基本増やしたら減らないよ?」

「…………」

 暗にその気になれば仕事を減らせると言ったので、期待を込めて聞いてみるも、ケイは無慈悲に言い放つ。それに無言の抗議をするが、紅茶を淹れているケイは無視して、淹れたての紅茶をイニスの前に置いた。

「はい、これ飲んだら帰るんだよ」

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