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73話 運転手さん止まってくださーい!

73話 運転手さん止まってくださーい!


なんてナイスなタイミングで声を掛けてくれたんだあの看護師さんは。おっと、ナイスなタイミングっていうのは帰る前に教えてくれた事に対する発言だからね。


水瀬さんとの会話中だったからとかじゃないからさ。そこは安心してもらいたい。


でも、あの看護師さんはきっと良い人に違い‥‥‥、


ないことは無かった。


「よっ、牧野君退院おめでとう」


「ルリさんか‥‥‥」


「なにその悲しい反応は。アツい夜を共に過ごしたでしょ?」


その発言、語弊しかないんですけど訂正した方がいいですかね。


「夏だからアツいだけですね、了解しました。」


「夜を過ごしたのは間違って無いでしょ?」


「患者と夜勤の看護師っていう状況の説明が足りないですね」


「ほんと最後まで抜かりないわね牧野君は」


さっきから何を俺は説明させられているのだろうか。そしてルリさんは何に納得したのだろうか。


「なんだかんだ入院してる間は一番ルリさんと話させられてた気がしますね」


「話させられてるって、そんなんだから鈍感なのよ?」


さっきから関係ない事ばっかり言ってるよね、騙されないですよ私は。


「そういえば、幼馴染の子にはメールは出来たの?」


「ああはい、送れましたよ‥‥‥一応」


◇◇◆◇◇


「さっきは冗談でも送っちゃいなよ!、なんて言われたけど実際に送ろうと思うと文字が思いつかないな」


ルリさんからアドバイスを受けた後、俺はどんな文を送るかを決めかねていた。


【ちょっとお見舞いくらい来てくれよ~ベイベ~】


「なんか軽すぎるな」


【久しぶり~、こっちの病院生活も悪くないぜー】


「なんか悠木に送ると煽りみたいになっちゃうかな」


【おっすおっすなんか久しぶりじゃ~ん】


「なんだこのキャラは」


以外とこの状況で軽く話始めるのって難易度が高いな。悠木の本心が分からないし。


【いやー最近暑いよな~】


「なんかこれは一番気まずさが表に出てるな。流石にだめか‥‥‥ってあ」


牧野【いやー最近暑いよな~】


つまり、やってしまったのであった。


◇◇◆◇◇


まだ返信は来ていないが、一応送ったのだ。すっごい気まずそうなメールを。これには俺だったら返信しないまである、この状況だし。


送信取り消ししようとも考えたけど、なんかそれも気まずい感じがするのでそのままにしておいたのだ。


「まあ、送れたなら良かったじゃない」


「そうですねー」


「って忘れ物渡すんだったね」


いや、忘れ物を渡しにきて忘れないでください。


「はいこれ、大事なものなんでしょ?」


そう言うとルリさんは俺のネックレスを渡してきた。


「うわ、ありがとうございます」


「病室の棚の中に忘れてたわよ?」


いつも肌身離さず付けているのだが、病院ということもあって完全に外していたのだった。こんなに大事なものを忘れるなんて。


‥‥‥そういえば最近はあの女の子の夢を見なくなったような気がする。なんか不思議だ、少し前まで絶対に再開するって思ってたのに。


「じゃあ、元気でね。タクシー来たわよ」


後ろを振り向くと水瀬さんと麗奈を乗せたタクシーがこちらまで来ていた。


「お世話になりました‥‥‥ほんの少しですけど」


「はい、お世話しました‥‥‥たくさん」


相変わらずだなと心の中で笑いつつ、タクシーに乗り込んだ。


「ああはい、ここなんですけど~‥‥‥」


麗奈が運転手さんに自宅の住所を説明している。ちゃんと大人になって行ってるんだなと親心のようなものを感じつつ、ルリさんの方を見返す。


そういえばこの人、ずっと名札付けて無かったな。気が付いてないのか?


「ルリさん、名札なんで付けてないんですか?、前から思ってたんですけど」


「あ~、そうね。忘れてたわ」


ルリさんはそう言うと、名札をポケットから取り出し胸の位置に付けた。やっぱり胸が‥‥‥っえ?


胸の事で驚いたのではないぞ。名札が‥‥‥。


え、朝日奈 瑠璃?、そうだったのか‥‥‥って、妹がいるって‥‥‥まさか。


「もしかして‥‥‥」


俺が思った事を問いただそうとするとタクシーがすでに動き出していた。


「じゃあ、妹の事よろしくね~!」


すごい得意げな表情のルリさんがこちらに手を振っている。


「えーーー!」


そしてタクシーに乗せられ、この病院を後にしたのだった。

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