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ウォーダ軍とエイザン軍の武力衝突が起きようとしていたその頃、皇都キヨウ行政府『ゴーショ・ウルム』内―――
「お待たせいたしました、陛下。ご出発の準備、整いましてございます」
部屋を訪れた側近のトーエル=ミッドベルの言葉に促され、星帥皇ジョシュア・サーマッド=アスルーガは、NNLコアシステムの星帥皇専用アクセスチェアに置いた上半身を、シートごとゆっくりと起こした。
そこから椅子を降りたジョシュアは、まるで神経組織のような無数のケーブルが内側を埋め尽くす、玉子型のリンクルームを出る。外で待っていたミッドベルは、ジョシュアに向かって恭しくお辞儀をした。その背後にはバルガット・ヅカーザ=セッツァーを含む六人の上級貴族と、側近の一団が控えている。ジョシュアはバルガットに告げる。
「ロックは完了した。これで余が戻って解除するまで、NNLシステムは自動制御状態となる」
「ありがとうございます」
礼を述べたセッツァーはジョシュアに右手を差し出し、「では、こちらへ」と穏やかな表情で促した。進んだ先は『ゴーショ・ウルム』のシャトルポートである。その中央には、鮮やかな紫色に白いラインが美しい、星帥皇室専用シャトルが発進態勢を整えていた。ジョシュアが星帥皇の座に就いた際、その祝いとしてウォーダ家から献上されたものの一つだった。
シャトルの搭乗ハッチに接続されたタラップに向けて伸びる、赤いカーペットの上を歩きながら、ジョシュアのやや左後方に従うセッツァーは、声のトーンを落として語り掛ける。
「まずは明日。ソーヴェン星系にございます。さらに二日後に、タンバール宙域のフィクト・アルマ星系。その後はトンゴール宙域を回ったのち、一気にウージェ恒星群へ向かいまする。その頃にはマキシマス星系に、戦力の集結が完了している手筈にございます」
セッツァーの言葉に、うんうんと頷いたジョシュアは、「宜しく頼むぞ」とセッツァーに返答し、シャトルに乗り込んだ。程なくして陽光の差す青空へ向け、飛び立つシャトル。
星帥皇室によるヤヴァルト宙域と、タンバール宙域からトンゴール宙域にかけての巡幸。しかしその実態は星帥皇室が、ウォーダ家の監視下にある皇都惑星キヨウを脱出し、準備が整いつつある“第二次ノヴァルナ包囲網”の指揮を執るため、再建中の皇国防衛艦隊が集結している、ウージェ恒星群のマキシマス星系へ向かう事を目的とした、欺瞞行動であった………
▶#01につづく




