#22
推測と回想を行っていたノヴァルナの意識を、オペレーターからの報告が現実世界へ引き戻した。
「六番哨戒駆逐艦『ウグラル15』より入電。“ワレ艦隊ヲ発見ス。方位114プラス16、距離5万”」
同時に艦橋中央の戦術状況ホログラムに、発見された艦隊の反応が表示される。複数の艦隊からなる一群だ。続いて八番哨戒駆逐艦から、別の艦隊群発見の通報。先に発見された艦隊群の左斜め下から、距離を置いて接近して来る。現在位置は前方に浮かぶ、第十二惑星の裏側であった。
発見された艦隊をまだ“敵”とは呼称していないが、今の状況でこの星系にいるのなら、明らかにエイザンからの迎撃艦隊であろう。
「全艦戦闘配置。砲雷撃戦用意、艦載機発艦準備」
落ち着いた口調で命じるノヴァルナ。それに応じて軽く背筋を伸ばす、周囲の参謀達。司令部付きオペレーター達が各艦隊旗艦に、ノヴァルナの命令をデータリンクで伝達した。
するとここで攻略部隊の先鋒を務めている第7艦隊の、カッツ・ゴーンロッグ=シルバータから通信が入って来る。これを受けノヴァルナはオペレーターに、通信ホログラムスクリーンの展開を命じた。シルバータの厳つい顔が映し出される。問い掛けるノヴァルナ。
「どうしたゴーンロッグ。何かあったか?」
「はっ。先ほど出現した二群の艦隊の一方から、通信が入っております」
「通信?」
「はい。後方の一群からの通信ですが、位置的に第十二惑星が妨げとなっており、我が艦に『ヒテン』への中継を申し出ております」
現在のそれぞれの相対位置は、通信を求めるエイザンの宇宙艦から、ノヴァルナの総旗艦『ヒテン』までの直線上に、JL-3090663星系第十二惑星が存在し、通信に支障をきたす状態となっている。それを解消するためにエイザン艦は、先行して角度的に通信可能なシルバータの艦へ、通信中継を申し入れて来ているのだった。
「わかった。通信をこちらへ中継しろ」
「御意」
スクリーンの中で頭を下げたシルバータが横を向いて頷く。おそらく傍らに立つ通信参謀に、指示を出す頷きだろう。すぐに画面は切り替わり、眉間に深い皺を刻んだ、スキンヘッドの男の上半身が現れた。年齢は四十代後半といったところであろうか。ダークブラウンの軍装に、細かな刺繍の施されたアイボリーの上衣を着ている。男はゆっくりと口を開いてノヴァルナに問うた。
「ご貴殿が…ウォーダ家の頭領、ノヴァルナ殿であらせられるか」
高圧的な響きを感じさせる男の言葉に、ノヴァルナは頷きもせず。「あんたは、誰だ?」とぶっきらぼうに切り返す。
「これはご無礼、拙は“名を冠さぬ神々”教団、“ソーフェイ”軍指導上首の一人、グルサグ=ザルバと申す」
まず自分から名乗るべきところを、いきなり誰何から入った事に気付いたのか、ザルバという男は詫びを入れて名乗った。ノヴァルナもこれに応じて、改めて「ノヴァルナ・ダン=ウォーダだ」と名乗り返す。
ザルバが口にした“名を冠さぬ神々”教団とは、エイザンを自治星系として確立させた、ヤヴァルト皇国発祥の宗教であった。これまで何度か述べた通り現在のエイザンは、銀河皇国中央部の金融業界で一大勢力を成す存在だが、元来は“名を冠さぬ神々”という宗教の熱心な信者が大量に入植し、皇国暦1222年に自治権を獲得した二つの植民星系である。
そして“ソーフェイ”とはエイザン防衛のため、自治権獲得と同時に設立された独立軍と、その兵士達を指す言葉となっている。熱心な信者を主戦力とした“ソーフェイ”は高い戦闘力を持ち、銀河皇国軍に所属していない事で、時には銀河皇国にとって脅威でもあった。
“連中の指導上首って言やぁ、司令長官クラスって事だな…”
そう思いながら相手を見据えるノヴァルナの視線の先で、ザルバは眼光も鋭く要求を伝えて来る。
「ノヴァルナ殿におかれては、これ以上我等のエイザンに近寄る事は無用。部隊を反転し、お帰り頂きたい」
これに対しノヴァルナは肩をすくめ、両腕を軽く広げながら応じた。
「ああ。あんたらエイザンが、こちらの出した指示に従うなら帰るさ」
ノヴァルナが出した指示とは言うまでもなく、エイザンのウォーダ家への従属、そしてバイオノイド技術と関連施設の破却である。ザルバ上首は突き放すように言い返す。
「それについては貴殿らの使者に対し、すでに拒否の意を評している。我等がエイザンは銀河皇国より自治権を得た星系。内政に干渉される筋合いは無い」
「なら、俺達も帰る気は無い。たとえ自治権を得ていようが、銀河皇国の安全保障に障害となるような、バイオノイド技術の軍事利用を認める訳にはいかない」
ノヴァルナはきっぱりと告げて、意志の強さを示す。譲らぬ構えのザルバ。
「警告はしましたぞ」
「望むところだ」
言い放つノヴァルナの口元に、不敵な笑みが浮かんだ………
【第24話につづく】




