#21
アデューティス星系を出航して一週間後の11月8日、ノヴァルナの攻略部隊はエイザン二連自治星系から約16光年の距離にある、JL-3090663星系に到達した。
エイザンは実際には約1.2光年の間隔を持つ、タウ・ヒーエスとシーメイの二つの星系で構成されており、ここJL-3090663星系はタウ・ヒーエス星系の方に近い。
ウォーダ家の新本拠地アデューティス星系から、130光年ずつの連続統制DFドライヴを行った場合、この星系で端数調整をする事になるため、エイザン側もここに迎撃戦力を置いている可能性は高い。ウォーダ軍はこれに備え、全艦に重力子チャージを行わせながら、周囲に哨戒駆逐艦を展開させた。ノヴァルナも接敵した場合、即座に指揮に入るため、『ヒテン』の執務室から艦橋へ移動している。
司令官席に座ったノヴァルナは、戦術状況ホログラムでJL-3090663星系の情報を確認していた。
周回惑星は十二個で主恒星は褐色矮星。艦隊は最外縁の第十二惑星の公転軌道に沿って、二千万キロ外側を航行中だ。褐色矮星だけあって、この距離では主恒星の輝きは他の星に紛れてしまいそうなほど弱い。
「エイザンの艦隊が現れるなら、そろそろでしょうね」
司令官席の傍らに立つジークザルトが、僅かに背筋を伸ばしながらノヴァルナに語り掛ける。「だな」と応じるノヴァルナ。参謀長のマグナー准将も無言で頷く。艦隊は到着直後から重力子チャージを始めており、あと三時間ほどでエイザン=タウ・ヒーエス星系への、最終統制DFドライブが可能となる。もしエイザンの戦力がこの星系に待ち構えているなら、残り時間から出現していい頃だろう。
「出て来るなら、『ピースメーカー』搭載艦隊でしょうか?」
そう問い掛けて来たのは副官のランであった。その口調には懸念の響きがある。懸念するのも無理もない…と思うノヴァルナ。バサラナルムで得たエイザン軍BSIユニット『ピースメーカー』の詳細な解析情報によると、機体を操る“脳髄パイロット”は戦闘ごとに全体に経験共有が為され、技量が進化していくという。
となれば今回出て来る『ピースメーカー』は、前回ウォーダ軍がセークモートン星系で戦った、『ピースメーカー』より手強くなっている恐れがある。
そして『ピースメーカー』は、ランの父親カーナル・サンザー=フォレスタの、最期の戦いの相手でもあったのだ。
「ああ。間違いなく出て来るだろうな」
ランの問いに答えたノヴァルナはNNLを操作して、司令官席の前にホログラムスクリーンを展開させた。立ち上げたデータはエイザン軍の宇宙戦力である。ただBSIユニットの『ピースメーカー』は、鹵獲機から収集した確定データなのに対し、『ピースメーカー』と同様に白と黒のモノトーンに塗り分けられた、宇宙艦についてはセークモートン星系での交戦データもほとんどなく、推測値のみの表示となっている。
ノヴァルナはその推測値を黙読しながら、胸の内で呟いた。
“問題は奴等の宇宙艦も『ピースメーカー』と同じく、戦闘経験共有で進化するタイプかもしれねぇって事だな…”
今回のエイザン攻略は一回で成功させ、“脳髄パイロット”を量産しようとしているエイザンの、バイオノイド合成とその関連施設は、すべて廃棄させなければならない。そうでなければ戦いに勝利したとしても、『ピースメーカー』のパイロットや宇宙艦の戦闘技能を、進化させるだけになってしまう。
それに政治としてのタイミング的にも、攻略するなら今しかない。
エイザンが『アクレイド傭兵団』やイーゴン教団と、裏で繋がっているのは間違いなく、星帥皇室が陰で仕組もうとしている、ウォーダ家に対する包囲網に加わって来るのは確実であった。
しかしながら現在はまだ公式には、ウォーダ家は星帥皇室の最大支援者であり、ウォーダ軍は皇国正規軍代行資格を得ている。
これは包囲網がいまだ準備を終えていないからであって、皇都キヨウには防衛目的のための駐留艦隊がおり、建設中ではあるがすでに一部の戦闘機能は稼働できる状態の、ニージョン宇宙城が北極上空の宇宙空間に浮かんでいる以上、無防備な皇都行政府『ゴーショ・ウルム』に居る星帥皇や上級貴族に、ウォーダ家へのあからさまな敵意を向ける事は、出来ない状況だったからだ。
今さら不仲を否定する気もなく、ノヴァルナは今回のエイザン出兵についても、些か恫喝的な態度で星帥皇室へ軍事行動の認可を求め、これを受けた星帥皇室も無機質な機械的対応で、討伐の勅命を発布していた。理由は無論エイザンが、銀河皇国で禁止されているバイオノイド技術を使用した、独自戦力を拡充している事が判明した、というもので、『ピースメーカー』とそのパイロットに関するデータも、皇国科学省へ送りつけていた。もっともこれは、ノヴァルナ流の嫌がらせだったのだろうが………
▶#22につづく




