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銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武  作者: 潮崎 晶
第23話:次なる一手
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#16

 

 難しい話をしながらの、その日の釣果はノヴァルナとノアが仲良く七匹ずつ。あとはランが二匹、メイアとマイアが三匹ずつ。ジークザルトは五匹。そしてネイミアは運かはたまた才能か、十二匹を釣り上げていた。そのほかの『ホロウシュ』達は警護に専念していたため、針に餌をつけないまま釣り糸を垂らし、釣果は無い。


「すごく綺麗な緑色ですよね。この魚」


 片づけ支度をしながら、ネイミアは足元のクーラーボックスに敷いた、氷の上の魚に眼を細めた。ジェイドトラウト(ヒスイマス)の名の通り、半透明の体は鮮やかな緑色をしている、惑星バサラナルムの原生種だ。他の植民惑星から来たネイミアは、見るのが初めてだった。ノアが説明を加えてやる。


「雑食性で小エビとかのほかに、香りの強い水草の芽を食べてるから、塩焼きにするといい匂いがするの」


「へぇ。じゃあ、今日の夕食は決まりですね」


 にこりと微笑むネイミア。彼女の夫トゥ・キーツ=キノッサは現在、オウ・ルミル宙域ノーザ恒星群にある、サクータ星系第五惑星ホルーヴェにいた。そこが与えられた領地だからである。


 キノッサとしては本来なら、ネイミアを呼び寄せたいところなのだが、サクータ星系は敵対するアーザイル家の本拠地星系、ナッグ・ハンマから僅か三百光年の距離にあって、これを監視する役目を担っている。

 それはつまり、いつアーザイル家が攻め込んで来ても、おかしくはない状況なのであって、そのような現状で、ネイミアを傍に置いておくのは危険だと判断して、いわゆる“単身赴任”状態でいるのである。


 そのようなネイミアの境遇をノヴァルナとノアは憂い、今日の釣り会のような機会があるごとに、彼女を誘っていたのだった。


「ネイも夕飯、ウチで食べて帰るでしょ? せっかくだし」


 ノアの言葉にネイミアは嬉しそうに、「いいんですか?」と問い返す。


「もちろん」


 そう応じるノアや、傍らで釣り竿をRV車に積み込む準備をする、ノヴァルナの姿は一般人と何も変わらなかった。


「すまねーな、ネイ。キノッサのヤツも呼んでやりゃあ良かったんだが、あいつは今、手が離せねぇ状態なんでな」


 エイザンの一件もあって、アーザイル家の動きから目を離せないのが、サクータ星系を預かるキノッサの、今の状況である。それが分かるネイミアは、ノヴァルナの気遣いに「ありがとうございます」と応じ、不安を押し包んで明るく続けた。


「キーツに大事な仕事を任せて頂き、誇りに思っていますので、ご心配なく!」

 

 釣りを終えたノヴァルナ達が、夕闇の中をギーフィ城へ帰り始めた頃、カイ宙域とサンガルミ宙域の境界上にある星系で、ホゥ・ジェン家当主ジーマス・セツール=ホゥ・ジェンとの、同盟締結に関する当主会談を終えたタ・クェルダ家総旗艦艦隊もまた、帰路についている。


 会談の首尾は上々、一度は失われた同盟だったが、両家の実利主義が復活を円滑なものにしていた。そしてタ・クェルダ家首脳部の実利主義は、すでに上洛戦へと向く。


 右後方に赤色巨星が浮かぶ宇宙空間を悠然と進む、タ・クェルダ軍宇宙艦隊総旗艦『リョウガイ』。ウォーダ軍総旗艦『ヒテン』より、全長で約百メートルは大きな巨艦である。その周囲には指揮下の戦艦や巡航艦、空母に駆逐艦が百隻以上同行しているが、個々の間隔は数百万キロにも及ぶため、到底視認できはしない。


 現在の総旗艦艦隊は次の統制DFドライブに備えて、各艦が重力子のチャージ中であった。艦内時間は午後7時、チャージ完了まではあと三時間の予定。普段は一つの艦に集まる事の少ない重臣達が乗っているとなれば、舌鼓を打ちながら上洛戦を語り合うには持ってこいの状況だ。


 将官用の食堂に会するのは、当主シーゲン・ハローヴ=タ・クェルダ。その弟で副将格のジルガド・スヌーケン=タ・クェルダと、一族のジルータ・ヴァイセッツ=アニアス、第3艦隊司令官バルバ=バルヴァ、第4艦隊司令官アルトモス=ヴェガータ、第5艦隊司令官マストール=ナイート、第6艦隊司令官ウォルシス=アルマダといった、最強軍団タ・クェルダ家の中核を成す重臣達である。


「まずは、会談の成功を祝して、乾杯だ」


 そう言って上座のシーゲンは、白ワインの注がれたグラスを右手で掲げた。これに合わせて、五メートル弱はある長テーブルの両側に座る重臣達も、「乾杯」と一斉にグラスを掲げる。


 出された料理に二度三度と言葉を交えると、話題はすぐに上洛戦へ。


「さて…ホゥ・ジェン家はよしとして、上洛戦について御屋形様におかれましてはすでに、お考えがお有りなのでございましょう?」


 問い掛けたのはジルータ・ヴァイセッツ=アニアス。タ・クェルダ家の一門衆筆頭にあたり、戦場に立つ一方で他家との外交交渉なども担当している。ヴァイセッツの問いに、シーゲンは砕けた表情で「ああ。だいたいはな」と応じた。


「イマーガラ家の失敗もある。油断は大敵ぞ、兄者」


 シーゲンの弟、スヌーケンが注意を促す。スヌーケンは兄のシーゲンとよく似ており、時には影武者を務めたりもしている。

 

 スヌーケンが油断大敵を告げた“イマーガラ家の失敗”とは、言うまでもなく五年前の“フォルクェ=ザマの戦い”を指していた。

 今回と同じようにキヨウ上洛を目指し、大部隊で遠征を始めたイマーガラ家だったが、途中で打ち滅ぼしておくはずであったウォーダ家に思わぬ不覚を取り、当主ギィゲルト・ジヴ=イマーガラまでが討ち取られるという大敗を喫した事で、いまでは滅亡寸前にまで衰退している。タ・クェルダ家としては、そんなイマーガラ家と同じ轍を踏むわけにはいかない。


「そう心配はいらん」


 シーゲンはニタリと大きな笑みを浮かべて、弟の懸念を振り払う言葉を放った。続けて告げたその理由とは、まず今回は“キヨウ上洛を急ぐ必要は無い”という点である。

 イマーガラ家が上洛戦を始めた時は、皇都キヨウは星帥皇や上級貴族と敵対し、事実上の支配下に置いていたミョルジ家に占領されており、これを排除して銀河に号令する事が最大目標だった。

 だが今回は、皇都キヨウはすでに星帥皇室と、支援勢力が押さえている。ウォーダ家の駐留軍もいるが戦力的には小さく、単独でキヨウをどうこう出来る規模ではない。このためタ・クェルダ軍は先を急ぐ事なく、ウォーダ家とその同盟者のトクルガル家の攻略を最優先にすればいいのだ。


「まずはトクルガル家を叩く」


 そう言って白ワインの残りを飲み干したシーゲンは、空になったグラスをテーブルに置く。傍らに控えていた給仕役の若い士官が進み出て。代わりのワインを注いでいくのを眺め、言葉を続けた。


「上洛コースは、ウォーダ家のミノネリラからオウ・ルミル宙域を貫き、キヨウを目指すコースを進むが、そうなるとトクルガルに側面を突かれたり、留守になったカイやシナノーランを、攻められたりするだろうからな」


 これにベテランの重臣達が揃って頷く。その中でバルバ=バルヴァは「然るに」と、人の悪い笑みを零して尋ねた。


「御屋形様は当然、その先(・・・)…も考えておられるのでしょうな?」


 他の重臣達も同じような笑みを浮かべて、シーゲンに視線を集める。それに対してシーゲンは「ふん…」と鼻を鳴らし、星大名家当主というより、大盗賊の首領のような目の輝きと共に言い放った。


「当り前よぉ。このシーゲン、頂けるものは全部頂く!」


 トクルガル家領域はミ・ガーワ宙域とトーミ宙域、ウォーダ領域はオ・ワーリ宙域とミノネリラ宙域、イーセ宙域にオウ・ルミル宙域の半分。これらを全て手に入れれば皇国とタ・クェルダ家、どちらが銀河の覇者となるかは明白であった………







▶#17につづく

 

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