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銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武  作者: 潮崎 晶
第23話:次なる一手
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#15

 

 今から五カ月ほど前、ノアはザーカ・イー自治星系を経て旧モルンゴール帝国領まで、“双極宇宙論”の知識を求める旅に出ていた。そして書庫惑星ヒュドラムで入手した情報の数々は現在、アンドロイドのP1-0号や恒星間クルーザー『ジュエルダガー』号のクルーの協力を得て、解析の最中である。


「だけど前にも言った通り、単に双極宇宙の観測装置だけを目的として、あれほどまでに巨大な施設を作ったとは、どうしても思えないわ」


 ノアがそう言えば、ノヴァルナも「そいつには同感だな」と頷く。


 今から十年前に、ノヴァルナとノアが皇国暦1589年のムツルー宙域まで、およそ五万光年を一瞬で飛ばされた、“熱力学的非エントロピーフィールド”。これを発生させていたのが、『超空間ネゲントロピーコイル』である。

 これは直径約570光年の円周上に正六角形を描く、六つの恒星系の惑星の一つに、トランスリープ用の直径約30キロメートルにも及ぶ、超巨大重力子コイルを建造した途方もないサイズの建造物で、この六つの惑星が描いた六角形の中心となる宇宙空間に、“熱力学的非エントロピーフィールド”と繋がるブラックホールを出現させるという代物だ。


 “双極宇宙論”によれば、超空間ネゲントロピーコイルを使って熱力学的非エントロピーフィールドに進入すれば、自分達の住む宇宙と双極を成すもう一つの宇宙を、観測できるようになるという。

 だが当然ながら費用対効果を考えれば、双極宇宙を観測(・・・・・・・)する程度で、このような途方もない建造物を造るのは、割に合わない話であろう。そこで出てきたのが、新たに得た“宇宙破滅兵器”開発の可能性という情報だ。


 “宇宙破滅兵器”は、双方の宇宙に共通した特異点を消失させる事で、安定状態が崩されて衝突、対消滅反応と同様の状況が発生して双方ともが、量子還元を起こすというもので、距離や時間の制約がなく、瞬時に双方の宇宙が消滅。さらにその影響は多元宇宙全体に及んで、全てが“ビッグバン”以前の“無”に帰す、と考えられているものだった。

 もし『アクレイド傭兵団』が、死なばもろとも(・・・・・・・)の覚悟でこれを開発しようとしているなら、宇宙は彼等の言いなりになるしかないだろう。無論、現時点での話は一から十まで仮説でしかないが。


 そして現在のノアが研究中であるのは、双極宇宙の崩壊に繋がるこの“特異点”というのが、どういった状態で存在するものなのか、という事であるらしい。

 

「書庫惑星で読んだ“双極宇宙論”の、研究書籍に書いてあった学説によると、特異点そのものは世界線に変化を与えるものとして、対になる二つの宇宙に常に複数存在しているのだけれど、それとは別に“双極特異点”というものが、出現する場合があるらしいわ」


 ノアが研究中の中身の一端を口にすると、ノヴァルナは「“双極特異点”…なんだそれ?」と尋ねる。


「簡単に言えば、何らかの原因でイレギュラーに出現する、“両方の宇宙の世界線に関わる特異点”…といったところかしら」


 これを聞いたノヴァルナは「ふぅん…」と、中途半端な反応を見せた。漠然とした妻の物言いに、そうとしか反応のしようが無かったからだ。しかしヒントとなった事もある。


「…両方の宇宙の世界線に関わるってんなら、その“双極特異点”とかいうのを消滅させるのが、“宇宙破滅兵器”の目的だったりするんじゃないのか?」


「うーん…その辺りが一番分からないのよね。“双極特異点”がイレギュラーな存在なら、まずそれを発見する必要があるし、常時存在しているものじゃないなら、作り出すしか―――」


 ノアがそこまで言うと、何かを思いついたらしいノヴァルナは、「もしかして、それじゃね?」と言葉を挟んで来た。


「それとは?」とノア。


「十年前に俺達が飛び込んだ、ブラックホールさ。あれが傭兵団の造った“超空間ネゲントロピーコイル”だったとしたら、もう一つの宇宙の双極特異点を見つけるなり、作り出すなりしようとしてたんじゃねーの?」


「それは私も考えて、可能性の一つだとは思ってるんだけど、言ったように揃えられるのは、状況証拠でしかないから確証は得られないわね」


「それはそうなんだが…俺は、いまだにアレが気になっててな」


「アレって、あなたがフィールドの中で見たっていう、神殿みたいなもの?」


「ああ」


 ノヴァルナが気になっていると告げたのは、“熱力学的非エントロピーフィールド”内に発生したトランスリープチューブで、皇国暦1589年のムツルー宙域へ飛ばされる際、乗っていた『センクウNX』の後方に見えた、銀色に輝く古代の神殿のような建造物の事である。

 時間も空間もないはずの非エントロピーフィールドに、そんな人工物が存在していたのも奇妙だが、果ての見えない上方から、太いワイヤーで吊り下げられた構造もまた、奇妙なものであった。しかも『サイウンCN』に乗って、その場に一緒に居たノアは、その構造物を見ていないという。

 

「おまえは見てないって言ってるけど、俺は確かに見たんだからな。そんでもってあんなとこに、あんなものがあったのは不自然過ぎる」


 ノヴァルナの主張に、ノアも一応は同意する。


「それが本当にあったのなら、何らかの目的で造られたのは間違いないだろうし、その目的が双極特異点に関わるものである、可能性は高いとは思うわ」


「あれがその、“宇宙破滅兵器”だったとか?」


「それも含めて、わからない。実際に破滅兵器を開発しようとしていたモルンゴール帝国でも、当時の進捗状況としては理論段階どまりだったから、具体的な形状は不明なんだし」


 ノアの返答にノヴァルナは「うーん…」と唸り声を漏らし、思いついた事を提案してみる。


「いっそのこと、あのブラックホールの中に、探査機を送ってみっか?」


 十年前にノヴァルナとノアが飛び込んだ(くだん)のブラックホールは、ミノネリラ宙域の『ナグァルラワン暗黒星団域』内にあり、現在ではウォーダ家の領域となっていた。探査機を投入しようと思えば可能ではある。だが問題は、探査機が謎の神殿を発見し、何らかのデータを収集しても、それを回収する(すべ)が無いという事だ。


 ブラックホールと繋がっている熱力学的非エントロピーフィールドの出口は、三十四年後のムツルー宙域であり、探査機自体が無事に到着しても、こちらへ戻っては来れない。そのことをノアが述べると、ノヴァルナは割り切った表情で、さらりと応じた。


「運が良けりゃ、マーシャルの奴が拾ってくれるかも知れねぇし、何か手を打ってくれっかもだし、やるだけやってみてもいいんじゃね?」


 マーシャル―――ムツルー宙域星大名マーシャル=ダンティスは、皇国暦1589年のムツルー宙域で、ノヴァルナの親友となった男である。

 ノヴァルナとノアはこちらの世界に帰還後も、二人が飛び込んだブラックホールへ、マーシャル=ダンティス宛てとして、近況を知らせる通信カプセルを定期的に投入し続けているのだ。


 ただ実際に、向こうの宇宙へ届いているのかは不明であるし、向こうからの返信が届いた事は一度もない。二人がこちらの世界へ帰って来た事で、世界線に変化が発生したのが原因となっているのかも知れず、あくまでも“可能性を信じて”の、気休めのようなものである。しかしそれでも、やってみる価値はあるか…とノアは考え、ノヴァルナに賛同した。


「いいわ、その話に乗ってみましょ。私の方で実行に移すから、あなたは皇国の方に専念して」






▶#16につづく

 

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