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銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武  作者: 潮崎 晶
第23話:次なる一手
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#14

 

 前の方のRV車には助手席に『ホロウシュ』のナガート=ヤーグマーと、クローズ=マトゥが乗っており、ランとジークザルトとヤスークをそちらへ乗せ、二台は出発する。行き先は技研から南へ三十分ほど走った、惑星バサラナルムの特徴の一つである、大湿原地帯だ。


「どうだった? 新型機のテスト」


 ノヴァルナの隣に座るノアが、車が走り出すと同時に問い掛ける。息抜きの時間ではあるが、自身もBSHOパイロットであるノアにすれば、気になるものは気になる。


「今日は、“トランサー”周りがメインだったからな。説明しても難しいだろ」


 ノアは“トランサー”能力者ではないため、精神世界的な話になりがちな“トランサー”の説明は、理解し難いだろうと思ったのだ。しかし気の強いところのあるノアは、苦笑いしながら夫の脇腹を小突き、逃げを許さない。


「いいから、言ってみなさいよ。今度のは機体が“トランサー”を、発動してくれるんでしょ?」


 このノアの態度に、ノヴァルナは「…ったく」と同じ苦笑いを浮かべ、テストで感じた感覚を伝える。


「“トランサー”の誘導機能は、そうだな…言ってみりゃあ、機体の方から“トランサー”が迎えに来てくれる(・・・・・・・・)って、感じかな」


「その時は苦しかったり、痛かったりはしないの?」


「ああ。いろんなレベルとケース設定で試したけど、そういうのは無かったぜ」


 ノヴァルナのこの言葉を聞いて、ノアはホッ…とした様子で「そう。よかった」と頷いた。これにノヴァルナが「なんだよ?」と問い質すと、ノアは「何でもないわよ」と、そっぽを向く。すると前の助手席に座っていたネイミアが、身を乗り出してすかさずバラした。


「ノア様ったらノヴァルナ様が居られない間、そのナントカ機能で、ノヴァルナ様が苦しくなったりするんじゃないかって、いつもご心配されてたんですよ」


「こら、ネイ!」


 頬を赤らめて座席から腰を浮かし、困り顔でネイミアを叱りつけるノア。出逢って十年を経てもどこか抜けない、ノアのツンデレ気質を揶揄われた形だ。ただこのような関係が、ノヴァルナとノアの間の鮮度を保っているのだとも言える。


「へいへい。ありがとよ」


 軽い口調と裏腹に、妻に対するノヴァルナの感謝の気持ちは本物だった。それが分かるノアだったが、あえて話題を逸らして問い掛けた。


「それはそうと、新型機の名前は決まったの?」


「いんや。幾つか候補は挙がってるんだがな。まだ決めてねぇ」

 

 そして約一時間後、大湿原帯を訪れたノヴァルナ達は、湖沼部に張り巡らされた強化木材の遊歩道から、釣り糸を垂れていた。


 惑星バサラナルムのこの地方では、8月の終わり頃から10月の初旬まで、湿原の中で深さのある湖沼部に棲息する、“ジェイドトラウト(ヒスイマス)”が釣りのシーズンを迎えており、特に夕暮れ前から日没寸前ぐらいが、掛かりが良いとされている。今日はこれで息抜きをしようというわけだ。


 短気な所のあるノヴァルナが釣りとは意外な印象だが、ナグヤ=ウォーダ家時代の少年の頃は、別荘の近くにあるダグラワン湖で、当時ナグヤの人質であったイェルサス=トクルガルを誘って、よく釣り遊びをしており本人的には嫌いではなかった。


 ノヴァルナはノアと並んで、遊歩道のあちこちに設けられた釣りポイントの一つに立ち、釣竿を手に湖面を見詰めている。二人に配慮して、ノヴァルナの『ホロウシュ』や警護役のヤスーク、ノアのカレンガミノ姉妹は距離を置いて釣り…に、見せ掛けた護衛任務をこなしており、二人以外に純粋に釣りをしているのは、ジークザルトとネイミアだけといった状況だ。


 ただノヴァルナとノアも、純粋に釣りを楽しんでいるかといえば、やはりそうもいかないようだ。視線こそ湖面の浮きに注いでいるが、交わす言葉は午前中の技研で、ナルガヒルデやヴァルミス、それに諜報局の人間達とのやり取りに、関するものになる。


「…そう。やっぱり、エイザンとは戦う事になりそうね」


 初秋の風に長い髪を揺らされながら、ノアは溜息交じりに告げた。その顔には、エイザンのBSIユニット『ピースメーカー』の詳細―――操縦者である“脳髄パイロット”の実態も含めて、を知らされた事への憂いの表情がある。これに応じるノヴァルナの口調も重い。


「ああ。脳ミソだけのバイオノイドパイロット…あんなものを、大量生産して戦争に使わせるワケには、いかねぇからな」


 夫の言葉を聞いたノアは、少し間を置いて考えを巡らせ、意見を述べた。


「エイザンが『アクレイド傭兵団』や、イーゴン教団と関わっていたなんて、意外だったけど…それなら、納得できる事もあるわ」


「納得できる事?」


「例の『超空間ネゲントロピーコイル』よ。建造費」


「!」


 ノヴァルナとノアが密かに真相を追っている、謎の超巨大建造物『超空間ネゲントロピーコイル』。その建造には想像を絶する費用が掛かるはずだが、これを建造したと思われる『アクレイド傭兵団』の経済力では、賄いきれないと二人は考えていた。ところが桁違いの金融能力を有するエイザンが、その出資に関わっていたとすれば、話は違って来る。

 

「これまでの調査で大きな問題の一つだったのが、あれの建造費の出どころだったでしょ? エイザンが単なる取引相手じゃなく、傭兵団やイーゴン教団とかの複合体の一部になってるなら、ネゲントロピーコイルの建造費捻出も容易いはずよ」


 ノアがそう言うと、ノヴァルナも「確かにな」と同意した。二人が『超空間ネゲントロピーコイル』の秘密調査を始めてから、もう十年になる。その中で発覚したのが、『アクレイド傭兵団』の関与の可能性だ。

 これはまだ、状況証拠的なものから推測した事だが、『アクレイド傭兵団』の背後にはさらに別の組織があり、恒星間運輸企業の『クラン・ザレス宙運』や、惑星開拓企業の『ラグネリス・ニューワールド社』も、この組織の傘下となっていると思われる。

 これらが実働組織として『超空間ネゲントロピーコイル』を建造し、科学技術を信奉するイーゴン教団が建造技術をサポートし、金融星系エイザンが資金を供出するのはあり得る話だ。



そうか、そう考えるなら―――



 と、ノヴァルナには閃くものがあった。この様子にノアも、「どうかした?」と問い掛ける。これにノヴァルナは、湖面で揺れる浮きに視線を落としたまま、思いついた事を告げた。


「いや…ここに来て、イーゴンとかエイザンが武力行使を仕掛けて来たのは、俺達が『超空間ネゲントロピーコイル』を嗅ぎ回ってる事に、奴等が気付いたからなんじゃねーかと思ってな」


「!…」


 これにノアも、“そう言われると…”という表情をする。『アクレイド傭兵団』はともかく、イーゴン教団やエイザンなどはこれまで、星大名同士の戦いに実働部隊で関与した事は無かった。それが両方とも同じタイミングで、ウォーダ家に戦いを仕掛けて来るのには、違和感を禁じえない。するとノアは夫の言葉に思考を巡らせ、自分なりの判断を口にする。


「ひょっとして、私達の調査が“双極宇宙論”に辿り着いたのが、彼等を実力行使に至らせたのかも」


 それにノヴァルナも「俺も今、そう思った」と応じた。“双極宇宙論”とは多元宇宙論の一種で、自分達の居る宇宙が安定を保つために必要な、“対となる宇宙”の存在を示唆する理論である。

 ただ、この理論を応用する事で、相対する二つの宇宙そのものを破壊する、“宇宙破滅兵器”を誕生させる危険性を含んでいた。


「…て事は連中はやっぱ、“宇宙破滅兵器”を開発するために、あんな超でけぇコイルを造ったってのか」


 懸念を示すノヴァルナ。これに対しノアは「わからない」としか言えない。真相にたどり着くには、まだまだ情報が足りなかった―――






▶#15につづく

 

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