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銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武  作者: 潮崎 晶
第23話:次なる一手
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#10

 

 ノヴァルナが技研に到着したヴァルミス達に会うため、『ピースメーカー』が置かれた格納庫を出たその頃、カイ宙域とサンガルミ宙域の境界上に位置する、とある氷結惑星で重大な会談が行われようとしている。


 マイナス115度のブリザードが吹きすさぶ、ドライアイスの平原に建てられている調査基地は、豊富な地下資源を期待してのものであったが、十年前にタ・クェルダ家とホゥ・ジェン家の同盟が破綻して以来、放棄されたままであった。

 その調査基地の動力源である、対消滅反応炉に火が入っている(・・・・・・・)のは、今回の会談がもたらすものを、象徴しているようにも見える。


 調査基地のある場所から経線を引き、この惑星を東西に分けると、西側の衛星軌道上にはタ・クェルダ家の第1艦隊、東側の衛星軌道上にはホゥ・ジェン家の第1艦隊が、広く展開して遊弋中である。




「遠路ようこそお出で下された。ジーマス殿」


 会議室で席から立ち上がり両腕を広げて歓迎の意を表したのは、タ・クェルダ家当主シーゲン・ハローヴ=タ・クェルダだった。金髪碧眼で筋肉質の逞しい姿は、異名の“カイの虎”に相応しい。その両側にはアルトモス=ヴェガータやバルバ=バルヴァら、タ・クェルダ家を支える重臣団が座っている。


 そんなシーゲンに迎えられたのは、ホゥ・ジェン家新当主ジーマス・セツール=ホゥ・ジェンである。前当主で父親のジュリウスが三ヵ月前に急死し、家督を継いだばかりだ。二十二歳で痩身、身長こそシーゲンと同じぐらいだが、獰猛なイメージのシーゲンに比して優男然とした若者だった。これに続くはマスゲス=ダイドージ。ジュリウスの代から仕え、スルガルム宙域にムサッシ宙域と、コーズ・ケイ宙域の一部を支配する大々名ホゥ・ジェン家の、屋台骨を支えている宿老である。


「ご無沙汰しております。シーゲン殿」


 ジーマスは穏やかな口調で告げながら軽く会釈をし、シーゲンの対面の席に腰を下ろした。


“ふむ…”


 早速人物鑑定眼を光らせるシーゲン。ジーマスと直接顔を合わせるのは、両家が同盟関係であった時以来であり、五年ぶりだろう。その時のジーマスはまだ父親の陰に隠れるような、穏やかな少年であったはずだ。当時の面影は残っているが、眼の光に鋭さを宿すようになっている。星大名家当主としては良い輝きだと思う。


「単刀直入という言葉は、お好きですかな?」


 シーゲンがそう問い掛けると、ジーマスは明朗に応じた。


「星を統べる者に、言葉の虚飾は無用と存じます」


 これを聞いたシーゲンはニヤリと笑みを浮かべて頷き、本題を伝える。


「ならば…両家同盟の再締結をお願いしたい。如何かな?」

 

 タ・クェルダ家とホゥ・ジェン家にイマーガラ家を加えた三家は、かつて皇国暦1555年から1560年までの間、“三国同盟”を結んでいた。


 これは当時健在であったイマーガラ家の宰相、セッサーラ=タンゲンの骨折りによって締結されたもので、それぞれ勢力拡大を図っていた三家が、後背の安全保障を確保できるという、大きな利点を生み出す事となった。

 その恩恵はイマーガラ家にミ・ガーワ宙域を、タ・クェルダ家にシナノーラン宙域を、ホゥ・ジェン家にムサッシ宙域を属領化させ、三家ともにさらなる発展をもたらしたのである。


 ところが1560年、皇都惑星キヨウ上洛を目指して進発したイマーガラ軍は、オ・ワーリ宙域でノヴァルナ・ダン=ウォーダ率いるウォーダ軍に大敗。当主ギィゲルト・ジヴ=イマーガラまでもが討ち取られるという、思いも寄らない事態が発生する。

 これによりイマーガラ家が支配していたトーミ宙域、スルガルム宙域、ミ・ガーワ宙域では支配体制が大きく揺らぎ、有力な独立管領などはイマーガラ家からの独立を目論み始めた。特に顕著であったのは、旧来からミ・ガーワ宙域で最大の勢力を持っていたトクルガル家で、すぐさま独立を宣言すると、周辺の植民星系の制圧を開始。星大名への道を歩み始める。


 するとこれに呼応したのがタ・クェルダ家であった。シーゲン・ハローヴ=タ・クェルダは三国同盟を破棄し、イマーガラ家の領国であったスルガルム宙域へ侵攻したのである。

 これにあたりタ・クェルダ家は、同じくトーミ宙域進出を始めていたトクルガル家との、無用な衝突を避けるため、トクルガル家と同盟関係にあったウォーダ家と同盟を組むと、さらにホゥ・ジェン家へもイマーガラ領の分割統治を持ち掛けた。


 だが当時のホゥ・ジェン家当主ジュリウス=ホゥ・ジェンにとって、次期イマーガラ家当主ザネル・ギョヴ=イマーガラは娘婿であり、タ・クェルダ家からの誘いは受け入れ難いもので、これによりタ・クェルダ家とホゥ・ジェン家の同盟も破綻を迎え、敵対関係となったのだった。


 こうしてホゥ・ジェン家はイマーガラ家への支援を続けたのだが、イマーガラ家の弱体化は止まらず、またホゥ・ジェン家自身も、エティルゴア宙域星大名ウェルズーギ家や、ヒタッツ宙域星大名セターク家などと争っており、苦しい状況を続けていた。そんな折、当主ジュリウスがSCVID(激変病原体性免疫不全)で、死去してしまったのである。SCVIDはイマーガラ家の宰相セッサーラ=タンゲンの命も奪った、現代の難病中の難病だった。

 

 このジュリウスの急病死の影響は非常に大きく、ホゥ・ジェン家の支配体制に動揺が走ると、戦上手のシーゲンはこれを見逃さず領域に直接侵攻。ムサッシ宙域の一部に加え、ウェルズーギ家と領有を争っていたコーズ・ケイ宙域の一部まで、支配下に置いてしまう。


 そのような時、皇都キヨウから来訪したのが、星帥皇室の密使であった。


 “昨今ウォーダ家の増長著しきこと星帥皇陛下を軽んじ、いよいよ自らが皇国の支配者たらんとするが如し。星帥皇室より賜りし御恩を忘れ、皇国秩序の回復を方便にその専横ぶり、もはや許容すべからざるものなり。この上は武威をもってその傲慢さを正すべき時…”と、貴族院筆頭バルガット・ヅカーサ=セッツァー作成による、一方的過ぎる書簡ホログラムを読み上げた密使は、ジーマスに告げたものである。


「つきましてはこれと同様の書簡を、使いの者が有力な大名の方々に密かに届けております。すでにご助力頂ける星大名様も揃い始めておりますれば、御家にも何卒ご参加をして頂きたく」


 つまりは“第二次ノヴァルナ包囲網”への、実働的な参加要請だった。すでに前回の包囲網でも星帥皇室への協力体制を、タ・クェルダ家、ウェルズーギ家と共に敷いていたホゥ・ジェン家だが、この時はあくまでも名目的なものであった。それを今回は、武力行使も含む連携を取って欲しいという話である。


 これはホゥ・ジェン家にとっても好機に思えた。なぜならホゥ・ジェン家情報部はすでに、星帥皇室がタ・クェルダ家にキヨウ上洛を要請したという極秘情報を、独自ルートで入手していたからである。


 タ・クェルダ家が上洛を考えるにあたって、まず整理しておかなければならないのが、周辺国との関係であった。かつてイマーガラ家がキヨウ上洛を行ったのも、タ・クェルダ家、ホゥ・ジェン家との三国同盟があったからこそだ。

 そして今回はタ・クェルダ家に上洛要請。すると案の定、シーゲンは後背の安全を確保するため、ホゥ・ジェン家に対して和睦を求めて来た。

 これはジーマスが当主の座に就いたばかりの、ホゥ・ジェン家にとっても渡りに船な話であった。まず領国の統治を安定させるために、一番の強敵であるタ・クェルダ家との紛争は、避けたいところだったからだ。


 無論、客観的に見ればシーゲンの申し入れは、厚顔無恥この上ない。イマーガラ家が弱体化したと見れは同盟を破棄して侵攻。そして今度は上洛のために同盟を再締結しようというのだ。しかしこれが戦国というものであり、シーゲンの行いこそが群雄割拠という言葉そのものを示していた。

 虫のいい話だ…と誰もが理解しつつ、ジーマス・セツール=ホゥ・ジェンは笑顔を浮かべ、シーゲンの要請に頷いて応じる。


「シーゲン殿の申し入れ、我等にとりましても、またないものと心得ております」


 ダイドージら両側に居並ぶ重臣達には目もくれず、ジーマスはシーゲンの眼を見据えてきっぱりと告げた。すでにタ・クェルダ家内の意思は、再締結受諾で固まっていることを示している。これにシーゲンは大きく頷き返して、破顔した。


「流石はジーマス殿。話が早くて助かる」


 そう言ってシーゲンが笑い声を上げると、彼の重臣達も一斉に笑顔を見せる。この統一感こそが、現在ではイマーガラ家に代わり、戦国最強と呼ばれるようになったタ・クェルダ家の強みなのだろう。


「では堅苦しい話はこれまでだ―――」


 と旧来の友人のように、ジーマスに気安く語り掛けるシーゲン。


「あとの細かい話は、事務方に任せるとして…さてジーマス殿は、イケるクチであるかな?」


 そう続けたシーゲンは、グラスを掴んだ手を口へ運ぶ仕草をし、暗に“一杯やろうじゃないか!”と、誘いをかける。これにジーマスは苦笑いしながら、受けて立つ姿勢を見せる。


「それなりに、たしなみは致しまする」


 これを聞いてシーゲンは、それでこそ甲斐があったものよ…と、「ハハハハ!」と笑い声を発して言い放った。


「実はすでに、隣の部屋で酒宴を用意させてある。ティルサルガ星系の1528年ものや、アンセルヴァ星系の1533年ものが手に入ってな」


「ほう。アンセルヴァの1533年…“幻の逸品”の年ですね」


 通な話に、これは仲良くなれそうだと感じたのか、シーゲンはさらに大きな笑い声を発し、「では参ろうか」とジーマスやタ・クェルダ家の重臣達を、自ら隣室へ案内するために立ち上がる。


 当然の事だが今回の同盟再締結も、いつまで続くか分からぬ儚い関係であるのは違いない。弱肉強食こそが戦国の理だからである。そしてこれこそが、戦国の世が続かんことを願う彼等と、その終焉を望むノヴァルナとが一線を画するものであったのだ。


 そしてこの同盟再締結で一番哀れであったのは、当主ザネルごとホゥ・ジェン家からも見捨てられる事となった、イマーガラ家である。五年ほど前まではトーミ宙域とスルガルム宙域、さらにミ・ガーワ宙域を支配家に置き、戦国最強と謳われた事が、嘘のような凋落ぶりであった………

 





▶#11につづく

 

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