普段通りのダンジョン攻略解説配信
大盛り上がりを見せた雑談配信の翌日。
すっかり学校の人気者で注目の的となり、昨日と同じように生徒に囲まれたり一躍時の人になったからと、上っ面だけの薄っぺらい何も響かない愛の告白をされたりという出来事があった。
そんなにぎやかな学校生活を終えた後、帰宅していつもの姫騎士風衣装に着替えてからしょっちゅう潜っている最寄りのダンジョンに足を運んだ。
配信の準備はほぼ済んでいる。頭上には、両親が遺していた浮遊カメラが浮いており、配信ソフトの画面には姫乃の姿がばっちりと映っている。
「な、なんかまた緊張してきた……」
午前中のうちに配信枠を作っておき告知も済ませてある。そのため、配信開始三十分前に確認した時には既に、三万人も待機していた。
そこからさらに時間は過ぎており、開始まであと五分もない。待機人数は五万人に膨れている。
こうして配信に来てくれるのもうれしいし、今まで投稿し続けていたショート動画や横動画もたくさん見てくれていて、即時反映されたアナリティクスのグラフが軒並み真垂直に伸びていた。
高評価数もどれもが万を超え、コメントも大量に来た。困惑している様子のものが多かったが。
「これマジで足向けて寝られないやつ……」
昨夜寝る前にも思ったことだったが、自分を見つけてくれた上にここまで伸ばしてくれたリスナーたちには頭が上がらないし足を向けられない。
収益化が通ったら感謝してもしきれない。何かお礼の品とかグッズとか作ったほうがいいだろうか。
などと考えているうちに配信時間になったので、ソフトのほうではすでに配信開始を押しておりアワーチューブのほうをまだ開始せず待機させていたので、数度深呼吸をしてから開始ボタンを押す。
いつものように最初は待機シーンが映り、一分ほどそこで気持ちを落ち着かせるために深呼吸をしたり、手のひらに「人」と書いて飲み込んだりした。
「み、みんなこんひめ~! 今日は昨日告知していた通り、ダンジョン攻略と解説配信をしていくよ! よろしくー」
”待ってたぜぇ……この瞬間をよぉ!”
”遂に見られるのか……”
”めのっさんこんひめー”
”全速力で駆け付けながらこんぷに”
”いかにも姫騎士って感じの衣装なのに、腰に下げてる七式魔剣が結構ごつくて草”
”美少女にごついでかめの武器。なんかいいよね”
”こんひめー! 昨日から楽しみにしてたぜえええええええええええええええ!”
”昨日の配信で疲れているだろうに学校まで行って、そのまま配信とかすげえな”
”これが……若さか……”
”生産系のクランが大量に見ているみたいで、ツウィーター大盛り上がりで草。頑張れー”
配信開始して一分の間に五万人いた同接が一気に八万人ほどまで膨れ上がり、コメントがぐんぐん加速する。
今まで一か月の間にもらえていたコメント数よりも、この一瞬の間に流れていくコメント数のほうが圧倒的に多い。
嬉しさもあるが、同時になんか圧のようなものを感じて怖さもある。
「今日はみんなも気になっているだろう、七式魔剣と雷霆軍靴を使って攻略解説するよ。威力とか能力は一般から逸脱している逸般武器だけど、立ち回り自体はそんなに大きく変わらないだろうから」
七式魔剣は、複数属性あることとその威力は並外れているが、言ってしまえば属性魔剣だ。七属性分の立ち回りの解説ができる。
雷霆軍靴も同様、金属製の戦闘靴を使った蹴り主体の探索者もいないこともないので、ややマイナーな部類にはなるがそれの解説もできる。
この二種を選んだのは主にそういった理由だが、あとはシンプルに話題になったきっかけの動画で使っている武器だから、というのもある。
「まずは上層で軽い準備運動がてら、上層モンスターしばいて回って軽く解説をしていこうかな。目標は下層の最深部まで行くことかなー」
”特級ソロでやれるの分かってるとはいえ、上層を準備運動とか信じられん発言”
”まあ特級ソロでやれてるし……”
”何ならこの子が初めて大勢に観測されたのが下層やし”
”第五層か。ワンチャンまた爛れた大狼竜と遭遇するかもな”
”もしかしたらまた特級ソロ瞬殺を見られるかもしれないのか”
「特級なんて早々何度も遭遇しませんよー。っと、索敵になんかかかった?」
できるなら特級ともっと戦ってみたさはあるが、あれにはそう簡単には出会えない。
深層以降ともなれば、ほぼすべてが特級クラスとかいう地獄のような魔境になるが、今はまだ行くことはない。そんなことを話していると、索敵に何かが引っかかる。
同一の魔力が複数存在。この反応を出す上層のモンスターは、リトル・マリオネットというモンスターだ。
五十体もの人形の軍勢を造り出し、本体は壁や地面に擬態して隠れる。一体一体の人形は大した強さじゃないし、本体もルーキーでも狩れる雑魚そのもの。
しかしながらこのモンスターは、新人探索者のトラウマと呼ばれていたり最大の障害と呼ばれている。
その理由は、その数だ。前記の通り最大で五十もの土くれ人形を造り出し、それをまるで一つ一つがきちんと生きているかのように動かしてくる。
動き自体はそこまで俊敏じゃないのだが、倒してもすぐに補充されてしまう。倒し方をきちんと理解できていないと、無限に出てくる土くれ人形と戦い続ける羽目になるのだ。
「リトル・マリオネットだねぇ。雑魚すぎて準備運動にもならなそう」
”いやいやいやいやいやいやいや”
”そのモンスターって上層じゃ、割と強い部類に入るんですが”
”この間新人の女の子が意気込んでダンジョンに入って、三十分後くらいに出くわしてから二時間ずっと戦わされ続けてた。倒しても永遠に人形出てくるから、最後もう泣きながら半狂乱になってたの見ててつらかったわ”
”上層は比較的ルーキーでも倒せるやつ多いけど、たまにあの人形どもみたいに仕様を前もって理解してないと倒せないクソモンスいるんだよな”
”さーてこれをどうやって攻略するのかな”
”本体見つけるまでがクソなんだよ”
盛り上がるコメント欄を見ながら腰の七式魔剣を抜き、どの属性を使おうかなと考えるが、上層であれば必要ないかと属性攻撃はなしで行くことにした。
ダンジョンが発生して以降、ダンジョンに入ってモンスターを倒し生還した人間は、やたら強くなって帰ってくるようになった。
当初はこの現象は解明されていなかったが、のちにそれらはモンスターを倒すことで何かを体内に取り込むことで、魔力を獲得して肉体が強化されていることが判明した。
魔力を得た人間の身体能力は飛躍的に向上し、それを自分で制御できるようになるとさらにそれが向上する。
モンスターを倒せば魔力量も増えていき、一度に使える量も増えていく。現在では、モンスターを倒せば倒すだけ強くなっていくことをレベルアップと呼んでおり、得られる何かを経験値と呼称している。
実際にレベルという概念があるわけではないし経験値という代物があるわけではないが、これ以上に分かりやすい説明がないのでそのまま公式採用されている。
姫乃ももちろん魔力を有しており、自分で自在に操れる。
上層のモンスターは雑魚まみれなので大した力は必要ないだろうと、心臓から溢れる魔力を蓋をするように抑え込む。しかし流石に全く魔力無しはきついので、その蓋をほんの少しだけずらすようなイメージで、最低限の魔力強化を得る。
最低限の強化を施したところで、初手最大数の人形を従えたマリオネットがやってくる。
いきなり数で攻めてくるなとうんざりしつつ、雷霆軍靴の足音を響かせて走る。
「別にこの人形を相手にしてもいいんだけど、今回は簡単な判別方法の解説! 人形は魔力の糸で繋がっているけど、その糸は隠蔽されているから感知には引っかからない。でも特定条件でその糸を目視、あるいは感知することができるの。それは、」
一体の人形がとびかかってきたのでその攻撃をしゃがんで回避。そのまま胸の中心に剣を突き立てて、フルスイングして放り飛ばし他の人形にぶち当てる。
これだけでは壊れないので、地面を滑るように一気に間合いを詰めてから強化を右足に集中させて、強化された脚力で二体の人形を粉々にする。
その直後、人形の軍勢の後方から失った分の人形が新たに作られる。姫乃はそれを、じっと見つめるのではなく感知能力を広げて索敵する。
「……そこ!」
薄く広げた感知の網に、魔力の反応があった。それは天井ではなく、人形の軍勢のずっと後ろの壁から感じた。
その反応を感知するや否や、人形どもの頭上を飛び越えていき強く地面を蹴って一気に本体へと接近する。
姫乃の接近に気付いた本体が逃げようとするが、擬態していても動いてしまうと一目でわかってしまう。
ダンジョンの壁と同じ色の下半身のない人の形をした何かが、必死になって逃げようとするが補足済み。その速度よりも早く踏み込み、壁に縫い付けるように剣を突き立てる。
攻撃を受けて擬態が解け、剣を抜こうと必死にもがくがそれもかなわず、力尽きて動かなくなる。
「と、こんな感じで、人形を作った後に糸を出してそれを繋げるんだけど、その瞬間だけはどうしたって感知に引っかかる。それを見逃さなければ、どこに本体がいるのかがすぐにわかるよ」
”思ったよりまともな解説だった”
”てっきり、全部の人形を一つ残らず瞬殺してから広範囲を一気に攻撃することで倒すとか、そんな脳筋戦法をするのかと”
”やろうと思えばできなくはないのが、姫様のすごいところ”
”俺たちのトラウマがこんなにあっさり……”
”はえぇwww でも普通にためになる”
”あくまで上層だからためになる解説しているのであって、きっと下層とかになったら途端にわけわからんことになるものと見た”
”これを機に感知能力育てよう”
あっさりとリトル・マリオネットを倒した姫乃は、剣を鞘に納めながら軽く解説を挟む。
人形を作るのと同時に糸は出せない。これの上位モンスターである下層ボスの一体、マリオネット・レギオンですら同じ弱点を抱えている。
この弱点を見つけたのは本当に偶然だ。何しろ、この手の奴は持久戦に持ち込まれるとめんどくさいことこの上ないので、いつもは一撃で超広範囲攻撃をぶちかまして殲滅していた。
ただある時、それで本体ごと仕留めることに失敗。めんどくさいと思いつつ再度ぶちかまそうとした瞬間、追加された人形に向かって糸が飛ばされるのを感知した。
偶然かと思ったが、その後繰り返しても同じ結果。それで姫乃は、マリオネットと名がつくタイプのモンスターは、人形作成とそれを操作する糸の射出は同時に行えないのだと知った。
”でも糸飛ばしと人形作りは同時にできないんだ。初耳だわ”
”あ、でもトップ層のパーティーが人形倒した後、割とすぐに本体の場所を特定してたのってそういうことなのかな”
”ある程度成長した感知能力そのもので本体の位置は割り出せなくはないけど、ガチで隠密していると上層でも見逃すしなぁ”
”ただこれって、今みたいに姫様の超加速がないとむずそう。その場合は魔術とか遠距離攻撃で行けるか?”
”上層だってのに普通にためになる配信じゃまいか。魔導兵装がどうのって言ってる場合じゃないぞこれ”
姫乃の解説にコメントは大盛り上がり。
公表していないだけで他のトップ層は同じような対策を立てていると知り、自分が初出じゃないんだなとちょっぴり悲しくなりつつも、配信はまだまだこれからだしまだ自分だけしか見つけていないものもあるだろうと気を持ち直し、ずんずんとダンジョンを進んでいく。




