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ダンジョン攻略JK配信者、配信の切り忘れに気づかず特級モンスターを一方的にボコった結果伝説となる  作者: Lunatic/夜桜カスミ
第二章 黒からの夜明け

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姫様ダンジョン下層クッキング

「やーっと揃った! 最近ボクのドロップ率が悪い気がする! 物欲か? 物欲センサーなのか?」


 ガルクロウをハントしまくること四十分。ようやく姫乃はお目当てのもも肉をゲットした。

 五体いるところに突撃したり、二体が喧嘩しているところを槍形態に変化させた真装を投擲して串刺しにしたり、一対一の喧嘩を仕掛けてきたのを『脚撃』で吹っ飛ばしたりしながら次々と倒していたのに、一向にお目当てであるもも肉が出てこなかった。

 まさか物欲センサーが働いているのではないか、せめて大きくなくてもいいし一つだけでいいからドロップしてくれとお祈りしつつ、七体が集まって大乱闘しているところに突っ込んでいき殲滅すると、それぞれからもも肉と他の部位が落ちた。こういう時に限ってめちゃくちゃ大量に出てくる。


「いやこんなにたくさんどうしよう。ある分には困らないけど。……マネージャーとかクラスメイトにあげるか」


 美雪は姫乃の手料理が大好物だと公言してくれており、お泊まりに来る時はいつも褒めちぎってくれる。

 あとは、ファーヴニル戦後でも全く態度を変えずに接してくれたクラスメイト達にも、感謝の気持ちを込めて何かふるまってやろうと決め、どうせ唐揚げもってきゃ喜ぶだろと思いながら収納魔導兵装の中にしまう。


”ダンジョンサバイバー公式☑:案件をお願いする過程で配信をお伺いしておりましたが、相変わらず凄まじい殲滅速度ですね……”

”姫様の殲滅速度が基本ワンパンとかなのもあって早すぎるせいで、公式が困惑してて草”

”味噌漬けの漬け物:お? お肉集まった? どうせ一つだけでいいからってお願いした後に、大量に手に入ったんじゃない?”

”サメの顎の名前はジョーズ:正解だぜ漬け物さん。一気に七枚ゲットしてた”

”banban:一枚だけもらえないですかね? 今ものすごく鶏肉が食べたい気分”

”ずっと静かにしてた古参勢、その中でもこの配信の名物でもある漬け物さん、ジョーズさん、banbanさんが戻ってきた。こりゃ酒やつまみを買いに行ってたな”

”さっきちらっとノンアルとかを買ってくるって書き込んでたなぁwww”

”流石は古参勢。行動が速すぎるwww”


「あ、漬け物さんたち帰ってきた? おかえりー。それじゃあ今から準備……と行きたいところだけど、まずは安全地帯見つけるところからだね。反応的にも近くにあるっぽいんだよね」


 索敵の魔導兵装から来る反応を見るに、そう遠くない場所にあるのが分かる。これはラッキーだとスキップでも踏むような軽い足取りで向かう。


”¥10000:ずっと怖くて聞けなかったけど今聞きますね。姫様って、バズってからもだけど過去配信含めて今まで一回も魔術使ってなくない? もしかして魔術が苦手とか?”


 急にスパチャが投げられて体をびくりと震わせる。相変わらず赤色のコメントには慣れない。


「えっと、魔術が苦手なのかって? 苦手とかじゃないよ。というか、ボク魔術使えないんだよね。回路そのものに欠陥があるのか何なのか、あるいはボクのスキルが悪さをしてるのか、魔術法則界に刻まれている術式を取り出せても、その内容を実現させることができないんだよね」


 魔術を使うにはいくつかルールがある。

 まず、心臓の魔力刻印から魔術回路に魔術を流し、励起状態に移行する。ここで探索者や術師は、この世界の魔術の保管庫である魔術法則界にアクセスすることができ、その中にある基盤に接続。その基盤内に保管されている魔術を選択して自分の回路で道を作り、自分の体を通して現実世界に魔術を具現化させるという手順を踏む。

 魔術の流派の数だけ基盤が存在し、その基盤へのアクセス方法はその流派ごとに違う。ちなみにアクセス方法とは呪文や儀式であり、魔術師や呪術師が呪文を唱えるのはこのためである。

 姫乃も探索者となり刻印と回路を得たため、本来であれば魔術が使えるようになっているはずなのだ。しかし探索者になってから姫乃がまともに使えるものは、基本中の基本である感知だけで他はまるで使えない。

 しかもその感知ですら至近距離以外は危ういレベルなので、こうして索敵用の魔導兵装を使って索敵をかけているのだ。


 普通こんなことはあり得ないので何度かギルドで検査を受けたが、特に異常はなし。

 でも術式を取り出せても内容の具現化ができてない当たり、回路そのものに何かしらの欠陥を抱えているのか、あるいは心臓そのものにスキルが宿った影響ではないか、という結論に至った。

 当時十四歳だったため魔術という超常の力が使える! とテンションを上げたのに、蓋を開けてみたら全く使えないことが分かって肩透かしを食らったのをよく覚えている。


「まあ術式自体は理解できるし取り出せてはいるから、それを道具か何かに入れてみたらってアドバイスをもらって、それがきっかけで魔導兵装を作り始めたんだー。……っとと、話しているうちに到着ー」


 魔術が使えないということをリスナーたちに教えると、ついに確定してしまっただの恐怖の度合いが上がっただのよくわからないことが書き込まれた。

 一体何が恐怖なのだろうかと首を傾げつつも、安全地帯の中に足を踏み入れてそのままいそいそと調理の準備を始める。


 未知のエネルギー、このエリアに流れる謎の力、モンスターに対して異常な特効性を持つエネルギーは機神フレイヤによって正のエネルギーと名付けられた。

 このエリアにいれば正のエネルギーの影響でモンスターは決して寄ってこないし、体に傷があれば徐々に回復していく。何なら消耗した体力すらも回復する。

 ダンジョンの長期遠征は、いかに早い段階で安全地帯を発見するかにかかっている、と言われているのはこの効能のせいだ。


 収納魔導兵装の中から次々と必要なものを出す。

 組み立て式のキッチン台に料理が完成した後にそれを置く組み立てテーブルとイス。肉を切るための包丁とまな板、下味付け用の香辛料などの調味料と盛り付け用のお皿。サラダを盛り付ける用のお皿にスープ用のカップなども出しておく。


「よし! それじゃあ早速やっていこー! じゃあまずはお肉を切ります」


 かなりでかいもも肉をまな板の上に出す。これ一つで何人分あるんだって思うくらいのサイズで、いくら細身のわりに結構食べる姫乃でも一回の食事でこの量は無理だ。

 なのでグリルの中に入る大きさ、かつ姫乃一人分の大きさにカットしていく。

 ゴム手袋を着けた手でもも肉をしっかり持ちながら、切れ味抜群の包丁で切っていく。帰った後で明日のお弁当のおかずに唐揚げを入れる予定なので、ついでにその分も切っておく。

 今回使う肉は、厚みがある部分を切って広げて薄くして焼きが均等に入るようにする。


「次に下味。塩と胡椒を少々振りかけておいて、別に作っておいたマリネ液をかけて三十分くらい置く。材料はローズマリー、おろしにんにく、オリーブオイル、レモン汁だよ」


 マリネ液は先に作っておいたので、材料を説明だけする。それをバットの上に移したもも肉にかけ、ラップをして三十分ほど放置する。


「待ってる間に他のもやっちゃおう。まずは手袋を変えてから……はい、じゃあ次はスープ作り。お鍋を持参した二口コンロにセットしてから水入れて、沸かします。沸かしてる間に材料切るよ。具はジャガイモと人参と玉ねぎの王道です。あ、スープはコンソメだよ」


 手際よく野菜を切り、切ったものを全て鍋の中に放り込む。まだお水が沸いていなかったので、飯盒に水を入れてからサラダも手早くパパッと作ってしまう。


”姫様の料理の手際が良すぎる”

”きっちりエプロン着けてるし、なんか……なんか……”

”ポニテにもしてくれてるし、エプロンで姫騎士風衣装隠れてるからマジで新妻に見えるの最高”

”ワイには料理してくれる妹に見える”

”美少女のエプロン姿には需要しかない”

”あー、マジで姫様の手料理食べてえ。絶対に幸せ”

”熱々の手料理を姫様がふーふーして冷ましてからあーんして食べさせてほしい”


「まーたみんな変なこと言ってるー。小さい子供とかボクの恋人とかだったら冷ましてあーんはしてあげるけど、みんなにはそんなことしてあげないんだから」


 相変わらず願望駄々洩れなコメント欄に呆れて腰に手を当てる。

 お湯が沸き始めてきたのでコンソメキューブを一つ入れて、蓋をしてしばらく放置する。お肉をマリネ液につけてから二十分ほどが過ぎたので、グリルを予熱しておく。

 焼くのに大体七、八分かかるので、もうこのタイミングで空いているもう一口のコンロに飯盒を置き、スイッチを押して火を起こす。

 つまみを飯盒のマークがあるところまで回し、あとは放置だ。十分ほどで蓋から泡が吹くようになるので、それが収まってきたところで火を切りあとは十分から十五分ほど放置だ。


「……うん、スープもいい感じ。もうちょっとこしょう効いてるほうがいいかな? えい」


 コンソメスープを味見して、もう少しピリッとしたこしょうの辛さが欲しかったので、粗挽きこしょうを追加投入。ぐるぐると混ぜてからもう一度味見して、満足いく味になったので頷き火を止めて蓋をする。


「ではではお待ちかね、お肉を焼く時間です。マリネ液にしっかり浸かったこのもも肉を、予熱しておいたグリルの中にどーん! マリネ液のローズマリーをお肉の上にのっけて、グリルの蓋を閉じます。大体七から八分かかるから、七分半に設定して焼きます。……さて、と」


 あとは肉が焼けるのを待つだけ。やることもなくなったため、暇な時間が訪れる。

 となれば、やることは一つ。リスナー数十万人の耳に、ダイレクトに音をお届けする時間だ。

 収納の中に手を突っ込み、そこから今回のためだけに購入したASMR用のマイクを取り出す。


”なんかマイク出てきた”

”お肉焼けるまでラジオみたいな感じで何かやるのかな”

”いや、待て。そういえば前に、おうち焼肉する時にASMRマイクを使って肉を焼く音をお届けするとか言ってた気が”

”え、じゃあまさか……”

”そ、そんなまっさかー! 姫様がそんなイジワルするわけがないじゃないか!”

”いや……めのっさんならやりかねないという凄味があるっ……!”


 なんだなんだと盛り上がるコメント欄を尻目ににやりと笑みを浮かべ、マイクをグリルの近くに置いてから浮遊カメラと繋げて色々設定をする。

 おうち配信の時はパソコンに繋げたオーディオインターフェースにマイクを接続して配信ソフトに取り込ませていたが、ダンジョン配信はカメラに結構いいマイクが付いているので、それの切り方とか他マイクへの繋げ直し方が分からずちょっと苦戦する。


「あ、繋がったかな?」


 あれこれ試しているうちに上手く繋がり、一度自分のスマホから自分の配信を開き、イヤホンを着けて自分の声がどう聞こえているかを確認。

 ASMRというだけあり、かなり些細な音を拾っている。囁くようにチェックすると、まるで耳元で本当に囁かれているみたいでぞわっとする。


「それじゃあ皆さん、この音をご堪能くださいませ~」


 やめてくれという懇願を無視して、マイクをもう一度グリルの近くに置く。

 焼き始めて少し時間が経っていたので、グリル越しからハーブと肉の焼けるいい臭いと、肉が焼ける時の油の弾ける音が聞こえる。

 そんなものをASMRマイクで拾ってしまえば───


 ジュワアァアアアアアアアアアアアア……!


”いいいいいいいいいいいいいやああああああああああああああ!? 肉が焼ける最高にいい音が、ASMRで耳元に直接お出しされてりゅううううううううううううううううううう!?”

”あ、悪魔だ……!? 姫様はなんてひどい悪魔なんだ……!?”

”なんて……なんてひどいことを……!(食事済み)”

”うっわ音やっば……よだれ止まんねー”

”もうこの音で我慢できなくなったぜ! 俺はもう飲むぞ!(ガシュ!)”

”この焼ける音だけで酒が飲める(ぐびぐび)”

”頼む……頼むぅ……! ワイにもその肉を食わせてくれぇ……!”

”ア゛ァ゛……ニク……タベタイ……”

”こんな暴力的に食欲そそる音が直接耳にお届けされてるのに、音だけで匂いもなければ実物は画面の向こうにしかないだなんて……! あまりにもむごすぎる……!”


「ふ……ふふ……」


 予想通り、ASMRで肉を焼き油がはじける音を聞いたリスナーたちが、次々と発狂し始める。

 食べさせてくれと懇願する人に、現物は画面の向こうにしかないと絶望する人。もう我慢できないのか酒を飲み始める人と様々だ。

 こういう反応を見て、現場で音も匂いも直接嗅げて、更には焼き立て熱々の皮目がパリッパリで肉はジューシーな現物を食べられるのは自分だけという優越感に、ぞくぞくと体を震わせる。

 よくないことだと分かっているのに、どうしてもやりたくなってしまったのだ。


 まだ辛うじて正気を保っているリスナーが何人かいたので、マイクを近づけて音量を上げて、とりあえず止めを刺すことにした。

 のちに、やりすぎたためそのマイクの正しい使い方で配信をしろと、スパチャビンタをされるとは思わずに。

作者が勝手にやってる『勝手にQ&Aコーナー』


Q.正エネルギーってなに?


A.一作目のダンジョン攻略JKの方で度々出てきた正魔力、正呪力のこと。こっちだとフレイヤが人工的にそれを生み出す術を確立させていないから、ダンジョンの中でしか確認できてない

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