決戦
イカロスの翼を使い急加速しながらファーヴニルに接近する姫乃。深層の竜種であるレイザルドならば六発の通常砲撃でもダメージは入るが、この邪竜は深層最下層ボス。どれだけダメージが入るかわからない。
ファーヴニルの突進を上に軌道を変えて回避して、すれ違いざまに六連砲星の刃を突き立て切り付けながら二発砲弾を撃ち込む。
鱗を貫通することはなく表面に小さくひびを入れる程度にとどまる。やはり事実上深淵のモンスターともなると、そう簡単にダメージを入れることはできないようだ。
自分の体に何かを当てられたことが腹立たしいのか、怒ったように声を上げてファーヴニルも急旋回して姫乃を追いかけてくる。
龍種は竜種の飛竜と違い、背中に大きな翼を持つ。そのため前足での攻撃が可能となっており、鋭い爪を警戒しなければならない。
当然爪だけでなく、噛み付きや尻尾、巨体による体当たりやブレスなど、色々と警戒しないといけないことがある。
ファーヴニルで一番警戒すべき攻撃はブレスだ。黒い鱗を持つ竜種や龍種は炎のブレスを吐く以外にも、純粋な魔力の塊をブレスとして撃ってくることがある。
その魔力のブレスが非常に強力で、過去の雷神の配信を見る限り文字通り山を一つ消滅させられるだけの威力を持っている。
そんなものをこの街中で使われでもしたら、ひとたまりもない。下に向かって使われて着弾してしまえば、大損害だ。
下に向かって攻撃をされないよう、姫乃はできる限りファーヴニルの上を陣取って戦うことになる。
”なんか姫様普通に空飛んでる!?”
”おいあれ機神フレイヤが好んで使ってたイカロスの翼じゃんか!”
”再現しちゃってるのあれ!?”
”速すぎる”
”事実上深淵級モンスター相手に一歩も引かずにやりあってるよあの姫様”
”なあこれ町に被害出ないように立ち回ってね!?”
”あのでけえ怪物相手にそんなことやってるの!?”
”ていうかガンス二刀流とかかっこよすぎるんですけどぉ!?”
”でも振り回してるの主に六連砲星だな。左の奴使わんのかな”
なぜ逃げようとしないとか。なぜ怖がっているのに立ち向かえるのか。そんな疑問を抱くリスナーがコメントを書き記していくが、姫乃はそれに一切反応しない。
噛みつきを紙一重で回避して顎に六連砲星を叩きつけ引き金を引こうとするが、ぐんっ、と押し込まれて距離を離されてしまったので小さく舌打ちをする。
上を制した方が有利であることをファーヴニルも理解しているのか、姫乃の上に回り込もうと翼を羽ばたかせるが、自分の有利を奪われてなるものかと姫乃も抵抗する。
左のガンランスで目を狙って突きを放つと瞼を閉じられ鱗に弾かれ、視界を半分一瞬でも奪ったのを見た瞬間に左足で全放出で『脚撃』を打ち込む。
大きな顔面が右に向かって蹴り弾かれ、ほんの小さなひびを入れる。間髪入れずに六連砲星を突き刺し、ゼロ距離で一発だけ砲撃。それでも鱗を砕くまでには至らない。
「あと三発……!」
六連砲星の最大火力を出せるまであと三発。これで倒すことができれば重畳だが、通常砲撃でこれなので本当に期待は薄い。
なので切り札となりうるのは、ひたすら心臓から生成され続ける魔力を限界値を超えて溜め込み続けている、左のガンランスの一発限りの砲撃だ。
『過剰蓄積』による限界を超えた蓄積。それを行ってからの攻撃は、使用後一定時間武器の使用ができなくなる。
このガンランスはそれを更に引き上げたもので、通常蓄積の七百%という頭の悪い数値を過剰に蓄積できる。代償として、一発撃つと確実に壊れる。
ゆえに左のガンランスは切り札として最後まで使わず、しばらくは六連砲星のみで戦う必要があるわけだが、ろくなダメージを入れられていないので不安になる。
本当に左のガンスで倒せるのか。有効打を入れられても止めを刺すまでに至るのか。そんな不安が雁首をもたげ、それが姫乃の動きを鈍らせてしまう。
「グアァ!」
「!? し、しま───」
ファーヴニルの尻尾攻撃への反応が若干遅れ、直撃こそ免れるが左の翼に当たって半分折れてしまい、空中制御が難しくなる。
こうなった時用に常に予備をいくつも用意してあるため、今着けているのをしまってすぐに新しいイカロスの翼を取り出し展開するが、僅かな時間の隙にファーヴニルが姫乃の頭上を取ってしまう。
大きく口を開けるのを見て、ブレスを打つつもりだと察知しスラスターを全開で噴射、魔力放出で加速をブースト。空気抵抗を前方に張る結界で受け流しながら音に迫り、黒の邪竜に向かっていく。
姫乃が再び自分の頭上を取るつもりだと気付き、奴が翼を力強く羽ばたかせて上昇していく。あの巨体だというのにそれに見合わぬ速度で上昇していき、もどかしさに舌打ちをする。
六連砲星は通常砲撃も強化砲撃も射程が短い。砲口をぴったり押し付けていないと、最大火力が出ないほどだ。
蓄積に回す魔力量が減るかもしれないが、姫乃は自分の周りに魔導兵装を百門同時に展開。一発一発の火力を求めつつも弾幕を意識した、連射式の魔導兵装が次々と顔を出す。
ガトリングに機関銃、バルカンなどの連射式機銃の代名詞とも呼べるものから、八連回転式砲身大砲という姫乃のオリジナルから多連装ミサイルランチャーのようなものまである。
「一斉砲火!」
全ての連射式魔導兵装が姫乃の魔力をドカ食いしながら、魔力の弾丸や砲弾をすさまじい速度で連射する。
上を取ることができないというのであれば、今度は後ろを取った状態で姫乃が下に気を遣わずに火力を出せばいいのだ。
毎分に一万発というイカレた連射速度のバルカン砲と、その半分ほどの連射速度のガトリング。
八連回転式砲身大砲は秒間百発の魔力砲弾を撃ちだし、多連装ミサイルランチャーのような魔導兵装は魔力が充填され次第次々と爆裂する魔力砲弾を発射する。
魔力弾の雨がファーヴニルに襲い掛かり、炸裂する魔力砲弾が無限に放たれ続ける。
堅固な黒い鱗に守られているファーヴニルは、攻撃を避けるそぶりを見せていなかったが、圧倒的な弾幕を食らい終わることのない炸裂を食らったあたりから、戦闘機がするような旋回をして射線から外れようとする。
すぐに姫乃は百門すべてを自動運行させて自身から離し、姫乃本人が暴虐的な弾幕の中をトップスピードで紙一重で弾幕を回避しながら突っ切っていく。
”なにこれえええええええええええええええええええええええええ!?”
”なにこのとんでもねえ弾幕……”
”姫様バズった時から特級だろって言われてたけど、これ見て特級どころの話じゃねえってなった”
”最上位の階級が特級までだけど、その特級も細かく分けられてて一番上が国家転覆級だとか。姫様は紛れもなく転覆級ですこれ”
”何がやばいって、これマナじゃなくて姫様自身の魔力使っててあの密度ってこと”
”やっぱ姫様のシグルスハートってスキルの影響だろこれ! あのめちゃくちゃな魔力運用を見るに、ほぼ無尽蔵に魔力が湧き出てくる的な感じだろ”
”おーちゃんとのコラボん時に器官がスキルと結びついてるパッシブ系って言ってたけど、スキル発動する時にシールシャットダウンって言ってたぞ? こういうのってパッシブじゃなくてアクティブの方だろ”
”魔力がドカンと増えるのはアクティブ寄りで、スキルの影響で何かが常に発現してる状態なんだろ。じゃないとパッシブって言わないし”
”普通スキルはアクティブ一辺倒かパッシブ一辺倒なんですが”
とてつもない弾幕の圧にファーヴニルもたまらず回避行動をとることが増え始め、弾幕を避けることに意識を割き始める。
その意識の隙間を縫うように弾幕の中から抜けて一度下に落下するように移動してから、全力でスラスターと魔力を噴射して超加速。
回避することに集中して速度が落ちているファーヴニルの腹に六連砲星を突き立て、素早く引き金を連続で引く。
反動をスラスターと魔力放出の推進力で無理やり消しているため、かなりの負荷が右腕にかかるが関係ない。
「ガアァ───ガッ!?」
「よそ見してると砲撃の嵐だよ!」
姫乃の連続砲撃を腹に受けて姫乃のことを追い払おうとするが、なおも続く連射魔導兵装の一斉掃射弾幕を全身に浴びる。
魔力弾が当たり、砲弾が炸裂する。一個二個ならともかく、何百発何千発と食らえたひとたまりもない。
弾幕から逃れようとすれば姫乃の攻撃を受けることになり、姫乃の攻撃に対処しようとすれば弾幕の驟雨を食らう。
どちらを選んでも攻撃を受けることになるため、どうすればいいのかと一瞬分からなくなったのか動きが停止する。
「ラスト一発!」
腹に付けた傷にもう一度ガンランスを突き立てて、最後の六発目を砲撃。その部分の鱗が砕けて剥がれ、その下の肉が見える。
「『装填・全開放───六連砲星』!」
すかさずその部分にもう一度突き立てて、重い引き金を引き切る。ガヂンッ! という重い音が鳴る。
直後、ドッゴゴゴゴゴゴオォオオオオオオン! という音が鳴り響き、強烈な六発の砲弾が同じ個所に同時に放たれる。
「ギャアアアアアアアアアアアアアア!?」
絶対の自信を持っていた自慢の鱗が完全に砕かれ、その下の肉から直接強烈な砲撃を六発同時に食らったファーヴニルは、大きな悲鳴を上げる。
同時砲撃によってたまった熱を排出している最中に、邪竜が尻尾を大きく振るって攻撃してくる。咄嗟に六連砲星でガードするが弾き飛ばされ、しかもそのまま破壊されてしまう。
残るのは左腕に抱える、過剰蓄積が完了したガンランス。あとはこれを撃ち込むだけだが、どのタイミングで撃ち込むかと探ると、ファーヴニルが口を大きく開けて口内に魔力を溜め込んでいるのを見た。
最悪のタイミングでやってくれたなと歯ぎしりし、回避しようものなら甚大な被害が出てしまうためここで使うしかないと腹をくくる。
ガンランスを正面に構え、照準を定める。砲口に魔力が収束していき、空間がゆがみ始める。
ぎしぎしと不穏な音を鳴らし、撃った瞬間に壊れないだろうかと心配になるが、今はこの武器を信じるしかない。
「カッ───!」
「───龍葬砲っ!!」
ファーヴニルがブレスを吐く。その反動で体が浮いているのか、翼を羽ばたかせるのをやめている。
姫乃がガンランス、龍葬砲の引き金を引き切る。撃った瞬間に強烈な反動を感じ、スラスターを全開で噴射して制御する。
両者の魔力砲が真っすぐ飛んでいき、真ん中で衝突。その衝撃で新宿のビル群のガラスが一斉に砕け散る。
「ぐっ、ぐぐっ……!」
溜め込んだ魔力を撃つのと同時に、無茶を承知でもう一度過剰蓄積を発動。ガンガン生成される姫乃の魔力を、消費した片っ端から補充していき補充したそばから放出する。
かなり無茶な運用で体中が痛む。体中の回路が悲鳴を上げている。その悲鳴を姫乃は無視して、ひたすら魔力を送り込む。
深層最下層のボス。そのブレスはまさに破滅の一撃。国家を単体で滅ぼしうると評価されるだけはある。
ここで姫乃が押し負ければ、あの濃密な龍の魔力に飲み込まれて即死するか、運が良ければ二度と歩けないほどの重傷を負うだろう。
自分が負けてしまうのはまだいい。あれにはかなりのダメージを与えているし、そう時間をかけずに最強クランが集結する。あとはそれに任せてしまえばいい。
だが姫乃はそんな未来を拒絶する。今までさんざん誰かに助けられて支えられてきた人生だ。やっと自分の力で誰かを助けられるようになり、克服なんてできていないが一握りの勇気で立ち上がることができた。
姫乃にトラウマを植え付けた龍とは別だが、同じ黒の龍。乗り越えるための第一歩だ。今ここで助けられてしまったら、二度と恐怖の象徴を乗り越えるための一歩を踏み出せなくなるかもしれない。
これは町の人を助けるための競り合いじゃない。ひたすらに自分のためだけの意地の張り合いだ。
「だからっ……! ボクは……!! お前程度に負けてなんかいられないんだあああああああああああああああああああああああ!!」
体中から激しい痛みが出るのを承知で、一気に絞り出すように全ての魔力を龍葬砲に流し込む。
もうやめてくれと魔術回路と刻印が叫び、龍葬砲もさらに送り込まれる膨大な魔力に耐えきれずに異音を発し始める。
だがその無茶が功を奏し、ファーヴニルのブレスをぐんぐん押し返していく。
「いっ……けえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!」
喉が裂けよと言わんばかりに声を思い切り張り上げる。
ギリギリのところでどうにか踏ん張っていた邪龍のブレスは、ついに姫乃の砲撃に押し負ける。
龍殺しの魔力の砲撃が邪龍の頭を飲み込み、焼き焦がし吹き飛ばし消滅させる。
頭を失った黒の邪龍は、糸の切れた人形のように真っ逆さまに地面に向かって落ちていく。
あの巨体があの速度で落ちるだけでもかなりの破壊を引き起こすため、自戒してしまった龍葬砲を放棄してスラスターと魔力を放出して先回り。
落下するファーヴニルの下に回り込み、両腕でそれを支えてから思い切り魔力とスラスターを噴射して徐々に減速していく。
地上まであと五メートルのところでほぼ減速しきり、体が崩壊し始めたので放り投げて下す。
体が塵となって崩壊していき、残ったのは姫乃ほどの大きさの巨大で最高品質級の見事な核石と、黒の鱗、牙、爪といった素材だけだった。
”倒した……のか……?”
”核石と、素材だけ残ってる”
”うそ、まじ? まじで!? まじかよ!?!?!?”
”うおっしゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!”
”うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!! まじかああああああああああああああああああああああああ!?”
”事実上深淵級のモンスターをソロで倒しやがったああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?”
”すげえええええええええええええええええええええええええええ!!!”
”っていうか待って!? これ犠牲者ゼロやんけ!? 姫様がちの英雄やんけ!?”
”もう一生推します姫様ああああああああああああああああああああああああああ!!!!”
”こんなの……女の子でも惚れちゃうよぉ……”
「『龍滅炉心・第一封紋:施錠』」
スキルを解除、ではなく無尽蔵に生み出す心臓に欠けてある封印を再起動させる。これで龍滅の魔力が無尽蔵に作られることはなくなり、スキルなしの姫乃本人のスペックに戻る。
残った素材だけを見る。間違いなく、倒したという証拠だ。
トラウマの元凶とは違えどそれとよく似た、最悪の過去を想起させる黒の龍を一人で倒した。
視界の端に流れるコメントは、姫乃を英雄だと称賛する者ばかりだ。実際、やったことを考えればそうだろう。
だが姫乃は、誰かのためでなく自分が今後トラウマを乗り越えていくためだけに戦った。大勢を助けたいからという気持ちももちろんあるが、最終的にはいつの間にか個人的な感情を優先していた。立派な人間なんかじゃない。
それなのに、コメント欄を埋め尽くす称賛のコメントの数々を見て、姫乃はどうしようもなくうれしく感じてしまう。動き始めた時は全員を助けるという気持ちだったのに、ファーヴニルが出てからは大層な理由なんてなく戦ったのに、嬉しくなってしまう自分がちょっぴり嫌になりそうだ。
でも、最後まで配信を切り忘れてしまい、最後まで戦いを見てくれた人たちの感謝の気持ちは素直に受け取ろうと小さく笑みを浮かべ、ふらりと体を揺らしてから地面に倒れる。
「あー……。これ、アホみたいに無茶な魔力運用した反動だなぁ……。体中ちょー痛いや……」
節々が、とかじゃなく全身が痛い。全身が筋肉痛とかそんな優しい話じゃない。
これは当分ろくに体も動かせないなと苦笑して、異常な疲労感に身をゆだねて瞼を閉じ、意識をふっと手放した。
そうして、突如として現れた召喚紋の魔方陣から次々と出てきたワイバーン数百体と、深層第五層ボスファーヴニルの襲撃という未曽有の大災害は、姫乃の手で完全に殲滅。
犠牲者ゼロという奇跡は各種メディアが大々的に取り上げ、世間は姫乃のことを称賛する声であふれかえった。
そのとてつもない出来事が連日テレビやネットニュース、他のアワーチューバーに取り上げられまくったことで登録者数が急増。
四日後には登録者数六百五十万人を突破という、とてつもない数字をたたき出したのであった。
作者が勝手にやってる『勝手にQ&Aコーナー』
Q.『龍滅炉心』はパッシブじゃないの? なんで封印かかってるの?
A.器官がスキルになっているタイプは、一回魔力を通して意図的に発動させない限りはパッシブにならない裏設定があります。姫様が過去に、試しで使った一回切りという発言はここにつながります。ちなみにこのスキルに封印をかけたのは、わたくしめの作品で毎度登場することでおなじみの霊華さんです。美琴ちゃんもこの人がメインで作った封印を権能にかけてもらってたし、割とマジでこの人がいないと詰んでる主人公ズですわ。解除の言葉が英語なのは……姫様の趣味です(探索者になれるのは”十四歳”から)




