解決と強化
「異能回路が閉じてるって、そんなことあるの?」
「稀にですがありますよ。探索者になって魔力を獲得する時に、刻印と回路が刻まれますよね。それで獲得した後に研修みたいなのを受けて、魔力の操作の仕方というのを学ぶ。探索者はその時学んだのを活かして、その後も増えていく回路に魔力を流していって出力が増加していくんです」
ダンジョンに潜らずとも最初から魔術や呪術が使える、生粋の術師というのはどうやら昔から存在しており、魔術という神秘は秘匿すべきものから発展のために必要なものになった。
最初から術を使える人々のことを探索者とは呼ばず、魔術師や呪術師と呼び、回路への魔力、呪力の流し方は主に彼らから学ぶ。
姫乃に限らず全ての探索者は、魔力をダンジョンで獲得した後に研修を受け、そこで魔力操作技術を学ぶことができる。
獲得したばかりの回路や刻印は眠った状態で、自力でそれを覚醒させる、あるいは補助してもらって無理やり起こしてもらう。
そうすることで回路に魔力が流れるようになり、研修期間中に自在に回路に魔力を流せるように訓練を行う。
その研修を終えた後、探索者はダンジョンに潜りモンスターを倒し、魔力と回路を増加させていく。そして増えた分の回路というのは、研修で学んだことを活かして自力で起こしていく。
これを繰り返していくことで、魔力量、出力共に成長していくのだ。
「ただ、異能回路っていうのは魔術師や呪術師にはない、探索者だけの特殊なもの。魔術回路と同じように魔力刻印と繋がっているから、回路の違いが意識できるようになれば同じように魔力を流せるんですけど……魔術回路と違ってお手本がないので、稀にですけど今の桜華さんみたいに回路を活かしきれていない場合があるんです」
「そ、そうだったんだ……。てっきり、私自身の実力が足りていないから最高速度まで行けないんだと思ってた」
”めっちゃ詳しいやんめのっさん”
”めちゃくちゃ専門的な話してる。超火力で暴れ回ってて脳筋って思われがちだけど、普通にインテリな部類なんだよな”
”魔導兵装自力で作れちゃってる時点で姫様はインテリ”
”勉強中は赤縁の眼鏡かけててほしい”
”てかそれを一目で見抜いてる姫様が普通にヤバいんだが”
”特殊な機械を通さずに回路が一部使えてないの見抜くのは何なん”
「姫乃ちゃんもしかして、これの解決方法知ってる?」
「知ってますよ。要は魔術回路と同じようなことを、異能回路にすればいいんですよ。桜華さん、一回魔術回路に魔力流すの止めて異能回路だけにしてもらえます?」
姫乃の指示通りに、桜華は異能回路だけに魔力を集中させる。
一つだけに集中したため、より鮮明に異能回路に流れる魔力の滞りを感じ取ることができる。
それを確認した後、桜華に許可を取って背後に周り、背中から心臓の位置に手を当てる。
「……うん、起こし方は魔術回路と同じで十分。じゃあ、これを使うか」
そういって取り出すのは、先端に紫色の結晶のようなものが付いている拳銃のような形の小型魔導兵装だ。
「ストップストップ!? 急に拳銃出てきたんですけど!?」
「殺傷能力ゼロですよこれ。ほら、銃口ない」
「……確かに。でもそれ出すなら先に言ってください」
「す、すみません」
ぴっ、と人差し指を立てながら注意されて、確かに今のは不用心だったと反省する。
改めて背中を向けてもらい、心臓の位置にぴたりと先端を押し付ける。
これは本来、魔術回路に作用するものなのだが、異能回路も刻印と繋がっているためリアルタイムで少し手直ししながら、刻印から流れる魔力に干渉する。
それができたら引き金を引き、その効果を発揮する。
「うひゃ!?」
直後、桜華が体をびくりと跳ねさせる。どうやら成功したようだ。
「はい、終わりました。桜華さんの魔力に直接干渉して、異能回路を少し強引にですけどこじ開けました」
「うわ、本当だ。今までと魔力の流れ方が全然違う。……なんでそんな魔導兵装持ってるの?」
「こことは違うダンジョンに、回路そのものを縛って魔力操作できなくしてくるバチクソめんどくさいモンスターがいるんですよ。一回そいつに下層で出くわして、危うく死ぬことろでした」
甲虫種モンスターのラプシールと言い、下層にしか生息していないくせに魔術回路そのものを機能停止してくるめちゃくちゃ厄介なモンスターだ。
初めてそれとダンジョン下層第三階層で出くわした時、虫系だからさっさと潰してしまおうと自己強化全開で飛び出していこうとしたら、回路そのものを封じられて危うく頭から齧られるところだった。
「あぁ、ラプシール……。あれって時間経過か、本体から大きく離れないと解除できないと思ってた」
「ボクも最初はそう思いました。でも回路縛られちゃうなら、その回路を無理やり起こす奴作ったらどうだろうと思ってやったら上手く行ったので、それ以降はあれと出くわす時は常に持っています。それで、具合はどうです? 今まで使えていなかった回路に魔力流れているので、違和感とかあると思いますけど」
使ってきていなかったところに魔力を流すと、異物感というのが凄まじい。
魔力を獲得したばかりの時もその強烈な異物感に、気持ち悪くなったりしたものだ。
異能回路が全部使えていなかったわけではなく、一部が眠っている状態だったのでそこまで体調に影響はないかもしれないが、念のため聞いておく。
「大丈夫そう。むしろ今までより調子いいくらいかも」
「なら、次も桜華さんにお譲りします。今顔に、試したくて仕方がないって出てますし」
「嘘!?」
くすりと笑いながら言うと、桜華が顔を赤くして両手で隠す。
動画や配信でわかっていたことだが、感情表現が豊かな人だ。見ていて面白いし楽しい。
表情もコロコロ変わるタイプだろうし、年上の先輩なのに少しからかいたくなってしまう。だがここは我慢する。
桜華の異能回路を起こした後、本来の性能となったスキルを確かめるための実験台になるモンスターはいないだろうかと散策する。
繰り返すが、どこかの誰かさんのおかげでモンスターは大量にいるため、実験対象はより取り見取りだ。本当はよくないことではあるのだが。
てくてくと歩きながら探し回ること十分ほど。今まで遭遇したモンスターで一番可愛かったのは何だったのかと話していると、索敵に反応があった。
姫乃はフクロウみたいな小型のモンスター、桜華はハムスターみたいな超小型のモンスターが可愛いという議論を一度やめて、桜華がナイフを二本抜いて前に出る。
反応は一つ。結構大きな反応で勢いがあるので、大型の獰猛なモンスターなのは確実。反応の形状からして、今こちらに向かってきているのは、
「ミノタウロスだねぇ。こいつが下層の第一階層にまでいるの、流石にイジワルよね」
「いつもだったらもっと深いところにいるので、これもイレギュラーですね。早くあの馬鹿どもをどうにかしてほしいですね」
「まったくよ。おかげで、私はこの間死にかけたし。ぶん殴る機会があったら、五重加速で最高速度で助走つけながら思いっきりぶん殴ってやりたいわ」
「それじゃあ相手が死んじゃいますよ」
「冗談よ冗談」とけらけらと笑って返した桜華は、すぐに真剣な表情になってしっかりとナイフを構える。
すでに両方の回路に魔力を流し込んでおり、その漲り方から最初から今まで使えていなかった最高速度の五速を使おうとしているようだ。
「ブモオオオオオオオオオオオオ!!」
ずんずんという重い足音が聞こえてくると、雄たけびを上げながらミノタウロスが姿を見せる。
ボディビルダーも真っ青になって逃げだしてしまうほどの筋骨隆々で三メートル近い巨大に牛の頭を持ち、破壊と暴力、そして怒りの気配をまき散らしている。
なんかやたらと凶暴になっているように見えるが、このモンスターは下層に生息するモンスターの中でトップクラスの獰猛さを持つし、縄張りに入り込まれて怒っているのだろうと納得する。
桜華と姫乃の姿を確認すると、お腹にびりびりと響くほど低く大きな咆哮を上げてから、二足歩行から体をかがめて四足状態になる。ミノタウロスの最も攻撃力の高い突進攻撃だ。
ベテラン探索者でも真正面から受け止めると、下手すれば普通に死ぬし、死ななくても内臓破裂や骨折をしてしまう。
それほどまでに破壊力があるミノタウロス最大火力の突進だが、突進という特性上走り出しの瞬間はそこまで高い攻撃力を持たない。
桜華も姫乃もそれをよく理解しており、二十メートル以上離れているこの状況は一見すれば危機そのもの。
だが本来の性能を発揮可能となった彼女のスキルさえあれば、出だしを潰すことなど容易だ。
「『五重加速』・五速!」
スキルとその効果を口にすると同時に踏み出し、瞬き一つの間にミノタウロスに肉薄。突進を始めようとした瞬間に真正面に桜華が現れたように見えたのか、ミノタウロスがうろたえる。
「わったった!?」
だが桜華も桜華で、最高速度がそこまで加速するとは思っていなかったのかバランスを崩して前のめりになり、転ばないように片足でけんけんしながら減速して止まる。
転んだりしたら危ないので「電光石火」を起動しようと七式魔剣の柄に触れていたが、転ばなかったのでほっと安堵の息をつく。
まだ危険がなくなったわけではないので、そのまま柄には触れたままにしておく。
「あ、焦ったー。ここまで速くなるんだ。……これは、完璧に使いこなせばめちゃくちゃ強い武器になるね」
にっと笑みを浮かべた後体勢を立て直して構えなおし、ミノタウロスが振り向いて再び突進の構えをした瞬間、もう一度動き出す瞬間に合わせて接近。
今度はきちんと狙った場所に止まることができたようで、両手のナイフで素早く連続で切りつける。
打撃耐性は高めだが斬撃に対する耐性はやや低め。はち切れんばかりの筋肉を収める肌を大量の斬撃が切り裂いていき、赤い血を流させる。
「ブオオ!」
至近距離にいる桜華を追い払おうとがむしゃらに腕を振り回すが、五速での超加速状態にいる桜華はそれを残像を発生させるレベルの速度で回避。
姿は見えているのに捉えるのが全て残像であるため、見るからに怒りのボルテージが蓄積しつつあるのが分かる。
「ガアァ!!」
ついにそのボルテージもMAXになったようで、やけになったように両腕を振り上げて超大ぶりの攻撃を仕掛けようとする。
それに合わせて桜華が地面を蹴り、素早く腕の腱を切断。振り上げた腕がだらんと力なく垂れる。
ムッキムキの両腕が使えなくなり、どうやっても捕まえることのできない桜華が目の前に姿を見せたことで、最初の勢いはどこへやら。見るからにおびえた様子で後ろに下がり始めている。
「今日初めてまともに五速使ったのにいきなりあんな動きできるあたり、桜華さんって適応能力高いんだなぁ。元の体捌きとかが達人級だったし、速度が上がってもすぐにチューニング済ませられるし、スキルが強くてもスキルだけに頼らずにやってきたっていうのがよく分かるや」
怯えたミノタウロスが尻尾巻いて逃げようとしたところを、アキレス腱を断ち切って転ばせ、背中からナイフを深々と突き立てて心臓を刺し貫く。
悲鳴を上げて絶命したミノタウロスは、体を崩壊させて角を一本と大きく上質な核石を落とした。
「やった! いつもだったらもうちょっと時間かかるのに、めちゃくちゃ早く終わらせられた! 姫乃ちゃんありがとー!」
「にゃ!?」
下層最強格を一人で倒しているあたり、本当に一級レベルどころかその上澄みの強さあるだろと思っていると、加速を切らずにそのまま飛び付かれて一緒に地面に倒れてしまう。
「あっははは! すっごいすっごい! 私のスキルってあんなに強いものだったんだ! 悩みを解決してくれてありがとー! 流石は私の大好きな姫様!」
「ちょお!? なんか変な誤解招きかねないこと言わないでください!? 好意向けられることは嬉しいですけども! というかボクの上から降りてください!」
”あら^~”
”あらあら^~”
”いいですわ^~”
”唐突ないい感じの百合シーン”
”年上のお姉さんに直で好意向けられてちょっと照れてるの可愛い”
”おーちゃんテンション上がりまくってるなあ”
リスナーたちはなんか役に立たなそうだし、じたばたともがいて桜華の下から脱出。
美人さんにああやって押し倒されたり、スキンシップされるのは悪い気はしないでもないのだが、配信中だし流石に唐突過ぎたので勘弁してほしかった。
ちょっとだけへそを曲げたふりをすると、配信を終えた後にふわふわパンケーキの美味しいお店でごちそうすると言われ、別に拗ねていないと言いながらもその厚意に甘えた。
決して、美味しいパンケーキに釣られたわけではないのだ。
あとリスナーにちょろいとかちょろ姫様とかさんざん言われたが、決してちょろい女の子ではない。




