新たな発見
「まずは、私もコラボは久々になるし、まずはお互いの戦闘スタイルとかを把握しておきたいわね。姫乃ちゃんは……色んな武器使うから武器種ごとに変わるんだろうけど」
「今回は七式魔剣だけで行きますよ。新しく付け加えた機能もありますし」
「あれだけもりもりでまだあるの!?」
”もうその剣一本で何でもできるやんけwww”
”七属性使えます。火力ヤバいです。これだけで十分なのに何を付け加えるというのか”
”もう、七式魔剣だけでよくないですか?”
”あれだけ機能盛り付けておきながら、まだ付け加える余裕があるのが恐ろしい”
”¥50000:研究費代です! 最近七式魔剣ばかりだから、たまには他の武器とかも見て見たい”
”¥1000:過去配信で使ってた、ブースター付いたでっけえ大剣をまた使ってほしい”
七式魔剣は元のコンセプトは、七属性を使うことのできる魔導兵装だった。だが作成途中でそれだけだとなんかつまらないと思い、後付けで色々改造できるように余裕を持たせておいたのだ。
七式魔剣使用中に属性を高速で入れ替える『七式換装』も、後付けの拡張機能である。
「一体どんな機能を付けたのか気になる」
「それは見てからのお楽しみですよ」
ウィンクをしながら人差し指を唇の前で立てる。
「あ、反応がありますね。数は……三体ですね」
「この反応だと、ケルヴァーグかな。あいつらいい連携してくるんだよね」
群狼竜ケルヴァーグ。
下層に生息する牙竜種のモンスターで、現実にいる狼よりも倍以上大きな体躯に、体毛のように細い鱗と通常の鱗に鋭い牙と爪を持ち、別名の通り常に群れで行動をしていて多い時だと五十体以上で群れを成していることもある。
狩りに出る時には三体一組で行動し、高い連携能力で相手を追い詰めていくという特性がある。
今回はちょうどその狩りに出ているタイミングに鉢合わせたようだ。
「じゃあここは私に任せてちょうだい。あれくらいなら苦戦もしないし、複数戦の解説もできるだろうし」
「分かりました。危なくなったら速攻で加勢に行きますね」
「そうならないように全力で戦わないとねー」
二人が今いる場所は下層。ガンガン一気に攻略していくのではなく、お互いに解説をしあうというコラボなので、姫乃と桜華の実力的に下層のほうがやりやすいからと足を運んだ。
一応まだ下層の第一階層にいるので極端な危険はないが、どこぞの誰かさんのおかげで今はその保証もない状態だ。
姫乃が常に広範囲に索敵用魔導兵装を使って索敵を続けており、今のところ何かがかかった様子はない。
桜華が戦いの前に軽くストレッチをしていると、奥の丁字路からバカでかいオオカミのようなモンスター、ケルヴァーグが姿を見せる。
反応にあった通り三体で行動しており、姫乃たちを認識するや否や三手に分かれて三角形に取り囲む。
しっかりと姫乃もその中に入り込んでおり、襲われたらすぐに蹴り飛ばせるようにと軽く構えておく。
「それじゃあ、行くよ!」
ストレッチを終えた桜華が腰に付けているホルスターから、少し大ぶりな黒いナイフ二本を引き抜いて、一歩目から凄まじい速度で加速して踏み込んだ。
右手のナイフを左下から右上に振り上げて攻撃するが、攻撃の直前に減速したためか、あるいは獣としての本能か後ろに下がられてしまい空振りに終わる。
先に攻撃を仕掛けたことで明確な敵、あるいは獲物と認識され、他に体のケルヴァーグも襲いかかっていく。
後ろからの攻撃をバク宙で回避して、攻撃してきた個体の頭を踏みつけて距離を離す。
とんっ、と軽い音を立てて着地すると、桜華が先に攻撃を仕掛けた個体が走っていくのが見えた。
彼女もそれを分かっていたので、やられたことをやり返すように後ろに下がることで攻撃を回避。飛びかかっての攻撃だったので、着地の瞬間に桜華が一気にトップスピードまで加速して地面に触れそうになっている足を切断。
着地に失敗してケルヴァーグが地面を転がり、急いで立ち上がろうとするがない足で地面を踏もうとして空振りバランスを崩す。
その隙を逃さず一瞬で肉薄した桜華が、眼球からナイフを突き立てて脳を破壊。そのまま命を刈り取った。
「おー、流石は桜華さん。戦い方がめちゃくちゃ綺麗で上手い。ケルヴァーグの攻撃は基本ひっかきや噛み付き、あとは体当たりとかだから単体での戦闘能力は実はかなり低い。でも単体は弱くても、常に三体で行動していて連携能力高いからその弱点をカバー。それで下層の過酷な環境を生き延びているってわけ。桜華さんはその連携能力を乱すために、速攻で一体を潰した。足の切断も鱗と鱗の間を狙って切った。単体雑魚でも鱗はしっかり硬いからね。そして足を落とした後、その状態に当然慣れていない個体は、いつも通り四本の足で立とうとするけど一本内からバランスを崩す。それを狙って眼球からの脳破壊。素早く無駄のない、適切な判断で処理したね」
”おーちゃんのカメラっておーちゃんの姿捉えるために特注したオーダーメイドだから、何をしているのか自体は見えているんだけど、何をやっているのかは理解できないでいたから解説助かる”
”あの速度で鱗の隙間狙っていくとか、伊達に若手最強格の一人と言われているだけはあるね”
”あの速度で動き回るおーちゃんのことを肉眼で補足しているんですがこの姫様……”
”ブロンテ使ってあれ以上の速度で走り回ってるし、見えてるんでしょ(適当)”
”相変わらずおーちゃんはえー。速度が上がればその分攻撃力も上がるし、マジでいい戦闘スタイル”
”動きも派手で見てて楽しい”
桜華が人気なのは、あの美貌や分かりやすい解説もそうだが、見ていて飽きることのない派手でアクロバティックな戦闘スタイルにある。
急加速に急減速。凄まじい速度で攻撃を回避して、攻撃されるよりも早く反撃に出る。
飛び跳ねて壁などを足場にして立体的にも動き回ることで、モンスターを翻弄しつつもリスナーのことを楽しませてくれる。
姫乃も彼女の動画をよく見ており、その派手な戦闘スタイルにいつも楽しませてもらっている。
色々とためになるなと見ていると、ふと違和感のようなものを感じる。上手く言語化できない、もや付いたものを感じてしまう。
「これで最後!」
「ギャウン!?」
あっという間に二体目を倒した後、仲間をやられたことで逃げ腰になっていた最後の一体を、容赦なく首にナイフを突き立てることで仕留める。
悲痛の叫びをあげたケルヴァーグがびくびくと痙攣した後、だらりと力をなくして糸の切れた人形のように地面の倒れ、その後体を崩壊させて牙と核石を落とす。
「ふぅ……! どうだったかな?」
「すごくお手本になる綺麗な戦い方でした! 相手に連携をさせず、先に一体倒してから動揺を一番強く出した個体を次に処分。最後にしっかり逃がさずに仕留める。これだけ見れば定石の定石なんですけど、桜華さんはそれをあの速度で派手にやってくれるので見てて楽しいです!」
「すっごい見てくれてるじゃん。なんかちょっと恥ずかしい」
つぶさに観察されていたと知り、ほんのりと頬に朱を咲かせて照れる桜華。
体に漲らせていた魔力を引っ込め、その瞬間感じていた違和感の正体に気付いた。
「桜華さんのあの加速って、スキルによるものですよね?」
「そうだよ。『五重加速』っていう、加速系のスキルだよ」
スキルとは、探索者になって魔力を獲得した際に同時に発現する、魔術などとは別種の異能。
戦闘にかかわるもの。加工などにかかわるもの。医療等にかかわるものなど様々あり、桜華の持つものは戦闘にかかわるもので、戦術スキルと分類される。
ほとんどのスキルには魔術回路とは別に、刻印と繋がる独自の回路「異能回路」と呼ばれるものがあり、スキルを使う際はその回路に魔力を流すことで発動する。
桜華の持つ加速スキル『五重加速』は、回路に流す魔力の量を五段階に分けることができ、その量ごとに速度が変化する。
スキルの詳細は発現した際、異能回路を調べることでどういう能力なのかを知ることができる。その人個人の在り方や特性が色濃く出るものなのだが、探索者という存在が出始めてからもう既に百年以上が過ぎている。当然、同じようなスキルが他人に出ることだってある。
世界中に探索者がおり膨大なデータがあるため、どういう形の異能回路がどういう能力なのかというのが共有されており、それで詳細が分かるようになっている。
「桜華さん、もしかしなくても三速、超頑張ってごく短時間だけ四速までしか使えないんじゃないですか?」
「……へ?」
「あと、魔力量はすごいのに出力が弱い、とも言われたことありますよね」
「な、なんでわかるの!?」
姫乃が感じた違和感。それは、桜華の持つ魔力量に対して、どうにも出力が弱いのだ。
下層の第一階層だし、出てきたのがケルヴァーグだったのでセーブしていたと言われるだろうが、それだけじゃないように見えるのだ。
「桜華さん、魔術回路のほうに魔力を流してください。全力じゃなくていいです」
「う、うん」
言われたとおりに魔力励起状態となる。じっと観察すると、淀みなく綺麗に体中の回路に魔力が流れていっていると感じられる。
「じゃあ、その場から動かずに異能回路に魔力を流してください」
そう指示を出し、桜華は何だろうと首を小さくかしげてから、魔力励起状態のまま異能回路に魔力を流す。
すると、所々で魔力の流れに淀みが発生して綺麗に流れていない。まるで、何かで道をふさがれているかのように。
「……うん、やっぱり」
「え、なになに? 何が分かったの?」
「桜華さん、異能回路が一部閉じたまんまです」
「へ?」
姫乃のその発言に、桜華はぽかんとした表情を浮かべたのだった。




