悪意/初のコラボ
銀座の一等地に巨大ビルを構える、日本の大手クランが一つ「黒夜」。
クランの規模や成績こそ日本三大クランと呼ぶには足りないが、その構成人数は日本各地にある支部を入れて一万を超えておりあとは何かきっかけさえあれば、名誉ある三大クランに入れるとクランマスターの黒葛原晴信は確信していた。
そのためにも、少しでも成果を上げて上に這いあがるために、グレーゾーンな行為を幾度となく重ねてきた。
三大クランの中で最も人数が少ないのは、夢想の雷霆。ごく少数精鋭で構成人数は二百人にも満たない。
雷神の娘が新たなクランマスターとなり、その孫娘がクランの筆頭リーダー。剣聖に風刃、瞬神、機神の娘息子に孫たち。魔法使いを親類に持つ炎姫と並外れたバフとデバフ性能を持つ月魔術を使う月姫の子孫。そして世界で初めて深層第一階層の攻略に成功した際、雷神とともに行動していた百人とその子孫。
たったこれだけしかいないというのに、その戦績は輝かしいもの。絶対的リーダーの雷神だけでなく、全員が常に高い成果を上げ続けており、人数が少ないにもかかわらず世界最強とまで呼ばれている。
抜かすならこの夢想の雷霆だと思っていたのだが、少数精鋭で全員が機神に認められて強力な魔導兵装を持っていることもあり、どれだけ追いつこうとしても突き放される。
このままだと一生三大クランになることなどできないと焦り、ついには己のクラン構成員に指示を出して、妨害工作にまで走り出した。
「くそ……! どうしてここまで炎上するんだよ!」
その結果黒夜は特大炎上を起こし、一月ほどが経った現在でも鎮火の気配がない。
焦りに焦っているところに、更なる追撃が来るようにダンジョンに行く人数が減ってしまいモンスターの間引きが滞ったことで、イレギュラーがあちこちで発生。
モンスターがモンスターを捕食するとこで魔力量を大幅に上昇させた強化個体の出現や、下の層のモンスターが上に進出するイレギュラー。モンスターハウスでもないのに同一種のモンスターの大量発生に、下の層の強力なモンスターから上の層のモンスターが逃げることで発生するスタンピードという怪物災害。
自分たちがのし上がるためにやったことが、ことごとく裏目に出てしまっている。
あまりの緊急事態の多さに、黒夜は政府からもギルドからも厳重注意や警告を受けており、莫大な罰金を支払わなければいけない。
そんな中で現在、世間は一人の女子高生に注目している。
名前は姫乃。自分で魔導兵装を作れてしまう異常な頭脳に技術力を持ち、深層に生息する特級モンスターをかすり傷一つ負うことなく仕留める強さを持つ。
何より一番おかしいのが、魔導兵装が大魔を取り込み魔導兵装がそれを小魔に変換することができるという、実質無尽蔵の魔力が使えるという点だ。
製作者本人曰く、魔導兵装に魔力刻印と同じようなものを技術的に再現。それを組み込むことで大魔の吸入を可能としたらしいのだが、はっきり言って異常だ。
その技術は、魔導兵装の始祖である機神でさえ成功できなかった技術だ。それをタダの一介の女子高生が成功するなど、到底信じがたい。
信じがたいのだが……配信を見る限り本当に大魔を取り込んで魔力を補充しているので、信じざるを得ない。
「姫乃……! お前が暴れるせいで、俺のクランの評判はがた落ちだ……!」
完全な私怨をぶつける黒葛原。
姫乃がダンジョンで暴れればその分だけ、ダンジョン内で発生しているイレギュラーと遭遇する。
その根本的な原因を作っているのは、黒葛原のクラン黒夜。なので暴れられるたびに、原因である自分たちに批判が集中する。
「よう親父。煮詰まってんな」
どうすればいいと頭を抱えていると、一人の青年が執務室に入ってくる。
その青年も最近頭痛の種の一つではあるが、強くしかることはしない。何しろ自分の可愛い可愛い息子なのだから。
「晴章。お前はこの状況をどう打破する」
「この一生続いてる炎上のことか? 普通にやるんじゃ無理だと思うぜ」
「……何か、考えはあるのか」
「まあな。最近世間の視線は、あのいかれた魔導兵装を持つJKに集中している。あれだけの化け物スペックだ、そうそう危機に陥ることはないけどよ……もしあいつがピンチになったところを助けることができたら、少なくとも今よりは多少ましになると思うぜ」
「あれほどの怪物がピンチになるとは思えないな。深層のモンスターすら倒す女だぞ」
「忘れたのかよ、親父。大量のモンスターが集まる、便利なもんがあるだろ」
息子の晴章がポケットに手を突っ込み、その中から球状の何かを取り出す。
それを晴信は、驚いたように目を見開くがすぐに笑みを浮かべる。
「そういえばあったな、それが。だが使う場所はどうする。下手な場所でやると、大したモンスターが来ないぞ」
「あいつの主な活動場所は下層。それも下の方だ。そこで使えば寄ってくるモンスターの数はとんでもねえことになるし、一級のモンスターどころか特別一級や特級すらやってくる。ワンチャン深層の奴も来るんじゃねーか? 流石にスタンピード級にでかい集団ともなれば、あいつでもピンチになるだろ」
深層モンスターを倒した以上火力のガンランス。しかしあれは六発先に撃ってからじゃないと、あの火力は出ない。
深層の特級を倒すのにあのガンランスを使ったということは、あれが彼女の持つ最高火力。スタンピード級のモンスター集団に襲われている最中に、そんな長ったらしい儀式じみた行動はできない。
「どんな強いモンスターが出てきても、俺だったら問題ない。むしろ強いほうが都合がいいしな」
「あぁ、そうだな。お前の強さは、相手によって決まる。強ければ強いのが出てきてくれたら……」
にぃ、と悪い笑みを浮かべる。
自分たちが一体どれだけ頭が悪くレベルの低い話をしているのか、二人は理解できていない。
そんなことにも気づかずに、穴ぼこだらけですかすかな作戦で評判を少しでも回復させようと、行動に移し始めるのだった。
♢
「みんなー! こんさくらー! 今日も元気に攻略と解説をやっていく、桐島桜華でーす! 今日は特別なゲストをお呼びしておりまーす」
「ど、どうも~、こんひめ~。本日は桜華さんとコラボさせていただくことになった、姫乃ですー……」
「かたっくるしい! いつものあのめちゃくちゃな感じはどうしたの」
「普段からめちゃくちゃなわけじゃないですし、ボクってそんなはっちゃけたタイプじゃないんですが!?」
”きちゃあああああああああああああああ!!”
”舞ってた!”
”美女&美少女の組み合わせ最高!”
”どっちもスピードファイターなイメージだけど、姫様って別にスピードファイターじゃないんだよな。ブロンテのイメージが強すぎるだけで”
”お互いにお互いのスタイルを解説していく配信なんかな”
今回姫乃は、先輩配信者である桐島桜華と共にダンジョンの中に潜り配信を行う、いわゆるコラボ配信をすることになっている。
発端は先日の収益化記念配信。桜華が助けてくれたことに対するお礼がしたいと言い、スパチャまでもらっているし気持ちだけで十分嬉しかったのだが助けられた側からすればそれで満足できないと分かっていたので、配信終了後夢かと思いベッドに潜り込んだ後に急いでDMを送り、コラボをしようと持ち掛けたのだ。
桜華はその申し出を即了承。退院後すぐは下層に行くのは大変だし滞っているやらなくてはいけないことがあったので、あの配信から四日後にすることとなったのだ。
「姫乃ちゃんとコラボ配信するの、ずっと楽しみにしてたんだー。可愛いのにすっごく強いし、配信も結構ためになるようなこといっぱい話してるし。おかげで私もすっかりファンになっちゃった。ファンネームって近衛騎士団員だっけ」
「そうですね。別に姫騎士とかじゃないのに見た目こんななので、団員さんたちが勝手にそういい始めたのがきっかけなんです」
「初配信のほう見に行ったけど、確かに一言も姫騎士だとは言ってなかったね」
「この格好は、最初は機能性とか性能突き詰めて作ったんですけど、すっごいダサくなっちゃって。だから性能落とさずに、かつ可愛くなるにはどうすればいいんだろうって色々やってたらこうなりました」
今のこの姫騎士風の衣装も、最初の頃はでかくてダサかった。具体的には、カボチャのように丸かったのだ。
流石にこれは酷いし重いし動きづらいので、このままじゃろくに動けないと改良に改良を重ねまくり、それでようやく完成したのが今のものだ。
機能性もいいし軽いし性能も最高なので、完成して以降愛用している。
「どんな性能してるの?」
「怪我をしてもすぐに回復する回復機能に、破損しても直る自動修復。汚れも落とす自動防汚に防御力の強化、肉体の強化、身体能力の強化……ですかね。一部機能はボクだけにしか働かないようになっていますけど」
「もりもりだぁ」
”多い多いwww”
”壊れても直るし怪我しても治るのかいwww”
”汚れも自動で落ちるとか、なんかずるい”
”身体能力強化は分かるけど肉体の強化って何ぞ”
”防御力上昇効果付きなのは破格すぎる”
”おーちゃんが遠い目をwww”
主に下層をメインにしているのだし、これくらいの保険はかけておくべきだろう。そう思って大量に機能を取り付けたのだが、どうやら過剰だったらしい。
「多いっていうけど、みんな死なないために死ぬほど準備をするのなんて当たり前のことでしょ?」
「確かに死なないために準備しまくるけど、姫乃ちゃんはし過ぎというか」
「一万の備えをしておいて損はないですよ。その中で使えるものがあれば使う。備えておいたものを使えたら上々。ダンジョンは危険まみれなんですし、これくらいはしておかないと不安なんです」
徹底的に用意をしまくる。用意しておいた手を使わずに済むなら最上。用意したものを一つ使えれば上々。
確かにやりすぎ感は否めなくはないが、過去の出来事もあって過剰なまでに備えておかないと不安なのだ。
「さて、そろそろ始めましょう。今回のコラボ配信は、お互いに指導しあいながらの解説配信。ボクが桜華さんの戦いを解説して、第三者目線で気付いたことがあればそれを指摘する」
「で、私は姫乃ちゃんの戦いを解説して、同じように気付くことがあったら指摘する。お互いのためにもなるし、モンスターの解説だけじゃなくなるしでいいコラボよね」
「いつもは自分で自分を解説しているので、他人からしてもらうの少し緊張します」
「最初はみんなそんなものよ。やっていくうちに慣れていくし、ガンガンやっていきましょう」
人がたくさん見に来てくれるくらい人気になったとはいえ、あまり長いこと話をするのはよくないので、早速進むことにする。
いろんなモンスターと戦って、自分でも気づけていない何かをここで知ることができればいいなと、期待で胸を膨らませる。
それはそれとして、初のコラボ配信なので失礼のないようにしつつも張り切ろうと意気込んだ。




