バズった聖地(?)の下層へ
「ほい、討伐かんりょー。中層も楽々突破だね」
下層へ向かう者を拒む最大の難所ともいえるボスを単独撃破した姫乃は、七式魔剣を止めて鞘に納めブーツも停止させる。
やり切ったような清々しい笑顔を浮かべ、心置きなくこの先に進むことができる。
”マジかよ……”
”中層ボスだけど強さは下層級。鋼鉄みたいに硬い皮膚を持つのに、まったく関係ないみたいな感じであっさり倒してるんだけどこの姫様!?”
”バズってからめちゃくちゃ言われているけどあえて言おう。なんでこんな子が一年も底辺あたりをうろついてたの!?”
”最後の攻撃がえぐすぎるだろwww もう笑うしかねぇwww”
”間違いなくゴリアテ最速討伐記録だこれ”
”姫様の持つ七式魔剣とブーツがないと無理な攻略法で草”
”今回に限ってはあまり解説を挟んでなかったね。主に氷で動き封じてからの氷漬けフィニッシュだったんだけど”
中層ボスをソロ攻略したことに沸き立つコメント欄。
凄まじい速度でコメントが流れていき、目で追いきれない。
こんなに盛り上がってくれて嬉しいなと思い笑みを浮かべ、これもしかしたら自己最速出ていたのではないかとタイマーをつけなかったことを反省。
ふと、同接が今どうなったのかを確認しようと画面を見ると、十九万人と表示されており吹き出しそうになった。
「え、ど、え、えぇ……? 同接十九万……? なにこれ……?」
困惑している間についに二十万人の大台を突破する。ますますわからなくなり、宇宙猫になる。
”姫様が宇宙猫になってるwww”
”同接の伸び方えぐすぎて草ぁ! でもぶっちゃけこのすごさで二十万は正直まだ少ないとすら思う”
”ゴリアテの特殊行動を見つけてたこともすごいし、腕を一撃でへし折るのもすごいし、もう何もかもがやばい”
”もうわけわかんなくなりすぎて、もう姫様の太ももがすっごいむちむちなことしかわからなくなった”
”改めて魔導兵装ってヤバいんだなって思った”
”こうしてみるとマジで太ももすごいな……。黒髪だし、宝多〇花のコスとか完成度高そう”
”さっきのゴリアテの奴、ツウィーターのトレンドに食らいついてきたぞい”
”あっちもこっちもはえぇよwww”
所々に姫乃の太ももに言及するコメントを見かけたが、スルーしておく。身長は平均よりも高くそこはまあありがたいのだが、それ以外で育つならやはり胸がよかった。
どうして胸には栄養がいかず、太ももとお尻ばかりが育ったのか。まったくわからない。母親はダイナマイトだったのに。
「さっきコメントに、土属性で足止めしてたら見れたのかって書いてた人いたけど、その通りだよ。まだこの七式魔剣作っていない時に土属性特化の兵装で挑んでて、足止め完了って油断したところに例の奴食らってね。回復用の魔導兵装持ってなかったらマジで危なかった」
先ほどの発言は全て、実体験から来るものだ。
音そのものがブレスのように飛んでくるので、鼓膜がまず最初に逝った。次に炸裂した衝撃であばらが数本折れ、吹っ飛ばされて地面を転がっている時に左腕も折った。
幸い内臓の損傷はなかったが、あちこちの骨が折れてあまりの激痛に流石に涙を流して吐きそうになった。
まだ配信活動していない時の事故なので、常連リスナーたちは姫乃の口からでしか聞いたことがない。
「いやー、にしても相変わらず核石でっかいねぇ。これ一つで十数万するんだから、狩り得だよね。週一くらいでしかできないけど」
姫乃の顔よりも大きな核石。個体によって大きさや質に差があるが、最低価格でも九万円。最大だと十六万円で取引されたという記録がある。
学生の身で一つ十数万のものをポンと売りに出すのは未だに怖いが、ボスモンスターの巨大で上質な核石は貴重な収入源の一つ。これを持って帰らないという選択肢はない。
なので一旦カメラを姫乃から離して映らないようにして、その間に核石を収納用の魔導兵装の中に放り込む。
空間魔術の応用で作ることができた代物で、大きさを無視して突っ込むことができる。ちなみにその魔導兵装は、腰につけているポーチである。
”さっきの水筒もそうだけど、ゲットした素材や核石は一体どこに行ってるの?”
”あのでかい核石がカメラを外した一瞬の間に消えてるんですが”
”オラ、キリキリ白状しろや!”
”確実に何かヤバいものを持っている気がする”
”ここでついに言及されるのか”
”さあ教えなさいお姫様。どこにしまったのかな?”
「えぇ~……。言わなきゃダメ? あ、そう、ダメですか。……空間魔術の応用で作った、収納用の魔導兵装だよ。攻撃能力一切なし。とにかく大量の素材や核石をしまえるようにしているだけの代物があるの。どれなのかは絶対に教えないから」
盗まれることはないし、盗まれたところで全ての魔導兵装に帰還用の術式を組み込んであるため、姫乃のほうからそれを起動させる鍵を使えばどれだけ離れていようが戻ってくる。
なので別に言ってもいいのだが、面倒なことになることに変わりはないので言わないでおく。そのうちバレてしまいそうではあるが、それまでは言わない。
「とりあえず、ゴリアテにパーティーとかで挑む人は下手にああやって動きを止めないように。やるとしたら、定石どおりにタンクとかに足止めをしてもらうこと。ああやって止めるとかえって他の人を危険に晒すからね。ソロでボクがやったようにやるんだったら、止めた後すぐに顔を向けられない範囲に移動すること。あれ直線でしか来ないから。あとはあの大剣にさえ気を付けておけば、まあ楽にはいけるんじゃないかな」
”あんな危険な真似はしたくないので定石で行きます”
”ぶっちゃけちょっと気になるし、知り合いの一級探索者に頼んで撮影してきてもらおうかな”
”自分の興味に他人を巻き込むなwwwwww”
”まずあんな範囲で氷を発生させたり地面操ったりが無理なのですが”
”そこはほら、魔導兵装を持っていけば……ワンチャン……”
”魔導兵装一つクソ高いから買えねえんだよ!?”
ワイワイと盛り上がるコメント欄。
あまりの速度に、いつも来てくれている常連リスナーのコメントを拾いづらく少し寂しい思いをさせているかもしれないなと申し訳なく思うが、まぎれていたコメントを見つけたら楽しんでいたのでほっとする。
「さってと、いつまでも現役女子高生が貴重な時間を無駄にできないし、ささっと下層に行っちゃいましょうかね」
まるで散歩にでも行くかのような軽い感じでいい、下層へと通じる入り口に向かって歩き出す。
長い螺旋状の石の階段を下りていきながら、下層に着くまでダンジョン内での思い出を語る。
クイルオスと初めて遭遇した時、真っ向勝負を挑んで危うく大怪我をするところだったことや、駆け出し時代初めてパーティーを組んだらもれなく全員性欲の獣だったため、危うくダンジョン内で凌辱されるところだったことなどを話した。
こうして振り返ると、結構危ない目に遭ってるなと気付いて様々な意味で運がないなと少しへこむ。
もう少し自分自身の危機管理を行ったほうがいいなと反省していると、ぬるりとした不気味な空気が肌を撫でる。
階段を下り終え、姫乃はついに下層に降り立つ。
何のためらいもなく下層に足を踏み入れた姫乃に、リスナーたちは緊張を隠せない様子でコメントを書き残していった。
作者が勝手にやってる『勝手にQ&Aコーナー』
Q.姫乃は男が嫌いになってますか?
A.嫌いまでは言ってないけど、苦手意識は結構ある。それもあってか女の子相手のほうが好きになりやすい傾向にある(友愛的な意味でも)




