中層も爆速攻略で済ませよう
休憩を終えた姫乃が中層に足を踏み入れる。
「中層からは竜種系のモンスターが出てくるんだよねー。中層の第三階層くらいまでは鳥竜種ばかりだけど、そこから先は獣竜種も出てくるようになる。鳥竜は大した強さじゃないけど獣竜種になると厄介さが増すから、ソロで行く場合は気を付けるように」
上層までは竜と名の付くモンスターは出てこない。だが中層からは、竜種モンスターが出現するようになる。
この竜種は、硬い鱗と高い知能を有しており、上層と同じだと思って挑むと痛い目に遭う。
駆け出しから中堅の探索者が命を落とす確率が高いのがこの中層。原因は、竜種の強さを見誤ってしまうこと。
”ここからドレイク系出てくるんだよな。見た目はどっちかっていうと恐竜寄りだけど”
”第三階層までは鳥竜ばかりだし、姫乃ちゃんの強さ的に問題はないだろうけど、気を付けてね”
”この階層にも仲間を呼ぶタイプの鳥竜いるんだよな”
”最初から群れを形成しているのもいるし、厄介度は跳ね上がる”
”ブレスとかはない分、下層にいる竜種と比べると全然ましだけどな”
”下層まで行くと、竜種じゃなくて龍種だしな”
竜種と龍種。これらには明確な違いが存在する。
竜種は鳥竜種、獣竜種、魚竜種、海竜種など様々な種類のモンスターが存在し、どれもがそれぞれ竜と別の動物が組み合わさったような見た目をしているのが特徴だ。
先日姫乃がワンサイドゲームでボコった爛れた大狼竜も、この竜種に該当する。
飛竜種という、見た目がまんまドラゴンのモンスターもいるが、龍種と違い前足に当たる部位がそのまま翼になっているのが特徴なので、竜種とされている。
龍種は、他の動物の姿が組み合わさったような見た目ではなく、ドラゴンとしての見た目をそのまま保持している。
巨大な体躯に鋭い爪と牙。背中から生える巨大な翼に、上級や最上級魔術すら防ぐことのできる堅固な鱗。
何より、龍種は災害や破壊そのもの。存在しているだけで周囲に災害を巻き起こす。
もっとも有名な例だと、七龍王と名付けられた七つの龍があげられる。
紫はただいるだけで対策がなければ体が溶ける猛毒を垂れ流し、琥珀は空を支配し雷を降らせ、灰は触れるだけで死に至る灰を降らし、金色は自らが彗星となる。
蒼は水と氷ですべてを奪い、緑は大地を割り植物で命を奪い、赫は炎と腐敗で焼き尽くし腐らせ不毛の地を生み出す。
ただいるだけであらゆる生態系ごとめちゃくちゃに破壊しつくす。それが龍種。
それゆえに世界中から恐れられているが、その数はかなり少なく早々遭遇することはない。
仮に龍種と遭遇できるとしたら、異次元の地獄でもある深層以降だろう。稀に下層にいることもあるが。
「流石のボクも、龍種とはあまり戦ったことはないかなー。個体によっちゃあいつらずっととんでてマジでうざったいし。そもそも数が少ないからそんなに遭遇することもないし」
竜種と龍種の説明をしている間にも、モンスターが襲い掛かってくる。
龍種にはこんな厄介なやつがいるんだと説明していてもお構いなし。上層と比べて数も強さもしぶとさも増しており、ベテランでも稀にではあるが命を落とすことがある。
そんな場所で姫乃はまるで警戒心すらないような感じで、軽い足取りでまるで散歩かのように進む。
「あ、ちなみに竜種のほうでめちゃくちゃ美味しいお肉が取れるやつがいるんだよね。すっごい柔らかくって臭みもなくって、すっごいジューシーでほんっとうに美味しいの! ステーキにしても最高だし、唐揚げとか生姜焼きとかも最高なんだよねぇ」
第二階層あたりから出てくるモンスターなので今はまだ狩れないが、このまま進めば確実に遭遇する。
ダンジョン内にいるモンスターでありながらめちゃくちゃ大人しいので、倒すことにやや抵抗感はあるが、一度あの味を知ると忘れられない。
今日もそれをしっかり狩っていき、夕飯は何にしようかなと頭の中でレシピを考えながら、襲い掛かってきた小型の鳥竜種ヴェルクロウをノールックで蹴り飛ばして壁のシミにする。
”えぇ……(ドン引き)”
”ノールックで出していい蹴りの威力じゃねえ”
”何のんきに夕飯のレシピ考えてんだよと思ったら、なんかワンパンしてるんですが”
”一瞬心配したけど杞憂だったわ”
上層よりも強さが増すとは言っても、姫乃からすればそれは誤差の範疇。特に中層第一階層なんて、上層とほぼ変わらない。
流石に中層からは攻略スピードが落ちると思っていたらしいが、歩みを止めずにモンスターを仕留めたのを見て杞憂だと分からされるリスナーたち。
どれだけの数のモンスターが束になって襲ってきても、姫乃は七式魔剣を起動させることなくばっさばっさとなぎ倒していき、素材と核石に変えてしまう。
「あ、この牙売れたらいい値段になる奴だ。これは放置は許されないね」
基本は核石のみの回収にとどめているが、たまに売ったらいい値段になる素材がでたらそれは回収している。
素材の換金可能は十八歳になってからと法律で決められているが、持ち帰りは核石換金許可の試験に受かった際に同時に許されている。
なのでこうして持ち帰り、自宅の倉庫に大量に蓄えまくっておくことで成人後に一気に売り、まとまった大量のお金を入手できる。
もっとも、一気に売るのではなく毎月一定の収入になるように売るつもりなので、倉庫の中身が空になることはないだろう。
「……むむ、マジで今日の遭遇率は半端ないね。一回解説一切なしの殲滅配信とかやって、ボクの活動範囲内のダンジョンのモンスター数減らそうかな」
やはり遭遇率が異様に高い。これじゃあいつイレギュラーが発生するか、わかったものじゃない。
索敵に引っかかり接近してくるモンスターを待ち構えていると、やってきたのはヤマアラシのように大量の大きな針を持つ中型の竜種モンスター、クイルオスだ。
体中にでかい返しが付いた針のように発達した鱗を持ち、体を丸めて突進しながらでかい返しのある針を突き刺し、無理やり引き抜くことでずたずたに引き裂く。
回復薬があるとはいえ、そんな攻撃を食らったら行動不能になるし、最悪普通に死ぬ。そんなモンスターが六体も出てきた。
「クイルオスは、針にも見えるあの鱗を使った突進攻撃を得意としているよ。でも丸まって突進してくるから、丸まっている間は周りが見えていない。でも音と臭いで位置の追跡ができるから、避けたからって油断はしない。あれで反響定位持ちだしね」
剣を抜きながら簡単な解説を挟むと、クイルオスが体を丸めて突進攻撃を仕掛けてくる。
その速度はどんどん上がっていく。原理は、転がる時にしなる針鱗が戻るときに発生する力で押し出しているかららしい。
「で、これの対処法はシンプル。側面が比較的もろいから、そこに一点攻撃を仕掛けるだけ!」
「ギャン!?」
クイルオスの攻撃をさっと横に避けると、通り過ぎていく前に剣を側面に突き立てる。
中層まで来れるようになると、トップの野球選手の全力投球を余裕で目視してから捉えることができるようになるので、今姫乃がやったような倒し方もできるようになる。
あと側面を狙う理由は、主にぶつける場所は針鱗となるためそこばかりがやたら強靭になっており、それ以外が機動性を生み出すために柔らかくなっているというのもある。
強力な魔術で吹っ飛ばしたり、かっこよく真っ向から近接武器で叩き潰す・叩き切る。自分の強さのアピールには向いているが、そればかりで弱点を突く戦法をとれなければ、強いモンスターとぶつかった際弱点を探ってそこを攻撃するように立ち回り、という能力を鍛えることができない。
姫乃の魔導兵装は強力無比。それは自分でも認めている。装備の強さに頼るのもまた自分の強さだが、装備が使えなくなった時は無力となる。
魔術を使える魔術道具や呪術などが込められた呪具、魔導兵装はそういったリスクもあるため、それだけに頼るような戦い方はしないようにしている。
一体のクイルオスを倒しそれがボロボロと体を崩れさせるのを尻目に、まだ突進してきていない残りの五体に向き直る。
いきなり一体倒されて警戒しているのか、針鱗をぶつけてこすり合わせて音を鳴らしている。
「ちなみにもう一つ、倒し方があるんだ。こっちはわざわざ側面を狙わなくてもいいけど、ちょっと危険なやり方かな」
そういいながらどこからともなく、長さ二十センチほどの円柱形のものを取り出す。
右手に持つ剣を構えるでもなくだらんと下げ、棒立ち状態。そこに残り五体が一斉に体を丸めて、跳ねるように突進を仕掛けてくる。
「さっき、ボクはこいつらには反響定位があるって言ったよね? つまり耳がめちゃくちゃいいってわけ。特に転がっている間は聴覚に集中しているから、こういう時にこういうアイテムが役に立つってわけ」
そういってポイっと左手に持っているものを放り投げ、剣を地面に突き立ててからすっと両手で耳をふさぐ。
直後、ドォオオオオオン!!! という凄まじい爆発音が響き、その音が姫乃のお腹にもびりびりと伝わってくる。
耳に集中していたクイルオスたちは予想外の大爆音を食らい、同時に怯んで地面に転がり、ぴくぴくと震えたりもがき苦しむ。
「ボク謹製の超強力音爆弾~。中に込めた魔力を音の魔術に変換して、それを拡大しまくることで大爆音を響かせることができるんだよね。こういう反響定位持ちとか耳がいいモンスターには、マジでおすすめ」
”目の前で落雷でもあったんかってレベルの音のでかさで草”
”もはやそれだけでモンスターぶち殺せるだろ”
”いったい泡吹いているんですが……”
”嫌な予感してたから、姫乃ちゃんの清楚でフローラルな声を聴くためにぶち上げてた音をガッと下げて正解だったわ。危うく冗談抜きで鼓膜逝くとこだった”
”これ、ダンジョン内でこのレベルの音なることまずないから、結構な数逃げて隠れちゃうんじゃ……”
”音爆弾まで作ってるとか、過去動画の武器動画を含めてみるとマジでモンハン過ぎて草”
動けなくなっているクイルオスたちにさくっと止めを刺して回っていく姫乃に、本日何度目かわからない困惑のコメントが書き込まれる。
まあ流石にそんなことはないだろうと楽観視しながら核石と針鱗と爪を回収し、次なる解説用の獲物を求めて歩き回る。
それから二十分近く。あれから遭遇したのは、先ほど倒したヴェルクロウ二体だけだった。
「マジで逃げてるとは思わないじゃん」
索敵自体には引っかかっているのだが、姿を見せてくれない。
そういえば、夢想の雷霆初代マスターである雷神も、かつてはダンジョン内で雷を使ったらビビって出てこなくなったという逸話があったなと思い出す。
ここはおとなしく、剣のみで倒したほうがよかったなと少し前の自分の軽率な行動を反省し、そのままずんずん突き進む。
結局中層第一から第二階層はヴェルクロウ以外と遭遇することなかった。中層第三階層からはまたきちんとモンスターと遭遇できたので、瞬殺しつつも解説を挟む。
途中で先ほど言っていたお肉が美味しい大人しいモンスター、マルグラウスと遭遇したのでサクッとハントし、大きくてつやつやのモモブロック肉を落としたのでほくほく顔でしまった。
そんなこんなで姫乃は最深部に到着。上層と違いそのまま下に通じる道があるのではなく、大きな巨岩の扉がある部屋があり、その先に下層への道がある。
「よし、ボス部屋の前に到着したね。ここからはボスも下層級になってくるから、ブーツとか七式魔剣を使い始めるね」
”むしろ中層をマジで剣とフィジカルだけで行けるとは思わないじゃん”
”まあ下層まで行くとモンスターの強さも跳ね上がるし、”
”つーかやっぱ中層も爆速だったな。上層とあまり変わらない速度だったぞ”
”特級モンスターボコどころの話じゃねーだろこれ”
”めちゃくちゃ人来とるな”
”もう十五万超えてるのやばwww”
”もうトップもトップの同接だなー。めのっさん、普段とやってること変わってないのになぁwww”
「一昨日のバズ一つでここまで伸びるものなんだー。本当、みんな見つけてくれて感謝感謝ですわ。せっかくたくさん人が来てくれているわけだし、今回は休憩なしで挑んじゃおっか」
これから挑むのは、中層と下層の境にある大部屋にいる存在。
多くの探索者が、それがいるだけで下層に行くことを断念するもの。下層に行こうとする者の前に立ちはだかり、その先の階を守護している存在。
非常に強力かつ巨大なモンスター。人はそれを、ボスモンスターと呼ぶ。
姫乃はこれからそのボスモンスターに挑もうと、その場で軽くストレッチをして体をほぐす。
「よっし、それじゃ行きますか」
鞘に納めていた剣を抜き、大きな扉を押して開ける。
決して人では開けられない大きさの扉が、姫乃の手が触れた途端勝手に開き始める。
中に入るとそこは非常に大きな空間となっており、入った瞬間から部屋の中心あたりに巨大な岩の棺があるのが見える。
あの棺の中に、この中層のボスである「巨人兵ゴリアテ」が眠っているのだ。
相変わらずでかい棺だなとてくてく近づくと、棺の蓋が内側から粉々に吹っ飛びながらこじ開けられる。
その中から巨木のように太い腕が二本現れ、棺の縁を掴んで中で眠っていた黒い体に白い髪の巨人兵が起き上がる。
「オォオオオオオオオオオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!」
部屋全体に響くほど低く大きな咆哮がゴリアテの口から発せられる。
びりびりとお腹に響く低い声、その凄まじい迫力に姫乃は、七色魔剣に魔力を流してギミックを作動させ、撃鉄を起こして属性を発露させる。
「『大紅蓮』」
姫乃の髪に青色のメッシュが現れ瞳が同じ青色に変色。刀身から冷気が溢れ出し、準備は整った。
巨人兵は小さな挑戦者である姫乃を見下ろし、姫乃は巨大な守護者を見上げ、もう一度上げられた咆哮が開戦の合図となった。




