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第46発明 STELLA OVER SUN なのじゃ


『ファイナルダンベルガーZ――――見参!!』

 

合体が完了した瞬間、重なり合っていた複数の駆動音が一つの脈動へと収束した。

巨体の内部を駆け巡る太陽エネルギーが安定し、

外殻の装甲がエメラルドの光を帯びながら定位置へと噛み合っていく。

新たな機体は、まるで意思を持ったかのようにゆっくりと立ち上がり、戦場を俯瞰した。

 

 ◇

 

黄金色の水晶の中、

博士が操縦席に走り、グローブとブーツを装着する。

歯を食いしばり、全身に力を込める。

合体直後の違和感が、まるで他人の身体を操っているかのように遅れとなって返ってくる。

博士は無意識のうちに操縦桿を握り直していた。

手のひらが汗ばんでいるのがわかる。

緊張走る博士の背中を三人が見つめる。


そのときだった。

警告音が鋭く割り込む。

――異常エネルギー反応、急速増大。

 

「……あれは……!」


統合されたセンサーが捉えた先。

女神ベラトリクシアはすでに動いていた。

先ほどまでの静謐さは消え、巨大な腕がゆっくりと持ち上がっている。

指先がわずかに湾曲する。

水面に触れる直前のように、虚空をすくい上げる仕草。

掌の上に、濃密な闇が渦を巻く。

圧縮、収束、増幅――エネルギーが臨界へと向かっているのが、手に取るように分かる。

 

女神の掌がわずかに傾く。

女神は目を閉じ、ゆっくりと息を吸い込んだ。

その動作に合わせて、周囲の瓦礫が浮遊し、細かく砕け、塵となって渦を巻く。

重力が女神へと傾き、空が引き寄せられる。

 

カルテの瞳が大きく見開かれた。

 

「……うそ……」

 

脳裏に焼き付いている。さっき見たばかりの、あの光景。

何もかもを呑み込む、あの理不尽な一撃。

あれをもう一度受ければ、今度こそ――。

 

「……ふざけんなよ」

 

低く、押し殺した声が割り込んだ。

「もう一発なんて、撃たせるかよ……!」


その時――

閉じていた女神の瞳が開かれる。

 

「行くのじゃ!」

 

博士の叫びと同時に、スロットルが限界まで押し込まれた。

太陽エンジンが唸りを上げ、

限界を超えた出力が叩き出し、女神の向かって加速する。


機体は震え、装甲の各所が軋みを上げる。

それでも止めない。むしろ、さらに加速。

女神の攻撃が放たれる、その瞬間を狙うかのように。


 ◇


加速する機体、コックピットである水晶の温度が上昇する。

四基の太陽エンジンが生み出す熱が、機体の内側にまで滲み込んでくる。

震える機体の中で、足元から伝わる熱が靴底を焦がすようだった。

 

カルテは女神カルミエラの力を使い続けていた。

四機を繋ぐ調和の光を絶やさないように。

エンジンの声を聞き続けるように。

だが、機体よりも先にその体に限界が近づく。

眩い翡翠色の光の中、視界の端が滲む。指先の感覚が遠のく。

意識が、薄い膜の向こうへと引っ張られていく。

 

「……っ」

 

体が傾いた。

その瞬間、何かが体を支えた。

カロの手だった。

カルテの肩を、後ろからそっと支える。

もう一方の手が、熱を持った額にそっと触れる。


「大丈夫、カルテちゃん」

 

白い霜のような魔力が指先から広がる。

急激に上昇していた熱が、ほんのわずかだが、確実に押し戻されている。

焼けつくようだった装甲の内側に、冷たい流れが走り始める。

カロの手から溢れた白い光は、配線を伝い、フレームを伝い、機体全体へと広がっていった。

 

「……くっ……!」 


光を放つカロの呼吸が乱れる。

額に滲む汗は、熱のせいだけではない。

何かを無理やり引き受けているような、内側から削られる感覚。


「無茶しないでください、カロさんが――」

「分かってる……でも、今だけでいい……!」


声を絞り出しながら、さらに力を込める。

白い光が一段と強くなる。

その瞬間、機体全体を覆っていた熱の膜が、わずかに剥がれるように散った。

焦げつくような圧迫感が、ほんの少しだけ後退する。


光を放つカロの指先が、かすかに震えている。

白い輝きは安定しているようで、その実、今にも途切れそうに揺らいでいた。

それでも――

 

「止めないで……前に出して……!」

 

その言葉に応えるように、機体が再び加速する。

焼けつく熱と、それを押し返す白と緑の光。

二つがせめぎ合う中で、翡翠の巨神はなおも突き進む。

限界を削り取りながら、それでも――ほんの数秒、未来を繋ぐために。

 


ファイナルダンベルガーZはなおも加速を続けていた。

加速しすぎている――その感覚は、もはや数値ではなく本能で分かる。

推進器の咆哮が低く唸り、

慣性が操縦席の内側から身体を押し潰そうとする。

推進の制御は限界を越え、

ほんのわずかな操作の誤差が、致命的な軌道のズレを生む。


操縦桿を握る博士の腕は、すでに限界に近かった。


「ぐぬぬっ」

 

操縦桿を握る手に、力がこもる。

だが、機体は思った通りに応答しない。

遅れる、暴れる、滑る。

巨体がまるで別の意思を持っているかのように、制御を拒んでくる。

 

警告音が重なる。

視界が揺れる。

女神との距離だけが、容赦なく縮まっていく。


「姿勢が、保てぬ......このままでは......」

 

そのときだった。

ふっと、博士のグローブの上に別の手が重なる。

操縦桿を握る手の上に、力強く添えられる温もり。

力を合わせるように、博士の握りに自分の握りを添える。

重ねられた手が、微細な動きを加える。

単独では追いきれなかったズレが、二人の感覚で補正されていく。

機体の揺れがわずかに収まった。

 

「博士」

 

アルは前を向いたまま続ける。

 

「俺はいつか博士を超える」

「それは武術だけじゃねぇ」

「ダンベルガーの操縦もだ!」

 

揺れるコックピットの中で、重なった手だけが、不思議なほどぶれない。

加速は止まらない。

熱も限界ギリギリのまま。

状況は何一つ好転していない。

それでも――

 

「いける……!」

 

機体の進路が、わずかに、しかし確実に安定する。

一人では届かなかった制御が、二人分の意思で繋ぎ止められる。

重なった手が、そのまま前へと押し込む。

暴走寸前の機体は、ついに――狙った軌道へと食らいついた。


前方には、争いの女神ベラクトリシア。

そしてその間にあるのは、恐怖ではなく――支え合う覚悟だった。

 

 ◇

 

女神の掌の闇が、臨界へと達しようとしていた。

脈動が止まる。

いや――止まったように見えただけだ。

次の瞬間にすべてを解き放つため、

あらゆるエネルギーが一点に凝縮されきった静寂。

空間そのものが張りつめ、見えないはずの圧が視界を歪ませる。

 

「……完成する……!」

 

誰かの声が、かすかに掠れる。

その刹那。

操縦桿の先、ひときわ重いレバーに手がかかる。

博士は前方を見据えたまま、深く息を吸い、そして——引いた。

迷いの一切ない動作だった。

 

レバーが後方へ引き切られると同時に、

操縦桿から伝わってきたのは、抵抗ではなく解放の感触。

内部ロックが外れ、機体の奥深くで何かが目を覚ます。

低く、しかし圧倒的な共鳴音が、胸の内側を直接叩く。

今までとは別次元の振動。

動力が一段、いや、いくつも上の層へと跳ね上がる。

翡翠色の光が走り、全系統が一斉に再構成されていく。

前方のスクリーンが、一度、真っ白に焼き潰される。 

ノイズ。

断続的な明滅。

そして――

黒の中に、文字が浮かび上がる。

 

【 STELLA OVER SUN 】

 

驚愕が漏れる。

「......ステラ......オーバー......サン?」

 

文字は淡い光を放ち、

太陽を超える彗星の名を静かに宣言する。

それは警告でも装飾でもない。起動を告げる、ただの事実だった。

 

◇ 

 

ファイナルダンベルガーZの体全体が、軸を揃える。

推進、姿勢、出力、魔力、すべてが一つの方向へと最適化され、加速が新たな段階へ移行する。

外界の光が線となり、時間が引き延ばされる感覚が操縦席を包み込む。

 

女神の瞳が、わずかに見開かれる。

完成しかけていた攻撃の輝きが、その表示を前にして一瞬、揺らいだ。

 

博士は、レバーを引いたまま動かない。

仲間たちの気配が背後に重なり、機体は今、完全に一つの意志としてそこにあった。

 

「行くぞ——」

 

声は小さい。だが、十分だった。

STELLA OVER SUNの表示が消え、スクリーンは再び戦場を映し出す。

次の瞬間、機体は“太陽を越える力”で、女神の完成直前の攻撃へと突入していった。

それは、神に先んじるための、一回限りの選択。


 

女神との距離が、もはや空間として認識できないほどに縮まっていた。

視界いっぱいに広がる闇。

圧縮されきった破壊の核が、今まさに解き放たれようとしている。

その中心へ――機体は一直線に突き進む。

振動は限界を超え、音すら歪んでいる。

それでも、コックピットの中だけは、不思議なほど澄んでいた。

恐怖はある。

圧倒的な存在を前にした本能的な戦慄も、確かにある。

だが、それを上回るものが、今は共有されていた。


前方スクリーンの奥で、女神がこちらを見下ろす。

その瞳に浮かぶのは、確信――自分の攻撃が間に合うという、絶対の自負。

その視線を真っ向から受け止めながら、博士が静かに口を開いた。

 

「四つの魂を一つに重ねる」

 

その一言が合図だった。

カルテが深く息を吸い、

アルが歯を食いしばり、

カロがカルテの背中に手を置く。

そして次の瞬間、爆ぜるように、全員の声が完全に重なる。


「「「「―――ステラ ・ オーバー ・サ――――――ンっ!!!! 」」」」


鋼と意志と絆が重なり合ったその瞬間、

機体は――太陽を越える力を携え、女神の目前へと到達する。


深く鮮烈な翡翠色の光が、機体の輪郭を縁取った。

それは外装から噴き出す発光ではない。

機体そのものが、内側から芽吹いていくような輝きだった。

装甲の継ぎ目、関節、推進器の縁

――すべてが透き通る宝石のように染まり、深く澄んだ翡翠色の光が走る。

 

女神が、初めて表情を変える。

完成しかけていた攻撃が、翡翠の光に触れた瞬間、軋む音を立てて歪んだ。

神力が拒絶するように逆巻き、

彼女の背後で展開していた光と闇の環が、不安定に崩れ始める。

 

機体の先端が、女神の胸元へと到達する。

衝撃は音にならなかった。

代わりに、世界が一瞬、静止する。

女神の身体を覆っていた神性の防壁が、翡翠色の光に触れた瞬間、

ひび割れ、砕け、粒子となって散っていく。


そして、


太陽を超える彗星の一撃が、女神ベラトリクシアの胸元を貫いた―――。


 

翡翠色のほうき星が、たけきのこの国の上を静かに流れていった。


夜の空に伸びた光は、どこか柔らかく、

触れればほどけてしまいそうなほど儚い。

それでも町のすべてを見下ろしながら、ゆっくりと尾を引いて消えていく。


人々は足を止め、瞬きをする。

胸の奥に、忘れていた感覚が小さく火を灯す。

焼きたてのパン屋の前で誰かが息を吸い、涙をこぼして笑った。

台所では、湯気の中に砂糖とバターの気配が立ちのぼる。

鼻先がくすぐられ、舌の上に、やさしい輪郭が戻ってくる。

そして町じゅうで、同じ気づきが広がった。


——甘い。

——匂いが、する。


ほうき星の尾が消えるころ、

最後に感じたのは、クッキーの甘さと、その温かな匂いだった。

噛みしめるたびに広がる素朴な幸福が、取り戻された世界の確かさを告げている。

夜は静かに深まり、

町は、再び「味わう」ことを知ったまま、

安らかな眠りへと帰っていった。


挿絵(By みてみん)


『きのこの山、たけのこの里』から始まり、『ステラおばさん』で締めてみました。

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